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ハセイルカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハセイルカ
ハセイルカ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目 Artiodactyla
: マイルカ科 Delphinidae
: マイルカ属 Delphinus
: ハセイルカ Delphinus capensis
学名
Delphinus capensis
Gray, 1828
和名
ハセイルカ[1]
英名
Long-beaked Common Dolphin
分布

ハセイルカDelphinus capensis)は、かつて認められていた、偶蹄目マイルカ科マイルカ属の種。1994年、主に東部北太平洋・カリフォルニア沖の個体群を対象とした研究においてマイルカから分割され独立種とされた。しかし、その後の研究では、東部太平洋以外のものについては吻の長さという収斂形質によってまとめられた多系統群であると判明しており、種としての実体は否定されている。一方、本種を認めるきっかけとなった研究の対象であったカリフォルニア沖個体群を含む東部太平洋の長吻型個体群については、独立種アメリカマイルカ Delphinus bairdiiとする説が提唱されている。

分類の歴史

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もともとマイルカには吻の長い個体がいることは認識されていたが、それらは単なる地理的変異とみなされていた。

Heyning & Perrin (1994) は東部北太平洋・カリフォルニア沖のマイルカを対象として研究を行い、短吻型の個体群と長吻型の個体群は吻の長さのみならず、吻長と頬骨弓幅の比や体色などによって明瞭に区別できることを示した[2]。また、同所的に分布するにもかかわらず混群を形成しないという結果も得られたため、この結果と既存の世界各地の形態研究を組み合わせ、カリフォルニアのみならず世界中のマイルカを、短吻型のマイルカ(狭義)と、長吻型のハセイルカ Delphinus capensis(タイプ産地は喜望峰)に分けることを提唱した[2]。また、同時期のミトコンドリアDNAを用いた系統解析でも別種とすることが支持された[3]

しかし、その後の研究では、カリフォルニア沖の長吻型個体群の独自性については支持があった一方、それを世界各地の長吻型に適用することは支持されなかった。Natoli et al. (2006) は、南アフリカ長吻型と東部北太平洋長吻型はまとまらず、遺伝的に離れていることから、長吻形態は複数回独立に進化した可能性を示した[4]。さらにAmaral et al. (2012) も、核DNAも含めた解析を行ったが、マイルカ D. delphis とハセイルカ capensis の2系統に分かれるという結果は得られず、地域ごとに分化が進行している可能性や、ILS・遺伝子流動などの影響を示唆した[5]

Cunha et al. (2015) は、Heyning & Perrin の形態的基準をもとにして南西大西洋個体群の標本をマイルカ D. delphinus(短吻型)とハセイルカ D. capensis(長吻型)に分け、これらから得た新規配列にさらに世界各地の短吻型、長吻型、tropicalis型 などの既存配列を加え、ミトコンドリアDNA (cytochrome b) を用いて系統解析を行った。その結果として、マイルカ D. delphinusとされた個体とハセイルカ D. capensis とされた個体のハプロタイプは、系統樹上で互いに分離せずに混ざり合い、さらに一部の長吻型と短吻型は同じcytochrome bハプロタイプを共有する例も確認された。特に、タイプ産地である喜望峰の個体群が大西洋のマイルカ D. didelphis と遺伝的に区別できないため、ハセイルカ D. capensis は有効な独立種とは認められないと結論づけた[6]。Society for Marine Mammalogy は、従来の意味でのハセイルカ D. capensis は多系統群であることを示す証拠が蓄積しており、長い吻は明らかに地域ごとの生態に関連して独立に生じた収斂形質とみられるとしており、2016年以降はハセイルカ D. capensis は独立した種や亜種として認められず、マイルカ D. delphis のシノニムとして扱われている[7]

一方でCunha et al. (2015) は、Heyning & Perrin が研究していたカリフォルニア沖の個体群については独自性を認め、もし別種であるならば Delphinus bairdii という学名を用いることを提案した[6]。2024年の研究では、東部太平洋の長吻型個体群を独立種アメリカマイルカ Delphinus bairdii とすることが支持されている[8]

脚注

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  1. 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  2. 1 2 Heyning, John E.; Perrin, William F. (1994). “Evidence for two species of common dolphins (genus Delphinus) from the eastern North Pacific”. Contributions in Science 442: 1–35. doi:10.5962/p.226804.
  3. Rosel, Patricia E.; Dizon, Andrew E.; Heyning, John E. (1994). “Genetic analysis of sympatric morphotypes of common dolphins (genus Delphinus)”. Marine Biology 119 (2): 159–167. doi:10.1007/BF00349552.
  4. Natoli, Ada; Cañadas, Ana; Peddemors, Victor M.; Aguilar, Alex; Vaquero, Cristina; Fernández-Piqueras, Pablo; Hoelzel, A. Rus (2006). “Phylogeography and alpha taxonomy of the common dolphin (Delphinus sp.)”. Journal of Evolutionary Biology 19 (3): 943–954. doi:10.1111/j.1420-9101.2005.01033.x.
  5. Amaral, Ana R.; Beheregaray, Luciano B.; Bilgmann, Kerstin; Freitas, Luís; Robertson, Kelly M.; Sequeira, Marina; Stockin, Karen A.; Coelho, M. M. et al. (2012). “Influences of past climatic changes on historical population structure and demography of a cosmopolitan marine predator, the common dolphin (genus Delphinus)”. Molecular Ecology 21 (19): 4854–4871. doi:10.1111/j.1365-294X.2012.05728.x.
  6. 1 2 Cunha, Haydée A.; Loizaga de Castro, Rocio; Secchi, Eduardo R.; Crespo, Enrique A.; Lailson-Brito, José; Azevedo, Alexandre F.; Lazoski, Cristiano; Solé-Cava, Antonio M. (2015). “Molecular and morphological differentiation of common dolphins (Delphinus sp.) in the Southwestern Atlantic: Testing the two species hypothesis in sympatry”. PLOS ONE 10 (11): e0140251. doi:10.1371/journal.pone.0140251. PMC 4641715. PMID 26559411.
  7. Committee on Taxonomy. 2026. List of marine mammal species and subspecies. Society for Marine Mammalogy, www.marinemammalscience.org, consulted on 2026-08-02.
  8. Jefferson, Thomas A.; Archer, Frederick I.; Robertson, Kelly M. (2024). “The long-beaked common dolphin of the eastern Pacific Ocean: Taxonomic status and redescription of Delphinus bairdii”. Marine Mammal Science 40 (4): e13133. doi:10.1111/mms.13133.