研ぎ澄まされた祈りの音――バッハ=高橋悠治「主よあわれみ給え」
主よあわれみ給え(『マタイ受難曲』 BWV 244 より第39曲)
作曲: ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(編曲:高橋悠治)
演奏: 高橋悠治(ピアノ)
特徴: バッハの最高傑作『マタイ受難曲』のなかでも、最も涙を誘うとされるアルトのアリア。日本の鬼才ピアニスト・高橋悠治によるピアノ編曲版は、原曲の持つ深い祈りと痛切な美しさが、研ぎ澄まされたピアノの響きで見事に表現されている。
前回のヘンデル(ケンプ編曲)に続き、今夜も「ピアノ編曲で聴くバロック」の世界に浸っている。選んだのは、バッハの『マタイ受難曲』から、最も胸を締め付けるアリア「主よ、憐れみたまえ」を高橋悠治がピアノソロ用に編曲したものだ。
ケンプのヘンデルがどこかロマンチックな情緒を纏っていたのに対し、高橋悠治の編曲と打鍵は、一切の甘えを排除したかのようにストイックで、どこまでも硬質だ。
余計な装飾を削ぎ落とし、音と音のあいだに潜む「沈黙」を聴かせるような演奏。だからこそ、原曲が持つ深い後悔と、それゆえの切実な祈りが、現代を生きる私たちの心へストレートに突き刺さってくる。
ただ美しいだけではない。自分の内面と静かに向き合いたい夜に、じっくりと対峙してほしい究極の小宇宙だ。
