移住日記/Week29_久しぶりの北海道で胃袋の老化を実感しました
味噌ラーメン/1400円
一時帰国中、ずっと東京にいるのももったいないので北海道へ行ってきた。
相方と友人のG氏との3人旅行である。ちなみにG氏はカナダ人で、北海道は相方ともども初めてである。
事前の天気予報を見ると、関東は雨模様だが北海道は晴れ。どうやら天候にも恵まれそうだ。
「折り畳み傘、持っていかないの?」
相方にそう聞かれたが、「天気予報では雨降らないから必要ないよ」と返した。
このあと札幌で通り雨にしこたま降られることになる。
こういうとき、傘を持っている人は「だから言ったじゃん」と言えるので強い。言われる側には何もない。雨に濡れながら黙るしかないのである。
そんな北海道旅行だったが、天気以上に予想が外れたものがあった。
自分の胃袋である。
きっかけは初日のランチだった。
昼過ぎに札幌へ到着し、まずは昼ご飯を食べることにした。北海道といえばラーメンだろうということで、札幌駅前にあった「札幌ら〜めん共和国」へ行こうと思ったのである。昔行った記憶があったし、北海道が初めての相方とG氏も、いろいろな店から好きなラーメンを選べていいだろう。
ところが、ない。
閉店していた。
それどころか、ら〜めん共和国が入っていたエスタというビルそのものがなくなっていた。
ラーメン屋を探しに来たら、建物ごと消えていた。
調べてみると、札幌駅周辺は北海道新幹線の延伸に合わせて大規模な再開発中らしい。そういえば新幹線を札幌まで延ばすという話を聞いた記憶がぼんやりとある。
ぼんやりとあるだけで、完全に忘れていた。
エスタだけでなく、私の記憶もだいぶ取り壊されている。
仕方がないので、別の駅ビルに入っているラーメン屋へ行った。
「札幌のラーメンといえば味噌が有名なんだよ」
などと二人に説明しつつ、メニューがほぼ日本語だったこともあり、とりあえず店が一番推していそうなラーメンを注文する。
やってきたのは、いかにも札幌らしい濃厚な味噌ラーメンだった。
こってりしたスープ。
厚切りのチャーシュー。
大変うまい。
大変うまいのだが、食べ終わったあたりで妙なことに気づいた。
重い。
昔の自分なら、この程度のラーメンを食べて胃が重いなどと思わなかった気がする。
いや、気のせいだろう。
そう思うことにした。
ところが、甘いものを食べたいという相方につきあって、そのあとソフトクリームを食べたところで、いよいよ認めざるを得なくなった。
胃がついてきていない。
北海道に来たのだから、ラーメンも食べたい。ソフトクリームも食べたい。このあとジンギスカンも食べたい。
頭は完全にそのつもりである。
胃だけが聞いていない。
そして予想通り、その日の夜のジンギスカンで完全に箸が止まった。
一方、相方とG氏にとっては初めてのジンギスカンである。
店にはラムとマトンの違いについて説明が書いてあったので、私が拙い英語で翻訳することになった。
ラムは1歳未満の羊で、マトンは1歳以上の羊。
これを私は、
「Sheep under one year old.」
と説明してしまった。
「ということは、赤ちゃんの羊を食べるわけ?」
相方が不穏な表情を浮かべる。
G氏も困惑している。
しまった。
間違ったことは言っていないはずなのに、言い方によって急にものすごく残酷な食事に聞こえる。
「いや、そう言われてもジンギスカンってそういうものだし……」
と返す私。
ちょうどそこへ店員さんがやってきて、何も知らずにラムとマトンを焼き始めた。
「まあ、子牛だって食べることあるし」
G氏が言った。
しばしの沈黙。
誰も救われていない。
そんな微妙な空気の中でジンギスカンを食べ始めたのだが、私はそれ以前の問題として腹が減っていなかった。
昼のラーメンがまだいるのである。
胃袋の中から、
「ここにいまっせ」
と、濃厚味噌ラーメンが存在を主張している。
結局、せっかくのジンギスカンなのにあまり箸は進まず、早々に店を出ることになった。
しかし、そのあとホテルに戻っても一向に腹が減らない。
翌朝になって、ようやく普通にお腹が空いた。
どうやら、私の胃袋はもう「北海道に来たんだから、ラーメン、ソフトクリーム、ジンギスカンくらい一日でいけるでしょ」という年齢ではないらしい。
久しぶりに訪れた札幌では、昔あったエスタがなくなっていた。
ら〜めん共和国もなくなっていた。
もはや昔のイメージではダメらしい。
私の胃袋のように。

