性的同意
性的同意(せいてきどうい、英語: sexual consent[1][2])とは、性的な行為を行うことへの同意である。同意は、言語的・非言語的な表現のほか、沈黙や抵抗しないことなどの受動的な無反応によって伝えられることがある[3]。多くの法域では、同意のない性的行為は、強姦またはその他の性的暴行とみなされる[1][2]。
同意の概念
[編集]ミューレンハードらは、「性的同意」が、本人の内的な参加意思、明示的に合意する行為、他者が参加意思の表れとして解釈する行動という三つの意味で用いられると整理した。また、性行為に同意することと、その性行為を「したい」と思うことは区別され、性行為をしたいと思っていても同意しない場合や、反対にしたいと思っていなくても同意する場合があると指摘している。同意は、ある時点の言動によって成立する「出来事」として捉える考え方と、性的なやり取りを通じて継続的に評価される「過程」として捉える考え方がある。前者では、同意と解釈される言動の後は撤回されない限り同意しているものと推定され、後者では、相手の表情や身体の動きなどを継続的に観察して参加意思を判断する[4]。また研究では、同意のコミュニケーションは「性的な期待の交渉」として捉えられており、この観点から、同意は社会的に形成され、文脈に依存する過程であるとされている[5]。
性的同意をどのように定義するかについての見解には幅がある。グルーバーは、性的同意の意味は一義的ではなく、内面的な合意については、しぶしぶ受け入れることから積極的な欲望まで、同意の表明についても、消極的な受容から熱意のある「イエス」まで、さまざまな見解があるとする。また、積極的同意についても複数の基準が提唱されている。さらに、性的同意は自由意思に関する道徳的に自明な問題に見える一方、その背後には、性行為のあり方、その利益や害をどう評価するか、刑法がそれをどのように規制すべきかといった異なる判断の対立が隠れていると指摘している[6]。
同意教育における同意の位置づけについて、メイソンは、同意が性的搾取への対処や性的尊重を促進する中心的な概念として用いられている一方、同意は刑法上、レイプと適法な性行為を区別する最低限の基準にすぎず、同意があること自体は、その性行為が倫理的または良いものであることを意味しないと論じている[7]。またピーターソンらは、積極的同意教育で用いられる同意の定義と刑法上の定義は必ずしも一致せず、法的定義も法域によって異なるため、調査で「同意」という語を用いると、刑法上は不同意に当たる行為でも、回答者自身が同意したと認識している場合は取りこぼす一方、積極的同意がなかったことを理由に「同意なし」と回答される経験でも、刑法上の定義では不同意に当たらないものまで含める可能性があると指摘している[8]。
また、SES-Vでは、自由に与えられた許可なしに、言語的または非身体的な圧力によって性的行為を得た経験が別個に測定されている。アンダーソンらは、言語的圧力による性的搾取を6領域・11項目に分類しており、そのうち、肯定的な言語的圧力の例として、性的行為に応じさせるために、褒める、将来を約束する、「愛している」などと言うことを挙げ、中立的な言語的圧力の例として、相手を根負けさせるために何度も繰り返し求める、懇願する、ため息をつく、目を回すことなどを挙げている。また、否定的な言語的圧力の一つである「関係への脅し」の例として、別れる、他人と性交すると脅す、または相手の関係へのコミットメントを疑うことを挙げている。こうした言語的圧力では、圧力、操作、または身体的危害には至らない脅しによって相手が根負けし、最終的に応じることがあり、その場合には「不本意ながらの合意」はあっても、「自由に与えられた同意」ではないとしている。一方、性行為を得るために言語的圧力を用いる行為は、一般的には違法でないとしている[9]。
同意の表現
[編集]同意表現の分類
[編集]ヒックマンらは調査に基づき、性交への同意を示す行動を、(1) 直接的な言語表現、(2) 直接的な非言語表現、(3) 間接的な言語表現、(4) 間接的な非言語表現、(5) 無反応の5類型に整理した[3]。
| 分類 | 同意を示す方法 |
|---|---|
| 直接的な言語表現 | 「はい」と答える、性交したいと伝える、相手を求めていると伝える、相手と寝たいと伝える、性交への同意を明言する。 |
| 直接的な非言語表現 | 何も言わず、自ら性交を始める。 |
| 間接的な言語表現 | コンドームの有無を尋ねる、避妊の重要性について話す、コンドームの用意や使用を提案する、相手との性交について肯定的な気持ちを伝える。 |
| 間接的な非言語表現 | 相手の身体を撫でたり愛撫したりする、相手の衣服の中に手を入れる、相手の衣服を脱がせる、自分の衣服を脱がせるのを手伝う、接触やキスに応じる、キスを返す、身体を近づける、衣服越しに身体を擦り合わせる、微笑む。 |
| 無反応 | 相手の性的な働きかけに抵抗しない、キスや性的接触を止めない、「ノー」と言わない、衣服を脱がされるのを止めない。 |
またウェバーらは性的少数男性の性的同意に関するレビューにおいて、同意を伝える方法として、(1) 明示的な言語表現、(2) 明示的な非言語表現、(3) 無反応、(4) 黙示的な非言語表現、(5) 黙示的な言語表現、(6) オンライン上の手掛かりを挙げている。6類型の用語を明示的に用いた研究はマルカントニオらである[10]。
| 分類 | 同意を示す方法 |
|---|---|
| 明示的な言語表現 | 「はい」と答える、性的行為への同意や意思を言葉で直接伝える。 |
| 明示的な非言語表現 | 親密な、または性的な方法で相手に触れる、衣服を脱ぐ、コンドームを提示するなど、性的行為への意思を明確な非言語行動で伝える。 |
| 無反応 | 性的行為に関心があるように見える一方、相手の性的な働きかけに抵抗せず、言葉による同意も示さない。 |
| 黙示的な非言語表現 | アイコンタクトをするなど、より微妙な非言語的な手掛かりによって性的行為への意思を伝える。 |
| オンライン上の同意 | 実際に会う前に、オンライン上で性的な関心や行いたい性的行為について話し合う、または性的行為への同意を伝える。 |
| 黙示的な言語表現 | 性的行為への同意を直接述べず、性的な意味を含む言葉やほのめかしによって意思を伝える。 |
同意表現の解釈と文脈
[編集]実証研究では、同意は言葉だけでなく、キス、接近、愛撫などの非言語的行動によって伝えられることが多く、「抵抗しない」ことも同意を示した方法として頻繁に報告されているが、それ自体が同意の明確な指標とは限らず、多くの場合は能動的な行動と組み合わされ、完全な無反応とは区別される。また、個々の行動の意味は、その組み合わせや順序、関係性、状況などの文脈によって異なる。例えば、笑顔は、ほとんど知らない相手と恋人とでは異なる意味を持ち得るほか、バーで会った相手と一緒に家へ行くことは、その後の性行為に同意する可能性を示す手掛かりにはなり得るが、合意そのものとは区別される[4]。
一方で、何を「セックス」とみなすかには多様な見解があり、何を新たな性的行為の「段階」とするかも明確ではない。例えば、段階については服の上から下へ触れる場合や、触れる位置を少しずつ変える場合のどこからを新たな段階とするかについて、ミューンハードらは、知る限り研究がないと指摘している。行動が少し変わるたびに言語的確認を行うことは非現実的であり、継続的な同意には非言語的な合図が不可欠で、必要に応じて言語的確認を組み合わせる方法も考えられている。さらに、何も言わず積極的に性行為へ参加する場合と、言葉では同意しながら単調な声や平板な感情表出を示す場合を比較し、言語的表現が常に非言語的表現より参加意思を明確に示すとは限らないと指摘している[4]。
また性行為について「No」と言いながら「Yes」を意味することは、形式的拒否(token resistance)と呼ばれている。女子大学生610人を対象に行った調査では、39.3%が少なくとも1回、token resistanceを行ったと回答した[11]。token refusalという慣行では、「No」が、「Yes」の一形態、また引き延ばし戦略、まぁまぁ、恥じらい(焦らし)、遊び・じゃれ合いなど意味する場合がある[12]。
ノルウェー刑法審議会は、性的なやり取りについての合意は明示的な取り決めなしに成立することが多く、性交などについての合意や「交渉」は、試行的な接触、身体言語、声などを通じて徐々に形成されることが多いとしている[13]。同審議会はYes Means Yes型刑法の検討においてデンマークの立法資料を紹介し、同国では、同意は言葉または行動によって表明することができ、直接的または特定の方法で表明される必要はないとされ、同意を示す行動の例として、キス、接触、快感を示す声、相手の方を向くこと、自ら下着を脱ぐことに協力すること、性交に合わせて身体を動かすことなどが挙げられており、総合的に判断がなされる[13][14]。ノルウェー政府は、同意は口頭で表明される必要はなく、声、いちゃつくような身体言語、表情その他の「誘うような」身体の動きなどでも足り得るとしている[15]。また、受動性も例外的に同意の表現となり得る。その判断では、当事者間の関係や過去の経緯、性的行為に至るまでの経緯などが重要となる。例えば、互いにいちゃつき、キスや愛撫をし、互いの服を脱がせて同じベッドに入った場合と、特段の前触れなく、会ったばかりの相手に性的な働きかけをした場合とでは、受動性について異なる評価となり得るとされる[15]。
同意に関する学術的議論
[編集]- 1980年代後半に研究者のロイス・ピノーは、性的同意がより明確、客観的かつ重層的になり、「No means No(NoはNoを意味する)」や「Yes means Yes(YesはYesを意味する)」よりも包括的なモデルになるように、性に関してより意思の疎通がなされる社会へと変わっていかなければいけないと主張した[16]。多くの大学では、同意に関する啓発キャンペーンが実施されている。同意を訴える、人目を引く標語や画像を用いた創意的なキャンペーンは、大学における性的暴行や関連する問題への認識を高める有効な手段となり得る[17]。
- カナダにおいて、性的同意は、「信頼や権力、権威」の乱用や悪用、あるいは強要や脅迫がない状態で、「性交渉に対して、任意に賛成すること」を意味する[18]。また、性的同意はいつでも取り消すことができる[19]。ブリティッシュコロンビア州最高裁判所は、性的行為をしつこく求めた後に相手が合意したという事情だけでは、同意を無効にする強制の程度には達しないと判断している[20]。
- 1990年代後半から、性的同意の新しいモデルが提案されてきた[19]。とりわけ、デヴィッド・S・ホールが「他者によって提案されたり行われたりした事柄を、任意に承認すること」「許諾すること」「意見や感情について賛成すること」と定義し、「イエス・ミーンズ・イエス」といった積極的な同意のモデルが進展した[19]。S・E・ヒックマンとC・L・ミューレンハードは、性的同意とは「性的行為に参加する意思があるという感情を、自由意思に基づき言語的または非言語的に伝達すること」であるべきだ、と述べている[3]。一方、積極的な同意にも限界があり、同意を取り巻く個々の事情を「YesはYes、NoはNo」という二元的な概念に当てはまらない可能性があることから、積極的な同意は限定されることがある[2]。
同意の要素
[編集]道徳・法的観点
[編集]学術文献では、同意の定義や、それをどのように伝達すべきかについて、見解が対立していたり、定義が限定的であったり、十分な合意が形成されていなかったりすることが指摘されている[2][1]。モナシュ大学社会科学部の犯罪学者ジェームズ・ロフィーは、法的判断における混乱を避けるため、同意の法的定義(法的な同意の概念を参照)は統一的なものである必要があると論じている。また、同意に関する道徳的な理解と法的な概念とは、必ずしも一致しないことを示している。例えば、成人した兄弟姉妹などの親族同士が、任意に性的関係を持つ場合がある。しかし、法制度上は近親相姦とみなされ、犯罪とされることがある[21]。ロフィーは、親族間の性的行為について法律で用いられる特定の表現が、当事者全員が同意している場合であっても、その行為を不道徳かつ犯罪的なものと読者に受け取らせる方向に作用すると主張している[22]。同様に、法定の性的同意年齢に満たない未成年者であっても、性的関係を持つことを理解したうえで、任意に選択する場合がある。しかし、法律上、そのような選択は正当なものとは認められない。性的同意年齢を定める必要性がある一方、それによって個人ごとの理解力や成熟度の違いを考慮することはできない。この点からも、同意に関する道徳的理解と法的理解が必ずしも一致しないことが分かる[2]。
一部の人は同意することができず、また、言葉で同意を示すことができる場合でも、十分な情報に基づいて完全な同意をする能力がないとみなされることがある(例えば、性的同意年齢に達していない未成年者や、酩酊状態にある者など)。また、人は望んでいない性的行為に同意することもある[23]。
黙示と明示
[編集]カナダでは、1999年にカナダ最高裁判所がR v Ewanchuk事件で、同意は「暗黙の同意」ではなく、明確でなければならないと全会一致で判決を下して以来、暗黙の同意は性的暴行を弁護するものとはなっていない[24]。米国では、弁護側が、被害者の言動から何らかの形で同意が黙示されていたと裁判所に認めさせる余地がある。過去に加害者とされる者との関係があったこと(友人関係、交際、同居、婚姻など)[25]、以前に性的接触へ同意していたこと、好意を示す言動[26]、または「挑発的」とみなされる服装をしていたことなどが、黙示の同意を示す事情として裁判所に受け取られる場合がある[27]。
ベレスは、「同意」が自分たちの関係には関わらないというテーマが継続的な関係についてのインタビューにみられた一方、カジュアルセックスについてのインタビューにはみられなかったと報告している。例えば、あるカップルは「同意」を性行為への明示的な要請として捉え、交際関係ではそのような要請は必要ないと考えていた。しかし、これらのインタビューに参加したカップルは、性的欲求の程度や望む行為が異なる場合について実際にはコミュニケーションを取り、交渉していた。ベレスは、多くの標準的な同意の定義では、彼らが説明していたのは性行為にどのように同意しているかであったものの、本人たちはこうした交渉を「同意」の一部とは捉えていなかったと指摘している。また、このテーマがみられたすべてのインタビューは、性行為に自由に参加する意思という定義に基づけば、同意の基準を満たしていたとしている[28]。
望まない性行為
[編集]望まない性的行為には、強姦やその他の性的暴行が含まれることがあるが、それらとは区別される場合もある。男性が「自分はゲイではないことを証明する」ために女性との望まない性行為に応じることがあると示した2018年の研究の著者ジェシー・V・フォードは、「すべての性的暴行は望まない性行為であるが、すべての望まない性行為が性的暴行であるわけではない」と述べている[29]。
1998年の研究では、異性愛者の交際関係において、男女の双方が、望んでいない性的行為に同意する場合があることが示された。このような場合、相手を満足させるため、親密さを深めるため、または関係内の緊張を避けるために、望んでいない性的行為へ同意していた[30]。著者らは、「望まない(非同意の)性的経験」に関する推計では、同意のない性行為と、望んではいないものの同意して行われた性行為とが混同されている可能性があると論じている[30]。
欧州議会の女性の権利・ジェンダー平等委員会(FEMM)の要請により作成されたブリーフィングは、性行為を望むこと(wantedness)と同意とを区別している。同資料は、本心では性行為をあまり望んでいなくても、親密さを深める、相手を喜ばせる、相手の感情を傷つけたり関係上の緊張を生じさせたりすることを避けるなどの理由から、任意に性行為へ同意する場合がある。一方、相手に強く性的魅力を感じて性行為そのものを望んでいても、既婚であることなどを理由に、実際に性行為をすることには同意しない場合もあり得る。性的暴力の判断は、性行為が望まれていたことを示す事情の有無ではなく、同意の有無に基づくべきであり、政策および立法の策定においても両者の区別に注意を払う必要があるとしている[31]。
言語と非言語
[編集]法律や規則の違いによって、言語的同意と非言語的同意、または2つのタイプの混合がある[32]。Kae Burdoによると、「口頭での同意しかカウントしない」というのは、障害者などの言語での同意ができない当事者に対応できないという[32]。ダートマス大学の同意に関する規則では、親密な出会いにおけるコミュニケーションは、多くの場合、微笑む、うなずく、相手に触れるなどの非言語的な合図であるとされている[33]。ただし、ボディランゲージの解釈には危険を伴うため、「ボディランゲージだけでは不十分な場合が多い」としており、最善の選択肢は「明確な言語によるコミュニケーション」であるとしている[33]。ニューヨーク・タイムズ紙によると、男性は通常、非言語的な指標で同意を判断する(61%が相手のボディランゲージで同意を認識すると回答)が、女性は通常、パートナーが口頭で同意を求めるのを待つ(ボディランゲージで同意を示すと回答したのは10%のみ)と異なるため、混乱を招く可能性がある[34]。
クレアモント・マッケナ大学の学生部長であるメアリー・スペルマンは、同大学では言語による同意と非言語的な同意のいずれも認めていると述べている。非言語的な同意については、相手が「積極的に参加しているか」、触れられた際に触れ返しているか、または相手の行為を促しているかなどを確認し、こうした行動が「その場で行われていることに積極的に参加している」ことを示す徴表になるとしている[35]。
デイリー・ドット紙によると、言葉による同意は「双方が自分の望むことを明確に示し、質問し、説明を求めることができる」ため最善であり、対照的に、非言語的な同意は、「ジェスチャー、雰囲気、非言語的な合図について異なる理解をしている」ため、明確でない場合があり、「曖昧さと誤解」につながる可能性がある[36]。心理学者で神経科学者のリサ・フェルドマン・バレットは、「人間の脳は常に笑顔や表情を解釈する方法を推測している」ため、性的同意の文脈では、「顔の動きは同意、拒否、感情全般のひどい指標」であり、「言葉の代わりにはならない」と述べている[37]。
2026年に公表された研究では、調査に参加した若い異性愛男性の多くが、言葉による同意確認を「気まずい、不必要、または行為の流れを妨げるもの」と捉えていた[38]。その理由の一つとして、言葉で同意を求めることによって、相手の気持ちを冷めさせたり、相手を不快にさせたりする可能性が挙げられた。一方で、言葉による同意は形式的かつ取引的に感じられ、相手が実際に性交を望んでいることを必ずしも保証しないとも捉えられていた。著者であるメルボルン大学のジョシー・フォレストとコロンビア大学のジェシー・V・フォードは、若い男性の多くが、代わりに「多要素認証」と名づけられた過程を用いていると指摘した。これは、必ずしも言葉で同意を求めるのではなく、感覚的な合図、信頼関係、場所、タイミングなどの複数の文脈的要素を総合し、同意があるかを判断するものである[39]。
ジョズコウスキーらは、2013年の人気映画50本を内容分析し、性的同意や拒否は、非言語的または黙示的な手掛かりによって表現されることが最も多かったと報告している[40]。またウィリスらは、2015年の売れ筋ポルノ映画50場面を内容分析し、性的同意の伝達では、言語的な手掛かりより非言語的な手掛かりが多く描かれていたと報告している[41]。
同意の撤回
[編集]欧州議会の女性の権利・ジェンダー平等委員会(FEMM)の要請により作成されたブリーフィングは、性的同意を一回限りの二択の決定ではなく、行為の進行に伴う過程として捉えることが適切であると説明している。また、性的同意は性的行為の開始後であっても撤回でき、撤回の意思が示された後も性的接触を継続することは、性的暴力として理解されるべきであるとしている[31]。
スコットランド法委員会は、性的行為への同意は、その行為の開始前または継続中に撤回でき、撤回後も行為が継続された場合には、同意なく行われたものとなると説明している。一方、行為が完了した後には同意を撤回できないとし、その理由として、相手方が撤回に応じて行動を変更することができないことを挙げている[42]。
年齢
[編集]
13 14 15 16 17 18 結婚しなければならない 州や行政区によって異なる/曖昧
性的同意年齢とは、性行為の意味や断る方法、妊娠や性感染症のリスクに関する正しい知識を持ち、同意を自分で判断できるとみなす年齢である[43][44]。各法域で異なる性的同意年齢が設定されているため、一定の年齢に達していない未成年者は性行為に対して法的に有効な同意を与えることができない[43][45]。従って、成人が同意年齢未満の子どもと性行為を行った場合、その性行為が同意によるものであったと主張することはできず、そのような性行為は法律違反(法定強姦)とみなされる可能性がある[43][46]。最低年齢に満たない者は被害者とみなされ、その性的パートナーは、同年代でない限り、加害者とみなされる[46][47]。同意年齢を定める目的は、未成年者を性的な誘いから保護することである[43][46]。同意年齢は司法管轄区域によって大きく異なるが、ほとんどの法域では14 - 18歳の範囲とされている[46][48]。
2023年、日本で1907年に性犯罪の法律が定められて以来初めて、性交同意年齢が変更され、「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げられた[49][44][50][51]。これにより、16歳未満の子どもに性的行為を行うと、相手が同意していても処罰の対象になる(13 - 15歳は5歳以上年上の者が対象)[49][52]。13歳未満に対して性的行為を行った場合は、以前と同様に、同意の有無に関わらず罪に問われる[44]。
障害者
[編集]障害によっては性暴力自体を認識できなかったり、立証することが難しく、施設関係者や指導的な立場の人との力関係が背景にあることもある[53]。発達障害や知的障害などのある人は性暴力に遭いやすく、障害のある人は、ない人の約2 - 3倍、性暴力を経験している[54][55]。
ニューヨーク州など一部の法域では、身体障害により、言葉や身体を使って同意しないことを伝えることができない場合や、精神疾患やその他の精神状態により性行為を理解することができない場合は、同意があるとはみなさない[56]。
日本では、2023年の刑法改正(不同意性交・不同意わいせつ)で、176条1項2号に「心身の障害を生じさせること又はそれがあること」が記載された[57]。心身の障害について、それがあることだけでは足りず、それが原因となってこのような困難な状態にあることが犯罪の成立に必要であり、「障害があることをもって常にこの状態にあるという要件とはしていない」と説明している[58]。「障害者と介護者」「施設の職員と入所者」など、明らかに対等性を欠く状況につけこんで性行為をする人について、対象となる関係性を明記した処罰類型の新設を求めている[47][59][53]。
酩酊
[編集]法域によっては、アルコールや薬物で酩酊している人は同意できない[60]。例えば、ミシガン州の犯罪性行為法では、自分の行為や同意を制御できない人と性行為を行うことは犯罪である[60]。カナダでは、飲酒は人が合法的に性行為に同意できるかどうかに影響する要素である[61]。しかし、同意が不可能になる酩酊のレベルは、その人がどの程度酔っているかなど、状況によって異なる[61]。カナダの裁判官が、酩酊している者であっても同意し得るとの判断を示した際には、社会的な反発が起きた。一方、CBCの取材を受けた法律専門家は、カナダ法上は「酔った状態での同意も、なお同意である」と述べた[61]。また、ある研究では、酩酊時に同意能力を失う境界には一定の曖昧さがあることが示されている[62]。
アルコールによるブラックアウトは意識消失とは異なり、事後に記憶がないことのみから性犯罪の成否が決まるわけではない。法学文献では、記憶喪失それ自体は必ずしも同意能力の欠如を意味せず、行為時の同意の有無や同意能力が問題になるとされている[63][64]。ドイツでは著しく酩酊している場合、同意を得ていると処罰されない[65][66]。
ノルウェー刑法審議会は、当時の強姦罪に関する判例を整理する中で、酩酊した者との性的交わりは、その者を「非常に酔っている」と表現できる場合であっても、通常、強姦とはみなされないとしており、すべての関連事情を総合的に評価する必要があるとしている[67]。また、同審議会は改正案の検討において、酩酊によって判断力が弱まり、又は自己統制能力が低下した者と性的交わりをした者すべてを、性的自己決定権に対する最も重大な侵害を対象とする刑罰規定によって処罰することは広範に過ぎるとしている。酩酊している者が性的交わりへの意思を示し、又は積極的に参加している場合には、行為に抵抗することが完全に不可能な状態にあるとみなすべきではないとしている[67]。
日本では、2023年の刑法改正(不同意性交・不同意わいせつ)で、176条1項3号に「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」が記載された[57]。相手がアルコールの影響がある場合は要件に該当するが、その上で「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難なほど酔っている」ことが必要である[68][69]。つまり、同意しない意思を形成・表明・全うすることができる状態にある人と、同意を取った上で行う性交は罪にならない[70]。場合によっては、酩酊の程度が考慮されるなど、個別の事案ごとに証拠に基づいて判断されることになる[68]。
無意識
[編集]カナダでは、2011年の R v JA において、睡眠中または意識を失っている者は性的行為に同意することができないとの判断が示された[71]。カナダの最高裁判所は、意識がなくなるほど泥酔した人は性行為に同意できないとの判決を下した[61]。
スウェーデンでは、黙示の同意が認められており、親密な関係性において、眠っている人に対する性的行為を許容できると判断する一定の余地は残されるべきであると、ケースバイケースであると言われている[72][73]。
地位・関係性の利用
[編集]法域によっては、地位・関係性を利用した性暴力の処罰について刑法で定めている[74][75]。地位・関係性を利用して性的な加害をされると、抵抗・逃げることができないことがあるため、教師やコーチなどの逆らいがたい立場の人、医療者と患者、刑務所職員と受刑者などの関係が列挙されている[75]。ミシガン州、ドイツ、フィンランドなどは、教師と生徒の関係を要件とする規定がある[74][76]。フランスは、教師と生徒以外の力関係の性犯罪についても刑法で定めている[74]。職務上の権限がある者が権限を濫用した場合や、経済的・社会的地位が不安定であるため、著しく脆弱な状態にあることが明白である人に性的な加害をした場合、刑を加重する規定がある[74]。
カナダの裁判所は、性交渉が同意の上で行われたかを判断する際、被告人が原告に対して「信頼や権威のある立場」にあったかを考慮する[61]。この一般原則はカナダの法律の一部だが、裁判所は、信頼や権限のある立場の正確な定義を議論している[61]。信頼や権威のある立場の人の例としては、教師、雇用主や上司、カウンセラー、医療従事者、スポーツ指導者などがある[61]。
日本では、2023年の刑法改正(不同意性交・不同意わいせつ)で、176条1項8号に「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」が記載された[57]。なお「同意しない意思を形成・表明・全うが困難な状態」に陥っていないのに、一定の地位・関係性にある者が性的行為をしただけで不同意わいせつ罪・不同意性交等罪と同じ法定刑による処罰対象とするような明確かつ限定的な要件を設けることは困難であるとして、そのような犯罪類型は設けていない[77]。
欺瞞とごまかし
[編集]一方の当事者が同意を得るために欺きやごまかしを用いた性行為は、同意のないものとなる可能性がある[78]。AがBとの性交渉に同意したにもかかわらず、Bが適切な問題について嘘をついた場合、Aは十分なインフォームド・コンセントを受けていないことになる[78]。欺瞞行為には、避妊具の使用、年齢、性別、宗教、雇用、性感染症の検査状況、独身であるかのような印象を与えること、性行為が何らかの医療行為であると相手に思わせることなどが含まれる[78]。例えば、女性のボーイフレンドが寝室を出た直後に寝室に忍び込み、ボーイフレンドだと勘違いさせたカリフォルニアの男、パイロットと医師だと嘘をついて女性とセックスしたイスラエルの男などがいる[78]。
アレクサンドラ・シムズは、「トランスジェンダーの人々は性的経歴を明らかにしなければ『強姦罪に問われる可能性がある』と活動家が警告」と題した記事で、英国のSexual Offences Act(性犯罪法)は、性的同意について判断する際に十分な情報を得て、性行為をするか否かについてインフォームド・コンセントを行えるようにするという要件の一環として、トランスジェンダーの人々に対し、パートナーへ自身のジェンダーに関する経歴を伝えることを求めていると述べている。トランスジェンダー活動家のソフィー・クックは、この法律はトランスジェンダーの人々の人権およびプライバシーを侵害するものだと述べている[79]。
日本では、加害者が自分は医師であると偽り、病気の治療のためには加害者と性交を行う他はないと説明し、心理的に追い込んだ上で性交を行った事件や、牧師が信者の少女らに対して、従わなければ地獄に堕ちると説教し、畏怖させた上で性交を行った事件が、準強姦罪として認められている[80]。
ステルシング
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同意に基づかないコンドームの取り外しとは「ステルシング」とも呼ばれ、セックスパートナーがコンドームで保護された安全なセックスにしか同意していないのに、男性がこっそりコンドームを取り外すことである[81]。「ステルシング」を経験した女性は、緊急避妊のための費用を支払わなければならず、妊娠や性感染症の心配に直面し、レイプの一種だと感じる女性もいる[81]。ステルシングは、「生殖の強制」と呼ばれるドメスティックバイオレンスの一種であり、コンドームを外したり、穴を開けたりすることも含まれる[82]。
女性が男性の同意なしに妊娠しようとする逆のシナリオは、「逆ステルシング」または精子窃盗として知られている[83]。避妊していると嘘をついたり、コンドームに穴を開けるなどして避妊を妨害したり、コンドームから取り出した精子を使って自己授精することもある[83][84]。
ミア・メルカドは、元パートナーが許可なくネット上に投稿する「リベンジポルノ」や、スターの携帯電話から「流出した有名人のセックス写真」は「合意のないポルノ」であると述べている[85]。メルカドは、これら2つの行為は「性的暴行の一形態として扱われるべきである」と述べ、リベンジポルノはアメリカの34の州で犯罪とされており、他の州では2017年に法案が審議中であると指摘している[85]。
教育に関する取り組みと政策
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一般的な教育・政策
[編集]性教育プログラムにおける取り組みは、小学校、高校、大学の性教育カリキュラムに、性的同意に関する話題を盛り込み、重視する方向で進められている[86][87]。イギリスでは、PSHEA(Personal Social Health and Economic Education Association)が、「同意に基づく性的関係」「同意の意味と重要性」「レイプ神話」などの授業を含む性教育の授業計画を作成し、導入する活動を行っている[86]。カナダでは、オンタリオ州政府がトロントの学校に性教育カリキュラムの改訂版を導入し、セックスと肯定的同意、健全な人間関係、コミュニケーションについての新しい議論が含まれている[88]。

イギリスの一部の大学では、性犯罪の可能性がある状況を見たときに介入することを教える傍観者介入プログラムを始めている[89]。例えば、パーティで酔っている女性が男性の誘いに同意できないようであれば、男性を女性から遠ざけることで介入する[89]。
多くの大学で、性的同意についての広報活動が行われている[90]。注意を引く標語や画像を用いた創造的な広報活動には、大学内における性的暴行などの問題に対する意識を高める効果がある[90]。
FRIES
[編集]2016年8月、アメリカの性教育団体「プランド・ペアレントフッド」は、同意の本質的な要素を要約するために「FRIES」という頭字語を作った[91][92]。2020年までにいくつかのイギリスの大学が「FRIES」のコンセプトを採用している[93]。
- 同意とは、
- Freely given(自由に与えられる):誰かと性的なことをすることは、圧力、強制、誘導なしに、または酔ったりハイになることなく決定すべきものである。
- Reversible(可逆的):誰でも、自分のしたいことについて、いつでも考えを変えることができる。以前にそれをしたことがあっても、セックスの最中であっても。
- Informed(情報提供):正直であること。例えば、誰かがコンドームを使うと言ったのに、使わなかったら、それは同意ではない。
- Enthusiastic(熱心):誰かが興奮していなかったり、本当にその気でなければ、それは同意ではない。
- Specific(特定):1つのことに「イエス」と言っても、他のことに「イエス」と言ったことにはならない。
「Tea Consent」
[編集]性的同意についての教育動画として広く評価されているものに「Tea Consent」がある[94][95][96]。この動画は、ユーモアと思いやりをもって深刻なテーマを教えることを目的に手描きアニメーションを制作する、ロードアイランド州プロビデンスを拠点とする非営利団体Blue Seat Studiosによって、2015年に制作された[97][98]。
エメリン・メイ(Rockstar Dinosaur Pirate Princess名義)が脚本を執筆し、レイチェル・ブライアンが作画、グラハム・ウィーラーが当初のナレーションを担当した。この動画では、誰かに紅茶を勧めることを、相手に性行為をしたいかどうか尋ねることの比喩として用いている[94][97][99] 。そして、Bが以前は紅茶を欲しがっていた場合や、紅茶を欲しいかまだ分からない場合であっても、AはBに紅茶を無理に飲ませてはならず、Bが意識を失っている場合には、紅茶を(今も)欲しいかどうかという質問に答えることはできない、という点を強調している[94][95][97][99][100]。「Tea Consent」は当初、テムズバレー警察およびThames Valley Sexual Violence Prevention Groupの啓発キャンペーンのために制作された[97][99][101]。その後、その複数のバージョンは、多くの性教育者、大学、政府機関、性的暴力防止団体、レイプ・クライシス・センターなどによって採用され、著名人からも支持された。特に英国アクセントのバージョンは、イギリスのユーモアや、紅茶の「英国らしさ」と関連づけられた[99][101][96][97][100]。
深刻な問題を、単純さ、明確さ、ユーモアを用いて扱った点が評価され、[94][101][100]複数の賞を受賞した[98]。2016年10月までに25言語に翻訳され、少なくとも7500万回視聴された[96]。Blue Seat Studiosによれば、その後、複数のプラットフォームを合わせて約1億5000万回視聴された[98]。サマンサ・ペッグは、「Tea Consent」には、飲酒・酩酊時の同意、条件付きの同意、若年者、障害、信頼関係の濫用といった状況を扱っていないという限界があると指摘する一方、「同意の基本をより幅広い人々に伝えることの価値は、決して過小評価できない」と論じている[102]。
これに対して、オーストラリア政府が学校での性教育用として委託したGood Societyによる2021年4月の動画「Moving the Line」は、ミルクセーキを用いて同意を説明するものであったが、専門家、活動家、政治家らから広く批判された。批判の主な点は、内容が分かりにくく明確さを欠いていること、性行為について明示的に言及していないことであり、そのため動画のユーモアやメッセージが誤解されることになった。複数の論者は、「Tea Consent」の方がはるかに優れた例であると論じた。このミルクセーキ動画はその後削除された[94][103][104]。
2つのスローガン
[編集]ノー・ミーンズ・ノー
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1990年代、カナダ学生連盟(CFS)は「性的暴行、知人からのレイプ、デートレイプ」に対する大学生の意識を高め、このような問題の発生を減らすために「No Means No(NOはNOを意味する)」キャンペーンを始めた[105]。CFSは、性的暴行に関する調査を行い、スローガンなどを記したステッカー、ポスター、ポストカードなどを制作・配布した[105]。しかし、意識がない、酒に酔っている、脅迫や強制に直面しているなどの理由でノーと言えない人もいるため、「ノー・ミーンズ・ノー」への懸念が生まれた[106]。特に2人の間に力の不均衡がある場合には、強制の問題が重要になる[106]。これらの懸念に対処するため、「ノー・ミーンズ・ノー」から「イエス・ミーンズ・イエス」(肯定的同意)への移行が行われ、声を上げなかったり抵抗しなかったために性的な行為が行われることがないようにした[106]。アマンダ・ヘスは、「人はノーと言えないこともあれば、酔っていたり、気を失っていたり、恐怖で固まってしまったりすることがある」と述べている[107]。
シェリー・コルブは、デートのような状況で2人きりになることに同意した場合、少なくとも相手の誘いに対して女性が「ノー」と言うまでは、性的接触が「デフォルト」になるという理由で、「ノー・ミーンズ・ノー(NoはNoを意味する)」のアプローチを批判している[108]。コルブによると、「NoはNoを意味する」では、ロマンチックな状況で女性と2人きりになった男性は、女性が「No」と言わなければ、たとえ彼女が前を見つめて何も言わず、動かなくても、服を脱がせて、挿入することができる[108]。「ノー・ミーンズ・ノー」では、女性の体に隠喩的な「立ち入り禁止」のサインがないため、女性はデートに応じたり、相手と2人きりになることで、望まないセックスにつながることを恐れなければならない[108]。
アヴァ・キャデル博士は、性的な出会いにおいて、女性が相手に性的な接触をやめるように伝えるために、コード表現や安全な言葉を使うことを提案している[109]。キャデルによれば、「ノー」や「ストップ」という言葉は、「これまで軽薄に、ふざけて、からかうように使われてきたもので、必ずしも真剣に受け止められているわけではない」[109]。
イエス・ミーンズ・イエス
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肯定的同意(Yes means Yes、YesはYesを意味する)とは、明確な言葉によるコミュニケーションまたは非言語的な合図やジェスチャーによって、双方が性行為に同意することである[110]。「YesはYesを意味する」では、最初に「イエス」と言った後でも「ノー」と言うことができる[110]。これは、1991年にアメリカのアンティオック大学のグループが始めたものであり、以前は、「ノー」と言わない限り、セックスは合意に基づくものと見なされていた(ノー・ミーンズ・ノー)[111]。2014年現在、アンティオック・カレッジでは、学生は「性的な誘いをする前に、口頭で『これをやってもいいですか』と明確な許可を得る」必要があり、「相手はその誘いに応じる場合、口頭で『はい』と答えなければならない」[111]。もしそうしなければ、それは非同意とみなされ、大学のポリシー違反になる[111]。学生が「事前に口頭での同意」をした場合は、取り決めたハンドシグナルを使用することもできる[111]。
肯定的同意とは「相互に合意した性行為を行うための、各参加者による肯定的かつ明確で意識的な決定」である[35]。 これは、明確で、熱心で、継続的なものであれば、微笑み、うなずき、または言葉による「イエス」という形でもよい[110]。カリフォルニア州性暴力反対連合のデニス・ラバーテューは、「イエスはイエスを意味する」で使われる言葉は様々だが、主な考え方は、両者が性行為に同意しているということである」と述べている[110]。定義上、人は酔っていたり、意識がなかったり、眠っていたりする場合は、肯定的な同意を与えることができない[110]。
「YesはYesを意味する」であっても、相手が「No」を言える余地がないような頼み方をしたり、「No」と言われた後に罪悪感を利用して相手を操ったりする場合、それは同意ではなく性的強制と見なされる可能性がある[32]。他の例としては、セックスを求めるパートナーがセックスへの欲求が満たされていないと訴えたり、受動的攻撃的な振る舞いを見せたり、「Yes」を得るまで何度も執拗に尋ねたりする場合などがある[32]。
『Time』の記事で、キャシー・ヤングは、カリフォルニア州の「イエス・ミーンズ・イエス」法が、性的加害者による攻撃を減らしたり被害者の安全を確保したりする可能性は低いと述べている。また、この法律は性的行為について不明確かつ恣意的な規則を設け、通常は男性である被告発者側に立証責任を移していると批判している[112]。ヤングによれば、San Gabriel Valley Tribuneが州議会議員に、無実の被告発者が同意を得ていたことをどのように証明できるのか尋ねたところ、「私にも分かりません」と回答されたという[112]。また、裁判官は、テネシー大学チャタヌーガ校が男子学生について同意を得ていなかったとした判断を覆し、「言葉による同意の録音、または同意が与えられたことを示すその他の独立した手段がない限り、被告発者が申立人の同意を証明することは、現実的には極めて困難であり、その可能性は事実上幻想的なものとなる」と述べた[113]。
ロバート・シブリーは、ジョナサン・チャイトが、「イエス・ミーンズ・イエス」の規則を採用する大学では適正手続が失われつつあるとの懸念を示していると指摘している。シブリーは、懲戒制度には公平性と一貫性が必要であると主張する。大学の審判機関は裁判所ではないものの、申立てを端緒として調査が行われ、審理が開かれ、証拠が提出され、処分が科され、さらに不服申立ての制度も存在することから、裁判に類似する要素を備えているとしている[114]。シブリーはまた、被告発者には基本的な手続上の保障が欠けており、大学自身が調査を行い、事件を判断し、さらに不服申立ても審理するため、機能の分離がなされていないと主張している[114]。カミール・パーリアは、「イエス・ミーンズ・イエス」法を「退屈なほどピューリタン的」で「全体主義的」であると批判している[115]。「Consent: It's Not Sexy」において、ヴィクトリア・キャンベルは、肯定的同意について、当事者の生きられた経験よりも証明や証拠を重視するものであり、伝統的に婚姻が性行為への契約的な同意を与えるものとされてきたのと同様に、性行為を契約的な活動へ変えてしまうと批判している[116]。サラ・ニコール・プリケットは、肯定的同意の規則は女性の受動性という観念を前提としていると批判している。彼女によれば、このような文化的枠組みでは、女性が性的な場面で自ら性的関心を示した場合、「ふしだら」あるいは「狂っている」と見なされたり、「性欲が強すぎる」と評価されたりするという[116]。
T.K.プリチャードは、同意を得られた後でも、お互いに「常に確認」するべきであり、同意が得られたことを確認するために、性的接触の前、セックスの最中、セックスの後に確認する必要があると述べている[117]。ローレン・ラーソンは、キスやセックスをする前に相手に確認すべきであり、またセックス中であっても、行為の速度を変えたり、別の体位に切り替えたり、手を新しい体の部位に移動させたりするときにも確認すべきであると述べている[118]。
ジェシカ・ベネットは、女性が性的な出会いにおいて、「必死に」「ノー」と言うつもりでいるにもかかわらず、「イエス」と答えてしまう「グレーゾーン・セックス(しぶしぶ同意するセックス)」が、1つの課題であると述べている。その理由は、「ノー」と説明したり、その場から立ち去るよりも、「イエス」と言う方が簡単だからであり、また、西洋文化は、自身の感情や欲望を犠牲にしてでも、「『親切』で『静か』で『礼儀正しく』あり、『他人の感情を守る』」ことを女性に教えているからである[119]。ジュリアン・ロスは、性的な物語が男性の欲望に焦点を当てている西洋社会では、女性が何を望んでいるかはそれほど重要ではないとみなされると述べている[120]。そのため、異性との出会いにおいて女性は、同意しなければ「粗野」と批判されることを恐れたり、あるいは自分のグループの社会的期待に合わせたいと思うために、特定の性行為にイエスと言う圧力を感じるかもしれない[120]。
タチアナ・ヘルンレは、「Only yes means yes」は道徳上の規則として妥当であり、教育上も、意思が不明確な場合には相手に確認し、相手が沈黙して意思を伝えない場合には性的行為を行うべきではないとする。一方、こうした道徳的要請をそのまま刑事政策に移すことには批判的であり、刑法は「最終手段」として、必要不可欠な行為規範の中核を超えて拡張すべきではないと論じている。そのため、性的行為直前の状況が曖昧な場合に反対意思の表明を求める「No means no」を、刑法上の基本的な行為規範として正当化している[121]。
熱烈な同意
[編集]「イエス・ミーンズ・イエス」の一形態として、熱烈な同意(enthusiastic consent)がある。Project Respectは、「ポジティブなセクシュアリティ」は熱意ある同意から始まる必要があり、そこでは当事者が相手の楽しみに対して、自分自身の楽しみと同じように「興奮し、積極的に関わっている」ことが求められるとしている[122]。プランド・ペアレントフッドは、熱意ある同意は、パートナーが「幸せそうで、興奮しており、活気がある」といった様子から確認できるとしている[123]。2018年、ニューサウスウェールズ州の家庭内暴力・性的暴行防止担当大臣プルー・ゴワードは、双方の当事者がその性的な状況に参加することを望んでいることを確かめるための方法として、熱意ある同意を求めた[124]。このモデルを支持する性的暴行の被害経験者は、「熱意あるイエスでなければ十分ではない」と述べている[124]。一方、ニコラ・ヘンリーは、「熱意ある」同意を法制化し、裁判所で判断することは困難であると指摘している[124]。ベネディクト・ブルックは、熱意ある同意を、より強い積極性を伴い、「すべて問題ないかをパートナー同士で継続的に確認する」イエス・ミーンズ・イエスであると説明している[125]。
『ガーディアン』のギャビー・ヒンズリフは、熱意、すなわち性的な場面で「互いに相手から手を離していられないことが明白な状態」は、他のものと取り違えにくいと述べている。また、その熱意が突然失われた場合には、何が問題なのか尋ねることができ、「その二言がムードを壊してしまうのであれば、そもそも最初から適切なムードではなかった可能性が高い」としている[126]。
ロビン・アーバックは、「To McGill activists, a 'yes' doesn't mean consent」と題した記事で、マギル大学で開催された同意に関するフォーラムでは、弱々しい「イエス」、無関心な「イエス」、あるいは強いボディランゲージを伴わない「イエス」は同意を構成せず、パネル参加者によれば「大きく明確でなければならない」とされたと述べている[127]。チャールズ・スタート大学の性的同意プログラム責任者であり、熱意ある同意を支持するイザベル・フォックスは、同大学の標語について「『絶対にイエス』でなければイエスではない」と述べている[128]。
一方、熱意ある同意のモデルには批判もある。無性愛者やセックスワーカーは、自らが「特にその行為を望んでいたり楽しんでいたり」しなくても、性行為をすることを選択する場合があるため、このモデルが必ずしも適合しないとの指摘がある[129]。リリー・ジェンは、熱意ある同意は理論としては優れているものの、「現実の親密な関係では悪夢」であると批判している。ジェンによれば、このモデルは「推測、手掛かり、推定」から抜け出すことができず、異性愛者、白人、シスジェンダー、中産階級を標準とする社会観をそのまま反映するため、アジア系、黒人、クィア・コミュニティなどの人種的・性的マイノリティには十分に機能しないという[130]。また、ジェンは、熱意ある同意という概念は「あまりに曖昧」であり、実際のやり取りが「熱意ある」ものだったかどうかを判断することはほぼ不可能になると述べている[130]。ジュリアン・ロスは、同意能力のある成人同士が、妊娠を目的として性行為をする場合や、互いを喜ばせるために性行為をする場合など、双方が望んでいるにもかかわらず「熱意ある同意」を示さない性行為もあり得ると指摘している[120]。また、寝室で熱意ある同意を示すことを求める際の課題として、女性が性的欲求について語ることで「ふしだらだと非難される」ことを恐れ、自らの欲求を表明することをためらう場合があるとされている[120]。
ベネットは、しつこい要求や圧力、義務感、拒否した場合に相手が怒ったり不機嫌になったりすることなどから、望まない性行為に同意する場合があり、こうした低水準の影響は拒否する能力を弱めても、必ずしも法的に同意を無効にするものではないと指摘している。また、妊娠を目的として気乗りしないまま性交する場合や、相手への贈り物として性交する場合、新たな性行為をためらいながら試す場合など、性的欲求や熱意を欠いていても犯罪化すべきでない性行為があるとして、合法な性行為の最低基準と、倫理的または良い性行為の基準を区別し、「熱意ある同意」を刑法上の同意基準とすることに反対している[131]。
法律
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法理論において、レイプおよびその他の性的暴力に対する立法には、主に以下の二つのモデルが存在する。
- 強制モデル このモデルでは、性的行為がレイプに該当するためには、強制、暴力、物理的な力、または暴力や物理的力による脅迫によって行われたことが必要とされる[132]。
- 同意モデル このモデルでは、性的行為がレイプに該当するためには、相手方がその行為に同意していなかったことが必要とされる[132]。
強制モデルの主な利点は、虚偽のレイプまたは性的暴行の告発がなされにくい点にあり、その結果として、無実の被疑者の法的地位および社会的評価に対して一定の保護を与える点にある[132]。一方、同意モデルは、被害者の法的保護をより強化する代替案として提唱されており、性的行為を開始しようとする側に対して、相手が実際に同意しているかどうかを積極的に確認または否定する責任をより強く課し、同意が確認されない限り性的行為を控えることを求めるものである[132]。
刑法上の性的同意については、本人の内心を基準とする態度モデル、外部に表された言葉や行動を基準とする意思伝達モデル、および両者を組み合わせた混合モデルなどが論じられている。刑法学者タチアナ・ヘルンレは、スウェーデン、スペイン、ドイツの制度を比較している。スペイン法は、本人の意思を明確に表す行為によって同意が自由に表明された場合にのみこれを認める「Only Yes Means Yes」型の意思伝達モデルとされる。他方、スウェーデン法は性的行為への承認の表明自体を必須とせず、任意性が言葉、行為その他の方法によって表されたかを特に考慮するため、ヘルンレはこれを「Only yes means yes」型とする説明は誤解を招くとしている。ドイツ法は、内心の反対意思とその認識可能性を要する「No Means No」型の混合モデルであり、反対意思は言葉だけでなく、身振りその他の行動によっても表され得る。また意思表示が不可能または不要な場合などを除けば、沈黙や受動性の場合には有罪判決は妨げられる[121]。
1992年6月15日、キム・キャンベル司法大臣の主導の下、第2次マルルーニー政権は、「ノー・ミーンズ・ノー」を採用する法案を成立させた[133]。
2003年、欧州人権裁判所は、M.C.対ブルガリア事件の判決において、欧州人権条約第3条および第8条に基づき、性的暴力について同意の有無を重視したアプローチをとることを求めた[132][134]。
同年、アフリカ連合は女性の権利に関するアフリカ人権憲章議定書(マプト議定書)を採択し、2005年に発効した。同議定書は、女性に対する暴力に「望まない性行為または強制された性行為」を含め、締約国に対してこれらを禁止する法律の制定および施行を求めている[135]。
2006年のミゲル・カストロ・カストロ刑務所対ペルー事件において、米州人権裁判所は、「裁判所は、国際判例の流れに従い、かつ女性に対する暴力の防止、処罰及び根絶に関する条約(ベレン・ド・パラ条約)に定められた事項を考慮し、性的暴力とは、本人の同意なくその者に対して行われる性的性質を有する行為から成ると考える」と述べた[136]。
欧州評議会が2011年に採択した女性に対する暴力及び家庭内暴力の防止及びこれとの闘いに関する条約(イスタンブール条約)は、第36条において、同意を基準とする性的暴力の定義を採用している[137]:6 同条約は、批准国に対して、強制の有無を基準とするモデルから同意の有無を基準とするモデルへ法制度を変更することを求めている[137]:9。
2018年時点では、国際法上、同意を基準とするモデルを採用すべきであるとのコンセンサスが形成されつつあり、これには女子差別撤廃委員会(CEDAW委員会)、[138] 国連の『女性に対する暴力に関する立法ハンドブック』、[139] 国際刑事裁判所、イスタンブール条約などが影響を与えている[137]:8, 10–11。一方、性的同意を構成するものについて国際的に合意された法的定義は存在せず、人権に関する国際文書にもそのような定義は置かれていなかった[137]:10。
2020年6月、スウェーデン犯罪防止評議会(Brå)は、スウェーデンが2018年に強姦罪を同意に基づく定義へ改正した後、強姦罪の有罪判決数が2017年の190件から2019年には333件へと75%増加したと報告した。Bråは、この影響が予想を上回ったことを肯定的に評価し、「強姦被害者にとってより大きな正義につながった」とするとともに、性に対する社会的態度の改善につながることへの期待を示した[140]。
旧インド証拠法(1872年)第114A条では、一定の強姦事件の訴追において、被告人との性交が証明され、同意の有無が争点となっている場合に、女性が証言で同意しなかったと述べたときは、裁判所は同意がなかったものと推定するとされていた[141]。
2023年7月、日本において性犯罪規定の名称が「不同意性交等罪」に変更された[142][143]。条文には「暴行・脅迫」、「心身の障害」、「アルコール・薬物の影響」など、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の原因となる8つの行為・事由を列挙した[57]。被害者支援団体は、「積極的な同意がなければ罪に問えるよう」さらなる見直しを求めている[44]。
ノルウェー刑法審議会は「No means No」型と「Yes means Yes」型の両者はいずれも性的行為の任意性を基礎としていると論じている。そのため、その差は必ずしも大きくなく、「Yes means Yes」型でも沈黙や受動性が同意の表現として解釈され得ると指摘している[144]。同国は、「Yes means Yes」型の規定には、すべての性行為は任意であるべきという社会の姿勢や期待を明確にし、相手が参加を望んでいるか確認することを促す効果が期待できるとしている[145]。なお明示的な同意を必須とすることは、実際には任意の性行為まで刑事責任の対象となり得るため行き過ぎであるとして採用しなかった[144]。
ウェーゲルスタッドは、スウェーデンの同意に基づく強姦罪について、刑法が性教育や公衆衛生などにおける性的コミュニケーションの議論と結び付いていると指摘した。一方、刑法が「非任意参加」という明確な法的概念を構築しようとするのに対し、性教育や公衆衛生の議論では、性的同意の複雑性や文脈依存性、犯罪には当たらないが「良い性行為」ともいえないグレーゾーンが重視されており、両者の間には矛盾があると論じている。また、新法は「性行為は任意であるべき」という明確な規範的メッセージを示す一方、何が犯罪として刑事的非難に値する行為なのかを正確に示す点には不確実性があるとしている[146]。
回答
[編集]同意書
[編集]2003年、セックス・セラピストのアヴァ・キャデル博士は、著名人やプロスポーツ選手に対し、性的関係を持つ相手(彼女は俗語の「グルーピー」という語を用いている)に性的同意書への署名を求めることを提案した。キャデルはこれを、一部の結婚前に締結される婚前契約の性的関係版に相当するものとしている。キャデルによれば、婚前契約と同様に、性的同意契約も訴訟を減らす可能性がある[147]。2015年には、アドボカシー団体Affirmative Consent Projectが、米国の大学で「性的同意キット」を提供した。このキットには、当事者が性的関係を持つことに同意している旨を記載し、双方が署名できる契約書が含まれていた。また、契約書を持った状態で当事者同士が写真を撮ることも推奨されていた[148]。
ニューヨーク大学法学部教授のエイミー・アドラーは、小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に描かれた同意契約について論じ、性行為の前に法的契約へ署名することは、性的な場面における不確実性を避ける助けになり得ると述べている[149]。一方、エマ・グリーンは、映画についての記事「Consent Isn't Enough: The Troubling Sex of Fifty Shades」で、多くの学生が性的な許可について交渉する経験をほとんど持たず、飲酒の多い大学寮のような環境では「明示的な同意」でさえ十分ではない場合があるとして、同意契約を解決策とする考えに否定的な見解を示している[149]。
ファラー・カーンは、同意とは性的パートナーの話に耳を傾ける「継続的な会話」であると主張し、契約書への署名を伴う同意という考えに反対している[150]。デイヴィッド・ルウェリンは、契約書はいったん署名すると、同意を撤回して性行為を止めることはできないという誤った認識を与える可能性があると述べている[150]。ルウェリン氏は、同意は流動的で変わりやすいものであるため、たとえ同意契約書に署名したとしても、お互いにセックスに対する継続的で熱意ある同意を確認すべきだと述べている[109]。
同意アプリ
[編集]2010年代には、カップルが性的関係への同意を電子的に示すことができるスマートフォン向けアプリが開発された。こうしたアプリには、We-Consent、Sa-Sie、LegalFling、Good2Goなどがある。LegalFlingはブロックチェーンを利用し、コンドームの使用を求めることや、特定の性的行為に同意することなど、各当事者の条件を設定できる[151]。
一方、こうした「同意アプリ」については懸念も示されている。Good2Goは性的同意の記録を作成するアプリで、運営会社は、同意があったことに加え、飲酒・酩酊の程度という観点から同意能力があったことを示す証拠として利用できるとしていた。しかし、男女ともに、寝室でスマートフォンを操作して同意を記録することを好まなかったため、同アプリは提供を終了した[126]。ある弁護士は、法的にはこうしたアプリは不要であり、せいぜい状況証拠としての意味しか持たないと指摘している。その理由として、多くのアプリは、性的なやり取りのどの時点でも同意を撤回できる権利を十分に考慮していないことを挙げている[152]。
レイナ・ガットゥーソは、「Seven reasons consent apps are a terrible idea」と題する記事で、同意アプリについて、アプリ上で「イエス」を選択した数分後であっても同意はいつでも撤回できること、アプリの「イエス/ノー」という二分法では同意の複雑さが単純化されてしまうこと、性的行為の内容が変化するたびに法的な同意を成立させることはできないこと、同意を法的な立証や証拠の作成に過度に結びつけてしまうこと、そして本来は継続的であるべきコミュニケーションの過程を一度の簡単な操作に変えてしまうことなどを理由に批判している[153]。クリケット・エプスタインは、同意アプリの利用には、アプリ上で同意を求められた者が後に虚偽の告発をするかもしれないという発想を含む被害者非難的な考え方があると述べている。また、アプリ上でいったん同意が記録されると、その後に同意のない性的行為が行われたと申立人が主張することが難しくなり、加害者を保護する方向に働く可能性があると批判している[154]。
同意文化
[編集]同意スタッフ
[編集]ビクトリア・イベント・センターは、性的健康の教育者/インティマシー(親密さ)のコーチであるタニール・ガイブをカナダ初の「同意キャプテン」として雇用し、社会活動におけるセクシャルハラスメントや性的暴行を防止する[155]。同意キャプテンは、同意なしにじろじろ見られたり、嫌がらせを受けたり、触られたりしている人に介入する[155]。不快に感じている人に話しかけ、同意があれば、望まない行為をした人に話しかける[155][156]。通常の警備員のように、同意キャプテンは、望まない行為をしている人に、そのような行為は会場では許されないと警告し、望まない行為が続くようであれば、「最終的には退場してもらう」こともある[155][156]。また、同意キャプテンは、酔っている人をチェックし、酔っている状態を利用する人を防ぐ[156]。ガイブによると、「#Me Too」運動以来、人々は「同意に基づく行動や関係とは何かということに関して、グレーな雲の領域がある」ことを認識するようになったという[155]。ガイブは、自身の役割は客を取り締まることではなく、「同意文化」を作るための会話を始めることであると述べている[155]。
ナイトクラブ「ハウス・オブ・イエス」は、会場に「同意の番人」とも呼ばれるスタッフを雇った[157]。スタッフは、会場を歩き回ってコンドームを配り、ゲストがコンドームの使用に関するルールと、「明確な口頭での同意」を遵守することを確認する[157]。スタッフの目的はクラブの客を「取り締まることではなく、教育すること」である[157]。ガーディアン紙のアルワ・マフダウィ記者は、ハウス・オブ・イエスの取り組みを称賛し、「同意について厳格であればあるほど、誰もがより楽しむことができる」と述べている[157]。
バーの中には、デートの相手(または他のバー利用者)が危険なことをバーテンダーに知らせるセーフティコード制度を導入している店があり、その方法をトイレやドリンクコースターに掲示している店がある[156]。それにより、架空のミックスドリンクなどを注文すると、バーのスタッフが付き添って客を会場の外に連れ出し、安全にタクシーに乗れるようにしている[156]。
インティマシー・コーディネーター
[編集]
2017年、HBOのドラマ『The Deuce』から、テレビ・映画業界では一部の制作会社が、恋愛シーンや擬似セックスシーンを撮影する際に、俳優の同意を得るために「インティマシー・コーディネーター」を雇うようになった[158]。
HBOは、「監督が、俳優にカメラの前で裸になったり、擬似セックスをするように頼むときに起こりうるパワーバランスに関する懸念」に対処するため、親密なシーンがあるすべてのシリーズと映画にインティマシー・コーディネーターを採用している[159][160]。インティマシー・コーディネーターは、監督の意図(シーンがリアルに見えるようにする)と、俳優の許容範囲などを丁寧に探り、監督と俳優双方のお互いが同意できるラインを探る[159][161][162]。出演者の人権やバウンダリー(身体、精神的に、許容できる境界線)が尊重され、肉体的・精神的な快適さが守られるようサポートする[159][160]。
2020年、SAG-AFTRA(全米映画俳優組合と米国テレビ・ラジオ芸能人組合が合体した労働組合)はインティマシー・コーディネーターの導入を推奨する声明を出し、2021年にはガイドラインを公開した[163][164]。アメリカやイギリスでは、インティマシー・コーディネーターを起用することが標準になってきている[163][164]。
日本では2021年に、出演者の水原希子の希望により、Netflix映画『彼女』で、インティマシー・コーディネーターが初めて導入された[158][165]。日本人初のインティマシー・コーディネーターである浅田智穂は、このためにアメリカを拠点とするIPA(Intimacy Professionals Association)のトレーニングを受けて資格を取得した[160][166]。IPAの研修では、ジェンダーやセクシャリティ、同意を得ることの重要さ、何がハラスメントにあたりどう防げるのか、トラウマとは何か、前貼りなどの保護アイテムの使い方、性的シーンを安全にリアルに見せる方法など多岐に渡る内容を学ぶ[166][158][167]。撮影では、必ず俳優の同意を得るが、伝える側が、パワーバランス的に俳優よりも上の立場の場合、プレッシャーを与えたり、強要、ハラスメントにつながる可能性があるため、インティマシー・コーディネーターから説明して同意を得る[166]。浅田は「ノーと言わないことが同意ではなく、はっきりとイエスではないと、同意とは言えない。そこに強制がないかということも大事にしている」「当たり前のようだが、日本では同意を得ることがあまりされてこなかった」と述べている[162]。日本でもう1人のインティマシー・コーディネーターである西山ももこは、「そもそも俳優が『自分のNoとYes(境界線)』を知らない」「大切なのは、『何が嫌で、ここまでならやってもいい』というのを明確にすること」「『一度Yesと言ったことをいつ覆してNoと言ってもいい』という認識を広げていきたい」と述べ、俳優に「性的同意」や「境界線」を教えるワークショップを開催している[168][162][169][163]。
その他の見解
[編集]法学者ロビン・ウェストは、2000年の論文で、人生における意思決定の倫理的前提として同意を用いることは、女性を除けば世界の幸福を増大させる可能性があると述べた。ウェストによれば、女性は、望まない妊娠、暴力を振るう配偶者との結婚、上司からセクシュアル・ハラスメントを受ける職場など、結果として女性を苦しめる多くの人生経験に形式上は同意している。これは、それぞれ性行為、結婚、就職には同意していたためである(職場でのハラスメントなど、その後に生じる不利益な結果を望んでいなかった場合も含む)。ウェストは、同意を人生における主要な倫理基準とすれば、こうした女性の否定的な経験についても、本人が自由意思でその状況に入ることを選択したとされ、批判することが困難になると論じている[149]。
ドナ・オリオウォは、「同意について語るとき、黒人女性や有色人種の女性について語られることはほとんどない」と述べ、通常は白人女性に焦点が当てられていると指摘している。また、黒人女性を「性的欲求が過剰で、セックスしか求めていない」と描くステレオタイプのため、被害を訴える黒人女性は依然として疑いや非難にさらされるとしている[170]。一部の若いフェミニストは、性的な場面において当事者間に力の格差がある場合、真の同意は不可能であると主張している。ローラ・キプニスはこれに反対し、性的な文脈では「まさに権力――地位、金銭、外見、年齢、才能――の力学こそが、人々の間に欲望を生み出す」と論じており、欲望は重視すべき要素の一つであるとしている[171]。
ケイト・ロックウッド・ハリスは、「ノー・ミーンズ・ノー」や「イエス・ミーンズ・イエス」といった同意教育には、性行為中のコミュニケーションは二者択一的で曖昧さのない「ノー」または「イエス」であり得るし、そうあるべきだというような、彼女が誤った神話とみなすコミュニケーション観が用いられていると論じている。ハリスによれば、反性的暴行の活動家がこのような応答を求めることで、二者間のコミュニケーション能力の複雑さが単純化され、同意を政治的な行為とする可能性も狭められるという[172]。
イェール・ロー・スクールのジェド・ルーベンフェルドは、性的接触が適法かどうかを判断する主要な基準を同意とすべきではないと論じている。第一に、住宅ローンや保険など他の法分野とは対照的に、性的同意を得る前に真実を告げることは一般に要求されていないと指摘する。欺罔による強姦が処罰される場合はあるものの、通常、それは恋愛関係における誠実さ一般を意味するものではなく、誤った前提に基づいて性的同意をした場合についても、法律は一般に救済を与えていないとしている。第二に、強姦法は性的自己決定を保護することを目的とするが、人の自己決定を覆し得るものは強制、またはその人の行為能力が失われた状態を利用することだけであると論じている。ルーベンフェルドによれば、厳密な意味での不同意の状況は単に意見が一致していないことを意味するにすぎず、その場合には立ち去ることで解決できる。このため、強姦を論理的に定義できる基準は、人が無防備な状態にあること、または暴力もしくはその脅迫が用いられることだけであるとしている[173]。これに対し、トム・ドハティは性的同意を基準とする考えを擁護しつつ、性的同意を得るうえで重大な意味を持つ欺罔については、暴行や強姦とは法的に別個の新たな性犯罪として処罰すべきだと提案している[174]。
ミア・メルカドは、元パートナーによって許可なくオンラインに投稿またはその他の方法で拡散された「リベンジポルノ」や、著名人の携帯電話からハッキングまたは盗み出された「流出した著名人の性的写真」を「非同意ポルノ」(non-consensual pornography)と呼んでいる[85]。また、これらはいずれも「性的暴行の一形態であり、そのように扱われるべきだ」と述べ、2017年時点でリベンジポルノは米国34州で犯罪とされ、他州でも法案が審議中であると指摘している[85]。
肯定的同意の概念は、BDSMにおいて、とりわけ参加者が「合意の上での不同意」(consensual non-consent)に合意する場合には、より複雑な問題となる。これはメタ・コンセント(meta-consent)または包括的同意(blanket consent)とも呼ばれ、同意を放棄したかのように振る舞うことを相互に認める合意である。包括的な同意を事前に与え、ほとんどの状況で撤回不能とする意図を持つ合意であり、具体的にどのような行為が行われるかを事前に知らずに成立する場合も多い[175][176]。BDSMにおける暴力に双方が同意していたとしても、カナダ法は同意できる暴力的な性的行為に一定の制限を設けており、特に重大な傷害を受けることには同意できないとされている[177]。
エズラ・クラインは、性的暴行が多すぎることを理由として、カリフォルニア州の大学における「イエス・ミーンズ・イエス」法を支持し、同州で新たに制定された法律のような広範な新規制を支持している[178]。クラインは、この法律が人々の私的な性生活に介入することを認めつつ、効果を上げるためには一定の「行き過ぎ」が必要であり、それによって大学生の男性に、ある性的行為が同意に基づくものかどうかについて「冷たい恐怖の衝撃」を感じさせる必要があると述べている[178]。また、同意があったかどうか明確ではない事案が生じることも、この法律が効果を発揮するために必要な一部であるとし、学生が懲戒手続や有罪と判断された場合の結果を認識することで、性的暴行の減少につながると述べている[178]。フレディ・デボアは、「イエス・ミーンズ・イエス」が広く普及した場合、事件の評価や裁判において人種的・階級的偏見を用いてきた証拠のある法執行機関や司法機関に、より低い立証基準を与えることになり得ると指摘する。その結果、「イエス・ミーンズ・イエス」に基づく告発や処分が、有色人種や労働者階級出身の学生に不均衡に集中する可能性があるとしている[178]。
LGBT
[編集]マイケル・セガロフは、若いゲイ男性の多くは、自らの経験を説明または理解するための「言葉を教えられたことがない」ため、同意や性的境界について十分に学んでいないと述べている。また、地域社会や家族の中に、相談できるLGBT+のロールモデルがほとんどいないことが多いとしている[179]。セガロフによれば、出会い系アプリも同意をめぐる問題を生じさせる可能性があり、相手の場所を訪れた男性の中には、自分には性的行為を受ける「権利がある」という感覚や、その性的なやり取りはオンラインですでに「事前に取り決められている」という感覚を持つ者がいるという[179]。
クリストファー・ロビンソンは、一部のクィアの「空間では、身体をまさぐる行為、酔った状態での愛情表現、明白な性的暴行など、性的暴力が依然として常態化され、さらには助長されている」と述べている。こうした場所の「直接的な性的雰囲気」のため、一部の男性は、自らが行う性的嫌がらせを相手への「褒め言葉」と捉えるという。ロビンソンによれば、加害者はこうした「越境行為を魅力として位置づけ直し」、望まない接触を受けた側には、身体をまさぐられることを「無視して耐える」ことが期待されている[180]。ロビンソンは、このような雰囲気によって、本来ゲイバーがクィアの人々に提供するはずのセーフ・スペースが損なわれる可能性があると述べている[180]。
ジョン・ヴートスは、クィアの人々が同意を伝達する際には、施設内で性行為が行われる場所、クィア・クラブ、オンラインデーティング、「非言語的でやや曖昧なハンカチ・コードによるコミュニケーション」(色分けによって好みの性的フェティシズム、求める性行為、トップ/支配側かボトム/服従側かなどを示すもの)、性的な相手を求めるクルージングなど、さまざまな課題があると述べている[181]。2019年のConsent Festivalの主催者ブロディ・ターナーは、「LGBTIQA+の人々を沈黙させてきた」長い歴史、性教育からの排除、メディアにおける「健全なLGBTIQA+の関係」の描写の不足によって、LGBTIQA+の人々が同意について知らなかったり、それが自らの権利であるという感覚を持てなかったりすると述べている[181]。
フィリップ・ヘンリーは、男性同性愛者のコミュニティでは、ゲイ向けの場所における尻や股間への同意のない接触や身体をまさぐる行為が容認され、時には助長さえされていると述べている。特に飲酒があり、半裸の客が踊るゲイクラブの環境では、同意の境界が曖昧になるためだとしている[182]。また、ゲイ男性が望まない接触を受けて懸念を表明しても、「落ち着け」と言われたり、ゲイ向けの場所ではそのような接触は「付きものだ」と言われたりすることが多いという[182]。GHBやクリスタル・メスを摂取してから長時間にわたり性行為をするカップルやグループを含むケムセックスの場にいるゲイ男性は、同意の定義が明確ではなく、「パーティー・アンド・プレイ」の集まりに参加した者は誰でも同意しているものとみなされることがあると述べている[183]。
『Advocate』の記事で、アレクサンダー・チェヴェスは、ゲイバーの暗いバックルームに入る場合、「ある程度の同意を放棄する」ことになると主張し、その理由について「ゲイ男性は身体をまさぐられるためにそこへ行く」からだと述べている[184]。チェヴェスは、バックルームに入る者については、望まない手を自分の身体から「やさしく押しのける」責任が本人にあるとしている[184]。レニー・マクドゥーガルは「Discussing Consent in Gay Spaces Requires Nuance, Not Sex Panic」において、ゲイバーやサウナのようなゲイの空間に現代的な同意の考え方を導入すると、ゲイ男性の性的交流に悪影響を与えると主張している。知らない相手から尻、胸、股間に同意なく触れられる場合でも、それが威圧的ではなければ、ゲイ男性にとって「性的な自己発見の肯定的な一部」となる場合があるとしている[185]。
ジョー・ジャクソンは、クィア女性のコミュニティにおいて、施設の参加者から太ももの近くに手を置かれたり、同意なく胸を触られたりした経験があるが、当時はそれらの行為を「誘惑という穏やかな演技」の一部だと感じていたため、何も言わなかったと述べている[186]。また、クィア女性のコミュニティには「尻をつかむ行為、男っぽい発言、攻撃的でしつこい誘い」があり、攻撃的に振る舞ったり「性的エネルギーを用いて力を行使する」ことが「魅力的」とみなされる感覚があるとしている[186]。一部の女性には他人の身体に触れる「権利がある」という感覚があり、それが同意という概念を曖昧にすると述べている。また、クィア女性の多くは、成長する過程で異性愛のデートを描いたメディア表象にしか触れないことが多いため、若いクィア女性には女性同士のデートについて語るための語彙や、同意を示す社会的な手掛かりについての理解が不足している場合があるとしている[186]。
「Why Yes Can Mean No」において、ジョーダン・ボシリエヴァクは、「貧困層、障害者、クィア、非白人、トランスジェンダー、あるいは女性的な」人々にとって、「イエス」が必ずしも同意を意味するわけではないと述べている。また、同意を中心とするアプローチは、裕福な異性愛者、シスジェンダー、白人、健常者のために作られた一種の特権であると主張している[187]。マギル大学のクィア学生についての記事では、クィアの性的な場面には異性愛の性行為のような決まった行為の「台本」がなく、より探索的であるため、クィアのパートナー同士では各段階や各行為について同意を話し合う機会がより多いとされている[188]。一方、レベッカ・カーンは、一方がシスジェンダー、もう一方がトランスジェンダーであるクィアの関係では、シスジェンダー側がより大きな力を持つ場合があり、それによってトランスジェンダー側に「恐怖感、あるいはより微妙には、より特権を持つパートナーを喜ばせたいという欲求」が生じる可能性があると述べている。カーンによれば、このような力の格差に対処するため、より特権を持つ側は、同意が当然にあるとはみなしていないことを伝え、周縁化された側が安心できるようにすべきだという[188]。無性愛者は、交際関係にある場合に性行為へ同意するよう圧力を感じることがある[189]。
関連項目
[編集]脚注
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