読書感想 『あなたを陰謀論者にする言葉』 雨宮純 「目もくらむほどのたくさんの陰謀論への入り口」
文明は発達してきて、伝達技術も進歩すれば、情報に関しての、人々(自分も含む)のリテラシーも自然に上がるのではないか。
そんなことを思っていたのが、20世紀の自分で、21世紀になってすぐは、その予想は、まだハズれていなかったような気がしていたのだけど、実は、あまりにも素朴すぎる期待だと分かってきたのは、アイフォンが誕生し、Twitterも登場し、多くの人が当たり前のようにSNSを利用するようになってからだった。
特にコロナ禍以降、自分よりもはるかに常識があるように思える人から、ワクチンに関する陰謀論としか思えないことも聞くようになり、どれだけ科学技術が発展しても、そのことに人間の思考や意識は追いつかないのだろう、と身にしみるように分かった気がした。
これからも「陰謀論」(信じる人にとっては、選ばれた人だけが知っている真実になるはずだけど)に対してどのように向き合うのか、については、とても重要なことでもあるだろうけれど、当面できることは、その「入り口」がどこにあるかを知っておくことだと思った。
ただ、「陰謀論」への入り口は、目もくらむほどの多様さがあることと同時に、思った以上の長い歴史があることも、この書籍で少しだけ分かった気がした。
『あなたを陰謀論者にする言葉』 雨宮純
冒頭に登場する人は、とても怪しいのだけど、実在するようだ。
この人物は、自然派でスピリチュアルなヒーラーかつ陰謀論者で、さらにはマルチ商法の販売員だったわけです。
個人的には、こうした人は明らかに存在すると思う。ただ、この多面性のようなものが現代なのかもしれないとも感じるのだけど、この書籍は、そこから、現在の陰謀論につながるような歴史的な話になり、それは、思ったよりも時代を遡ることになる。
第1章が「カウンターカルチャーとヒッピー」だった。それは1960年代の出来事だったはずが、その中で、いきなり知らなかったことに遭遇してしまう。
一夫多妻制は政府がモルモン教を弾圧する最大の理由であり、ここで彼らはその放棄を選びます。
モルモン教が政府の意向を受け入れる態度を見せた結果、ユタは州へ昇格しました。今では州全体がモルモン教の聖地として知られ、さらには大統領候補を輩出するほどの(2012年大統領選におけるミット・ロムニーがそれです)力を持つようになっています。宗教共同体が国家に順応した例と言えます。
宗教も場合によってはカウンターカルチャーのように扱われる場合もあるのだけど、ここまでの大きな動きをしたことは知らなかった。さらに、このカウンターカルチャーから菜食主義、ベジタリアン、ヴィーガン、といった文化も誕生する。オーガニックも、その一つだった。
オーガニックはむしろ高収入層が取り入れるものとなりました。社会的弱者や経済格差を目の当たりにした若者たちが担ったカウンターカルチャーが、経済的に裕福な人々によって消費される状況はやや皮肉な結果にも見えます。
ここに短く描写されているように、1960年代に起こったカウンターカルチャーは、社会の矛盾を目にした若者たちが、世の中を変えたい、という思いで生じたものであるということだろうし、ヒッピーと呼ばれる若者たちも、ベトナム反戦運動などを背景にして誕生したらしい、ということはなんとなくは知っていたし、そうした動きの中ではドラッグも、肯定的に捉えられていたようだ、くらいの知識はあった。
その代表的なドラッグの一つがLSDで、この書籍によると、このドラッグの生みの親はアルバート・ホフマンで、最初は精神治療薬として1947年に誕生し、それが非合法化されたのは1966年なので、約20年ほどは合法的に使用されていたことになる。
一般市民を含む被験者に事前説明なく長期間LSDを投与して精神への影響を観察したり、LSDを服用させた状態で尋問して効果を確かめるMKウルトラ計画が1950年代からCIAによって行われており、これは「本当にあった陰謀」として陰謀論者たちにインスピレーションを与え続けています。
このように、陰謀論には稀に「本物」が存在するため頭から否定することはできないのですが(この他に知られる例としてはトンキン湾事件があります)
少しは知っている歴史的な事実の中に、こうしたエピソードが差しはさまれ、話題はあちこちに広がり、少しめまいがするような感覚になり、読み進めるうちに、パラレルワールドが存在していたような気持ちにもなってくる。
知っている固有名詞と、聞いたことがない思考法
ニューエイジ、という言葉は知っていた気もするけれど、なんだかわからず、スピリチュアルは自分から縁遠いとしても、まだ馴染みがあるようにも思う。ただ、そのあたりの関係性を初めて知ったようにも感じた。
ニューエイジが日本に影響を与えて精神世界が成立し、それを引き継いだのが現在見られるスピリチュアルだからです。
という流れを簡潔に伝えてもらっても、やはりわからないのは、ニューエイジにも精神世界にもスピリチュアルにも、自分自身が、本当に引き付けられたことがないからだろうし、だけど、こうした世界にも、さまざまな歴史の流れがあることは、ほんの少しだけは分かった気もしてくる。
だけど、知っている固有名詞と、当たり前のように語られる知らない思考が混在しているので、時々、同じような時間を生きてきたはずなのに、本当に違う世界が存在しているように思えて、少し怖いような感覚にもなる。
人智学が神智学と異なるのは、教育や農学、医学といった実施的な指針を示したことです。
シュタイナー教育は人智学から生まれた実践の中でも特に有名
スピリチュアルでよく見られる宇宙人は「やってくる」存在というよりは、「交信する」、あるいは「呼び寄せる」存在で、ここを理解しておかないとスピリチュアル系の人と話が噛み合わないことがあります。
こんなふうに当たり前のように語られていることも全く知らなかった。
マクロビオティックとカイロプラクティック
マクロビオティックという名前は知っているし、栄養関係のことだと思っていたし、西洋の影響だと思い込んでいたが、でも、それはニューエイジの思想系に関係あるらしいことも初めて知った。
マクロビオティックは、桜沢如一という日本人が、石塚左玄という軍医の食養論を発展さえて生み出したものです。
マクロビオティックの食事法が、栄養学ではなく東洋思想を根拠にして主張されている。
カイロプラクティックも、新しい整体の流れかと思っていたのだけど、その創始者のパーマーも、スピリチュアリズムに影響を受けていたことも知らなかった。
パーマーはスピリチュアリズムを信仰しており、カイロプラティックについてもジェームズ・アトキンソンという医師と交信し、異世界からメッセージを受け取ったとしていました。
個人的な記憶に過ぎないが、腰を痛めて、整体に行って、最初の施術を受けたとき、宇宙エネルギーの話になり、それで、ちょっと怖くなり、一度で行かなくなって、それから整形外科にも行ったが、やはり牽引の力が強いと感じて、どこにも通わず、自宅療養で治ったが、それはもしかしたら最初の整体が効いたのか、それとも安静にすることで治るほど、まだ体力があったのかもしれないが、それははっきりと分からないままだ。ただ、スピリチュアリズムと関係があるか分からないが、ときおり、いわゆる有名人が整体師によって「洗脳」されたという話題を(それ自体が事実かどうかも微妙なことが多かったが)、何度か聞いたことがある。
栄養と整体というような、身体に関係ある専門家や、その技術を支える思想が、特定の偏りを持っていたとしたら、それは、やっぱり怖いことだ。
現代の影響への多様性
自己啓発は、ビジネス書を支えている思想になっている印象がある。
ニューソートでは考え方を変えることによる神的エネルギーの活用や、心と身体との密接な関連が主張されています。特に実質的な創始者がクインビーという治療師だったことは重要で、ニューソートでは当初から治療や健康への貢献が中心でした。
ニューソートの系譜を引き、現在に至る自己啓発にベースを作った代表格がナポレオン・ヒルです。
この名前なら知っている。『思考は現実化する』という著作名も聞いたことがある。これも、独特な思想が元になっているのを知らなかったけれど、自己啓発の持つ、独特の熱気が不思議だったので、信仰のような思いがもとになっているとすると、納得もいく。
ただ、場合によっては「陰謀論」の入り口になりえる場所が、こんなにあることに、少しぼう然とするような思いにもなる。
さらには、ここまでの話が、カウンターカルチャーやヒッピーが源流にあるので、粗い分け方をすれば「左派」がスピリチュアルと相性がいいと思っていたが、それは単純すぎる見方のようだ。
スピリチュアルは右派とも親和性が高いのです。
そして、そこからは平田篤胤。出口王仁三郎。「竹内文書」など1960年代どころか、戦前から、江戸時代まで遡る固有名詞が登場し、そこにも今でいえばスピリチャル的な思考があったと淡々と指摘されている。
この潮流を取り込んだスピリチュアルに見られるのは、「太古の智慧にすごいパワーが秘められているのではないか」という期待です。これはホゼ・アグエイアス(中略)の「マヤ文明にすごいパワーが秘められているのではないか」という発想と共通しており、カウンターカルチャーから続く反近代志向を持つスピリチュアルは、今とは違う時代、すなわち古代への憧れを持っているのです。
宇宙や、遠い過去など、明らかになっていない場所には、願いや思いなどを詰め込みやすいのかとも思うが、まだ来ていない未来よりも、あったはずの過去や、遠いから見えないけれど存在を信じられるかもしれない現在の宇宙空間の方が、そうした気持ちを向けたくなるのだろうか、とも思う。
ただ、こんなに時間的にも、思想的にも幅広く、「陰謀論」の入り口になりうることがあるのは、想像以上だった。もちろん、スピリチュアルそのものが直接、「陰謀論」ではないのだろうけれど、すでにコンスピリチュアリティという言葉も存在しているようだ。
コンスピリチュアリティとは、陰謀=コンスピラシーとスピリチュアルを合わせた言葉
それが、2021年の合衆国国会議事堂襲撃事件に影響を与えたと言われるQアノンのあり方と関係があったとしたら、やはり問題だとは思う。
実は陰謀論者(特にQアノン)にはスピリチュアルを支持している人も多く、Qアノンシャーマンもその一例です。
しかも、この人物は、オーガニック食品しか食べないとも言われているようだ。
「世界を操る影の支配者にスピリチャアルな次元上昇で対抗」というコンスピリチュアリティの典型パターン
ただ、これは、本気で信じたとしたら、自己実現の一種にもなり得るところが、やはり怖い部分だと思った。
歴史と蓄積
そして、この世界にも有名人がいる。
陰謀論を見ていると非常によく見る「爬虫類型宇宙人」陰謀論を広めたのが、先にも出てきたデヴィッド・アイクです。
こうした人は人生をかけて、陰謀論(と本人は思っていないに違いないが)に向き合っているだろうから、有名になっていると思うと、そこにはいい悪いではなく、凄みは感じる。
新型コロナワクチン関連で広まった陰謀論では、「ワクチンにはナノチップが含まれており、5Gと繋がってしまいコントロールされる」というものがありました。
陰謀論を信じていない人にとっては、なぜこんなことを言っているのか理解できないものですが、実は「イルミナティがマイクロチップを人々に埋め込んで精神や感情をコントロールしようとしている。マイクロチップは無線接続することが可能である」という主張もアイクの著書に見られるものです。
これはさらにUFO陰謀論で取り上げた(中略)「ベータ報告」にもほぼ同じ内容が含まれており、もともと陰謀論者が慣れ親しんでいたマイクロチップ陰謀論が、新型コロナワクチンに適用されていることがわかります。
また、「悪の勢力が人々を誘拐・殺害してアドレノクロムを抽出している」というQアノンで見られる陰謀論もアイクの著書にほぼ同じことが書かれており、私はこれが直接的な源流であると考えています。
外部者からすれば突拍子もない説も、陰謀論に親しんできた人からみれば「界隈では昔からよく言われてきた常識」なのです。
陰謀論には陰謀論の歴史と蓄積があるのです。
だからこそ、とても手強いのは間違いない。というよりも、年月を重ねるほど、陰謀論は成長する、ということになるのだろうか。
自然派とスピリチュアルとマルチ商法はその出自から近く、さらにスピリチュアルと陰謀論は相性がいいために容易に合体してしまいます。
だから、陰謀論の入り口は、想像以上にあちこちにある。
こうした知識と情報を知ることは、現代を生きる人間には必要なことになったと思えるので、あまりにも大量な固有名詞に少し頭がくらくらするかもしれませんが、どんな方でも、「陰謀論」に少しでも関心があるのならば、おすすめできると思います。
(※こちらは↓、電子書籍版です)。
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