
「画面の向こうの世界」を、種子島の日常に -Village AIが二拠点で描く”地方×AI”のかたち【後編】



政府の日本成長戦略会議における労働市場改革分科会において、労働供給力の強化に向けた改革の方針がとりまとめられ、大きな議論を呼んでいます。今回のとりまとめでは、人手不足への対応や多様な働き方の推進を目指し、裁量労働制の対象見直し(規制緩和)に関する検討が盛り込まれました。
これに対して日本労働組合総連合会は、「長時間労働の助長につながる」として強く反発し、批判的な談話を発表しています。
参考:「長時間労働からの脱却に反する」「規制緩和は必要ない」裁量労働制見直し、政府のとりまとめに連合が反発
分科会では賛否が大きく分かれており、秋以降の審議会や国会でも引き続き「働き方改革」の議論が深まる見通しです。そして、この裁量労働制の見直し議論と並行して注目を集めているのが、勤務時間外の連絡拒否を認める「つながらない権利」や「勤務間インターバル制度」の法的位置付けに関する検討です。
特に情シスをはじめとするITの現場では、時間や場所に縛られない働き方が普及した一方で、休日や夜間を問わずチャットツールやメールで業務連絡が届く状況が日常化しています。「つながらない権利」を形形化させずに実効性を持たせるためには、人事制度の整備だけでなく、業務インフラを支える情シスによる環境構築や仕組み作りが不可欠と言えます。

労働者が勤務時間外に仕事の連絡を遮断できる「つながらない権利」ですが、実際のビジネス現場、特にIT環境の運用においてはいくつもの課題が存在します。制度だけを導入しても現場で機能しない背景には、以下のような「3つの壁」があります。
ビジネスチャット(SlackやMicrosoft Teams等)やスマートフォンの全社支給が進んだことで、コミュニケーションのスピード感や利便性は格段に向上しました。しかしその反面、「いつでも連絡が取れてしまう」環境が完成してしまったことが大きな壁となっています。
業務時間外であってもスマートフォンの通知音が鳴れば、担当者は内容を確認せざるを得ず、精神的な緊張状態が続きます。「緊急の要件かもしれない」という心理的プレッシャーから、自発的に通知を切ることが難しくなり、結果として「つながらない権利」の行使を妨げる要因となっています。
情シスやインフラ運用を担当する現場では、システムの停止やセキュリティインシデントに備え、24時間365日の監視・オンコール体制を組んでいる企業も少なくありません。このような環境では、「何かあったらすぐに連絡を取らなければならない」という即時対応が業務の前提となっています。
業務時間外の連絡を完全に遮断しようとしても、「緊急時の連絡経路をどう確保するか」「誰が一時対応を担うのか」といった明確な線引きや運用ルールの代替案が提示されない限り、現場は連絡に頼らざるを得ないのが実情です。
多くの組織において、特定のシステムや業務プロセスが特定の担当者に依存する「属人化」が発生しています。担当者が不在の時間帯にトラブルが発生すると、時間外であってもその人に連絡せざるを得なくなります。
また、「緊急連絡の定義」が曖昧なまま放置されているケースも多く見られます。本当の緊急事態ではない問い合わせや相談であっても、時間外にチャットで送信され、受領した側が対応してしまうという悪循環が生まれています。このような「気づいた人が対応する」不透明なカルチャーも大きな阻害要因です。

「つながらない権利」を現実的なものにするためには、精神論や努力目標に頼るのではなく、ITツールやシステム基盤側で「つながらなくても業務が回る仕組み」を構築することが重要です。ここでは、情シス主導で進められる具体的な対策を3点提示します。
情シスができる第一歩は、導入しているコミュニケーションツールの機能をフルに活用し、時間外の通知を自動的に制限する環境を整えることです。具体的には、SlackやTeams等のツールにおいて「おやすみモード」や「勤務時間外の通知オフ」を一括設定・推奨するガイドラインを整備します。
また、送信側に対して「時間指定送信(予約送信)」の利用をデフォルト化するよう促すアプローチも効果的です。退社間際に思いついた連絡であっても、翌朝の始業時間に自動送信されるように設定すれば、受信側の休日や夜間の静穏を保つことができます。
あわせて、情シスと人事部門が連携し、システムアクセスログのモニタリングや時間外制限の仕組みを検討することも有効な手立てとなります。
情シス自身の長時間労働や夜間対応を減らすためには、システムの自動復旧化や監視業務の外部委託を進めることも効果的です。これまで人間が夜間に手動で対応していた一次切り分けや単純なリスタート処理を自動化スクリプトで代替できれば、夜間の緊急呼び出し回数そのものを大幅に削減できます。
また、本当に対応が必要な重大インシデントのみをエスカレーションする条件を厳密に定義することで、担当者が常に緊張状態に置かれる事態を防ぐことが可能です。
「つながらない権利」を守るためには、平常時と緊急時の連絡ラインを明確に分離することが必要です。チャットツールの全社通知ではなく、本当に緊急時のみ使用する専用の電話ルートやエスカレーションツールを限定して設置します。
これにより、普段利用するチャットツールは勤務時間外に安心して通知をオフにできるようになります。さらに、MDM(モバイルデバイス管理)やゼロトラストアーキテクチャを活用し、業務時間外の社内システムへのアクセスを安全に制限・制御する設計を取り入れることで、「時間外には業務ができない環境」を構築することも選択肢になるでしょう。
裁量労働制の拡大議論とともに注目が集まる「つながらない権利」ですが、単に就業規則を変更するだけでは、現場の「常時接続」の慣習を解消することはできません。業務時間外の連絡を物理的・技術的にコントロールし、従業員が安心して休息できる環境を作るためには、ITインフラと運用プロセスを統括する情シスの役割が重要となります。
ツールの通知設定の見直しや業務の自動化、緊急連絡フローの厳格化など、情シスが主導して実施できる対策は数多く存在します。「つながらない権利」の実現に向け、人事・労務部門と協力しながら、自社のIT環境と運用ルールの再構築に取り組んでいきましょう。
(TEXT:まにほ、編集:藤冨啓之)

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