なろうRaWiというサイトは、「小説家になろう」に投稿された作品のタイトルとあらすじをAIが評価してくれる「タイあら判定」機能を提供している。
このサービスの運営者である下城米雪(カシロメユキ)氏は自らこの機能を使い、高評価を受けたタイトルを元に短篇小説を投稿。
すると、なろうユーザーにバズを引き起こし、短篇版を元に連載版を執筆すると「ヒューマンドラマ」ランキングで年間1位になるほどの人気を得て『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(PASH!ブックス)として書籍化(なお、元の短篇や連載版のタイトルはこれより長かった)。書籍版もKindleのライトノベルランキングで一時1位になった。
なぜかコスプレ姿で働いている凄腕エンジニアの佐藤愛が、勤務先の社長交代を機にコストカット目的で解雇されるも、再会した幼なじみのスタートアップに参画。そこで始めた「真のプログラマ塾」を通じて様々な事情を抱える受講生たちを奮起させ、新プロダクト開発に挑む一方、彼女を追放した旧勤務先の新社長には「ざまぁ」な展開が待っている――といった内容の小説だ。
もちろんタイトルとあらすじだけで人気になったわけではないとはいえ、なろうRaWiの評価精度には驚かされる。
なろうRaWiのAI開発を担当するGENZITSU氏(@yp_genzitsu)とAI以外のすべてを担当する作家の下城米雪氏に、なろうRaWiとそれを使って生まれた小説『ワンオペ解雇』に込めたものについて訊いた。
なろうRaWi「タイあら判定」開発の背景
なろうRaWi開発のきっかけは、なろう作家の下城米雪氏とAI専門とするエンジニアであるGENZITSU氏が、顔ぶれがなかなか変わらない「なろう」の既存のランキングに不満を抱き、「真にいい作品に出合える機能を」と読者向けに類似小説の推薦サービスに着手したことにあった。
なろうにまつわるデータ検索サイトとしては「なろうファンDB」が先行しており、ふたりはこのサイトができていないところに注力しようと考えた。
「なろうファンDBにはAI系の機能がありませんでしたので、われわれはそこに注力しました。それで作品推薦機能の開発に取り組んでいるうちに、ここまで推薦がうまくいくのであれば、この技術を転用してタイトルとあらすじを評価することで、独自のランキングを作成することができるのでは? と。そこから読者向けの『AIランキング』に加えて、作家向けにいまの『タイあら判定』の開発がスタートしました」(GENJISTU氏)。
タイあら判定を利用する作家ひとりひとりの熱量は非常に高く、書籍化された作品の書き手の利用もあるという。
タイトル次第でランキングやPVが大変動
下城米は「なろうで最も大切なのはタイトル」と語る。
「なろう作品に付けられた百文字のタイトルが長いとよく話題になりますが、むしろ短いです。例えば、普段本を買う時、どうしますか? 表紙や目次、あらすじ、レビューなど徹底的にチェックしてから買うのではないですか? その際にインプットする情報量が、百文字を必ず下回る方、なかなかいないと思います。
なろうは百文字しか使えません。たった百文字で『起承転結』を表現して、読者から『面白そう』を獲得できなければ、基本的には誰にも読まれないのです。だからAIを使ってタイトルを考えました」。
『ワンオペ解雇』のタイトルは、最初の短篇版では「え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか? はぁ、まあいいですけど ~業務が破綻した古巣から呼び戻されているけれど、もう遅い。旧友のスタートアップにHHされた私は年収10倍で夢を追う~」、続いて投稿された連載版初期は「え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか? ~業務が破綻した古巣から呼び戻されているけれど、『もう遅い』~」だった
このタイトルのおかげでランキングに掲載されたわけだが、のちに試した「真のプログラマ塾へようこそ」に変更したところPVが半減。すぐに元に戻したという。
タイトル・あらすじ以外のなろう攻略法
もちろん、なろうで人気を得るには、ほかにもさまざまな点を考慮して執筆する必要がある。
「なろうには大きく分けて3つの読者層があると思っています。新作とりあえず全部読む層、時間潰しで空き時間にランキング掲載作品を読む層、そして休日などにガッツリ読む層です。
ランキングに載るには、新作とりあえず全部読む層に、上位に駆け上がるには、空き時間にランキング掲載作品を読む層に届ける必要があります。そしてランキングに残り続けるには休日などにガッツリ読む層に届ける必要があります。
新作とりあえず全部読む層には『流行』と『短編ガチャ』が有効です。『短編ガチャ』とは、とりあえず短編を投稿して、ウケたら連載版を投稿する手法です。短編は連載の20倍ほどポイントを取りやすいので(私調べ)、流行をきちんと取り入れれば確実にランキング入りします。
また、今回取り入れた流行は『追放ざまぁ』というものです。これを積極的に好む読者さんは、インスタントな爽快感を求めていると思います。そうでなければ毎日何十作品もチェックできません。
それから、なろうには『Side』という文化があります。主人公とは違う視点で物語を描くことです。『追放ざまぁ』の場合、読者さんが好む爽快感は、Sideで得られることが多いです。結果、洗練された読者さんはSideだけ読みます。なので、本作では追放ざまぁにおいて最も退屈な部分である『ざまぁ』をSideに追放しました(笑)。
実際に話のアクセス数を見ると、30%くらいのユーザーはSideだけを読んでいました。狙い通りです。
なろうには様々な読者層が存在して、それぞれ好みが違います。なので、より広い層に届くような工夫をしました。つまり、Sideだけ読む場合と、そうじゃない場合で、全く違う物語があるならば、両方の層に受けると考えて、実践して、受けたのです(๑>ᴗ<) !」(下城米氏)
計算と動機
ここまで読んだ読者は、『ワンオペ解雇』が非常に計算高く、売れることを目指して書かれた作品なのだろうと思うかもしれない。しかしこの作家は、そもそもなろうで主流とは言えない「ヒューマンドラマ」ジャンルを選んでいる。人気を取りたいだけならファンタジーを選んだ方がウケる確率は高かっただろうと思えるが……。
「私は感想がひとつでも貰えれば嬉しいので、人気が欲しくて描いたことは無いです。もちろん感想を得るためには読まれる必要があるので、そういう意味では人気を得るために頭を悩ませたということになります。でも本質的には少し違う気がします。
さて、ヒューマンドラマジャンルを選んだ理由ですが、私はファンタジーが好きじゃないのです。剣や魔法に全く魅力を感じないのです。戦闘シーンなど読み飛ばします。いつも別の所に魅力を感じています。なので、自分で描く場合には『これ現代物で良いのでは?』という想いが生まれて続きません。納得できる物語が描けないのです。
そして何より、私は人々を笑顔にしたいのです。私が執筆する理由は、半分が趣味で、もう半分が贖罪です。過去、身近な人を笑顔にできませんでした。だから、一人でも多くの人を笑顔にしたいと思って執筆しています。人生とは、ちょっと視点を変えるだけで驚く程に素晴らしくなるということを伝えたいのです」(下城米氏)
『ワンオペ解雇』には「#エンジニアは数字じゃない」といった印象的なフレーズや熱くて泣ける展開があり、そこには作家本人の実感も込められているのではと感じる。書籍版の担当編集者の松居雅氏も、なろうRaWiの存在を知る以前に、小説の内容に心を動かされてオファーを決めたという。
とはいえ、いくら想いを込めて書いても、なろうは流行りを無視した作品はなかなか発見・評価されにくい場所だ。下城米氏も無名のころは書いても書いてもブックマーク登録数が0件で「泣きそうでした」と言う。
「かつての私は『ファンタジーしか読まれない』と思っていて、ある種の憎しみすら抱いていたのですが……間違いでした。原因は、自分の『好き』だけを押し出して、読者さんのことを全く考えていなかったことです。今なら分かります。
私は過去に色々な作品を書いていますが、特に評価されたのは『ワンオペ解雇』と『日刊幼女みさきちゃん!』です。どちらも共通するのは、好きと流行の本質をミックスしたことです。『ワンオペ解雇』なら先ほど言った『追放ざまぁ』ですね」
どれだけ中身が面白くても読まれなければ多くの読者には届かない、だからそのために計算が必要なのだと下城米氏は言う。
より正確に言えば「面白い物語を描くための計算」(物語の核を作るための工夫)ではなく、作家が書きたいものを「多くの読者に物語を届けるための計算」(核を変えずにいかに広く届く表現を用いるか)が必要だ、と。
たしかにタイトルやあらすじの工夫、読者層や流行の分析は後者に属するものだ。
なろうRaWiと創作補助ツールの未来
「多くの読者に物語を届けるための計算」のためのツールとしてのなろうRaWiに関して、GENJITSU氏は将来的にはさらに機能を充実させていきたいという。
ひとつは「読者HPの推測」機能、もうひとつが「見込み読者層の推測」機能だ。
「読者HPとは、その連載小説に読者がどこまでついてこれるかを数値化したものです。サブスクリプションサービスで言うところの解約率(チャーンレート)の予測ですね。
ただし、基本的に単調増加する解約率の予測と異なるのは、この読者HPは減ることもあれば増えることもある点です。面白いエピソードが数回続くとジワジワ増え、多少グダリ回や日常回が挟まっていても、エピソードごとの読者数は大きく減ることはない。
一方で、読者HPが低い状況でそのような回を入れてしまうと、読むのをやめてしまう人が一気に出てしまいます。読者が大きく減ってしまうと執筆のモチベーションに響きます」
読者HPの推測ができれば、たとえば常に読者が多くつく状態をキープするエピソードの執筆順を考えやすくなる。
「もうひとつは、この小説を読んでいる読者層の内訳を推測する機能です。小説家はどんな言葉や要素を盛り込めば読者に刺さるのかを常に考えていると思います。
でも想定読者層と実際の読者層に乖離があると、選んだ言葉が裏目に出ることもある。ですから『この小説を今読んでいる人はこんな属性の人たちです!』とわかれば、作家さんはかなり助かるはずです」
ぜひ実装してもらいたいところだが、これらの機能を「小説家になろう」の外から作るのは困難だという。「そこがAIエンジニアとしての腕の見せ所でもあるのですが……よければなろうの中の人、いっしょにやりませんか?(笑)」
もちろん、いくらツールが発達しても、それでできることには限界がある。下城米氏は言う。
「いわゆる『弱いAI』(一定の領域の業務に特化したAI)にできるのは市場分析までだと考えています。例えば、将来的には、仮想読者が誕生すると思っています。
作者『ねぇAIちゃん、この話面白い?』
AI『うん! 面白い!』
作者『うれしい! えがおー(๑>ᴗ<) 』
みたいな会話をして、楽しく創作する未来があるのかなと。現状、作品を公開するまで反応が分からないですからね。
『ワンオペ解雇』1章の連載時は、毎回『炎上するかも』と震えながら投稿していました。なろうでは感想があると赤い文字で通知があるのですが、いっつも深呼吸してから見ていました。しかし! 仮想読者たるAIが完成すれば悩む必要はなくなるわけです!」
「僕も下城米さんの意見と大体一緒ですね。テクノロジーを用いた創作補助ツールで可能なのは、あくまで過去の情報に立脚したシミュレーションだと思っていて、それは未来でも変わらないと思います」(GENZITSU氏)
結局、感情を込めて作品を作れるのは人間であって、AIは主体ではない。ふたりの話を聞いて筆者が思い出したのは「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイの言葉である。
便利なツールの発明ももちろん重要であり、望まれるところだが、今回の取材を通じて感じたこととしてあえて言うならば、この言葉は、新しい作品づくりに取り組む作家を応援するために贈られるべきものではないかと思う。
「私は『ワンオペ解雇』を、世界がもっと笑顔になれと願う小学生(概念)として、沢山の人が笑顔になる作品にしたいと思ってます! 私は物語が命を救うと知っています。こんなに尊くて素晴らしいこと他にはありません。大きなチャンス、全力で執筆したいです!
アニメ化・ドラマ化! オファー待ってます! えがおー(๑>ᴗ<) !」(下城米氏)