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長い髪

 長い髪を指してロン毛と云う人がある。このロン毛という言葉が自分は好きでない。
 ロン毛とはロングを略して毛と合わせたものだろうが、一方が英語でもう一方が日本語ではいかにも不釣り合いに思われる。組み合わせにセンスがない。頭が悪そうでいけない。
 どうでも英語で略したければ、ロングヘアーなのだから「ロンへ」にすればいい。やっぱり利口な印象にはならないけれど、前後が英語なぶん統一感は出る。
 もっとも、最初から「長髪ちょうはつ」という言葉があるのだから、漢字が読めないのでなければそっちを使っておけば間違いはない。ロン毛もロンへも必要はない。

 大学のスポーツ実習で弓道を選択した。選択肢の中で一番動かなくて済みそうだと思って選んだ。
 先生はいかにも年老いた武道家という雰囲気の、厳しそうなじいさんだった。
 その当時、学内で道着袴姿の女子をよく見かけたが、それはみんな弓道部なのである。授業の合間に部活をやるよりも部活の合間に授業に出る感じで、着替える時間が惜しかったのだろう。甚だよけいなお世話だけれど、女子がずっと道着袴で学生生活を送るのは何だか気の毒なように思われた。
 弓道部の顧問は当然このじいさんなので、そんなに弓の道に縛り付けるじいさんだったら、きっと自分とは相容れない。

 その頃自分は長髪のヘビメタ学生だった。まだロン毛と云う言葉はなかったと思う。
 初回の授業は説明だけだと聞いていたから、ジャージに着替えただけで髪を縛らずに出席したら、じいさんはひとしきり弓の道を語って、そろそろ終わる頃合になったところで、急にこちらを見た。
「そこの髪長いの、次からは括れよ」
 自分のことである。
「あぁ?」
 一体、こちらは必修科目だからやむなく来ているので、別段弓にも矢にも興味はない。だからこんなじいさんに命令される謂れはない。
 括ってほしければ括ってもやるが、それ以前に、知らない相手に呼びかけるのに「そこの髪長いの」とは何事か。
 大いにはらわたを煮え繰り返らせたけれど、変に反抗して単位を貰えないと困る。それで次から括って出席した。
 後になって考えたら、説明だけとはいえ体育の授業へ長髪を靡かせて行ったのは確かにこちらが舐めていた。けれどもやっぱり先方の言い方が癇に障り、思い出すたびにじりじりして困った。

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