『踏切オーディション』 #毎週ショートショートnote
二階建てのアパートの階段に、女の子はいつも座っている。通りの向こうの踏切を、じっと見ている。母親の帰りを待っているのだろう。
「…今日はね、誰か一緒に来るみたい」
そう言って、女の子は足元の鉄板の階段に視線を落とした。
どんな人?と聞くと
「わからない。前に来た人は、やさしい人だったり、意地悪な人だったり……」
女の子は、踏切の向こうから歩いてくる人を選べない。
「やさしい人だといいね」
そう言って、僕は部屋に戻った。
数日後、女の子の母親が挨拶に来た。引っ越すらしい。
引越しの日、白いワンボックスカーの中の女の子と目が合った。口をぎゅっと閉じたまま、こちらを見ている。
赤い警告音の中、通りの向こうで電車が通り過ぎる。やがて遮断器が上がり、車はゆっくりと動き出した。
いつか大人になったとき、あの女の子が自分で選んだ大切な人と、次の踏切を越えていけたらいいなと思う。
踏切はまた、赤い警告音をカンカンカンと響かせ、静かに遮断器を下ろした。
(了)
※下記、毎週ショートショートnoteの企画に参加させて頂きました。
