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香水ブランド6つの違いと選び方|香水入門 #2/6

「私の分も、ひとつ選んできて」

りょうちょです。
34歳、香水を勉強し始めて2週間の素人です。

前回、新宿の伊勢丹で店員さんに基本を教わってきた話を書きました。濃さと系統さえ分かれば、棚の前で固まらなくて済む。ようやくスタートラインに立てた気分でいました。

その話を彼女にしたんです。得意げに。ムエットを持ち帰れることまで説明しました。

そうしたら、こう言われました。

「せっかくだから、私の分もひとつ選んで欲しい」

来週、彼女の誕生日でした

まさか忘れていたわけではありません。ただ、プレゼントを何にするか、まだ決められていませんでした。

「香水がいい!選んで欲しい。」

助かった、と一瞬思いました。すぐに、いや待てよ、となりました。

彼女は香水をたくさん持っています。棚にずらっと並んでいるのを見たことがあります。近くにいるといつも素敵な香りがします。つまり相手は上級者です。こっちは2週間前まで「オードなんとか」が全部同じに見えていた男です。

その僕が、上級者に贈る1本を選ぶ。

難易度がおかしい。

リクエストがまた難しい

一応、ヒントはもらいました。

  • 愛用している GUERLAIN(ゲラン)は間違いない

  • BYREDO(バイレード)とdiptyque(ディプティック)は持ってないから、もらえたらうれしい

  • イメージは「自立した女性」みたいな感じで

ブランド名を3つ言われて、僕が知っていたのはゼロでした。彼女がGUERLAIN を使ってることも知りませんでした。

そして最後の一言です。

「自立した女性みたいなイメージ」

……香りに、そんな属性があるんですか。

正直に言うと、この時点で僕は何ひとつ分かっていません。分かっていないので、とりあえず検索することにしました。

検索して、なぜか人生を見つめ直しました

まず「自立した女性 香水」と打ち込みました。

出てきたのは、香水の記事より先に「自立した女性の特徴」みたいな記事の群れでした。仕事ができて、精神的に安定していて、他人に依存しない。

……なるほど。

真剣にスクロールしながら、ふと我に返りました。僕はいま、彼女がどういう人間かを検索エンジンに教えてもらおうとしている。それは違うだろ?

そっと戻るボタンを押しました。

やり方を変えます。まずブランドそのものを調べることにしました。

名前がよく挙がるのは、このあたりらしい

調べ直して分かったのは、香水ブランドの紹介記事で名前がよく並ぶのが、だいたいこのあたりだということでした。

BYREDO、diptyque、Maison Margiela(メゾン マルジェラ)、LE LABO(ル ラボ)、Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)。

彼女のリクエストに BYREDO と diptyque が入っていたのは、そういうことだったんですね。ちゃんと流行りのブランドを言われてました。

ここに GUERLAIN を加えた6つを、ひとつずつ調べました。以下、素人が調べてまとめたものです。詳しい方には常識だと思いますが、僕にはひとつひとつ発見でした。

まず驚いたのが、創業年がとんでもなくバラバラだったことです。

GUERLAIN(ゲラン):1828年から続く、香水の家系

いちばん驚いたのが GUERLAIN でした。

創業は1828年です。江戸時代です。Pierre-François-Pascal Guerlain(ピエール・フランソワ・パスカル・ゲラン)という人が、パリのリヴォリ通りに店を開いたのが始まりだそうです。

もともとは石鹸を売っていて、そこから香水へ。ヨーロッパの王侯貴族に気に入られ、皇后に献上した Eau de Cologne Impériale(オー デ コロン イムペリアル)で帝室御用達になった、と。

ここで前回の記事とつながりました。Eau de Cologne。ケルンの水です。あの話がこんなところで戻ってくるとは思いませんでした。

代表作もすごい。1889年の Jicky(ジッキー)は、合成香料を使った近代香水の草分けとして評価されているそうです。ほかに Mitsouko(ミツコ)、Shalimar(シャリマー)、Vol de Nuit(夜間飛行)。名前だけでも雰囲気があります。

さらに面白かったのが Guerlinade(ゲルリナーデ)という言葉でした。Guerlain 家に代々受け継がれてきた調合法のことだそうです。一族で調香師を続けてきたブランドなので、そういうものが存在する。

200年近く同じ家が香りを作り続けている。彼女が「GUERLAIN は間違いない」と言った意味が、少し分かった気がしました。


diptyque(ディプティック):3人の友人が始めた「何でも屋」

こちらは1961年、パリ。ブランド名は小文字で diptyque と書くのが正式だそうです。

創業したのは3人のアーティスト。画家の Desmond Knox-Leet(デスモンド・ノックス=リット)、インテリアデザイナーの Christiane Montadre-Gautrot(クリスチャンヌ・モンタドル=ゴトロ)、そして Yves Coueslant(イヴ・クエロン)。友人同士だったそうです。

彼らがサン・ジェルマン大通り34番地に開いたのは、香水店ではありませんでした。世界中から集めたオブジェやアンティークを並べた店で、公式サイトの表現を借りると「何でも扱う商人」。いまで言うコンセプトストアの先駆けですね。

香水ブランドとして始まったわけではない、というのが個人的にはかなり刺さりました。旅で見たもの、集めたものが香りになっていったという順番。

代表的な香りは Do Son(ドソン)、Tam Dao(タムダオ)、Philosykos(フィロシコス)あたり。名前が地名だったり植物だったりするのも、この成り立ちを知ると腑に落ちます。


Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン):香りを「重ねる」という発想

1990年、ロンドン。Jo Malone(ジョー・マローン)という女性が立ち上げたブランドです。1999年からは Estée Lauder(エスティ ローダー)傘下になっています。

ここが面白いのは、香りの売り方そのものが違うところでした。

Scent Layering(セント レイヤリング)。ひとつの香りで完結させるのではなく、2種類を重ねて自分の香りを作る、という考え方です。公式には「400の香りの組み合わせ」をレイヤリングで表現する、と書かれていました。

商品名も特徴的です。Lime Basil & Mandarin(ライム バジル & マンダリン)、English Pear & Freesia(イングリッシュ ペアー & フリージア)、Wood Sage & Sea Salt(ウッド セージ & シー ソルト)。素材の名前を & でつないである。何と何でできているかが、名前の時点で分かる。

素人にはこれ、かなりありがたい設計です。「ウッディ」とだけ言われてもイメージが浮かびにくいですが、「木と塩」と言われたら、まだ手がかりがある。

とはいえ正直に書くと、木と塩を同時に嗅いだ経験がないので、結局どういう匂いなのかはピンときていません (そもそも塩に匂いなんかあったっけ・・・)。
「まったく分からない」が「たぶんこっちの方向」になった、くらいの前進です。

BYREDO(バイレード):記憶を香りにする、新しいメゾン

一転して、こちらは2006年創業。GUERLAIN の178年あとです。

ストックホルム、つまりスウェーデン発。Ben Gorham(ベン・ゴーラム)という人が立ち上げました。元々はプロバスケ選手だったそう。

公式サイトにこう書いてあります。「記憶や感情を、形あるものや体験へと昇華させたいという想いから生まれた」。そして自分たちのことを「共通の記憶や文化的リファレンスを紡ぎ出す生きたライブラリー」と呼んでいる。

香りそのものより先に、コンセプトの話をしているんですね。スカンジナビア・ミニマリズムと大胆な芸術表現のバランス、とも書いてありました。

人気なのは Gypsy Water(ジプシー ウォーター)、Mojave Ghost(モハーヴェ ゴースト)、Blanche(ブランシュ)、Bal d'Afrique(バル ダフリック)、そして Rose of No Man's Land(ローズ オブ ノー マンズ ランド)。

最後のこれ、名前で手が止まりました。「誰もいない場所に咲くバラ」。……気になります。この話は次回以降で。


LE LABO(ル ラボ):香りを「その場で作る」ラボ

BYREDO と同じ2006年、こちらはニューヨーク。しかもこちらも友人同士の2人が始めています。同じ年に、別の大陸で、似た始まり方をしているのが妙に面白かったです。

1号店はマンハッタンのノリータ、Elizabeth Street 233番地。公式は自分たちを「スローパフューマリー」と呼んでいます。

特徴は、店で香りを調合すること。そしてボトルのラベルに自分の名前を入れられること。買った瞬間に自分のものになる設計です。

もうひとつ好きだったのが、原料の産地を公開しているところでした。サンダルウッドはオーストラリアの Kimberley(キンバリー)、ローズはフランスの Grasse(グラース)、ベルガモットはイタリアの Reggio Calabria(レッジョ・カラブリア)。

香りって、どこかの土地で採れた植物から始まっているんですよね。当たり前なんですが、産地名が並んでいるのを見て初めて実感しました。


Maison Margiela(メゾン マルジェラ)「REPLICA」:香りで記憶を再現する

最後は Maison Margiela です。ファッションブランドという認識しかありませんでした。

香水のラインは REPLICA(レプリカ)といいます。公式の言葉では「忘れられない感覚や感情から生まれた」フレグランス。

面白いのが商品名です。Lazy Sunday Morning(レイジー サンデー モーニング)、Jazz Club(ジャズ クラブ)、By the Fireplace(バイ ザ ファイヤープレイス)、Sailing Day(セーリング デイ)。全部が場面の名前なんです。

しかも各商品に「Memory」として、いつ・どこの記憶なのかが設定されている。たとえば新作の Up at Dawn(アップ アット ドーン)は、Memory がイングランドの Windsor(ウィンザー)。夜明けのローズガーデンの香りだそうです。

香りに名前をつけるんじゃなくて、記憶に香りをつけている。この発想は、素人が読んでも分かりやすくて楽しかったです。

調べて分かったこと

6つ並べてみて、いちばんの発見はこれでした。

ブランドごとに、香りの向こう側にある話が全然違う。

  • GUERLAIN は200年の家系と伝統

  • diptyque は3人の友人と旅の記録

  • Jo Malone London は香りを重ねる楽しさ

  • BYREDO は記憶と感情のライブラリー

  • LE LABO は調合とクラフトマンシップ

  • Maison Margiela は場面の再現


香水って、瓶の中身だけを買うものだと思っていました。でも実際は、そのブランドが何を面白いと思っているかごと選ぶものらしい。

そう考えると、「自立した女性みたいなイメージ」というリクエストも、少しだけ手がかりが見えてきます。香りの成分ではなく、その香りに込められた話を探せばいいんじゃないか。

とはいえ、ここまではまだ全部パソコンの中の話です。

次回、実際に店に行きます。1日では回りきらなさそうなので、2日に分けることにしました。

まずは1日目、新宿の伊勢丹で diptyque から。

次回はこちらです。

この連載は、このマガジンにまとめています。

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