七夕の歩幅【毎週ショートショートnote】
「お前のかあさんって身長どのくらいだっけ?」
「何でそんなこと聞くの?」
私はスマホの着信画像を妻に見せた。
「ああ何となくわかった。だいたい日本人の女性の平均からするとかなり高いほうだわね。まったくお母さんにも困ったもんだわ。今日は七夕。お父さんの命日だもんね。お母さんなりにしのんでいるのかしら」
「そうだとしても勘弁してもらえないかな。お前のお父さんもひどかったが、お母さんはその上をいっている」
私はため息をついてスマホの画面を眺めた。
「じゃっ、二人で徘徊してくるから!」
妻の父親が存命中はよく二人で散歩に出かけていた。
二人とも健脚なのかいったん出かけると1時間や2時間は帰ってこない。
そしてごくたまに連絡が入ることがある。疲れて帰れなくなったから、道に迷ってしまったから車で迎えに来いの合図だ。
その際に二人から現在地の目印として送られてくるのが、スマホの周囲の画像と、万歩計のデータだった。
二人の散歩コースは必ずしも決まっているわけではない。その日の気分で好きに歩き回る自由気ままな散歩のことを徘徊といってのけるのもあながち悪い冗談でもない。むしろかなり的を射ている。
そして送られてきた画像が見たことがない景色の画像だったりするとその二人の現在地の特定にこれまた時間がかかるのだ。
自宅から万歩計の歩数でおおよその距離を割り出して頭の中に円を描く。そして送られてきた画像の影などからおおよその方向を割り出し360度の一点にあたりをつけて、〝えいや!〟で出向く。
それがこれまた当たったことがないのだ。
その上唯一の手がかりが曇りだったり、日が暮れてたりすると目も当てられない。今回のケースがまさにそれだった。
二人には何度も、地図アプリで現在地を表示させてスクショを送る方法などを教えたのだがまったく覚える気が無かった。いやそれよりも二人とも洒脱で一筋縄ではいかない性格だったため、わざと人を困らせて楽しんでいるのではないかとさえ疑ったぐらいだ。
私はさっそくお母さんに電話してみた。
「ああ、お母さん!今回もまったくお母さんのいる場所が分かんないんですが、何か目に入るものを教えてもらえますか?」
お母さんは〝町中華がどうの、中古車屋がどうの〟と言っていたが見当もつかなかった。
ところで万歩計のデータは合っているのだろうか?
あの〝食わせものっ!〟
いつぞやの事を思い出し、ムカッ腹を立てながらも一応おかあさんに確認してみた。多少の怒気はにじんでしまっていたかもしれない。
「おかあさん!いちおう念をおしときますが、いつかのようにスキップで移動したなんてことは無いですよねっ!」
「いいえ滅相もない!ツーステップなんて金輪際ありませんから!」
〝スキップ〟のことを〝ツーステップ〟と言い換えたのが若干気になったがお母さんはきっぱりと否定してきた。まあ今回は大丈夫だろう。
「いつもより時間がかかってますが必ず迎えに行きますので絶対にそこを動かないでくださいね!」
私は健気にもそう告げると電話を切った。
だが、もう小1時間もこうしているのにいっこうに見つかる気配すらない。
私は困り果て私自身が迷い込んだ商店街で聞いてみることにした。
「あの、家族が道に迷ったみたいなんですが、こんな身なりの年配の女性見かけませんでしたか?」
私はピースサインで決めている画面をみせて聞いてみた。サングラスをかけているが大柄で派手目の雰囲気は充分つたわる画像だった。
酒屋のおやじさんははメガネをずらしてのぞきこむと、すぐに答えた。
「ああ、この人か。そういや前に歩いているように見せながら後ろへ滑るような歩き方で華麗に移動していったな。この店の前だ。片方の足のかかとを床につけたまま後ろへスライドを左右交互に繰り返すやつ。あの細身のアメリカ人の歌手がよくやってた、ああそうだ!思い出した。ムーンウォークっってやつだ。今から30分程前だ」
それを聞いた私はあっけにとられとその場に立ち尽くしてしまった。
その後激しい怒りがやってきた……
〝おのれ!あのBB……!〟
(気がついたら1500字😭😭😭)
お父さんの思い出はこちら!
中段あたり、コメント欄の〝マサハル〟さんです。
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