移住日記/Week20_ハエを叩き、MASS MoCAで価値観について考えました
Targetの大判セロハンテープ/3.5ドル
先週の熱波の名残なのか、今週は大量のハエと格闘することになった。
ハエ退治といえば、まず必要なのはハエたたきである。
しかし、ここはアメリカ、マサチューセッツの片田舎。
ホームセンターへ行けばあるのかもしれないが、近所で気軽に手に入りそうな気配はない。
そんなときこそ、「なければ作ればいいじゃない」の精神である。
思えばアメリカへ移住してから、日本では当たり前に手に入っていたものが案外手に入らないという場面に何度も出くわした。
そのたびに、「まぁ、何とかなるか」という妙な精神力だけは身についてきた気がする。
ポン酢が恋しくなったときなど、醤油にレモン果汁を混ぜて、「これ、なんとなくポン酢っぽくない?」と自分を納得させてきたではないか。
人間、案外適応するものである。
というわけで、ハエたたきも自作することにした。
数日前にTargetで買ってきた幅広のセロハンテープ。
そしてTrader Joe'sの紙袋。
紙袋を折り畳んでハリセンくらいの大きさにし、ぐるぐるとテープで巻く。完成である。
材料費はほぼゼロ。
見た目は学園祭の工作である。
かくして我が家のハエ退治が始まった。
ハエは光のあるほうへ集まるのか、窓際にずいぶん集結している。
そこで相方と交代しながら、
「パシッ。」
「パシッ。」
と叩いていく。
もちろん空振りも多い。
しかし、だんだん当たるようになる。
すると相方が、「これ、なんかストレス解消になるね」と言い始めた。
そういえば高校時代、世界史の先生が、
「人類の歴史っていうのは、棒切れで人を叩く快感をいかに我慢してきたかの歴史なんだ」
と言っていたことを思い出した。先生、お元気だろうか。
当時は何を言っているのかわからなかったが、今になって少しだけわかる気がする。もちろん相手は人ではなくハエなのだが。
かくいう私も、
「とおっ。」
「おりゃ。」
などと声まで出しながら夢中で叩いていた。
そのうちハエのほうも暑さで弱っていたのか、窓際で動かなくなるものが増えてきた。
最後は少し申し訳なくなり、Targetで買った大判のセロハンテープでそっと包み、そのままゴミ箱へ。
ハエたたきというより、最後は梱包作業だった。
そんなハエとの攻防戦が終わった翌日。
熱波もようやく去り、休みだったこともあって、少し離れた街にあるMASS MoCAという現代美術館へ出かけた。
現代美術というのは、昔からよくわからない。
「何これ?」
と思わせるところまで含めて作品なのだろうと思うのだが、今回もよくわからなかった。
いや、正確には「よくわからない」という感想しか出てこない自分が、作品の一部なのかもしれない。
そんな展示の中で、一つだけ印象に残る作品があった。
ネイティブアメリカンの作家による展示で、西洋のように物事を白黒ではなく、もっとグラデーションとして見るという考え方を表現したものだった。
なるほどなぁと思う。
世の中は、善か悪か、敵か味方かだけではない。
もっと曖昧で、その間にもいろいろある。
そう考えると、ハエも少し気の毒である。
別に血を吸うわけでもない。
病気をうつされたわけでもない。
ただ家の中を飛んでいて鬱陶しいだけだ。
昨日まで、あれほど夢中で叩いていたくせに、翌日には美術館でそんなことを考えている。
現代美術というのは、作品よりも、自分のほうがおかしいことに気づかせる場所なのかもしれない。

