見出し画像

『七夕の歩幅』 #毎週ショートショートnote

 “人魚姫になりたい”と書かれた短冊を見せながら、半魚人の彼女が「幼稚園に付き合って」と僕にお願いしてきた。
 テスト期間中だけど、帰り道の途中だし問題ない。でも、彼女が人魚姫になりたがっているとは意外だ。

 彼女は、手を左右にふりながら笑っている
 「妹の。私じゃないよ」

 七夕の今日、幼稚園で笹に飾る短冊らしい。妹さんが風邪をひいてしまって、代わりに届けに行くのだという。
 せっかくの梅雨晴れなのに残念だねと言うと、「私だと思ったんでしょ」と、少し尖った指先で腕をつついてくる。痛い。
 「子どもじゃないんだから」そう言って、彼女はレンズのような瞳で青空を見上げた。

 期末テストが終われば、もうすぐ夏休みだ。でも彼女は、その間ずっと海底の実家に帰ってしまう。

 八月のカレンダーを切り取ったみたいな空を見上げながら、「週末の夏祭りなんだけど……」と言いかけたとき、
 「あっ、もう飾ってる」
 幼稚園の七夕飾りを見つけて、彼女は少し早足になった。

 人魚姫じゃなくて良かった。声も聞けるし泡にもならない。こうして二人で一緒に歩ける。
 
 早足で、少し大きくなった彼女の歩幅に合わせて、水たまりの消えた歩道を二人で急いだ。

(了)

※下記、毎週ショートショートnoteの企画に参加させて頂きました。
#毎週ショートショートnote  
#七夕の歩幅



いいなと思ったら応援しよう!