貧困



貧困(ひんこん、英: poverty)とは、生活必需品が欠乏したために肉体的,精神的な生活力が減耗した状態のことである[1]。対義語は『裕福』または『富裕』。
意味
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≥ 0.900
0.850–0.899
0.800–0.849
0.750–0.799
0.700–0.749 |
0.650–0.699
0.600–0.649
0.550–0.599
0.500–0.549
0.450–0.499 |
0.400–0.449
≤ 0.399
データなし |
貧困とは状態であり、基準(定義)の定め方により貧困か否かその程度が異なったものと評価される。絶対的な基準を定める場合もあれば、相対的な基準を用いる場合もある。
ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センは、貧困を「潜在能力を実現する権利の剥奪(英語: a capacity deprivation)」と表現した[10]。以下に代表的な基準を記す。
絶対的な基準
[編集]絶対的な基準として、当該国や地域で生活していく為の必要最低限の収入が得られない者とする例が挙げられる。必要最低限をどのように設定するかが大きな問題となり、国・地域・一部の先進国の労働者が原因で全世界での貧困が増大しているという見方がある。
気候
[編集]- 一般に寒冷地であれば多くの光熱費や衣料費が必要になる。また、降水量などによって水の価格も異なったものとなる。
農作物
[編集]物価
[編集]習慣・文化
[編集]教育
[編集]健康・寿命
[編集]- 一般により良い食生活・より快適な衣服・住居は、よりよい健康状態・より長い寿命・立派な体格をもたらす。
- 例えば長い寿命を当然とすれば最低限とされる生活水準は高くなるが、どの程度の健康・寿命が必要最低限であるかを決定することは困難である。
また他の基準として、2021年アメリカドルPPPベースで1人当たり年間所得1,095.0ドル(1年が366日の場合、1,098.0ドル)未満とする世界銀行の貧困の定義や、死亡率・識字率などを組み合わせた国際連合開発計画の定義などがある。
貧困への対応
[編集]貧困の解消や支援には、国際機関、政府機関、非政府組織(NGO)、民間の非営利団体、社会福祉法人などが関与している。 こうした組織は、教育支援、生活支援、医療支援、災害時の救援活動などを通じて、貧困状態の改善や生活の安定化を図る役割を担っている。 [12]
相対的な基準
[編集]相対的な基準として、OECDの統計で用いられる「等価可処分所得の中間値の半分に満たないもの」あるいはアメリカ合衆国の「収入が世帯の食料購入費の平均の3倍に満たないもの」などがある。
日本における定義は、「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員」(この「中央値の半分」という基準は科学的根拠に欠けるということが研究者の共通した認識となっている[13])のことで、この割合を示すものが相対的貧困率である。預貯金や不動産などの資産は考慮していない[14]。
相対的な基準を用いると、一定の計算式によって貧困か否かが判断されるため、判断者による恣意が入り込む余地は少ないものとなる。しかし、平均値との比較によって判断するため、国全体が貧しい場合には絶対的に見て相当貧困な状況にあっても、貧困でないとされる場合がある。また、ある発展途上国の貧困でないものは、ある先進国の貧困者よりずっと貧しい、ということにもなる。
ある国や地域の中で貧困という部類に分類されるかどうかが表されるのであり、経済格差という面から見た基準である。
貧困や不平等度を測る尺度
[編集]貧困についての統計は、貧困がある国や地域においてどの程度のものであるかを示す統計である。貧困の状況を調査するため、様々な主体によって様々な統計がとられており、貧困対策の基礎的情報となる。しかし、それぞれの統計で貧困の基準や捉えることの出来る貧困の状況が異なるため、貧困の理解に際しては複数の統計を注意深く分析することが求められる[誰?]。
貧困者数・貧困率
[編集]貧困者数とは、その国や地域において何人の貧困線以下の者が存在するかを示した指標であり、これを全人口に対する比率としたものが貧困率である。
貧困率には絶対的貧困率と相対的貧困率とがあり、前者は当該国や地域で生活していける最低水準を下回る収入しか得られない国民が全国民に占める割合を表す。一方の後者は自身の所得が全国民の所得の中央値の半分に満たない国民の割合を表す(詳細は貧困線を参照)。
これらの指標は、そこで用いられている基準がどのようなものであるか、の他にも貧困の程度については考慮されていないことに留意する必要がある。より深刻な貧困の方がより大きな問題である。しかし、例えば格差の拡大によって貧困線を僅かに下回っていたものが、最底辺の酷い貧困に追いやられたとしても、これらの指標は変化しない。貧困者数や貧困率は改善しているものの、貧困者の貧困の程度は悪化している場合もある。
貧困ギャップ
[編集]貧困ギャップとは、貧困線をどの程度下回っているかを表した指標である。貧困線を下回る人々の不足額を足しあわせて平均を求め、その貧困線に対する比率を求めたものであり、貧困の程度を示したものといえる。
しかしこの指標では、貧困者数や貧困率の変化について捉えることができない。また、貧困者同士の格差の拡大を捉えることはできず、例えば貧困者から別の貧困者に所得が移転し、一方の貧困者はましになったもののもう一方の貧困者の貧困が酷くなった場合、この指標は変化しない。
貧困線を大きく下回るものをより重視した、貧困線からの不足額を2乗して足しあわせる指標なども用いられる。
その他の尺度
[編集]詳細は当該項目参照。
統計に影響するもの
[編集]ここではその他の統計に影響を与えるものを挙げる。
家族規模
[編集]家族構成・人口構成
[編集]調査対象の偏り
[編集]- 統計全般に言えることであるが、貧困の統計においても調査対象が偏ったものとなる可能性がある。例えば政府の統計であれば、富裕層の方が政府に協力的である可能性がある。あるいは、若者の方が個人情報の記述に抵抗を覚える可能性がある。また、読み書きできない貧困者は、調査に対して回答できない可能性がある。その統計資料がどの程度信用に値するかは様々である。
その他の統計
[編集]上記のような直接貧困に関する統計の他に失業率・識字率・死亡率・乳児死亡率・GDP・家計調査・所得再分配調査など各種の統計が貧困に関した判断・理解に参照される。
問題
[編集]貧困はそれ自体が望ましくないものである。加えて広い分野において影響を与えており、様々な問題の要因となっている。
病気・飢餓
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特に著しい貧困は病気・飢餓・短い寿命をもたらす。貧困によって十分な食糧・清潔な水・必要な医薬品などを得られない場合、多くの人々(とりわけ弱者である子供)に様々な病気がもたらされる。中には治療の困難な病気もあるが、多くの人々が下痢による脱水症状・百日咳・肺炎・マラリアなどの治療され得るもので死んでいる。また、飢餓によって餓死・栄養不足で失明・ヨード欠乏症などになるものも多い。
石井光太によれば、食材の鮮度の関係からスラムには火と油を使った高カロリーな料理が共通して見られ、野菜を買う余裕が無く、必要なカロリーをそういったジャンクフードで補う低所得者・失業者には「貧困によって生まれる早死にしやすい肥満」[15]という現象が見られるという。
このような状況は乳児死亡率・平均寿命にも現れている。例えば先進国においては2021年の乳児の死亡者数は乳児1000人に対して10人以下であるが、1人当たりGDP(2019年)[16]の最も低い国20か国を見ると、乳児死亡率の平均は1000人に対して56.20(最高:アフガニスタン(106.75 世界最多)- 最低:マラウイ(34.19))になる[17]。また、2019年の先進国の平均寿命はいずれも75歳を超えるが、先の20か国の平均は62.9歳(最高:スーダン(69.1歳)- 最低:中央アフリカ共和国(53.1歳))である[8]。また、平均寿命50歳未満の国は、2010年時点では4か国(ハイチ:31.3歳、エスワティニ・レソト:47.4歳、中央アフリカ共和国:48.5歳)あったが、5年後に当たる2015年にはレソト(47.7歳)のみとなった。2019年時点で50歳未満の国は無くなっている。しかし、男女別に見た場合はレソトの男性の寿命が50歳に満たない47.7歳であった[8]。
教育水準低下
[編集]多くの場合において貧困者には教育を受けるための費用や時間が無い。生活をしていくためには働かざるを得ず、また十分な収入を得られないため教育に対して投資できない。そのため貧しい国では識字率・就学率が低く、たとえ学校に通っていても教材・教師不足で十分な教育を受けていない例もある。
より貧しいものがより低い教育しか与えられないことは先進国においても見られるものであり、例えばアメリカの白人とアフリカ系アメリカ人の間には、大学進学率に差が生じている。
過酷な労働・児童労働
[編集]貧困に陥ると生活の維持のために長時間働かざるを得ず、また危険な仕事でもせざるを得なくなる。また、このような状況では成人だけでなく児童も働くことが求められやすく、児童が十分な教育を受けられない要因ともなっている。貧困により人身売買・売春・各種の犯罪を行うものも多く、中には兵士として内戦などに参加させられるものもある。そのため事故・病気などによる高い死亡率をもたらしている。
各国において過度の労働・児童労働が規制されているが、貧困によって働かざるを得ないものに対して単純に禁止としてもその効果は薄く、貧困国の児童労働率は高い。
国際労働機関では、フィラデルフィア宣言において「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」と宣言している。不公平な労働条件による一部の貧困により普通の労働者も貧困に対する恐れを感じ、会社などによる権利侵害を容認せざるを得ない事態になる。これは労働者の保護が十分ではない国において助長され、経済的に豊かな国でも起こりうる。
治安の悪化
[編集]
人間が貧困に陥ると、生活あるいは生命を維持・向上させるために犯罪に手を染めたり、犯罪組織などに関わったりする場合がある。また社会における貧困者が一定以上の数になると、都市の周辺にスラム(貧民街)を形成したり、都心部でホームレス及びストリートチルドレンとなるなどして都市環境が悪化して犯罪の温床となる。また、貧困によって人々の生活が困窮すると政府・国家に対する不満が増大し、暴動・略奪・内戦などに発展することもある。
このようにして治安が悪化すると一層経済活動が阻害され、また各種の援助も困難になって、更なる貧困を招く悪循環に陥る場合がある。
テロの誘発
[編集]貧困により治安悪化と政府・社会に対する不満が高まると、テロを人々が支持しやすくなる。また、犯罪の多発もあってテロリストの摘発が困難になることでテロ組織の温床となりやすい。加えて貧困はその政府に対するテロ攻撃の口実としても用いられる。
テロが行われると直接攻撃を受けた人間・施設のみならず、人々が恐怖を感じることによってその地域の観光業などが被害を受け、経済活動への影響も大きなものとなる。また、テロ対策にも相応のコストが必要であり、警備システムの導入など非生産的な分野への資金投入をせざるを得なくなって、生産性が低下して更なる貧困が助長される。
自然環境の破壊
[編集]貧困状態にある場合には将来を見据えた環境保護などは後回しにされ、現在の利益を得るために自然破壊が行われやすい。
自然破壊は合法的なものである場合も非合法なものである場合もあるが、森林を過度に伐採して木材を利用したり、過剰な焼畑や放牧、農耕に適さない土地の開墾が行われて結局砂漠化を招いたりする。また密猟がなされたり、大気汚染や水質汚染が容認される。これらにより、自然環境や生態系が破壊されることとなる。
長い目で見れば、結局その自然・生態系の破壊は農地・牧草地の破壊・病気・水害などの自然災害をもたらし、その地域の更なる貧困を招く場合も多い。
原因と対策
[編集]貧困の原因については、個人・世帯の属性や行動、国内の制度・経済構造、地理的条件、歴史的経緯、さらに国家間の経済関係など、複数の要因が相互に作用すると考えられている。したがって、貧困を単一の原因によって説明することは困難である。また、貧困の原因と結果が相互に影響し合う場合も多い。
個人・世帯の水準では、低賃金労働・失業・就業機会の不足・本人や家族の病気・介護・養育・借金(負債)・財産の喪失などが所得の低下や生活困難につながる。また、学生・浪人・見習い・研究生など、一時的に無収入または低収入となる場合もある。ただし、これらの事情が貧困につながる程度は、雇用制度、医療・社会保障制度、家族構成、地域の経済状況などによって異なる。
社会的・経済的な要因としては、景気後退、高いインフレ、雇用機会の不足、社会保障制度の不備、富の再分配機能の不足、教育・医療へのアクセスの格差、政治的・社会的排除、紛争や災害などが挙げられる。また、汚職、制度上の差別、労働者の交渉力の弱さ、資産や所得の偏在などが貧困や格差を固定化する場合もある。
税制度の設計も所得分配に影響する。累進的な課税や給付制度などのビルト・イン・スタビライザーが十分に機能しない場合、景気変動や失業などによる所得減少の影響が低所得層に集中することがある。
構造的・歴史的要因
[編集]貧困の説明には、個人や国内制度だけではなく、歴史的・国際的な経済構造を重視する立場もある。
従属理論では、先進国と発展途上国との間の経済的な従属関係に注目し、植民地支配の歴史や国際分業、貿易・投資関係などが、発展途上国の産業発展を制約する場合があると論じられてきた。この立場では、貧困を国内の政策や文化だけによって説明することには限界があり、国家間の経済関係も分析する必要があるとされる。
世界システム論では、世界経済を中心部(中核)、周辺部、半周辺部などの相互に結び付いた構造として捉え、国際分業や資本・商品の流れが各地域の発展可能性に影響すると考える。この観点からは、世界市場への参加が必ずしもすべての地域に同じ利益をもたらすとは限らず、付加価値の高い産業と低い産業の国際的な配置、交易条件、資本移動などが、国家間の所得格差や発展格差に関係する可能性が指摘される。
一方、世界システム論や従属理論による説明については、国内の制度、政治体制、人的資本、技術革新、地理的条件などの違いを十分に説明できないとの批判もある。また、国際貿易や海外投資への参加が経済成長や貧困削減に寄与した事例もあり、国際経済への統合が一律に貧困を生み出すとすることはできない。
したがって、国際的な経済構造を貧困の一因として考慮する場合にも、国内要因との相互作用を考慮する必要がある。
社会保障
[編集]誰もが病気・事故・失業などの生活上のリスクを負っており、これらによって貧困に陥る可能性がある。そこで、この危険を予防し、貧困からの脱却を支援するため、社会保障制度による公的扶助、医療保障、社会保険、公共サービスなどが整備されている。
社会保障制度が十分に機能すれば、病気や失業などによる所得の急激な減少を緩和し、貧困への転落を防ぐことができる。また、最低限の生活を保障することによって、教育、就業、起業などへの長期的な投資を可能にする効果も期待される。
一方、社会保障制度の構築・維持には財源が必要であり、制度設計によっては労働供給や市場競争への影響、モラルハザード、フリーライダーなどが問題となる場合がある。そのため、給付水準、負担、就労促進、公平性などのバランスが政策上の論点となる。
地理的条件
[編集]貧困の原因として地理的条件が挙げられることがある。立地や気候条件などが不利に働く場合、経済活動やインフラ整備の費用が高くなり、経済発展が制約される可能性がある。
- 交通・輸送の困難
- 山地・砂漠・孤島などに位置する地域や内陸国では、交通・輸送の費用が高くなる場合があり、原料の調達や製品の販売に不利となることがある。インフラ整備にも多額の投資を必要とする。
- 農業生産力
- 気候、土壌、水資源、地形などは農業生産性に影響する。乾燥地、寒冷地、山地などでは農業に適した土地や水を確保することが難しい場合がある。一方、熱帯地域についても、土壌、降水、病害虫などの条件によって農業生産性が制約される場合がある。
- 人口密度と都市化
- 人口密度が低い地域では、人口当たりの道路、電力、通信などのインフラ整備費用が高くなる場合がある。一方、人口が過度に集中した地域では、住宅不足、失業、過密、衛生環境の悪化などが問題となる場合もある。
- 疾病
- 感染症などが広く流行する地域では、労働力や人的資本への影響、医療費、教育機会の喪失などを通じて経済活動が制約される場合がある。
地理的条件は貧困の一因となり得るものの、それだけで経済発展の程度を決定するわけではない。交通網、衛生環境、医療、教育、技術、制度などへの投資によって地理的な不利を緩和できる場合がある。
農業改革
[編集]農業生産性の向上は、農村部の所得、食料供給、雇用などを通じて貧困削減に影響する。ハーバー・ボッシュ法による窒素肥料の工業生産やリン肥料の普及、灌漑、品種改良、農業機械化などは、農業生産性を大きく向上させた。
一方、農業技術へのアクセスには地域差があり、資金、インフラ、土地制度、市場へのアクセスなどによって導入可能性が異なる。また、農業生産性の向上が農民の所得増加につながるためには、農産物の価格、土地所有制度、流通制度なども重要となる。
投資
[編集]貧困の原因として、インフラや生産設備、人的資本などへの投資不足が挙げられることがある。道路、港湾、電力、通信、上下水道などの整備が不十分であれば、生産や流通の費用が高くなり、企業活動や雇用の拡大が制約される可能性がある。
貧困層は現在の生活を維持するために所得の大部分を消費せざるを得ず、教育、健康、生産設備などへの投資を行う余裕が乏しい場合がある。このため、貧困がさらなる投資不足を招き、貧困が長期化する悪循環が生じることがある。
こうした問題に対して、国内外からの公共投資、民間投資、開発援助などが行われている。ただし、投資が経済成長や貧困削減につながるためには、教育水準、制度、政治的安定、金融市場、インフラの維持管理などの条件も重要である。
教育
[編集]貧困の原因として、教育へのアクセスや教育の質の不足が挙げられる。十分な教育を受けられない場合、高い技能を必要とする職業に就く機会が制約され、所得が低くなる可能性がある。また、教育は健康、社会参加、政治的参加などにも影響する。
一方、教育だけでは貧困を解消できない場合もある。教育を受けた人材に十分な雇用機会が存在しなければ、教育水準の向上が所得増加に直結しないことがある。また、教育を受けた人材が国外へ移住する頭脳流出が問題となる場合もある。
教育機会については、所得、性別、民族・言語、居住地域、障害などによる格差が存在する場合がある。そのため、学校の整備だけでなく、教育費、通学環境、教材、教師の質、差別の解消なども重要となる。
腐敗
[編集]貧困の原因として、腐敗が挙げられることがある。横領や贈収賄、縁故主義などが広がると、公共資金が適切に利用されず、公共サービスの質が低下したり、企業や個人の経済活動に追加的な費用が生じたりする場合がある。
また、法制度が不透明であったり、財産権や契約が十分に保障されなかったりする場合、国内外の投資が抑制される可能性がある。
ただし、腐敗と貧困の関係は一方向ではない。貧困や制度の脆弱性が腐敗を生み、それがさらに貧困を深刻化させるという相互作用も考えられる。また、腐敗の程度や形態は政治制度、行政能力、法制度などによって異なる。
市場競争・自由貿易
[編集]市場競争や自由貿易が貧困や経済発展に与える影響については、異なる見解がある。
利点
[編集]- 市場競争によって資源配分の効率が高まり、生産性や技術革新が促進される可能性がある。
- 国際貿易によって各国が比較的得意とする財・サービスの生産に特化し、貿易による利益を得られる可能性がある。
- 海外からの投資や技術移転が、雇用創出や生産性向上につながる場合がある。
- 世界市場への統合による経済成長が、貧困人口の減少につながったとする研究がある。
問題点
[編集]- 貿易自由化によって輸入競争が強まり、一部の産業や労働者が雇用・所得の減少に直面する場合がある。
- 国際競争によって技能や資本を持つ労働者と、それを持たない労働者との所得格差が拡大する可能性がある。
- 金融市場の自由化によって短期資本が急激に流入・流出すると、金融危機や景気変動を増幅する場合がある。
- 外国企業の進出が国内産業の生産性向上や技術移転につながる場合がある一方、現地企業との連携が弱ければ、その効果が限定される場合もある。
- 労働・環境規制の緩和を競争力向上の手段とした場合、労働環境の悪化や環境負荷の増大につながる可能性がある。
したがって、市場開放の効果は、教育、社会保障、労働市場、金融規制、産業政策などの国内制度や、国際市場における各国の位置によって異なると考えられる。
国際経済構造と貧困
[編集]世界システム論や従属理論では、貧困を各国の国内事情だけではなく、世界経済における国家間の位置関係から説明する。
この立場では、世界経済における中核地域と周辺地域との間で、資本、技術、労働力、原材料、工業製品などの国際的な分業が形成されており、その構造が所得や生産能力の地域間格差と関係すると考える。特に植民地支配の歴史を持つ地域については、天然資源や一次産品の輸出に依存する経済構造が形成されたことが、工業化や産業の多角化を制約した可能性が指摘されている。
また、交易条件の変化、国際的な資本移動、債務、知的財産制度、国際的な企業活動なども、発展途上国の経済政策や産業発展に影響を与える要因として研究されている。
一方、こうした理論だけでは、同じような国際環境に置かれた国々の間で発展の程度が異なることを十分に説明できないとの批判もある。実際には、国内の政治制度、教育、インフラ、産業政策、人的資本、地理的条件などとの相互作用を考慮する必要がある。
人口動態
[編集]人口の急速な増加は、教育、医療、雇用、住宅、食料などへの需要を急速に増加させ、一人当たりの資源や公共サービスが不足する要因となる場合がある。一方、人口増加は労働力や市場規模を拡大させ、経済成長の要因となる場合もある。
出生率が高い地域では、子どもの死亡リスク、老後保障の不足、農業などにおける労働力需要、教育・避妊へのアクセスなどが出生行動に影響することがある。そのため、人口問題への対策としては、強制的な出生抑制よりも、女性の教育、母子保健、社会保障、家族計画、避妊へのアクセスなどを改善することが重視される場合がある。
エンパワーメント
[編集]貧困を、単なる所得不足ではなく、教育、識字、社会的経験、政治参加、雇用、金融サービスなどの機会へのアクセスが制約されている状態として捉える考え方がある。
この観点からは、貧困層が自らの生活に関する意思決定能力や社会的・経済的機会を獲得することが、貧困からの脱却につながると考えられる。エンパワーメントの考え方は、ブラジルの教育思想家パウロ・フレイレなどの議論とも関連している。
貧困の文化
[編集]1960年代以降のアメリカでは「貧困の文化」という概念が提示され、貧困状態にある人々の生活習慣や社会関係、価値観などが世代を越えて継承され、貧困が再生産される可能性が論じられた。この概念は人類学者オスカー・ルイスの研究などを通じて広く知られるようになった。
一方、「貧困の文化」という説明については、貧困の原因を貧困層自身の文化や行動に帰属させ、社会制度や経済構造などの要因を過小評価する危険があるとの批判もある。そのため、現在では個人・世帯の行動だけでなく、雇用、教育、住宅、社会保障、差別、地域社会、国際経済などの構造的要因と併せて検討する必要がある。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ コトバンク『貧困』
- 1 2 世界銀行 (2025年10月7日). “Poverty headcount ratio at $3.00 a day (2021 PPP) (% of population)” (Excel). 2025年11月22日閲覧。
- ↑ Jonas Helth Lønborg (2025年9月30日). “September 2025 global poverty update from the World Bank: New data and regional classifications” [世界銀行による2025年9月の世界における貧困状況の最新情報:新たなデータと地域分類]. 2025年11月22日閲覧。
- ↑ 世界銀行 (2025年10月7日). “Poverty headcount ratio at $4.20 a day (2021 PPP) (% of population)” (Excel). 2025年11月22日閲覧。
- ↑ 世界銀行 (2025年10月7日). “Poverty headcount ratio at $8.30 a day (2021 PPP) (% of population)” (Excel). 2025年11月22日閲覧。
- ↑ 世界銀行 (2025年10月7日). “Poverty and Inequality Platform(貧困と不平等のプラットフォーム)”. 2025年11月22日閲覧。
- ↑ 2016 Global Hunger Index chapter2 Global, regional, and national trends, International Food Policy Research, (2016-10)
- 1 2 3 4 Healthy life expectancy (HALE) at birth, WHO, (2020-12-04) 2021年3月15日閲覧。
- ↑ 国際連合開発計画 (2025年5月6日). Human Development Index (HDI) (Excel) (Report). 2025年8月31日閲覧.
- ↑ 関根由紀「日本の貧困--増える働く貧困層 (特集 貧困と労働)」『日本労働研究雑誌』第49巻第6号、労働政策研究・研修機構、2007年6月、21頁、NAID 40015509240。
- ↑ 独立行政法人農業環境技術研究所「情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日) 化学肥料の功績と土壌肥料学」
- ↑ 日本における貧困の現状とは?原因や改善に向けて行われている支援 - 公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン 2026年3月19日閲覧
- ↑ 山野良一(2014)『子どもに貧困を押しつける国・日本』、光文社(光文社新書)、p.31
- ↑ 男女共同参画社会の形成の状況内閣府男女共同参画局
- ↑ 石井光太『絶対貧困-世界最貧民の目線』光文社 2009年 ISBN 9784334975623 pp.35-38.
- ↑ “World Economic Outlook Database, October 2020” (英語). IMF (2020年10月). 2021年3月16日閲覧。
- ↑ “2021 CIA World Fact Book Infant mortality rate” (英語). CIA (2021年). 2021年3月16日閲覧。
参考文献
[編集]- Virgil Hawkins「世界の貧困状況をどう読み解くのか?」、Global News View(GNV)
- アマルティア・セン 『貧困と飢饉』 黒崎卓・山崎幸治訳 岩波書店 2000年 ISBN 4-00-001924-4
- ウィリアム・イースタリー 『エコノミスト南の貧困と戦う』 小浜裕久・織井啓介・冨田陽子訳 東洋経済新報社 2003年 ISBN 4-492-44304-5
- ジェフリー・サックス 『貧困の終焉』 鈴木主税・野中邦子訳 早川書房 2006年 ISBN 4-15-208723-4
- 木立順一 『黄金の国 悠久の心の文化の歴史から目指す未来像』 メディアポート 2015年 ISBN 978-4865581096。