虎猫からの手紙㉟心の深部を見つめて ─ 虎猫が語る受刑者たち
虎猫が十五年のあいだに見てきた、人の内側に触れていきます。
虎猫の手紙
最近、周りの同囚たちを客観的に観察していました。
本当に社会では見ない深海魚みたいな奴ばっかりです。
個々の個性が豊かで、我が強くて、見栄っ張りで、欲の塊みたいなのが多いです。
一番感じたのは、苦しみながら、もがきながらも一生懸命に我を通して生きる姿です。
いつまでも自分の欲にしがみつく。
大人になれない大人たちの集団です。
ここには日本人の長期受刑者が少ないから、刑期を終えるまでの辛抱というのが本音。
それまでいかに楽に時間をやり過ごすか。
出所後の人脈や、犯罪商売のネットワークを作ることに毎日精を出しているのが実情です。
もう二度と犯罪をしない、刑務所には戻って来ないと、更生を心に誓って自分と向き合う受刑者は、私が個人的に見る限りは100人中2人いれば良いほうです。
更生するかしないかは、その人自身の問題です。
刑務所のせいにすることは出来ないが、刑務所の理念が更生改善であるならば、その役割を果たせていないのが現状です。
5回目、6回目の人たちの話を聞くと、大体3回目で刑務所に慣れる。4回目以降は人生を諦める。
そして、出る前からシャブを予約する奴までいる…
この前に入ってきた9回目の高齢の大泥棒親分は、もう出所後のネットワークを作っている…
恋人を殺してしまい、そのことを悔いていると私に話してくれた同囚がいます。
罪悪感を抱えてはいるものの、普段の振る舞いは正直言って最悪です。
嫉妬心が強くて、疑い深い。
欲張りすぎる…
最近は、私が大嫌いな陰口悪口ばかりを言ってくるから、
お前は自分が人より優れていると思ってるのか!
お前は人の悪口を言う資格はあるのか?
人の悪口を言うなら二度とオレに話しかけるな!とキツく言ったきり、近づいて来なくなった。
類の優遇が上がった人を嫉妬するし、下がった人を見て笑うし、メシの量に文句言うし、人が自分の悪口を言っているのか勘ぐるし、集会で自分の菓子を猛スピードで食い切って、他人のお菓子を職員の目を盗んで要求してくるし…
この性格が、今の人生を引き寄せているのかなと思えてくる。
目を覚ましてほしいです…
刑務所は、学校のように道徳を教える場所ではありません。
更生改善と言っても、そんな余裕がないです。
刑務所を人生の一通過点とするか、それとも終着点にしてしまうかは、結局本人次第だと思います。
心の汚れを落として、欲の誘惑に強い心を育てないと、刑務所より遥かに誘惑の多い社会に戻っても、またすぐ刑務所に戻ってくるでしょうね…
刑務所は、抑止力維持のため厳しいルールや規則で従わせ、従わなければ力づくで抑え込むのが実情です。
社会の安定を図るための抑止力としては不可欠だけど、しかし外側からいくら強い力で抑え込んでも内側の心を抑え込むことは出来ないのです。
心は、抑え込むほど反抗する。
長く抑えられれば、やがて壊れてしまう。
人間の心ほど厄介なものはないです。
私は他国に来て、好き勝手にたくさんの悪さをした不良外国人受刑者だから、他国の刑務所の在り方を批判する資格は全くないですが、人生の中で一番縁深い国であり、一番お世話になった国でもある。大好きな国です。
みんな幸せであってほしいのが私の本心です。
白猫より
虎猫は長い刑務所生活の中で、多くの同囚たちを間近で見てきました。
そこで感じたのは、苦しみながらも自分の我を通して生きる人が多い一方で、本気で更生しようと自分自身と向き合う人は、ごくわずかだという厳しい現実です。
多くの人は、ただ時間をやり過ごすことに精一杯で、自分の内側に目を向ける余裕など、ほとんどないのかもしれません。
制度やプログラムだけでは、人の心の奥まではなかなか届かない——そんな印象も受けます。
理想を言えば、偏見や先入観を捨て、一対一で心を開いて向き合う関係を築くこと。
そんな関係性の中でこそ、少しずつ心が解け、変わっていくのではないでしょうか。
胸の内を打ち明け、一緒に考えていく。
そんな時間の積み重ねが、心に変化をもたらすのだと感じます。
不完全だからこそ人は愛おしく、誰かと分かり合おうとするのかもしれません。
虎猫のような真っ直ぐなまなざしは、きっと誰かの心に静かに残っていくはずです。
