あの頃のピーマン嫌いに教えたい!──能勢の甘いピーマンで作る「丸ごとおかずナポリタン」と縦切りの科学 (元教授、定年退職885日目)
私のピーマン嫌い脱却の物語
7月中旬、NHK『ヴィランの言い分』で、ヴィラン(悪役)としてナスが取り上げられた回を紹介させていただきました(那須川天心さんが、名前つながりでヴィラン役の着ぐるみを着て出演された神回です)。その中で、ナスは「子どもが嫌いな野菜ランキング」の2位でしたが、実は1位がピーマンでした。この順位には、多くの方が納得されるのではないでしょうか。もちろん、私も子どもの頃は大嫌いでした。嫌いな野菜といえば、ニンジンかピーマンかという感じでした。ところが、ある時を境に嫌いではなくなりました。それは、母親が牛肉と合わせて青椒肉絲を初めて作ってくれた時です。たぶん市販のタレを使ったものだったと思いますが、私にはとてつもなく美味しく、一瞬で虜になりました(ただし、普通のピーマン料理は相変わらず苦手でした)。さらにしばらくすると、ケチャップをかけたピーマンの肉詰めが食卓に上がるようになり、これが2度目の衝撃でした。そこで完全にピーマン嫌いを卒業したのです。大人への階段を一つ上がった感じでしょうか(遠い目!)。ちなみに、そんなきっかけのなかったニンジンは、もう少し嫌いな時期が続きました ・・・。(下写真もどうぞ)

『発見!食遺産』で訪れた、のどかな大阪府能勢町
今回は、そんなピーマン料理の話題です。テレビ大阪『発見!食遺産』で、MC の石田靖さんがフリーアナウンサーの大吉洋平さんとともに、大阪府能勢町を訪れていました。ロケは能勢の「長谷の棚田」を背景に進みます。絶景ポイントとして知られるそうで、「大阪にもこんな場所があるのか」と驚くほど、のどかな風景でした。道中、「農家ジェラート」の看板に引き寄せられて入店すると、店内には季節の果物や野菜を使ったジェラートが6種類並んでいました。二人はトマトと能勢産メロンのジェラートを美味しそうに試食します。店主に旬の食材に詳しい人を尋ねると、能勢のパイオニア的な若手農家・植田歩さんを紹介され、一行はその農園へ向かいました。(下写真もどうぞ)

植田さんが作る、甘みと水分が弾けるピーマン「京みどり」
植田さんは能勢の自然に惹かれ、25 歳で移住・就農。現在は年間約 60 種類の野菜を栽培しているそうです。今の一押しはピーマンで、試作を重ねた結果、「京みどり」という品種が最も美味しかったとのこと。石田さんらが収穫したてを生でかじると、嫌な苦味がなく、自然な甘さと豊富な水分に驚いていました。喉が潤うほどのみずみずしさだそうです。その背景には、標高 200 メートル以上の山間盆地ならではの、昼夜 10 度以上という寒暖差があります。また、元田んぼで水はけが悪いため、ウネを高くして水が溜まらないよう工夫しながら、土の水持ちの良さを活かしていることも、このみずみずしさにつながっているそうです。(下写真もどうぞ)

<追記1> 日本語の「ピーマン」はフランス語由来で、英語圏では「Green Pepper」や「Bell Pepper」と呼ばれます。現在のピーマンがアメリカから導入されたのは明治期ですが、当初はあまり普及せず、品種改良などを経て昭和中期に国民的野菜となったそうです。
<追記2> ピーマンには、ヘタから尻部へ縦方向に走る維管束構造があります。そのため繊維に沿って「縦切り」にすると、細胞の破壊が最小限に抑えられ、苦味成分の流出を抑えられます。そのため「縦切り」では苦味を感じにくくなり、加熱時にも水分が逃げずシャキシャキした食感も残ります。一方、繊維を断ち切る「横切り(輪切りなど)」では、多くの細胞が壊れ、細胞液が外へ染み出します。そのため、生や加熱不足の状態では苦味や青臭さを感じやすくなります。ただし、しっかり加熱すれば、香り成分が揮発して組織も柔らかくなるため、煮込み料理などには向いているそうです。
揚げ浸し、青椒肉絲、シフォンケーキ、エスカベッシュ──ピーマンの無限の可能性
植田家の食卓でまず出されたのは、子どもたちに人気の「ピーマンとナスの揚げ浸し」でした。さっと揚げた野菜に出汁がよくしゅんでいて (「染みている」の関西弁です)、添えられた梅干しの酸味が暑い日に心地よいと高評価でした。続く「青椒肉絲(甘辛チンジャオロース)」は、植田さんが地元の高校生と開発した能勢の恵みを凝縮した万能だれ「大阪ぐるり」を使用。ピーマンのシャキシャキ感を活かしつつ、辛さ控えめの甘辛味で、子どもにも食べやすく仕上がっていました。さらに、パティシエ志望の三男・銅三郎君が考案した「ピーマンのシフォンケーキ」が登場します。私は「ピーマンでスイーツ?」と思いましたが、石田さんらは、ひと口でピーマンの香りが立ち、素材感が活きていると評価していました。かつてピーマンが苦手だった子どもたちも、父親が育てるピーマンに出会って好きになったという家族のエピソードには、ほっこりしました。(下写真もどうぞ)

そこへ、植田さんの友人でプロの料理家・大谷輝さんが登場しました。SNS で創作料理を発信し、フォロワーは 25 万人にのぼるそうです。まず披露したのは「サーモンとピーマンのエスカベッシュ」です(上写真、右下)。日本の南蛮漬けに近い料理ですが、醤油が入ると南蛮漬け、白ワインベースだとエスカベッシュと呼ぶのだとか。酸味が食欲をそそり、ピーマンの甘みがサーモンにも負けないと大好評でした。
白米との相性抜群! ご飯がかき込める「おかずナポリタン」の衝撃
最後に提案された「ピーマン丸ごとおかずナポリタン」は、ご飯にも合うガッツリ系の一品です。キッチン屋台ではそのナポリタンの調理を実演してくれました。フライパンを熱する前に、オリーブオイル、みじん切りのニンニク、薄切り玉ねぎ、ウインナーをすべて入れます。塩ひとつまみを加えて弱火でじっくり火を通し、玉ねぎとニンニクの旨味と甘みを引き出します。そこにカットしたピーマンを加えて軽く炒め、鮮やかな緑色と食感を残した状態で、パスタとソースを絡めます。そして、もう一つのユニークな調理法が、ピーマンを「丸ごとトースターで焦げ目がつくまで焼く」ことです。丸ごと焼くと内部が蒸し焼き状態になり、驚くほどジューシーで甘みが強くなります。仕上げにこの丸焼きピーマンをパスタに添え、粉チーズをたっぷりかけると、みずみずしさと甘みが圧倒的な存在感を放ちました。こうして、ご飯が進む「おかず」としてのナポリタンが完成したのです。二人は子どものように、ご飯と一緒にかき込んでいました。その完成度が評価され、番組内で「食遺産」に正式認定されました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注2)

今回は、子どもが嫌いな野菜 No.1 のピーマンの話題でしたが、特に最後のナポリタンは、ピーマン嫌いの子どもでも夢中になりそうなメニューで最高ですね。そして個人的に最も衝撃だったのが、追記2の「ピーマンの切り方」です。この話を知って、幼い頃の私がなぜ「青椒肉絲」と「肉詰め」でピーマンを好きになれたのか、その理由がようやくわかった気がしました。料理の中にも、ちゃんと科学があるのですね !!
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注1:NHK『ヴィランの言い分』の特集「ナス」より
注2:テレビ大阪『発見!食遺産』の特集「大阪能勢町のピーマン」より
