移住日記/Week13_アメリカのシステムの謎さに振り回されました
歯医者の謎の請求/85ドル→後に0ドル
それは、先週末の土曜、のんびりしていた昼下がりにやってきた。
歯医者からのメールである。
件名は、
「INVOICE!」
軽い。
妙に軽い。
日本語にすると「請求書きたよー!」くらいのテンションである。
どう考えてもスパムっぽい。
中身を見ると、先日治療した虫歯関連の請求らしい。
しかし、おかしい。
あのとき、受付の人にも説明を受けたし、支払いも済ませたはずである。
とはいえ、アメリカなので「もしかしたら何か追加であるのかも」と思ってしまうのが怖いところだ。
請求書に載っていたメールアドレスへ問い合わせを送ってみた。
すると、「そのメールアドレスは存在しません」と返ってきた。
ますますスパムっぽい。
だが逆に、スパムだとしたら詰めが甘すぎる。
オレオレ詐欺で振込先の口座番号を間違えるようなものである。
ただ、請求書に書かれている他の情報は妙に正確だった。
本物っぽい。
でもメールアドレスは存在しない。
もう、どっちなんだ。
困ったときのChatGPTである。
相談すると、「アメリカの医療請求はよくわからないことも多いので、とりあえず問い合わせたほうがいい」とのこと。
なんでも、「保険調整前に間違って請求が飛ぶ」みたいなことが普通にあるらしい。
ほんとか、アメリカ。
というわけで月曜、苦手な英語電話をすることに。
事前にChatGPTに台本を作ってもらい、その通りに喋っていたのだが、英語が通じたことが嬉しくなって、途中で調子に乗ってしまった。
「メールアドレスに連絡したけど届かなくて、スパムかと思ったんですよね」
余計な一言である。
後でChatGPTに報告したところ、
「そういう無駄に喧嘩を売る発言は不要です」
と冷静に返された。
ですよね。
ただ、電話自体は無事終了。
細かい説明はSMSで送ってほしいと頼むと、相手も快く了承してくれた。
そして驚いたのはここからである。
電話を切って5分後。
「保険調整前に請求が出てしまっていました。支払い不要です」
というメッセージが届いた。
早い。
びっくりするほど早い。
というか、本当に「とりあえず請求飛ばしちゃえ」が存在するのだな、アメリカ。
どうやらこちらでは、「納得できない請求はまず問い合わせ」が基本スキルらしい。

コレステロールの薬/保険適用で5ドル
続いてもシステムの話。
保険の話である。
アメリカに来てから、ずっと悩まされていたことがあった。
薬に保険が適用されないのである。
渡米から3か月。
かかりつけ医を作ったほうがいいよね、ということで、友人おすすめの病院に行った。
血液検査やら何やら受け、「まぁ大丈夫そうですね」という空気だったのだが、そうではなかった。
中性脂肪とコレステロールが引っかかった。
ちなみに、この2つは日本時代からの付き合いである。
なんなら尿酸値も高い。
ただ、尿酸は今回は引っかからなかった。
国によって基準が違うらしい。
そう思うと、「日本では問題児扱いだったのに、アメリカでは普通」というケースもあるのだろうか。
人間関係みたいだ。
で、医者がサラッと薬を出すタイプだった。
日本だと「まずは食生活からですねぇ」と数年様子を見るイメージなのだが、こちらは早い。
様子を見るなどという曖昧さはないのだ。
正直ちょっとビビった。
コレステロールの薬って、一回飲み始めると一生飲むイメージがあったからだ。
しかし問題はそこではなかった。
保険が効かない。
相方の保険に加入させてもらっているのに、なぜかシステム上でうまく認識されないのである。
アメリカでは、保険情報を登録しておくと、Amazon Pharmacyでも保険価格で薬が買える。
便利である。
だが、その便利システムが動かない。
しかも薬というのは、保険が効くかどうかで値段がまるで違う。
今回の薬はジェネリックなのでまだいい。
しかし薬によっては、笑えない金額になる。
ここから私の「保険適用事件簿」が始まった。すでに気分は船越英一郎か片平なぎさである。
まず疑われたのは、生年月日の入力ミス。
相方がHRに確認してくれたが、「DOBは合っています」との回答。
では病院か?
「処方箋の生年月日が違うのでは……」
心の中の船越英一郎と片平なぎさがざわつく。
しかし病院も「うちは正しい」。
となると薬局か?
Amazonに問い合わせるが、出てくるのはAIチャットばかり。
「Speak to real person!」
とスマホに向かって話しかけても、返ってくるのは人工音声。
しかも腹立たしいことに、背景で「カチャカチャ……」とキーボード音まで鳴らしてくる。
仕事してる感の演出である。
そして、全員が言う。
「うちは悪くない」
たらい回し。
完全にたらい回し。
アメリカのシステム、不具合にハマると本当にしんどい。
そんな中、この問題は意外な形で解決した。
再度HRに確認してもらったところ、なんと私と相方に同じSSNが紐づいていたらしい。
そんなことある?というか誕生日はなんだったの?
まさに、「そんなところに真犯人が!」という、西村京太郎と山村美紗もびっくりな展開である。
さらに驚いたのは、正しいSSNに修正してもらった瞬間、今まで沈黙していたAmazonや薬局から、
「保険価格で準備できました!」
という通知が一斉に届き始めたことだ。
急に仕事が早い。
こうして無事、コレステロールの薬を入手。
ちなみに以前、「Amazonのほうが保険より安い」と書いた気がするが、あれはシステムが壊れていただけだったようだ。
薬代は下がった。
あとはコレステロール値そのものが下がってほしい。
居住者証明書/85ドル
最後もまた、システムの話である。
こちらに来て3か月。
今後に備えて、IRSへ居住者証明を申請していた。
これがあると、日本側で20.42%源泉徴収されず、アメリカ側で納税できるようになる。
要するに、「ちゃんとアメリカ住んでますよ証明」である。
手続きを始めたのは2月。
渡米直後だった。
あの頃は、何もかもにビビっていた。
スーパーの値段にも、病院にも、UPSの送料にも。
IRSへ書類を送るだけで20ドルかかったときは、「紙送るだけで!?」と白目をむいたものだ。
しかし気づけば5月。
テキサスはすっかり暑くなり、散歩道には上半身裸で走る人まで現れ始めた。
だが、書類は来ない。
さすがに痺れを切らし、IRSに電話することにした。
また電話である。
「ただいまの待ち時間は15〜30分です」
さらに驚いたのは、iPhoneが
「相手が出たら通知しますか?」
と提案してきたことだ。
そんな機能あるの?
試してみたところ、本当に30分後くらいに呼び戻された。
蕎麦屋の出前か。
そして電話口に現れたIRS職員。
めちゃくちゃ早口だったのだが、こちらが英語苦手と察すると、急に優しくなった。
「いつ送ったの?」
「2月下旬です」
すると彼は笑いながら言った。
「ははは。今ちょうど1月末到着分を見始めたところだよ」
その「ははは」が妙に軽く、私はなぜかビバリーヒルズ青春白書で「おれっち」とアテレコされているあのキャラクターを思い出してしまった。
名前は思い出せないが、お調子者の彼である。今調べたらスティーブというらしい。
で、その翌日。
突然IRSから封筒が届いた。
「えっ、ディラン、仕事した?」
と思って開封すると、中身は、
「これから内容確認します。何かあれば30日以内に連絡します」
という通知だった。
3か月待たせたうえで、「これから見ます」の手紙だけ送ってくる。
ディランは何だったのか。
そしてやっぱり、アメリカという国は、まだよくわからない。

