虎猫からの手紙【68】少子化は豊かさのせいなのか──『子どもを産んで、いいことってある?』と聞かれた日
虎猫より
少子化の本当の原因は「豊かさ」にあると、先日ある知識人の討論番組で話していました。
いま、世界の豊かな先進国すべてが少子化問題を抱えています。
これから豊かになっていく国々は、必ず少子化問題に直面する。
豊かになるにつれ、女性の社会進出が進み、多くの女性は子どもよりも自らの人生進路を選ぶため、少子化は避けられない。
いま人類にとって、最も深刻な問題の一つだそうです。
そして、その行く先は自然絶滅だと言っていました。それはそうだよね、減っていくのだから。
人類は存続よりも豊かさを選ぶ、おかしな生物だとも言っていました。
皮肉だよね。
人間が追求した豊かさが、自らの種を絶やしてしまうことになるなんて……
ある実験で、ネズミを人間に見立てて、豊かな食べ物を与え続けました。
その結果、一時的に数はたくさん増えましたが、やがてネズミ社会の中に、変な行動を取るネズミが、たくさん現れるようになりました。
他のネズミを攻撃したり、集団でいじめをするような行動を取ったり、メスは子どもを産まなくなったりした。
結局、そのネズミ社会は絶滅してしまったのです。
人間もこのままだと、最後はこのネズミ社会と同じ道を辿ってしまう、と話していました。
アフリカでは、貧困が原因で子孫を残すため、たくさんの子どもを産まざるを得ないのに対して、豊かで安全に出産ができる環境にあっても、逆に自ら産まなくなる……
人間は、どこまでも矛盾した生き物だね。
結局、この社会が求める物質的な豊かさが、自分たちを追い込んでしまうのですよね。
少子化は、その一例に過ぎないけど、本当の豊かさを見分けて、選択しなければならない時がきたのだと思います。
白猫より
虎猫が語っていることは、確かに腑に落ちる部分もあります。
それでも、私はどうしても引っかかりを感じてしまいました。
少子化の原因に「豊かさ」が関係しているのは分かりますが、それだけで説明できるほど単純な問題ではない気がするのです。
女性はただ、物質的な豊かさを守るために産まない選択をしているのでしょうか。
社会進出をしていても、子どもを産みたいと願う人はたくさんいます。
それでも踏み出せないのは、今の日本社会で産み育てることに「人生が壊れてしまうかもしれない」という切実な恐怖があるからではないでしょうか。
11歳の娘が、私にこんなことを言いました。
「子どもを産んで、いいことってある? 大変だし、お金はかかるし、得なことないよね?」
私は、返事に詰まってしまいました。
娘の目には、育児で手一杯になり、苦労している私の姿ばかりが映っていたのかもしれないと思うと、心苦しくなりました。
かつては結婚や出産が「当たり前の幸福モデル」でしたが、今は一人でも生きられる、女性も自己実現ができる時代です。
「子どもを持たない人生」がまっとうな選択肢として存在すること自体は、決して悪いことではありません。
ただ、「産みたい」という気持ちがありながら、諦めざるを得ない人たちが確実にいます。
しかし現実は、産んだ後の世界があまりにも厳しく、支えが見えず、母親への負担が重すぎる。
経済的不安と孤立が、背中を押すどころか足を止めてしまう。
これは「豊かだから産まない」のではなく、
「未来への安心がなさすぎて産めない」状況ではないでしょうか。
子育てを個人の責任に押し付けるのではなく、社会全体のプロジェクトとして支えること。
親が限界を迎えたときには、まず親を救ってくれる支援があること。
産みたい人が、その願いを諦めなくていい社会であってほしい。
いま問われているのは、私たちが追求してきた「豊かさ」の、その中身(質)なのだと思います。
