移住日記/Week8_ようやく運転免許が取れました
ENJOY TODAYの鳥もも肉/4.30ドル
値引きシールに興奮するようになったのは、いつからだろうか。
気づいたときには、もう遅かった。
先週も値引きの話を書いた気がするが、今週も値引きである。こうなると、もはや趣味と言っていい。いや、ほぼ趣味である。
ここでひとつ、過去の告白しておきたい。相方にも話したことのないことだ。
スーパーで半額シールの貼られた惣菜を見ると、明らかに食べきれない量まで買い込んでしまう癖があり、それを真剣に悩み、ラジオに相談したことがある。相談先はジェーン・スーさんの番組である。そして、採用された。
なぜそんな相談を送ったのか。そして、なぜ採用されたのか。
今となっては両方とも謎である。
「半額の惣菜を必要以上に買ってしまう」という、人生の中でもかなりどうでもいい部類に入る悩みに対して、返ってきた答えは「冷凍して後日食べろ」だった。実に正論である。
そのとき、SNS上で「わかる〜私もやる〜」という声を見かけて、妙な連帯感を覚えたことも記憶に新しい。同志がいる。少なくとも、値引きに関しては。
話が長くなった。
アメリカのスーパーにも、当然ながら値引きはある。
ただし、その表現がやけにおしゃれなのだ。
初めて見たとき、一瞬、何のシールなのかわからなかった。
いや、さすがに「50%OFF」と書いてあるので半額なのはわかるのだが、日本のあの赤と白の「お得でっせ!」という圧がない。黄色地に黒文字。控えめである。遠慮がちである。どこかのファッションブランドの値札くらい遠慮がちだ。
そしてその上に書かれている一文。
「ENJOY TODAY」。
最初は「良い一日を」的な挨拶かと思った。なぜ半額の肉にだけ挨拶をしてくるのかは謎だったが、深く考えなかった。
しかし、よく見ると、そこには「SELL BY」の日付が今日になっている。
つまり、「今日中に楽しんでね」という意味だったのである。
なんというポジティブな言い換えだろうか。
「今日が賞味期限です」とは言わない。
「楽しめ」と言ってくる。
なお、この「ENJOY TODAY」はクッキーや菓子パンにも貼られている。
直径20センチはありそうなイチゴタルトに貼られていたときには、かなり心が揺れた。ほぼカゴに入れかけた。
その瞬間、相方が「私たちはコレステロールに気をつけなきゃいけないんだから」と冷静に言った。
正論である。いつもそうだが、正論はだいたいこちらの勢いを止める。
危うく「冷凍すればいいか」という思考に入るところだった。ラジオの記憶がこんなところで蘇るとは思わなかった。
結局、その日は半額の鶏もも肉だけを買い、夕食として普通に食べた。
「今日を楽しめたか」などと自問することもなく、ただ普通に食べた。

乾燥機/499ドル
アメリカで地味に驚くことのひとつに、「家電がついてくる」という文化がある。
中古住宅を買うと、前の住人が使っていた冷蔵庫や洗濯機や乾燥機が、そのまま残っていることがある。新品でもないが、捨てるほどでもない。そういう絶妙な状態で置いていかれる。
我が家も例に漏れず、全部ついてきた。
そして全部使える。
「使えるものは使う」という相方の方針のもと、そのまま使い続けているのだが、どうやらこれらの家電、2000年前後のものらしい。
四半世紀。よく持ったと言うべきか、そろそろ限界と言うべきか。
そして今、順番に壊れている。
しかも、私が来てからである。
これはもう、ほぼ私のせいではないかと思いたくなる。
相方いわく「扱いが雑」らしい。アメリカ製のしかも20年そこそこなど、人間で言えば健康そのもので頑丈だけが取り柄ではないか。
しかし、人間ではなく、家電であった。やはり事情は違うらしい。
今回は乾燥機が壊れた。
正確には、熱風が出ない。
1時間回しても、仕上がりは「しっとり」である。
乾燥機とは何かを問い直したくなる状態だ。
唯一まともに乾くのがポリエステルの服で、「冷たいけど、まぁ乾いてるかな」という不思議な仕上がりになる。これを乾いたと呼んでいいのかは議論の余地がある。
日本なら「部屋干しでいいじゃない」となるが、こちらではその発想がない。干す場所も道具もない。
洗濯→乾燥機→畳む(またはクローゼットに押し込む)が一連の流れである。
というわけで、新しい乾燥機を購入した。
途中、「洗濯乾燥機一体型もいいのでは?」という話も出たのだが、まるで会話を盗み聞きしていたかのように、YouTubeが「乾燥機能が弱くなった原因はホコリでした!」みたいな動画を流してきた。
確かに乾燥機を回してみるとホコリのすごさに驚く。日本で部屋干しをしているときにはあまり気づかなかったが、服のホコリが部屋の汚れにつながっているのだろうか。結局、洗濯機はまだ元気そうなので、乾燥機だけ買い替えることにした。
なお、この原稿を書いている時点では、まだ届いていない。
しかし、最新型、人間で言えばZ世代の乾燥機である。Z世代らしく「そんな環境負荷の大きい素材で作った服とか乾かせない」とか言わないでほしい。ちゃんと乾かしてくれることを祈るのみだ。
運転免許の書き換え/0ドル
アメリカに来て最初の関門は、運転免許だった。
最初は「国際免許でなんとかなるのでは」と軽く考えていたのだが、どうやらそうもいかないらしく、「移住後3か月以内に取得」というルールがあるらしい。
そのため、日本にいるうちから学科講習をオンラインで受けたり、Texas Department of Public Safety(通称DPS)の予約を取ったりと、地味な準備を進めていた。
この学科講習のビデオが、なかなかに強烈である。
スマホ運転や飲酒運転の危険性を伝える内容なのだが、出てくるのが実際の当事者や被害者。完全にドキュメンタリーである。
日本の「再現VTR」とは違う。こちらは現実である。
見終わると、しばらく運転したくなくなるレベルだ。
それなのに、飲酒運転が完全に違法ではないあたり、アメリカという国の奥深さを感じる。
話を戻す。
2月下旬、「これで試験を受ければ免許だろう」と思ってDPSに行ったところ、なぜか仮免(Learner Permit)だけ渡されて終了した。
その後、改めて実技試験の予約を取り、合格し、ようやく今回、本免許への書き換えとなった。
その書き換えのアポイントも、なぜか免許の書き換え目的での項目でアポが取れず、やむなく別の項目でアポをトラざるを得なかった。そのため、「アポイントの項目が違うから受け付けられないわ」などと塩対応されるのではと一人無性に怯えていたのである。
物事が何故かうまくいかないケースが発生するのがアメリカ。
日本にいたとき、ときどき、「何もしていないのにパソコンが壊れました」などという人を見かけ、「そういうのって絶対、何かしているよね」などと友人たちと話していたのだが、こちらでは、自分がその事象に出くわしてしまう。
あのときはあんな冷たいことを思って申し訳なかった。と、一人反省するが、どうにか免許だけはほしい。神様仏様である。
で、今回、DPSに申請に出かけた。
だが、その結果、あっけなく申請は通った。
ホッとした。本当にホッとした。
どれくらいホッとしたかというと「2週間くらいで免許は届くと思うわ」と答えてくれた受付の女性に「Have a nice weekend!」と高らかに言って苦笑されたくらいである。
まぁ、しかし、一安心である。
お陰でその晩はぐっすり眠り、AppleWatchの睡眠アプリから「睡眠スコア99点!」とお褒めの言葉をもらったくらいだ。

