上方修正
Skyというゲームを御存じでしょうか?
それは、空を飛びながら、仮想空間を旅するゲームです。
私は、ほぼ、毎日、ログインして遊んでおります。
「こんばんはー」
フレンドと挨拶を交わしました。
フレンドのアバターが、見慣れぬものを振り回しています。
鉄の棒です。
棒の先端からは、炎が上がっていました。
なんだろう?と私はスマホに顔を近づけました。
その鉄の棒が、キャンドルの側をかすめると、明かりが灯されました。
「それは、なに?」
私は、率直に聞きました。
「トーチだよ」
えっ?私は顔をしかめました。
記憶が次第にはっきりしてきます。
トーチ、そうだ、確かに持っていました。
あれは、競技会のアイテムの一つです。
スポーツの祭典をモチーフにしたイベントでした。
「あれかー。そうだ、ありましたね」
私は、ずっと、この攻めのアイテムの素晴らしさを忘れていたのです。
フレンドのトーチには、火焔があがっていました。
じゅぼぉーっと音も出るのです。
火力が以前の倍ほど強くなり、火は煙と共に点くようになっています。
水に入っても消えないという、優れものに変わっていました。
知らないうちに、トーチが上方修正されていたのです。
これは、使いやすい、火炎放射器ではないですか。
私はアバターを着替え場へ向かわせました。
持ち物アイテムの中からトーチを探し、
アバターにトーチを持たせます。

「ふふふ、これよ、これぇ」
悪巧みをする、魔女の顔です。
トーチのノズルは、吠えるように炎を伸ばし、気焔をあげました。
私のアバターはトーチを振りかざし、フレンドのところへ駆けていきました。
いよいよ、冒険です。フレンド、三人で手繋ぎをしました。
皆んなでトーチを出します。
これで、もう怖いものなしです。
相手が物静かなキャンドルだというのに、戦いの気配すら醸します。
三人は、各所に置かれたキャンドルを灯し、次々と光を貰って、進みました。
この光を貯めると、アイテムをもらえるのです。

ログアウトしてからも、喜びは続きました。
私はトーチを掲げるポーズを真似て、姿見に自分を映しました。
ああトーチ。
今ここに、トーチがあれば。
私は、今朝、二度寝してしまったのです。
「二度寝をやめます」と誓ったのに。
買い置きの挽肉が腐りそうなのに、ハンバーグを作れていません。
玉ねぎをむくのが面倒で。
きっと、トーチで全て解決します。
あの炎は、闘魂です。
ブォーッと火がつけば、朝は飛び起きます。
玉ねぎの皮も秒で剥きます。
ちりっと前髪を焼くくらいの火力で、気合いを入れてくれるでしょう。
それこそ、尻に火がつく前にですね。

