ごんげんさんの夜祭り
夜店から声を掛けられた。
『これ、欲しいんか?』
よほど物欲しそうに見ていたのか、
夜店の店主のオジサンは、
ニヤニヤ笑って手招きをした。
ごんげんさんの境内は、
夜店の明かりで照らされている。
当時はLEDなど無くて、
オレンジ色がかった白熱電球が、
異空間のような、怪しい雰囲気を
醸し出している。
境内の入り口には、いつも天津甘栗。
その隣はベビーカステラで、
向かい側はセルロイドのお面。
リンゴ飴、冷やしあめ、
アイスクリームにかき氷。
めくるめく、夜店の迷宮。
子供には夢の世界だ。
限られたお小遣いを手に、
あれこれ眺める高揚感!
その店は、ひときわ私の目を引いた。
アイドルのブロマイドが、
小さな小屋一杯に飾られていた。
ミーハーでオタクな少女の私は、
奥の壁に掛けられた、
ピンクレディの色紙大ブロマイドが
欲しくて欲しくて仕方なかったのだ。
当時の少女のほとんどが、
ピンクレディのファンだった。
ご多分にもれず、私も夢中で
振り付けを覚え、壁に写真を貼った。
それは、『渚のシンドバット』の
衣装と振り付けでポーズした、
ミーちゃんとケイちゃんの写真。
黒いラメのミニスカートから
スラッと伸びた脚が美しく、
銀色のハイヒールがキラキラだ。
凄く可愛い!部屋に飾りたい!
そう思って見詰めているのを、
店主のオジサンは見逃さなかった。
そこは、ブロマイドを売っている
訳ではないのだ。
だから躊躇していた。
クジ引きゲームなのである。
私は子供ながらにも、
自分のクジ運悪さを知っていた。
そして、大人になった今なら判るが
きっとあのような夜店には、
当たりなんて無いのである。
クジに挑んだ子供の全員が、
末等の、絵葉書サイズのモノクロ
ブロマイドを手にしていた。
人気のアイドルから選ばれるので、
残っているのは言っちゃ悪いが
不人気なハズレアイドルばかり。
壁に飾られているような、
大きくて美しいフルカラーの
ブロマイドは、きっと囮なのだろう。
『お嬢ちゃん、いくら持ってんの?』
怪しすぎる問いかけ。
絶対に乗ってはアカンやつだ。
『3回クジ引くお金をくれたら、
このピンクレディをあげるで』
3回クジを引いたところで、
手にするのは欲しくもない
不人気アイドルのモノクロ3枚。
ならこの交渉に乗り、
あの大きいピンクレディを一枚
手にするのが得策では?!
人はこうして、詐欺にハマるのだ💧
夜の祭りの高揚は、
人の判断力を弱らせる。
ましてや、小学生においてをや。
私は、予定していたヨーヨー釣りと、
好物の冷やしあめを捨て、
ピンクレディを手に入れた。
今考えると、かなり損な
取引だったような気がする。
父からもそう言って、説教された😓
でも、あのピンクレディはやはり
とても可愛くて、美しくて、
それからかなりの長い年月、
私の部屋に飾られていた。
祭りの季節が来て、
夜店の様子をテレビで見る。
そのたびに私は、あのごんげんさんの
怪しいクジ引き店を思い出す。
オレンジ色の、電球の明かりは、
やはり異界に繋がっている。
そんな思いが、今も残る。
そして私は、還暦の今だって
ピンクレディの振りを踊れるのだ。
※※※ 了 ※※※
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※小牧幸助部長 様
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