「準備ができたら独立する」の準備は、たぶん終わりません。熟練した起業家27人は、目標から始めていませんでした
いつか自分でやってみたい、と思っています。
でも今はまだ早い。もう少し資金が貯まってから。市場をちゃんと調べてから。事業計画を形にしてから。今の仕事が落ち着いてから。
そう考えているうちに、一年が過ぎました。去年も同じことを言っていた気がします。
私はこれを「慎重さ」だと思っていました。準備を整えてから動くのが正しい順番なのだから、まだ動かないのは正しい判断なのだと。
学びの場で聞いた研究は、その順番そのものを疑うものでした。成功と失敗の両方を経験してきた熟練の起業家たちは、目標を決めてから始めるという順番を取っていなかったのです。
27人の熟練起業家が、実際に使っていた考え方
バージニア大学のSaras Sarasvathyが2001年に発表した研究があります。
対象は27人の起業家。条件が厳しく、15年以上の起業経験があり、複数の会社を立ち上げ、その中に成功も失敗も含まれていて、少なくとも1社は上場させている人たちです。
その人たちに実際の意思決定を語らせて、思考の型を分類しました。
学校で教わる型は「目的から逆算する」考え方です。目標を決め、市場を調べ、必要な資源を見積もり、計画どおりに進める。研究ではこれを因果的な論理と呼んでいます。
もうひとつは「手元にあるものから始める」考え方。自分は何者で、何を知っていて、誰を知っているか。そこから、できることを組み立てる。こちらを実効的な論理と呼びます。
結果はこうでした。27人のうち63%が、判断の約75%で「手元から始める」側の論理を使っていたのです。
出典: Causation and Effectuation(Sarasvathy, 2001, Academy of Management Review)
つまり、経験を積んだ人ほど先を予測することから離れていた。
私が「まだ準備ができていない」と足を止めていた理由は、そもそも熟練者がやっていない順番を、自分に課していたからでした。

なぜ、目標から始めると動けなくなるのか
目標から始める型には、動き出す前に必要なものが多すぎます。
市場の予測。必要な資金の見積もり。競合の分析。事業の計画。どれも「まだ起きていないこと」を当てにいく作業です。
当たらない前提を精密にしようとするから、いつまでも終わりません。しかも精密にすればするほど、外れたときの落差が大きくなります。だから慎重な人ほど、着手できないまま調べ続けることになります。
手元から始める型は、必要なものが今すでにあります。
自分がこれまで何をやってきたか。何ができるか。誰に声をかけられるか。全部、調べなくても分かっていることです。
私が学んでいるT2グループ・高橋敏浩氏の教えでも、この考え方に近い話が繰り返し出てきます。遠い理想から逆算して身動きが取れなくなるより、今の自分の手元にあるものを使って一歩動くほうが早い、というものです。
がんばりの量ではなく、動き出せる形をつくる。準備が終わらないのは意志の問題ではなく、終わらない順番を選んでいるからでした。
「いくら儲かるか」ではなく「いくらなら失っても平気か」
この研究にはもうひとつ、実務でそのまま使える考え方が出てきます。
許容可能な損失、という判断基準です。
普通は「これをやったらいくら儲かるか」を先に計算します。でも儲けの見込みは予測なので、当たりません。当たらない数字を根拠に、やるかやらないかを決めていることになります。
熟練の起業家たちは逆でした。「これがゼロになっても、自分の生活は壊れないか」を先に決める。壊れない範囲なら、見込みが分からなくても踏み出せます。
これは私にとって、いちばん実用的な話でした。
「独立して食えるか」は分かりません。誰にも分かりません。でも「月に3万円と、週末の時間を、半年間使って、それが全部無駄になっても生活は壊れないか」なら、今日答えが出ます。
判断できない問いを、判断できる問いに置き換えているわけです。

今日からできる、3つの置き換え
1. 「何をやるか」より先に「何を持っているか」を書き出す
やりたいことを探すのではなく、すでに持っているものを並べます。
これまでの職種で身についたこと。人より少しだけ詳しいこと。連絡が取れる人。使える時間。この3つを紙に書くだけで、机上のアイデアより現実的な選択肢が見えてきます。
2. 儲けの予測をやめて、失っても平気な額を決める
「月にいくらまでなら、なくなっても困らないか」。この一行を決めます。
金額が決まると、その範囲でできることに自動的に絞られます。大きく構えなくて済むので、着手までが早くなります。
3. 完成品ではなく、いちばん小さい形で外に出す
法人をつくる、サイトを整える、名刺を刷る。これらは全部あとでいいことです。
まず、ひとりに向けて実際にやってみる。反応が返ってきてから次を決める。手元から始める型は、この「返ってきたものを使って次を組む」やり方と相性がいいです。
準備が足りないのではなく、順番が逆だったのかもしれません
27人のうち63%。成功も失敗も知っている人たちの多数派が、予測から離れて手元から始めていました。
私が何年も足を止めていたのは、慎重だったからではなく、終わることのない準備を先に置いていたからでした。
もし今、いつかやりたいと思いながら動けていない人がいたら、調べる時間を少し止めて、紙を1枚用意してみてください。
自分は何を持っているか。いくらなら失っても平気か。この2つだけで、来週やることが決まります。
もう少し深く学びたい方へ
私が学んでいる株式会社AWARENESSは、人間関係・時間・お金を扱う力を「バランス教育」として体系化している人材育成の会社です。今回書いた「遠い理想より、手元から動く」という考え方も、ここで教わりました。
そのなかに、独立や事業づくりを扱うビジネススクールがあります。「0→1起業家や個人事業主に必要なビジネスの基礎土台」を学ぶビジネスコースと、お金の原理原則を扱うマネークラスの2つに分かれていて、月額制です。すべてオンラインで視聴できます。
何を持っているかを整理して、次の一歩を決めたい方は、内容をのぞいてみてください。
