【この季節の残りを、君と】#4 第三章 父との遠回り
父が迎えに来ない。
校門の時計の長い針が、六を越えた。
一年生の教室は、帰りの会が終わると急に広くなる。
昼間は机のあいだを通るだけで誰かの肩へ触れたのに、今は椅子を二つ引いても、まだ余る。黒板には、日直が消し残した白い雲が一つ浮かんでいた。
私は窓際の席で、ランドセルの留め金を何度も開け閉めした。
かちん。
かちん。
担任の先生が、廊下から顔を出した。
「春陽さん。お父さん、まだ?」
私は首を横に振った。
「おうちへ電話してみようか」
「いいです」
「でも、もう五時半だよ」
「来るって言ったから」
朝、父はそう言った。
今日は母が用事で遅くなる。だから放課後は図書室で待って、五時に父と帰る。
玄関で靴を履きながら、父は腕時計を指した。
五時。長い針が十二、短い針が五。
「学校の門で待ち合わせ」
「一分になったら?」
私が聞くと、父は笑った。
「一分ぶん、走る」
だから、来る。
少し遅れているだけだ。
私はそう思いながら、時計を見た。
五時三十二分。
父は三十二分ぶん、どこを走っているのだろう。
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