行政・国交省・農水省の支援による新潟県南魚沼市下出浦ため池での散水車による給水作業の考察
小泉農林水産大臣が視察した行政を含め、国交省と農水省も支援している新潟県南魚沼市下出浦ため池での散水車による給水作業を批判する内容のポストが多々見受けられました。実際どの程度の効果があるのか、気になったので公開情報からわかる範囲の数値から勝手に検証したくなったのでしました。
あまりにも長くなりすぎたのでnoteにまとめてみました。
前提情報として小泉さんが視察に行った新潟県南魚沼市にある「下出浦ため池」
堤高9m
余裕高1.4
設計洪水位7.6m(堤高ー余裕高)
堤の一辺は衛星写真から測定して120m程度と推測
法面勾配1:2.1
総水量66000㎥
現在の貯水量は10%で6600㎥
受益面積は17.8ha

下出浦ため池の情報は平成29年度新規採択希望(着工地区)ため池等整備事業 (地震対策ため池防災) 地区概要表より抜粋。
考察した当時の時間である2025/8/5 11時現在の南魚沼市の天気は
晴れ
33℃
湿度 57%
風速 2m/s
1004hPa
堤の一辺を120m程度の正方形と仮定し、法面勾配から底辺の長さを求めた。
比率1:2.1ということは1m下がると2.1m内側に向かう斜面なので、堤高9m分下がると内側に18.9m分ずれる。対面の堤も同様にずれるので堤の頂点の一辺より37.8m短くなる。
したがって底面の一辺は推定82m程度

底面の一辺は推定82m。
上面と底面の一辺の長さがわかったので、ため池を底面も上辺もそれぞれが等しい4辺であるとした四角錐台とした。
法面勾配から一辺の長さを求める計算式と四角錐台の体積を求める式を使用して水位ごとの体積と面積を求めた。
その値を一覧にしたものが添付した図。

下出浦ため池は総水量66000㎥(概要表より抜粋)
現在の貯水量は10%で6600㎥
数値から計算すると水深は推定0.9m
貯水率10%なら水深は1メールを切っている可能性が高い。
ここまでが計算に必要な前提条件。
小泉さんが視察していた際に給水に使用していたのが4t(4000L)散水車
4tは4㎥。
蒸発を考慮せず、66000㎥を0から満水にするには66000÷4=16500回
こうしてみるとなかなか強烈な数値ではあるが、そもそも満水にする必要はない。
水の蒸発量は環境によって左右されるが、
蒸発の計算にはネット上の計算ツールを先ほど求めた値と当時の気象条件を元に利用した。
①1㎡あたり0.054mm/h
②1㎡あたり0.154mm/h
しかし値が相当異なるので数値がより厳しい②の1㎡あたり0.154mm/hを使用する。
① https://cattech-lab.com/science-tools/evap-water/
② http://k-ichikawa.blog.enjoy.jp/etc/HP/js/vapor/vap0.html
蒸発の計算には上記の計算ツールを利用した。
1㎡あたり0.154mm/hだとして24時間で1㎡あたり3.696mm/日
実際には湿度や風速など複数の要因で左右されるので、実際の数値は変動する。
統計データでは北海道で年間1㎡あたり500mm、西南日本で1㎡あたり1000㎜程度とされている(「湖面や海面の蒸発」近藤純正)
一応、今回はより厳しい値で考察しますが、「湖面や海面の蒸発」から察するに当該地域は年間500mm(1.36mm/日)から1㎡あたり700mm(1.92mm/日)程度ではないかと考えられる。その場合は①のデータが近い(1㎡あたり0.054mm/h×24h=1.296/日)
厳しい方の②1㎡あたり0.154mm/hを前提として
10%貯水量の6600㎥から4t散水車による給水を実施したとする。
24時間で1㎡あたり3.696mmの減少として、水位90cmから91cmになるように注水する場合、1cm分で73.96㎥。水位90cmから90.5cmの場合で36.97㎥。
1cm分で4t散水車約18.5回分。0.5cm分で9回ちょっと。10回で超えます。
散水車のくみ上げ能力では15分から30分で4000Lを満水にできるそう。
吐出量は300~770L/分なので300Lだとしても4000Lは800秒、13分20秒で4000Lを注水できる。
近くの宇田沢川までは約1㎞で車で5分程度。
宇田沢川は1級河川ではあるけれど流水量が不安なので、宇田沢川も合流する近くの1級河川の魚野川までが6㎞で12分程度。
2025/8/5 午前11:00現在ライブカメラ(八色大橋上流)で見る限り十分な流水量がある。
川での汲み上げで30分、ため池への給水で15分、移動で往復30分だとすれば1時間15分で1回の注水が完了する。10回行えば一日の蒸発量分は確保できる。2台なら5回。1台なら12時間30分、2台なら6時間15分。3台なら2時間。1cm分注水したいとして20回輸送を5台でやれば4往復。5時間で完了する。
あれ?意外とすんなりできそうだなって思っちゃったわけです。
無駄どころか、蒸発分はどんどん取り返せるやんこれって。今回は24時間昼間レベルで蒸発しまくってる想定でやってますが、夜になれば蒸発量も落ち着くわけでそう考えると余計になんとかなりますよね?これって。
まぁ調べていくうちに蒸発よりもっとまずいことに気が付いたのでそれに対する対策だとしたら文字通り「やらないよりかはましだけど、焼け石に水」でしたね。ちゃんとあとで述べます。では話を戻しまして。
実際には農業用水として出水に制限をかけてるとは思うが、一定量は放出されていくので残りの水深90cm分すべてをそのままにできるわけではないとは思う。90cmの水を蒸発のみで枯渇させるには24時間で3.696mmの減少なら240日程度かかることになるわけで…(そういう話じゃないんだけどね)
農業用水として使用しているから最低限の量はどうしても使用せざるを得ない。でも1cm分で73.96㎥はLに直すと7.4万Lになる。受益面積は17.8haなので1haあたり4000L程度は水を利用することができる。
しかし、間断潅水中ないしは湛水中だと思われる8月頭の水田で必要な水の量は浅水で3cm、深水で5cm。間断潅水をするために水を張りなおすなら1haに3cm分の水は30万L、5cm分は50万Lと結構かかります。
湛水中ないしは間断潅水中で水を貯めている状態でも1haの稲は暑い夏なら1日約65トンの水を吸いますので、最低6.5万Lの水が必要です。そうすると、せっかく給水した1cm分の水は1ha分の稲に概ね吸われてしまいます。
つまり水田の稲の給水量の方がよっぽど問題なわけで、これを17.8ha分補うには1157トンの水が1日に必要でそれは1157㎥。水位90cmからなら追加で15cm分以上が必要になる。それこそ1157トン/日は4t散水車で289.25台分。
10台あっても30往復、37時間30分。50台でようやく7時間30分。100台で3時間45分。
蒸発分の補充は現実的なので、ため池の保全としては十分に機能しますが、稲への給水という観点では非現実的です。
ただし、8月5日から7日まで雨が降る予報なのでこの降水量が合計で33mm。周辺の山々から流れ込む量はざっくりな面積計算でも100万㎡分あるので、4.95万㎥分。
実際には全量は流れ込まないので、そのうち1割だとしても約5000㎥で5000トン、500万L分の水。これで5日間分の稲の給水分は給水可能。来週末も16mmほどの降水が予報されているので、それでさらに2500トン。これだけあれば取り敢えず落水までは持ちそうだな、と素人目に思います。
水田に直接水を入れた方が効率的だろ!という意見もよく見かけますが、それも実施しているところは実施しているので、正解なのでしょう。水田を維持することが最優先ならばですが。今回の場合はため池の保全が最優先だったのではないかと思います。
ため池って結構デリケートなもので、一度水を完全に枯らしてしまうと乾いた粘土質の土がひび割れたりして水が抜けるようになってしまったり、強度の低下を引き起こすそうで。もちろんメンテナンス等で枯らすこともあるようですが、少なくとも今実施する時期ではありませんね。
もし今やってしまうと水を貯めることができなくなり、その結果としてこの時期やるはずの間断潅水という水を張ったり抜いたりして地中の換気を行うことができなくなってしまうからです。
水の利権というのは昔から戦争にもなるような争いの火種になることも多く、農家の間でも水の有り無しで文字通り殴り合いの喧嘩が起こることもないとは言い切れません。だからこそ農家の方々は水の管理を共同で行ったり、ルールが決まっていることが多い訳です。
「お前のところが水を多く取りすぎたせいでまともに育たなくて、こっちは一年暮らせなくなったんだぞ!」なんてことが昔はあったはずです。いまもあるとは思いますが…そういった経緯もある中、一部の水田にだけ水を配るもんなら争いの一つも起きると思います。
それならため池に給水して、全体に均一に配った方がいいよね。という考えも理解できます。散水車をもっと用意できるなら各水田に配る方が正解なのでしょう。ただ、限られたリソースで不平不満なく給水するとしたら今回はため池に給水するのが正解だったのではないでしょうか?
今回の騒動は個人的には「今後の降雨予報を考慮した上でその雨の貯水池でもあるため池の保全を最優先とした上でやらないよりはマシではあるし、蒸発分くらいは給水できるからやろう」といったような判断だったのではないでしょうか?
ここまで色々述べてはいますが、一個人の、米栽培も農業も趣味程度でちょっとだけしかやってないただの一般リーマンの発言ですのでご参考程度にしていただければと思います。計算ももっと綿密に、蒸発量も実証すべきだとは思います。さすがにそこまでの熱意はありませんw
