2025/09/10 wed

前回の章

 

モゲが一人前になるまでを描いた画像の物語パネル風『モゲの産まれるまで物語』。

手の平に乗った小さなモゲの感触。

新たな生命をこの手で俺は感じ取る事ができたのだ。

許されるなら仕事なんてせず、ずっとモゲの様子を見守りたかった。

しかし現実はそうも言っていられない身分。

絶対に浮かれちゃいけないのだ、俺は……。

今できる材料だけで、必死に藻掻き足掻いて前に進まなければいけない。

モゲの面倒は、マゲやモツがしっかりしてくれる。

彼らに任せておけばいい。

この中では俺が大黒柱。

頑張ってこの環境を維持できるよう日々努力が必要だ。

それにしても新宿時代あれほど卵を産んでも中々孵化しなかったのが、こうも上手く行くとは……。

ここまで来るのに本当に長かったなあ。

まだ巣壷には孵っていない卵がいくつもある。

今度こそはマゲたち、おまえたち自分の子を孵化させてくれ。

せめてのも俺の願いであり祈り。

もしこれでマゲたちの子供が産まれたら、嬉しさで俺は発狂してしまうかもしれないな。

もう一度モゲをこの手で抱きたいなあ。

巣壷へそーっと手を寄せると、モツに突かれた。

「分かったよー…、そんな怒るなよ、モツ」

今日出れば仕事中に十三日。

おじいちゃんの命日になるのか……。

早いよな…、本当に。

横浜の井筒屋で櫻井さんの電話で訃報を聞き、その場で大泣きしてから一年が過ぎようとしている。

今の俺には何も無い。

いや…、そんな事ないか。

優しく鳥たちを見守る。

確かにクソみたいで地獄のような一年間だった。

それでもこの子たちだけが、俺に幸せを運んでくれる。

いくら嫌な目に遭っても、この子たちのお陰でどれだけ救われてきた?

俺にとって癒しの存在。

子供はおろか結婚さえした事がない俺でも分かる。

かけがえのない愛しき存在たち。

ドアを開け川を眺めた。

タバコを吸いながら自然と視界が歪む。

何の涙なのか?

何かへの感謝の涙だ。

人生嫌な事ばかりではない。

踏ん張って生きていれば、こうして希望も灯る。

 

ラ・イマージュビル四階の店へ出勤。

いつもの日常が始まる。

裏スロへ打ちに行って声を掛けるキャッチ宮井のやり方が功を奏したのか、少しずつ客は増えていく。

早番との引継ぎをしている途中、年配の島田は「時間だからかーえろ」と先に店を出てしまう。

いい加減なオヤジだな……。

〆用紙を見て異様な点に気付く。

これまでの入客とキャッチへ支払う人数が同じ。

「中口さん、これ何でこんなキャッチ料がついているんです? 宮井以外に誰か客を連れてきたんですか?」

「あー、これは島田さんが客いない時は外へ出て、知り合いを見つけては引っ張ってきているんですよ」

笑いながら答える中口。

まさか島田は自分が引っ張ってきた客に対し、キャッチ料金を懐へ入れているのか?

早番だけで七名の入客。

その内新規客は五名。

島田は給料以外に、二万五千円の金を持っていった計算になる。

俺は矢田部を呼び、島田の抜きに近い行為を報告した。

オープン早々こんな従業員がいたのでは大いに問題である。

「まあいいんじゃないすか?」

予想に反し、涼しい顔で答える矢田部。

「え? 何がいいんですか?」

「だって客を連れて来ているんですよね? じゃあ、キャッチと同様じゃないですか」

「……」

この男、自分が店の名義であり代表なのに、流行らせたいという志は何も無いのか?

これ以上の追及は内輪で亀裂を生んでしまう。

仕方なく歯を食い縛り、グッと我慢をした。

二千十五年十月十三日。

日が明けて、おじいちゃんの命日がやってくる。

俺の誕生日からちょうど一か月後。

覚悟はしていたけど、実際にこの日が来ると未だ胸に来るものがあった。

おじいちゃんが亡くなってちょうど一年。

まさかここまで無様な生き様を晒すなんて想像もつかなかった。

本当にごめんなさい、おじいちゃん……。

でもさ、挫けず俺はまだ頑張っているからね。

今は少しでもこの店の成功の為に働くだけ。

横浜のインカジでまた働き始め、再度新たなる出発をした俺。

給料はみんな平等。

不平不満が出ないよう俺がそう設定した。

自分でそうしながら働く意欲への温度差から、まだ俺は間違ったのかと反芻する。

そりゃあインカジなんて言い方代えれば所詮は裏稼業に過ぎない。

誰だって楽はしたいはず。

でも、その為には店の基盤をしっかり機能させないと意味がないのだ。

俺一人気を吐き、オープンして間もないのに孤立感を覚えた。

時刻はもう少しで朝の六時。

客はもう誰もいない。

「……」

従業員の佐野はテーブルの上に足を乗せて、だらしない格好で寝ている。

本当にこの野郎だけは……。

まあ人は人、俺は俺。

気にするな。

今日は特別な日。

ずっと書いていなかった小説。

数年ぶりに執筆してみるか。

もちろん内容はあの忌々しい新宿のクソヤクザ共……。

いや、その前に安定した生活を送っていた中からまたあのクソの街へ戻るきっかけとなったインターネットカジノ新宿クレッシェンド。

あそこから紐解いて書いて行かないと意味が無い。

ワードを起動する。

何年ぶりだよ。

また始めてみよう文学の世界へ。

またさ、世に出せるよう頑張ってみるからね、おじいちゃん。

俺が使う文字設定は、四十字四十字。

四百字詰め原稿用紙の約四倍。

一ページ目をスラスラ書き、二ページ目へ。

どうだよ、ブランクあっても俺には関係ない。

いくらだって書く気にさえなれば、スランプなく書けるのだ。

何をどう書けばいいか、勝手に指先が動く。

俺は次に書く内容を頭の中で思い浮かべるだけ。

舞台は初期横浜時代の終わりから、これから新宿へ向けて。

春美と出会ったからこそ生まれた小説新宿クレッシェンド。

あの子の為に俺は絵を描いた。

そしてピアノを弾いた。

市民会館で発表会まで出たのに来てくれなかったから、ピアノを弾くのを辞めた。

それでも諦められなかった俺は、小説を書き出した。

そんなものが賞を取り、全国の本屋で発売された。

インカジ新宿クレッシェンドという店名をつけ、毎日のように市原と打ち合わせをした日々。

歌舞伎町の物件も決まり、これからという時に亡くなった祖父。

「ぅ……」

喉に込み上げる吐しゃ物。

堪らなくトイレへ駆け込みゲーゲー吐いた。

まだほとんど書いていないのに何故だ?

まだあの時のトラウマを克服できていないのかよ……。

おじいちゃんの命日、俺は店のトイレを奇麗に掃除して仕事を終えた。

 

中学時代の同級生の飯野君から電話が掛かってきた。

相変わらずけいこのいる強飲には顔を出しているようだ。

正直彼の自由な行動が羨ましかった。

「横浜の生活はどうですか?」

「可もなく不可もなく…、まあのんびりやってはいるよ」

「もうじきお祭りですねー。岩ヤン、こっち戻ってくるんでしょ?」

そういえば川越祭りの季節か。

去年は着物を初めて着ずに出た祭り。

そうだ、おじいちゃんが亡くなってから一週間。

その間に祭りがあり、そのあとで通夜と葬儀があった。

出たいなあ、川越祭り。

今年は…、今の店の体制では無理だよな……。

「あれ、どうかしましたか?」

「……。ごめん…、飯野君…。俺、今年の祭りは参加できないんだ……」

「え、どうして?」

少人数で店を回している為、俺の代えが利かない状況を説明した。

今の金を稼ぐ場所だけは失えない。

「岩ヤンが祭り来ないんじゃ、みんなガッカリするでしょうね」

「本当申し訳ない。行けるなら行きたいけど、今年は無理があるんだ」

「じゃあ、連雀の連々会へ祝儀を代わりに僕が包んでおきましょうか?」

例年通りなら当たり前に包んでいた祭りの祝儀。

家賃の支払いもある。

酒井さんところのポイント代で俺に入るお金はすべて返済へ回している。

そしてそれとは別に最低十万円を酒井さんへ返さないといけない立場。

今の俺にはとてもじゃないが、祝儀を包む余裕さえない。

「いや…、飯野君大丈夫……」

「え、どうして? 僕がとりあえず立て替えるという形でも……」

「ごめん、飯野君…。今さ…、本当に金が無いんだ……」

「あ、ごめんね、岩ヤン…。そんな大変な時に変な事言っちゃって」

「いや、飯野君は全然おかしくないんだ。おかしいのは俺の方であってね」

「そういえばこの間けいこさんの強飲へ行った時、岩ヤンの事を聞かれたので横浜へ行ったと話してしまいました。余計な事をすみません」

「……」

けいこ…、俺は余裕が無い状況であいつに声一つ掛けずに新宿を出てしまった。

無性に彼女の顔が見たくなる。

「それを知ったけいこさん…、とてもショックを受けていました。今にも泣きそうでしたよ」

「そっか……」

「ちょっと岩ヤンを羨ましく思いました。ごめんなさい、変な事言っちゃって」

「いや…、けいこには何も言わないでこっち来たのは事実だしね。伝えてくれてありがとう」

川を眺めながらけいことの楽しかったあの日々を思い出す。

前なら簡単にあいつの顔を見に行けた。

今は距離的にも時間的にも無理。

俺が横浜へ行ったと聞き、泣きそうな顔をしてくれたのか?

けいこに会いたいなあ……。

会ってこの手で抱き締めてやりたい。

そういったものもすべて捨てて、俺は横浜へ再生しに来たのだ。

またあの無邪気で明るい声を聞きたかった。

彼女とマゲやモゲに囲まれながら楽しく過ごす。

「おまえが好きだ。ずっと会った時から本当は大好きだった。横浜へ来て俺と一緒に暮らそう」

俺がそう言ったら、けいこは来てくれるだろうか?

何を脱線してんだか……。

今は現実を見ろよ。

まだ新宿時代のケツは拭き終わっていない。

酒井さんへの借金をすべて返してから。

百万という金額。

無くなるのは本当に一瞬で、貯めるのは容易じゃない。

それでも俺は誠心誠意まだまだ頑張らないと駄目なんだ。

 

二千十五年十月十六日の土曜日。

地元では川越祭り。

俺は…、行きたいけど行けそうもない。

この店を空ける事はまず無理だ。

自分の代わりになる人間がいない。

申し訳ない気持ちを込め、フェイスブックへ投稿した。

 


二千十五年十月十六日

川越…、特に連雀町のみなさま

ごめんなさい…、今年の川越祭りは仕事多忙な為、欠席します……

ご了承下さい


 

この記事に対し、真っ先に反応したのは先輩の吉岡さんだった。

元連々会会長だった吉岡さんは、町内でもかなり上位に入るほど祭りを愛している。

『ふざけんな! 無理して、ちょっとだけでも顔出しな。待ってるから。 吉岡』

「……」

俺だって顔出したいよ……。

一切現場へ出ようとしない名義社長の矢田部。

それに加えまるで話にならない従業員の佐野。

こんなんで店が回るのか?

絶対に無理だ。

キャバクラ帰りの矢田部が、酔った状態でキャッチの宮井を連れて店に来る。

「売上どうすか?」

「今日は三十七万のプラスですね」

「経費で五万って書いといて下さい」

そう言うと矢田部は店の回銭の入った財布から五万円を抜いていく。

「いや、矢田部さん! そんな事していたら、売上作れないですよ」

慌てて俺は止めるが、馬の耳に念仏。

「営業費ですよ、営業費」

子分のように宮井を従えて店を出て行った。

本当に頭来るなあ……。

何が営業費だよ。

キャバクラでタダ酒飲みたいだけじゃねえか。

宮井の奴まで店とは関係ないくせにタカるように年中一緒にいやがって。

そういえば先日宮井の写真撮っといたよな。

俺はフォトショップを起動し、暇な時間を画像加工に当てる。

オロナミンCで有名な大村崑の画像を検索して、宮井の顔をはめ込んだ。

『元気ハツラツ! オロナミンCドリンク宮井バージョン』

「ブッ……」

自分で作っておきながら、出来上がった画像を見て吹き出した。

仕事を終え、部屋に戻る。

マゲやモゲの世話を済ませ、風呂へ入って寝る。

変わらない日常。

今日は日曜だから川越祭りも本番か……。

顔を出したいが、横浜から川越まで往復で三時間。

祭りの人混みで連雀町まで辿り着くのに一時間。

どう考えても店の出勤へ間に合わない。

夜になればまた出勤。

エンドレスなこの生活。

それでも文句など言える身分ではない。

新宿のあのクソみたいな生活に比べれば、まだ天国だ。

 

二千十五年十月十七日の日曜日。

いつもと同じ日常。

ゆっくり寝て起きてから風呂に入り、鳥の世話を済ます。

モゲの写真を何枚も撮った。

本当にマゲとモツ、そしてモゲは文鳥としての種類が違うのにまるで親子のように仲がいい。

俯くと顔が前髪で隠れ何だか渋くなったじゃねえか、マゲ。

当たり前だよな。

卵が孵化する前から、マゲたちは頑張ってこの子を育ててきたのだ。

今日は本番の川越祭り二日目。

俺はフェイスブックへ投稿した。

 


二千十五年十月十七日

今日明日と地元では川越祭り

う〜、参加したかったけど、しょうがないか……

部屋でモゲに癒やされてます


 

来年こそきっと普通に出られるように。

今はできる事をひたすら頑張ればいい。

ユーチューブで過去に自分でアップした川越祭りの映像を見る。

去年の日曜日のもの。

栗原名誉会長宅から眺めた連雀町の山車。

何だよ、俺十六秒しか撮ってないじゃんかよ……。

始さんところで作っているいなり寿司にかんぴょう巻き。

全日空の機長中川さん夫婦が用意するおでん。

俺と栗原名誉会長は馬鹿話をしながら酒を飲む。

そこに会長の息子の一郎さんが自分の病院のスタッフをいつも連れて帰郷。

コロボックル真紀美に「相変わらず背が伸びないねー」とからかい、松永さんに会ったら「入学金は用意できたんですか?」とおちょくる。

まったく祭りってやつは無礼講で楽しいよな。

もっと別のを見てみるか。

二千八年の川越祭り映像。

俺が顔にペイントした姿で映っている。

これ、撮影してくれたのは飯野君だもんな。

俺が本を出して試合をしたあとの年。

何だかこの頃に戻りたいなあ。

さらに一年前の二千七年の川越祭り。

これは連雀町を含む三基の山車がひっかわせをする面白い映像。

祭りへただ見物に来た人からは決して見られない角度からの景色。

うん、俺ずっと祭りにこうして出ていたんだよな……。

さらに一年前の二千六年。

撮っているのは当時付き合っていた百合子。

彼女の声まで収録されている。

岩上整体を開業する二か月前の映像……。

この時のペイントが一番格好良く描けているよな。

その前の土曜日の祭り。

これは本川越駅前の十字路か。

撮っているのは百合子の長女の里帆。

無邪気に喜ぶ里帆の声まで入っている。

この時次女の早紀はいなかったよな。

百合子がよく旅行も強引に連れて行ったよなあ。

出不精の俺があれだけ言やがったのに。

でも、西武台高校時代、研修と称して三年間行ったホテルサンバレーがあそこまで見事な変貌を遂げていたのには本当にビックリした。

あの時まだ中学生だった里帆に、百合子にはこっそり内緒でお酒の味を教えてやったっけ。

もう九年前か……。

里帆はもう二十代半ばになっているのか。

一時は俺を父として懐いてくれたあの子たち。

俺と百合子のエゴで悲しい思いをさせてしまった。

恋愛などする資格が無いのだ。

百合子との間にできた子供までおろし、挙句の果てに里帆と早紀まで捨てる形になり、それでも俺は未だしぶとく生きている。

業が深い。

だからこのような目に遭っている。

もう見るのはやめておこう。

今の俺はこの汚い川を見るのがお似合いだ。

さて、今日もこれから仕事。

職場が俺を待っているぜ。

 

平田が斜め向かいの場所のバー『キミノヤ』で働く事が決まり、プレオープンの招待状が届く。

二通の招待状の宛名は俺と矢田部。

うちの店のオープン初日に四十万の身銭を溶かしていってくれた平田。

俺も余裕ある訳ではないが、彼が働く店の招待なら喜んで祝儀を包もう。

四十四歳にもなって五千円では恥ずかしい。

贅沢をしなければ一万円は包める。

店に顔を出した矢田部に平田からの招待状が届いた事を知らせた。

「あー、そこに置いといて下さい」

面倒臭そうに言う矢田部。

「矢田部さん! 平田はこの店の初日に四十負けてってくれたんですよ? 俺と矢田部さん二人でお祝い包んで顔を出さないとマズいですって」

「あとで時間ある時見ますよ」

怪訝そうな表情で矢田部は店を出て行く。

「……」

あいつ、絶対行かない気だろう。

自分の店だろうが……。

何で一従業員の俺がここまで気を利かせて身銭まで払おうとしているのに、年がら年中店の経費で飲み歩くだけなんだ?

そんな余裕あるなら少しでいいから平田の店へ顔を出せば済む話なのに。

ルーズでだらしない性格だと最初から把握をしていたが、ここまで酷かったとは思いも寄らなかった。

店のインターホンが鳴り、モニターを見ると宮井の姿が映っている。

「佐野、入口開けて」

キャッシャーから声を掛けても返事がない。

ホールへ出ると、佐野はまたテーブルの上に足を投げ出したまま爆睡していた。

何をしにここへ来ているのだ?

苛立ちながらドアを開けに行く。

「あ、岩上さん。店の経費で十万もらってこいと」

「はあ? 何で十万も?」

「いや、矢田部さんがそう言ってもらってこいと……」

「聞いてねえよ!」

「でも矢田部さんに……」

俺は携帯電話から矢田部に連絡をした。

「あー、もしもし」

背後で女の笑い声が聞こえる。

またキャバクラで飲んでいるのかよ……。

「何か宮井さんが店に来て、店の金十万円もらってこいとか言ってんですけど、どういう事ですか?」

「あー、経費で切って十万宮井へ渡して下さい」

「矢田部さん! 店の売上なんですよ?」

「岩上さん、店の代表は自分です。十万を宮井に渡して下さい」

電話を切って携帯を放り投げた。

店の財布から十万円を取り出し、無言で手渡す。

バツが悪そうに出て行く宮井。

佐野はずっと寝ている。

「テメー、いつまで寝てんだよ!」

椅子の背もたれを蹴飛ばした。

慌てて飛び起きる佐野。

「な、何ですか!」

「寝てばっかいねえで、たまにはトイレの掃除ぐらいしろよ!」

「は、はい……」

半分八つ当たりだった。

しかし間違った事は言っていない。

矢田部にしても宮井にしても、本当に頭来るなあ……。

あそこまで酷い名義は池袋の坂田以来だ。

種類は違うが、屑度でいえば双璧に近いものがある。

無責任で金にだらしなく、それでいて自分が一番権力があるような事だけチラつかせる。

まあまだバラティエの坂田のほうが酷いか。

俺がいなくなった数日後、店打ちで四百万だか三百万のクレジットを溶かすぐらいだもんな。

それに比べれば、矢田部の数万程度の飲み代くらいはまだ可愛いほうだ。

「……」

いや、全然可愛くねえよ!

人が頑張って作っている売上をふざけんな、あのクソガキ。

また手下の宮井に金を取りに来させているところがムカつく。

コバンザメのように矢田部の後ろをついて歩き、おこぼれを頂戴している屑キャッチ。

あの馬鹿、中型くらいのバイクで福富町へ来ているくせに、無免許だというのだから呆れてしまう。

俺はフォトショップを立ち上げ、宮井の顔を使った合成画像を作り始めた。

ボンカレー宮井バージョン。

ビスコ宮井バージョン。

ナニワ金融道宮井バージョン。

ブルドックソース宮井バージョン。

ここまで色々な画像を作り、一人で吹き出す。

冷静になってから何をしてんだかな俺はと、虚しくなった。