波の音|シロクマ文芸部
「波の音って良いよね」
千春は一緒に防波堤に上り、隣でニコニコしながら海を見ている彼に言った。
「将来住むんなら絶対海の近くの方が良いよね」
そう付け加えて彼を見る。もちろんカマをかけている。
「そうだね」と彼が頷いたので、「ほらまた嘘ついたー!」と千春は彼を指差した。
「え、嘘じゃないよ」
「嘘だー、君山のほうが好きじゃん」
「まあそうだけど」
もう朝から何回もこんな会話を繰り返している。
今日のデートの約束をした時、彼と少し喧嘩をした。というより、千春が彼にイチャモンをつけた。
背が高くて爽やかで、いつもニコニコしている彼は千春の話を何でも「うんそうだね」と聞いてくれる。友達からは最高じゃんと言われるけれど、千春にはそれが物足りない。全肯定botか。
もっとぶつかってこい!と、千春の体育会系な部分が顔を出す。キツイのは嫌なので運動部に所属していたことはない。
「今度のデートでは私を肯定するのを禁止とする」
そうおふれを出すと彼は目を丸くしていたが、やがて「うん、分かったよ」と言っていつものように微笑んでいた。
なのにこの体たらくである。
「ほら、否定してみて」
そう言って千春はかかってこいよのポーズを取る。彼は困ったようにうーんと頷いて水平線を眺めた後で、「海の近くに住むと潮風で家が錆びたりして大変だよ」と言った。
理屈で来たかー。求めていた魂の対話とは違う気がするけど、彼がニコッと笑ったので千春もつられて笑ってしまう。
「もう、しょうがないなぁ」
ふと腕時計を見るとお昼の12時を回っていた。お昼どうしよっかと尋ねると、「千春の食べたいもので良いよ」というやっぱりな答えが返ってくる。
「私が決めるとまたパスタとかになるよ、本当はお肉食べたいくせに」
そう言ってほれほれと彼を促す。
「うーん、じゃあ焼肉で」
昼から焼肉か!と思ったけれど、すぐにやってやろうじゃないかという気持ちになる。
肉でも何でもばっちこい!
波の音を聞きながら防波堤の上を二人で歩く。携帯には近くの焼肉屋がいくつも並んでいた。
小牧さん、シロクマ文芸部の皆さん。
初めて参加させていただきます。よろしくお願いいたします。
