1984年、高1の私がザ・シンフォニーホールで浴びたシフの「熱情」

ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57『熱情(アパッショナータ)』
作曲:
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
演奏: アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
特徴: ベートーヴェン中期(傑作の森)屈指の最高傑作であり、全3楽章を通じて激しい情熱と緻密な論理がオーケストラ的なスケールで爆発する難曲。なかでも第3楽章は、暗闇の中を嵐が猛烈なスピードで疾走し、最後は狂気的なプレスト(急速に)で聴き手を圧倒する。

アンドラーシュ・シフといえば、世間は判で押したように「バッハの大家」というラベルを貼りたがる。だが、今夜あえて私がトレイに載せるのは、彼の『熱情』だ。

この曲を聴くたび、私の脳内は1984年の大阪ザ・シンフォニーホールの客席へとタイムスリップする。高校1年生だった私は、彼の来日公演でこの『熱情』をナマで浴び、文字通り全身の毛穴が総毛立つほどの鳥肌を体験した。

終楽章が圧倒的な狂気と熱量で駆け抜けた瞬間、会場の静寂を切り裂いて怒涛の「ブラボー!」が飛んだ。あの空気、あの劇的な打鍵の衝撃を、私は今でもはっきりと覚えている。

バッハの端正な美しさの裏に、これほどの「熱い野獣の血」を隠し持っていた男。今夜はそんな若き日のシフが放った、一期一会の閃光にじっくりと身を焦がされたい。

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