日中外交、サナエ外交が試されるとき
エスカレーションは本当に起きるのか
最近の日中関係をめぐる報道を見るたび、胸の奥底に重たい違和感が残る。
水産物の輸入停止、観光自粛の呼びかけ、留学の再考要請。そして大阪総領事による、ポケットに手を突っ込んだ“戦狼ポーズ”。
どう見てもギクシャクしている。
この先、さらに悪化していくのだろうか。
そんな疑問を持って、興梠一郎氏と柯隆氏、二人の専門家の分析を聞いてみた。
結論から言えば——「中国はこれ以上のエスカレーションを望んでいない」
これは、両者に共通した認識だった。
しかし、その理由と着眼点は微妙に異なる。そこが実に興味深い。
■1 興梠一郎氏の視点
興梠氏は、今回の騒動の“火薬庫”がどこにあったのかを、非常にクリアに説明してくれた。
鍵を握るのは、大阪総領事・薛剣氏のSNS投稿である。
「勝手に突っ込んできたその汚い首は、斬ってやるしかない」
常軌を逸した暴言と言わざるを得ない。
興梠氏によれば、実は中国政府は当初、高市総理の「台湾有事は日本有事」答弁をさほど問題視していなかったという。
しかし——
この“戦狼投稿”に対し、日本国内で与野党を超えた批判が噴出し、「国外退去(ペルソナ・ノン・グラータ)」の声まで上がった。
これが中国の逆鱗に触れた。
中国がもっとも嫌うのは「面子を奪われること」。
外交官を追放されるなど、中国にとって“最悪の屈辱”である。
そこで中国側は、論点をすり替える形で“高市答弁”を前面に押し出し始めたのだ。
しかし、それでも本気で怒ってはいないと興梠氏は読む。
理由は簡単。
「もし本気なら、局長級会談など応じるはずがない」
外交儀礼としては横柄な態度を見せつつ、会談自体には応じている。
これは国内向けのポーズに過ぎず、エスカレーションの意思はない、というのが興梠氏の結論だ。
打開策としては、
薛剣総領事を“自主的に”交代させるというソフトランディングを提案する。
過去に米国で前例があり、日本政府もすでに中国側に対処を求めている可能性が高いという。
そして興梠氏が最も警鐘を鳴らしたのが「世論操作」である。
中国は日本の民主主義の脆弱さ——つまり“世論が揺れやすい”という弱点を熟知している。
渡航制限や貿易圧力を使い、日本国内を分断する可能性がある。
ここはもっと警戒すべきだと強調した。
■2 柯隆氏の視点
一方、柯隆氏が真っ先に注目したのは、
「反日デモが一切起きていない」
という異例の事実である。
中国が本当に怒っているときは、過去の例を見れば一目瞭然だ。
小泉元首相の靖国参拝、尖閣での漁船衝突、THAADミサイル問題。
そのたびに反日・反米・反韓デモが「自然発生」的に噴き上がった。
しかし今回は静まり返っている。
なぜか。
柯氏は理由を二つ挙げる。
●第一に、経済の悪化
失業率が上がる中でデモを解禁すれば、反日ではなく反政府に転化するリスクが大きい。
●第二に、国際環境の悪化
“戦狼外交”であらゆる国と摩擦を抱え、かつてのように「日本を叩いても他国とうまくやれる」余地がない。
ここで日中関係だけを特別に悪化させる余裕など、今の中国にはない。
したがって、柯氏も興梠氏と同じく
「中国は事態のエスカレーションを望んでいない」
という結論に達する。
打開策は、
日本側が高市答弁に“解釈”を加え、実質的な軟着陸を図ること。
中国はそれを“勝利宣言”として国内に示すことができるため、面子が保たれるというわけだ。
さらに柯氏が示した興味深い仮説がある。
もし米中関係が再び険悪になれば、
中国は日本に寄ってくる。
トランプ政権期の米中摩擦を想起させる指摘である。
国際環境によって日中関係は大きく揺れ動く、という冷静な読みだ。
■3 共通点:エスカレーションの意思はない
興梠氏・柯氏、二人の専門家が異口同音に語ったのは、
「中国は本気で争うつもりはない」
という点である。
ただし——
“ものの弾み”ということもあり得る。
レアアース禁輸などの揺さぶりは起きる可能性がある。
しかし柯氏は、
「たとえレアアースを止められても、過去の経験を踏まえ日本はリサイクル技術を確立しており、影響は限定的」
と指摘する。
冷静だ。
■4 高市答弁は避けられなかった(私見)
私自身は、高市総理の「台湾有事は日本有事」という答弁は、
歴史の流れからして避けられなかった局面だったと考える。
曖昧戦略が通用してきた時代は終わりつつある。
中国の台湾政策は明らかに「待ったなし」で進んでいる。
その中で、日本が曖昧さを維持することは、むしろ抑止力を損なう。
今、中国は国内事情が厳しく、外交的にも身動きが取りづらい。
だからこそ、
日本が戦略的にメッセージを発するなら“今”が最も効果的だった
という側面は否定できない。
外交は感情で行うものではない。
「ペルソナ・ノン・グラータ」も世論的にはスカッとするが、
実利が伴わないなら意味がない。
ここは冷静さが必要だ。
高市総理といえば「責任ある積極財政」で知られるが、
今回の一連の対応を見るにつけ、
**「責任ある積極外交」**にも期待してよいのではないか。
私はそう感じている。
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