2週間、ベッドから動けなくなった時の話
「あの時にしか、感じられないものがあったわねぇ」
その患者さんの言葉を今でも覚えています。
僕はリハビリが仕事なのですが、退院してから2〜3ヶ月経って、再診の時に、その患者さんがリハビリ室に来てくれたのです。
ーーー
「なおさん、〇〇さんが来てますよ」
受付の子に呼ばれて、リハビリ室の入り口に行くと。
?
その患者さんが、凛と立っていました。
最初は誰だかわからないほど、元気になっていて。
いい意味でびっくりしました。
痩せ細っていた体も、健康的な太さを取り戻して、血色も随分いい。
そして何より、おしゃれなのです。
身なりに気を使ってるなというのは感じていたけれど、退院の時以外、病衣しか見たことがなかったから、こんなにおしゃれだって知らなかった。
水色のスカーフが、とてもよく似合っている。
「お久しぶりです。おかげさまでずいぶん良くなりました」
「あの時が、ウソみたいね」
そうなんです。
その患者さんは病気なんかほとんどしなくて、入院するのもはじめてだったんですが、とある病気にかかって、2週間くらい。
ずっとベッドの上。
なにも飲めず、食べられず、熱と倦怠感で、苦しんでいたのです。
リハビリもその間はできることが少なくて、少し関節を動かしてあげるか、お話を聞くか、お休みになることもありました。
それから投薬を続けて、なんとか良くなってきて、ようやく、体を起こしてもいいというGOサインが出ました。
座る、リハビリです。
血圧を測りながら、ゆっくりベッドを起こして、介助しながら足をベッドから降ろし、ベッド柵をなんとか掴みながら、ようやく座ることができました。
めまいがあって、ふらふらしていたので、支えも必要。
1〜2分で、ベッドに戻りました。
「座るって、こんなに大変だって知らなかったわ」
青白い顔で、少し息を切らしながら、患者さんはそう言いました。
「でも、やっぱり、起きれるってうれしいわね」
そうやって、少しづつリハビリを進めていき、歩けるようになった頃、退院を迎えたのです。
どうなったかなぁと思っていたけれど。
ずいぶん良くなってよかった。
それで、顔を見せにきてくれた時に、
「あの時にしか、感じられないものがあったわねぇ」
とお話をされていて、それが心に残っています。
立てるようになって、歩けるようになって、少しづつ趣味も再開できて、うれしい。
でも、それも、あの時があったからだと患者さんはいうのです。
元気になって退院したから言えることなのかもしれないし。
その時は、たしかに大変だし苦しいけれど。
それもまた、その時にしか感じられないこと。
