きっと
むかし、
小さな子が聞きました。
「ねえ」
「ぼくが生まれる前、
ぼくはどこにいたの?」
大人は、
すぐには答えませんでした。
窓の外では、
風がゆっくり木をゆらしています。
「どこにいたんだろうね」
子どもは、
少し考えて言いました。
「空かな。」
「雲かな。」
「それとも、
まだ見つかっていない星かな。」
大人は笑いました。
「そうかもしれないね。」
しばらくして、
大人は静かに言いました。
「でもね」
「もしかしたら」
「まだ来ていないあいだ、
きみは
ここにいたのかもしれない。」
子どもは首をかしげます。
「ここ?」
大人は、
自分の胸に手をあてました。
「ここ。」
子どもも、
自分の胸に手をあてました。
あたたかさが、
そこにありました。
「じゃあ、
ぼくは
先にここにいたの?」
大人は、
ゆっくりうなずきました。
「きっとね。」
部屋は静かでした。
風が、
また木をゆらします。
子どもは、
少し考えてから言いました。
「じゃあ」
「ぼくも
誰かを待つのかな。」
大人は、
やさしく笑いました。
「そうかもしれないね。」
しばらくして、
子どもは目を閉じました。
生まれる前の時間は、
もう思い出せません。
けれど、
人はきっと、
誰かの中で
少しだけ先に
はじまっている。
©360plants
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