【この季節の残りを、君と】#9 第八章 誰が決めたの?
少年が写していたのは、歩道の形だけではなかった。
図書室で出会ってから一週間ほど経った昼休み、私は廊下の掲示板の前で彼を見つけた。
胸の高さに、「校内で走らないこと」と書かれた紙が貼られている。
その下には、階段の使い方。
窓から身を乗り出さないこと。
先生の許可なく、校門の外へ出ないこと。
少年は方眼ノートへ、一字ずつ書き写していた。
「何してるの」
声をかけたあとで、私は自分から話しかけたことに気づいた。
少年は振り向いた。
驚いた顔をしたが、すぐ掲示板へ視線を戻した。
「決まりを集めてる」
「どうして」
「理由が書いてあるか、見たいから」
ノートには、左右に二つの欄があった。
左に、決まり。
右に、理由。
『廊下を走らない』の隣には、『ぶつかるから』。
『窓から身を乗り出さない』の隣には、『落ちるから』。
『花壇へ入らない』の隣には、『芽を踏むから』。
どの決まりにも、してはいけない理由があった。
一番下の行だけ、右側が空白だった。
『歩道の手すりを越えない』
その言葉は掲示板にはない。
先生から聞いたこともない。
それでも、私の身体の内側には、ほかのどの校則より深く刻まれていた。
「それは、書かなくていい」
少年は鉛筆を止めた。
「どうして?」
「決まってるから」
「だから、誰が決めたのか調べてる」
私は答えられなかった。
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