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87年前のエンタメ映画「丹下左膳余話 百萬両の壺」

「 丹下左膳余話 百萬両の壺」って、どんな映画?

年代:1935年
分野:時代劇風コメディータッチ人情劇
撮影:白黒
時間:1時間31分(アマプラ版、オリジナルの時間長は不明)

最初に:若い方は?の題名と思うのでミニ解説
丹下左膳は人名。平たく言えば剣士、片目・片腕の怖いキャラ。

物語をひとことで言うと
百万両のありかが隠された壺を、誤ってくず屋に売ってしまった侍を中心にした人情劇。

江戸時代、柳生家の次男が兄から譲り受けた品の中に、みすぼらしい壺があった。兄との待遇差を嘆く次男、柳生源三郎は、婿入り先の奥方の愚痴を聞く内に、嫌気がさして壺をくず屋に売り払ってしまう。

兄は、百万両の隠し場所が分かる家宝を誤って弟に譲ってしまった事に気付き、壺を取り戻そうと画策を始める。しかし、壺はくず屋から貧しい家の子供に渡っていた。

その子の親、七兵衛は金持ちを装い町中の矢場(矢を的に当てて遊ぶ遊興場)に入り浸っている。矢場の用心棒は丹下左膳、内縁?の妻が矢場のおかみ。やがて次男の柳生源三郎も壺の秘密に気付く。

源三郎と兄、壺を持つ七兵衛の子供、矢場のおかみと丹下左膳を軸に、百万両の壺の捜索と争奪戦が進んでいく。

100万両の現在価値は?

江戸時代の通貨の価値が分からないと100万両の重みが分からない。私には全く知識がないので、カシオ計算機が提供しているこのサイトで計算してみた。すると何と1,000億円になる。

1両=10万円を基準としているらしいが、実はこの金額には幅があるようだ。念のため、日本銀行のFAQを確認すると、江戸初期から幕末にかけて価値がだんだん低下、幕末期の最低価格=4,000円位だそうだ。

そこで、4,000円を基準値として計算すると40億円。ということで時代で変わるが100万両=最低でも40億円規模。かなりの大金だ。

旧作、名作といえばフィルムセンターだった

下記は「丹下左膳余話 百萬両の壺」をフィルムセンターが解説した記事の一部。同作品は(2021年9月時点は)アマプラで見られたので、優れた昔の日本映画に興味があればぜひ見て頂ければと思う。

フィルムセンター、昭和55年発行の代60号、P34、「百万両の壺」紹介部分一部
フィルムセンター、昭和55年発行の代60号、映画史上の名作(1)より

私が映画に狂っていた時代、京橋のフィルムセンター(現在の名称は国立映画アーカイブ)には何度か通った。現在もあるので、文献調査、映画の歴史にまつわる展示などアカデミックな視点をお持ちの方には良い場所と思う。日活による作品説明はここから。

山中貞雄の才能が惜しまれる一作

「丹下左膳余話 百萬両の壺」 は山中貞雄という監督が作ったわずかの作品の一つ。映画人としての将来が期待されていたが軍に招集され、わずか28歳で戦死(戦病死)してしまった。

山中貞雄には、映画理論の解説本でも紹介されている著名な「人情紙風船」(※)のほか、「河内山宗俊」(※)、この「百萬両の壺」があるが、5年間しか撮っておらず、フィルムセンターの解説では、この3本が残っているだけという。

父が買ったVHSビデオ「河内山宗俊」が手元にあるのだが、デッキが故障して再生できずアマプラで見た。

「河内山宗俊」のビデオパッケージ

VHSデッキ、レーザーディスクプレイヤーはもはや販売されておらず、その後もDVD、ブルーレイ、ストリーミングなど勝手に方式をどんどん変えていくメーカーに腹立たしさを感じる。DVD以降がいつまで使えるのか不安だ。

本来の姿でない部分を描く面白み

「百萬両の壺」 はまったりとした人情劇のような、コメディー要素のある作品である。丹下左膳というと、片目(刀傷でつぶれた跡)と片手(多分斬り合いで失った)のおっかない侍なのだが、この作品では七兵衛の子供に対し繊細な態度を取るところが微笑ましく描かれている。

おかみも、矢場を経営する女傑、地場では怖い系の存在のはずだが、いざ子供となるとメロメロである。丹下左膳とおかみが、子供の事で言い争いをするシーンは「寅さん」を見るようで面白い。百万両の壺捜索と、背景となる日常との対比が物語の隠し味となっている。

暇で無目的な次男侍の日常を描く

お話しのメインは、隠されたお宝の場所を示す百万両の壺なのであるが、その場所は最初からずっと見えていて観客には秘密でも何でもない。

伏線も何もない。壺が奪われるとか隠されるという事もなく、その場所が目の前にあるのに全然気付かない登場人物が、壺の捜索とは全く関係ない事に振り回されているのが面白い。

壺を探して解決するのが落ちではない。その過程でばたばたする普通の人間の日常の姿を面白おかしく描いている人情物であり、主人公たちはお宝にもあまり興味を持っていない様に見える。

百万両の壺いずこ、と言って大騒ぎしているのは長男だけ。その他の出演者は、目的のない日々のだらんとした、楽しく適当な生活を送っている。

もし山中貞雄が生き残っていたら?

山中貞雄がもし、戦死せずに生き残っていたとしたら、戦後のばたばたした世間の動きをどう描いたのかが気になる所。他の商業主義の監督達とは違う路線を行ったような気もする。

丹下左膳というチャンバラを連想させる主人公をタイトルに置きながら、あえて<余話>として、人情劇を展開させたのは周到な作戦だったのかも知れない。

現在残っている作品は、戦後のいわゆるGHQ検閲(好戦的な映像、例えばチャンバラシーンはNG)で一部がカットされオリジナルとは違うものらしい。失われたカットが気になるほか、原盤の保存状態の問題だと思うのだが、音声が聞き取りづらいのが残念だった。

それでも物語の面白さは一級で、日本人的な人情エンターテイメントものとして今でも通用する内容だと思う。

日活では下記のような復元の取り組みをしていたのでご紹介しておきたい。

ユニークな登場人物

登場人物の内、特にユニークなのはくず屋。二人組なのだが、見た目もユニークだし、立ち振る舞いもユニーク。昔の関西の舞台芸人(たとえば藤山寛美)を見ているような感じで、見ているだけで笑ってしまう。

二人組というと掛け合いだが、この二人には掛け合いはない。ただ、屑を探し、もらったり、拾ってくるだけなのだが、所作にとても味わいがある。

貧乏生活、他に選びようがない生業の屑拾い。その悲しみや苦しみが一切無い。ふわふわと歩いて行き帰ってくる。周囲で何が起ころうがいつも通りの自然体である。

絵で見せる語り口

この作品は台詞で説明せず、絵で流れを見せる演出が多い。丹下左膳が居候している矢場のおかみに対し、何かを言いたいときは招き猫にものを言わせている。今でこそ普通だが、舞台劇風ではなく映画的な演出だ。

次男の不貞(という程ではないのだが)を責める奥方には、着物を丁寧に畳む姿や、女中のバリアの中から次男を監視する姿で語らせている。

次男の鬱屈した気持ちは矢場の景品のダルマで表現する。細かい演出で荒れた言葉を使わないのが良いと思った。

キャスト、監督、スタッフ、制作会社など

キャスト
出演:大河内伝次郎、喜代三、沢村国太郎、山本礼三郎、阪東勝太郎

監督、スタッフ
監督:山中貞雄
原作:林不忘

制作会社、配給会社
制作:日活京都
配給:日活

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