虎猫からの手紙【89】取り調べ室の向こう側──別れのブラックコーヒー
過去記事では、虎猫が無期懲役に至るまでの経緯を記録しています。
(※虎猫の歩みはこちらのマガジンにまとめています)
今回は、取り調べ室でのエピソードです。
事件や裁判の記録だけでは見えてこない、一人の人間としての姿が垣間見える出来事でした。
虎猫は、取り調べを担当していた検事と激しく対立し、途中で担当が変わったそうです。
虎猫より
その検事は「この事件は、現場にいた家族とお前が共謀して起こしたものだ」と疑っていました。特に、現場にいた人たちを無傷で解放したことを、しつこく問い詰められてしまったのです。
「お前が取った行動は、殺人犯としてはあり得ない」と言うのです。
「普通なら、この二人を一緒に殺してしまえば、事件の発覚は防げるはずだ。わざわざ自分の顔を見た人を解放して、通報させるような、まるで自殺行為をする殺人者なんていない」と。
それを聞いて、
『いるよ!』
「どこに?」
『目の前にいるじゃん!』
と、思わず突っ込んでしまいました。笑
検事だから、疑うのが仕事かもしれないけど、事実を見分けるほうがもっと大事だよね。
話を信じてもらえなくて、どうしても現場にいた家族を共犯に仕立て上げたいみたいだから、
『アホか!なんで信じてくれないんだよ!』
と暴言を吐いたこともあったよ。
結局、その検事とは、あまりにも合わなさすぎて、私を取り調べる刑事さんに事情を説明したら、「最初は俺たちも皆、同じように疑っていた」とはっきり教えてくれました。
でも、今は私の供述を信じると。
あの時は、通訳担当の刑事さんと、調べ担当の刑事さんが、とても仲が良かったんです。
そしたら次の週に検察庁へ行ったら、違う検事になっていました。
なぜ担当が変わったのか、よく分かりません。
刑事さんに聞いても教えてくれなかったけど、
「良かったじゃん!」と笑いながら言っていました。
あと、これは余談だけど、取り調べ室で刑事さんが、食べ物と飲み物(毎回ブラックコーヒー)を紙袋の中に隠して持ってきて、取り調べの途中で私の脇にそっと置き、わざと部屋を出て行くのです。
「これ、バレたらクビだからね」と、いつも小声で言われましたよ。
品物を置いたあと、一人は忘れ物を取りに行くふりをして出ていき、もう一人は「トイレに行ってくる」と席を外す。
そうして私は取り調べ室に一人残され、机の上に置かれたものを、急いで平らげるのです。笑
毎回、まったく同じパターンでした。
年輩の警部補さんが部屋を出るときも、神妙な顔つきで、「早く食べろよ」と毎回、同じ顔でした〜笑!
いま思うと、情の厚い刑事さんに恵まれたなと思います。
約一年間続いた取り調べが終わり、身柄が警察署から拘置所に移るとき、わざわざ取り調べ室に連れて行かれ、コーヒーで乾杯してくれました。
その時は、堂々と3人で別れのブラックコーヒーを飲みました。
「これからが本当に大変だからな、頑張れよ!」
と言ってくれたのを覚えています。
今はもう退官したかな。
私は本当に人に恵まれているなと思いました。
白猫より
人生の終わりだと思っていた場所で、人の温かさに触れた虎猫。
私が想像していた「取り調べ室」とは少し違う、人間らしい光景に少し驚きました。
虎猫の語る出来事の中には、過酷さと同時に、人と人との関係性が生まれていく瞬間があります。
もちろん、ここで語られている出来事の重さや責任が変わることはありません。
ただ、その中で人がどのように関わり、どのような距離感で時間が流れていたのかを知ることで、見えてくるものがあるように感じます。
罪と向き合うこと、そして一人の人間として向き合うこと。
その両方の視点を大切にしながら、この記録を残していきたいと思います。
