難民を「支援」ではなく「仲間」として迎える社会へ── WELgeeが目指す、共に働き生きる未来

【HOPEFULなひと】
「HOPIUSの想い」をもとに、人類に希望を見出し、持続可能で愛ある世界を目指して活動している人たちを、取り上げる企画です。
今回ご紹介するのは、日本で暮らす難民の方々を「支援される人」ではなく「共に社会をつくる仲間」として迎え入れる活動をしている、NPO法人WELgee(ウェルジー)。
難民の方々へのサポートに最前線で取り組む、育成事業部マネジャーの成田茉央(なりた・まお)さんにお話を伺いました。なぜ「支援」だけでは足りないのか、そして、私たちは難民と呼ばれる人たちとどんな関係を築けばいいのでしょうか。企業と難民をつなぐ就労伴走の現場から、共に生きる社会のヒントを探ります。
台湾生まれの疎外感が、私の原点でした

私は1995年、台湾生まれです。幼少期を台湾で過ごして、兵庫県で育ちました。8歳のときに日本に帰ってきたのですが、すぐに日本の文化に馴染めませんでした。なんとなく自分には「内と外」の区別があるような感覚がずっとありました。
そうした経験から、文化や国籍の違いによって、人と人との間に境界が生まれることに関心を持つようになったのだと思います。
大学は国際政治経済学部を選び、国際政治やグローバルガバナンスを学びながら、技能実習生の実態について研究していました。卒業後はIT企業に就職して、4年くらい転職支援の仕事をしていたのですが、大学時代に参加したWELgeeでのイベントが忘れられませんでした。
きっと心のどこかで、日本に住む海外の方の支援をしたいと思っていたのだと思います。
2023年にプロボノとしてWELgeeに飛び込み、3か月の試用期間を経て、そのままフルタイムのメンバーとしてWELgeeに加わりました。2024年4月からは育成事業部マネジャーをしています。
WELgeeはこれまで、700人を超える難民の方々と関わってきました。昨年の新規登録者数は130人に上り、過去最多となりました。今日も一人ひとりの難民の方と向き合いながら、その方が持つ経験や可能性を、社会の中で生かすための伴走を続けています。
難民の定義とは

難民の定義はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)により決まっています。難民とは、宗教や人種、何かしらのグループに属していることが原因で迫害されてしまう人たちのことです。
世界にはおよそ1億2000万人の難民がいるといわれていて、そのうち約6割は、ビザやパスポートを持てないまま国境を越えられず、国内避難民として逃げているのが実情です。国境沿いに難民キャンプができるのは、越えられなかった人たちがそこに集まってしまうからです。
日本にも難民がいるという事実

「難民」という言葉は、あまり日本では聞き馴染みのない言葉だと思います。TVで報道されている海外の国の話、という印象が強いですよね。
しかし実は、日本には毎年、1万2000人ほどが難民申請をしています。
では、どうやって日本に来るのか。ここには大きく2つのパターンがあります。
ひとつは、自力でたどり着く人たち。母国でマイノリティとして狙われたり、不条理な理由で投獄されたり、平和活動に関わっていて命を狙われたりした人たちです。家族が殺されて、もうここにはいられないと、命の危険を感じて、日本にやってくる人もいます。
ではなぜあえて、英語の通じにくい日本を選ぶのかと思いますよね。それは、比較的早くビザ(査証)が取得できる国として、いわば消去法で日本を選んでいるからです。多くの難民が目指すアメリカやカナダは入国審査に時間がかかりすぎる、という実状があります。
早く出国できて、治安が安定し自国から遠いアジア圏、そして難民条約に入っている国となると、日本が候補に出てきます。比較的取りやすい観光ビザを先に取得して、なんとか日本に入国する、というルートが多いです。
多くの人は「日本ってどこ?」というところから始まります。そしていざ日本に来てみると、「英語があまり通じない国だとは思わなかった」という人の方が大半です。
もうひとつが、国が呼び寄せたパターンです。
ウクライナの難民の方や、タリバン政権が復活したときに日本大使館や現地の日系企業で働いていたアフガニスタンの難民の方。混乱した政権下では前政権下で働いていた方々が真っ先に狙われます。ウクライナやアフガニスタンは日本との友好関係が緊密だったため、政府が中心になって保護してきた、という流れがあります。この方々の多くは難民申請をしたのち、補完的保護の対象者は難民として認定をされ、定住者として比較的安定した在留資格を持っています。
つまり同じ「難民」という言葉でも、置かれている状況はまったく違うということです。
最初の10ヶ月を、どう生き延びるか

日本の難民認定率は、1.5%から2%です。
観光ビザは3ヶ月しかありませんから、その間に出入国在留管理局(入管)(※1)で難民申請をします。そこで難民認定にふさわしいかどうかの審査があり、時間がかかりそうな人には就労許可のついた在留資格が与えられ、6ヶ月ごとに更新していきます。
私たちWELgeeが出会うのは、ほとんどがこの状態の方々です。
しかし実は、在留資格をもらうまでに、10ヶ月ほどの空白があります。この期間は就労が許可されておらず、公的支援もほとんどありません。貯金を切り崩してホテルで10ヶ月過ごすことは、相当厳しいです。だから、まずこの10ヶ月を生き延びることが、彼らにとって最初の試練になります。
そして、就労許可を得たあとも、難民として認定されるかどうかの審査結果が出るまでには、平均で5年かかります。98%以上が不認定になるとわかっていて、それでも待ち続ける。言葉もわからない国で、5年です。
難民認定申請に必要な「証明書類」の難しさも、あまり知られていないと思います。日本では、なぜ自分が特定の部族や勢力から迫害を受けたのかを、客観的な証拠とともに示さなければなりません。
しかし、国の情勢が不安定で、身の危険を感じながら命からがら逃れてきた人が、十分な書類や記録を持ち出せるとは限りません。そもそも、迫害の実態が公に記録されにくい国もあります。そのような状況で客観的な証拠をそろえることには、大きな難しさがあると感じています。
(※1) 出入国在留管理庁(入管)
法務省の外局として、外国人の出入国審査、在留資格の審査・許可、難民認定などを担う行政機関。全国に地方出入国在留管理局が置かれており、難民申請の受付や審査もここで行われる。
WELgeeの3つの事業─育成、就労伴走、共創

WELgeeを立ち上げた、創業者の渡部清花(わたなべ・さやか)さんの原点は、バングラデシュでのボランティア経験の中で、政府からも先住民からも守られない存在がいることに気づいたことだと聞いています。
また、日本に戻ってきて、偶然、年が近い難民の青年に会い、夢などを語り合う中で「時代と場所が違えば、彼も何かのリーダーになっていたかもしれない」と感じたそうです。
難民の方を「支援する」のではなく「一緒にやる」、対等な立場で共に育つ。そういう考え方から、WELgeeの育成・就労伴走・共創が始まりました。
- 育成事業
- 育成事業は、就職活動ができる状態まで一緒に上がっていく事業です。日本語も就職活動のルールも知らない難民の方と一緒に、3ヶ月かけて「自分の強みを問い直すプログラム」をやっています。就職活動を始められる状態まで、必要な知識や自信を身につけていきます。
- 育成事業は、就職活動ができる状態まで一緒に上がっていく事業です。日本語も就職活動のルールも知らない難民の方と一緒に、3ヶ月かけて「自分の強みを問い直すプログラム」をやっています。就職活動を始められる状態まで、必要な知識や自信を身につけていきます。
- 就労伴走事業
- 就労伴走事業は、有料職業紹介として、企業と難民候補者をマッチングする事業です。三者面談やお試し雇用を経て、正式に採用が決まってからも、1年間は伴走します。外国人の採用が初めてという方がほとんどなので、在留資格の手続きや文化的な背景への理解を、丁寧に橋渡しすることを大事にしています。同時に難民の方の私生活が安定できるよう、コンタクトを取ってフォローしていきます。
マッチング事業は「WELgee-Talents」というWebサイトを作り、活用しています。「地熱発電のプロフェッショナルが欲しい」という珍しいオーダーに、ぴったりの経歴を持つ方をご紹介できたこともありました。
- 就労伴走事業は、有料職業紹介として、企業と難民候補者をマッチングする事業です。三者面談やお試し雇用を経て、正式に採用が決まってからも、1年間は伴走します。外国人の採用が初めてという方がほとんどなので、在留資格の手続きや文化的な背景への理解を、丁寧に橋渡しすることを大事にしています。同時に難民の方の私生活が安定できるよう、コンタクトを取ってフォローしていきます。
- 共創事業
- 共創事業は、企業に向けた研修やイベントです。難民の方をゲストスピーカーとしてお招きしたり、アイデアソン(参加者同士でアイデアを出し合い、課題の解決策を考えるイベント)を行い、彼らの視点をもとに新しい企画を一緒に考えます。「難民=かわいそうな人ではない」という理解を広げることが目的です。彼らの多様な考え方に触れる機会として企業さんから評価いただくことも多いです。
WELgeeがサポートした、日本で活躍する難民たち

あるアフガニスタン出身の女性のことは、今もよく思い出します。
母国でMBAを取得して大使館に勤務していた経歴を持ちながら、日本に来てからは日本語も話せず、子育てと孤独の中で自信を失っていたんです。
WELgeeのプログラムに参加してもらって、自分の過去や強みを問い直すプロセスを一緒に経験する中で、「日本に来て初めて自信が取り戻せた」と話してくれました。
今は移住先の自治体で女性活躍推進の業務に携わっています。運転免許も取って、車も買って。「アフガニスタンで女性が車に乗るなんて許されないのに、どこまでも行ける気がする」と話してくれたときは、本当にうれしかったです。
コンゴ出身の男性のケースも印象的です。
トラック関連の企業に入社した当初は、周囲になじめず、物静かに過ごす日々が続いていました。でも実は、その間もずっと独学でAIを学び続けていたんです。本社に戻るタイミングで、AIエンジニアとして評価されるようになりました。
もう一人、コンゴ出身の男性で、ロジスティクスの企業に正社員として採用された方がいます。入社してすぐ、周りに「みんな働きすぎだよ。仕事の後はファミリーとの時間」と伝えたことがきっかけで、職場環境が少しずつ良く変わっていったそうです。自国と日本の文化が違うからこそ、気づける視点があると思っています。
企業開拓の難しさ

活動を続ける中で、企業開拓は今も大きな課題です。
難民として認定される人がごくわずかであることに加え、外国籍人材の雇用そのものが選択肢に入っていない企業も少なくありません。年間100社以上にアプローチしていますが、採用につながったのは昨年で9件、累計でも54件ほどです。
創業当初は、代表の思いに共感した先進的な経営者のもとから採用が始まりました。その後、SDGsやCSRへの関心が高まり、「ビジネスと人権」やサプライチェーン上の人権問題という観点から、企業との接点が増えた時期もあります。しかし現在は、そうした追い風が弱まり、企業からの寄付も減少傾向にあります。アメリカの政治動向などを受け、DEI(多様性・公平性・包摂性)という言葉を使いにくくなった企業も増えていると感じます。

一方で、採用のあり方には前向きな変化も見られます。
かつては、日本でもサステナビリティや社会貢献への関心が高まる中で、その一環として難民人材の採用を検討する企業もありました。
一方で最近では、社会貢献という入口に加えて、新規事業の立ち上げや組織の変化、これからの会社の方向性を考える中で、「新しい可能性を持つ人と出会いたい」という人材戦略の入口から、私たちのところに相談に来てくださる企業が増えています。
そして、実際に採用に至った企業からは、「難民だから採用したのではなく、一緒に働きたいと思った人と出会い、その人がたまたま難民だった」という言葉をいただくことも増えてきました。
こうした変化は、難民人材を「支援の対象」ではなく、一人ひとりの経験や能力、可能性を持った「ともに働く人」として捉える企業が増えていることの表れだと感じています。
これから力を入れたいこと

今取り組んでいるのは、大学卒業者に限られてきた支援対象を、高卒の方々にも広げるための出口戦略です。
WELgeeが伴走してきたのは、就労を通じて安定した在留資格の取得を目指す方々です。ただ、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を得るには、原則として大学卒業相当の学歴や、一定期間の実務経験が求められます。
難民として逃れてきた方の中には、紛争や迫害などによって、そもそも大学に通う機会を得られなかった方も少なくありません。そのため、学歴や職歴を証明できず、制度の入口に立つことが難しいケースがあります。
こうした背景に左右されず、一人ひとりが持つ経験や力を生かせる選択肢を、今後さらに広げていきたいと考えています。
それから、2026年から始めたのが、就労という枠を超えた「コミュニティ事業」です。難民の方々にとって、支援を受ける側ではなく、誰かに与える側、ギバーになれる空間を作りたいという思いから始めました。
渋谷でWELgeeのゼッケンを着てゴミ拾いをしてみたり、難民の方々の郷土料理を振る舞ってもらう交流イベントの開催、日本語の勉強会も実施しています。
居場所があるだけで、人の状況はとても変わるものだと思っています。就労以外の場所で、彼らの心のよりどころのようなものがどんどん生まれて、そこからまた日本社会との接点が広がっていく。それが、私にとっての理想の形です。
「持ちつ持たれつ」隣人としてゆるやかにつながる

私は、難民の方々との関係が、「持ちつ持たれつ」のものになればいいと思っています。人は誰でも、あるときは誰かを助ける側になり、別のときには助けられる側になります。難民の方との関係も、それと同じではないでしょうか。
SNSやニュースで得る情報と、実際に一人の人と関わって感じることには、大きな違いがあります。日本人にもさまざまな人がいるように、難民の方も一人ひとり異なります。まずは、身近な隣人として一歩踏み込んで、その人自身を知ってほしいと思います。
実際に関わってみることで、印象が大きく変わることもあります。以前、「もし隣にアフリカ出身の人が引っ越してきたら、少し不安かもしれない」と話していた方が、外国籍の方と一緒に働くようになり、いつの間にか自然と教え合い、雑談を楽しむ同僚の一人になっていたという話を聞きました。距離が近づくだけで、相手の見え方は大きく変わるのだと思います。
私はいま、シリア出身の方と一緒に働いていますが、働く上で欠かせない「報告・連絡・相談」をこまめにしないので、正直困ることもあります。日本人同士の職場だったら「なんで先に言わないの」と言いたくなる場面もしばしばです。
ただ、これは外国人だから起きていることなのか、と考えると、そうでもないと思うんですよね。日本人同士だって、齟齬は生まれます。ただ、相手が外国籍だと「外国人だから」というラベルが貼られやすいと思います。
そんな彼は私には絶対に思いつけないアイデアを、ポンポン出してくれます。仕事の進め方を「こうするべき」と型にはめるのではなく、やりたいこと、作りたいことを想像して仕事を作り上げていく。だから彼と一緒に働いていると刺激的で楽しいんです。
日本人だけの社会だと、どうしても常識に縛られて「こうすべき」という発想になってしまいます。ただ、違う環境で育ち、違う価値観のある外国籍の方と仕事をすると、その「べき」を壊してくれて、柔軟な発想が生まれます。
一方で、日本で暮らす難民の方々には、友人をつくる機会がまだ十分にありません。けれども、実際に会話を重ねると、とても温かく迎えてくれたり、家族のような関係を築こうとしてくれたりします。
「難民」という言葉だけで距離を置くのではなく、まずは一人の隣人として言葉を交わしてみる。その小さな一歩から、支える側と支えられる側を超えた関係が生まれていくのではないかと思っています。
私にとっての「希望」とは

希望って、暗闇の中にある光のようなものだとずっと思っていたんです。
でも今、世界中で終わらない戦争と、広がっていく貧富の差の中で、光がどこかにあるわけではない、と感じることも多いです。
生まれた国や境遇にかかわらず誰もが活躍できる社会をつくるうえで一番大切なのは、実はすごく小さな幸せなのではないかと思っています。
人は自分が落ち込んだとき、助けてくれる人が多いほど幸せになれる。そこには人種も、見えないマイノリティも、関係ないんじゃないかと思うんです。
こういう社会がいい、みんなで手を取り合って暮らしたい、という願いを持ち続けること自体が、希望なんじゃないかと最近思うようになりました。
自分たちの中に、自発光のように光り続けられるものがあるのではないかと思っています。
支援する側とされる側という一方通行の関係ではなくて、持ちつ持たれつの隣人として、出会い直せる社会。
WELgeeは、これからも少しずつ、そんな社会をつくっていきます。

この記事に興味を持っていただいた方へ
難民人材の採用に関心のある法人の方は、ぜひ「WELgee Talents」の公式サイトをご覧ください。
難民人材の育成から採用、入社後の定着までを支えるサービスの仕組みや、企業における採用事例などが紹介されています。WELgee Talents:https://welgee-talents.jp/
また、WELgeeでは活動を継続し、より多くの難民の方々の人生再建に伴走するため、寄付による応援も受け付けています。活動に共感していただけましたら、ぜひ応援をお願いいたします。
寄付について:https://www.welgee.jp/support/donate.html
NPO法人 WELgee(ウェルジー)
2016年の設立以来、紛争や差別、迫害などによって故郷を追われ、日本に逃れてきた難民の方々が、自らの経験や専門性を生かして未来を築ける社会づくりに取り組んできたNPO法人です。キャリア形成を支える育成事業をはじめ、難民人材と日本企業をつなぐ就労伴走事業、難民のスキルや経験を生かして日本社会と新たな価値を生み出す共創事業を展開しています。
公式ウェブサイト:https://www.welgee.jp/


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