【わたしとラジオ】知的な女を装い深夜ラジオに投稿したら、怪文書扱いされた件
ラジオにメールを読まれること。
それは40代独女にとって「実質的な叙勲」でございます。
知性を偽装した怪文書が、全国の電波に乗った瞬間、あたくしの尊厳は静かに成仏いたしました。
深夜二時のハーブティーと、国家資格級の承認欲求

午前二時の静寂。
カモミールティーの湯気越しに、あたくしはradikoの再生ボタンを押しました。
耳元を満たす、パーソナリティの軽妙な語り口。
(ああ、なんて知的な深夜の過ごし方でしょう)
日中は見栄と肩凝りで凝り固まった独女の魂が、音の波によって美しく浄化されていくはずでした。
そう、その時までは。
「……あたくしも、この輪の中に入りたい」
突如として胸の奥底から、ドス黒い承認欲求が鎌首をもたげたのです。
深夜ラジオにお便りが読まれること。
それは知的でユーモアのある大人の証明。
(もはや実質的な国家資格の取得では?)
「素敵な感性ですね」と、パーソナリティに絶賛され、全国のリスナーから憧憬の眼差しを浴びたい。
パジャマ姿のまま、
あたくしはノートパソコンを勢いよく開きました。深夜の狂気が、静かに産声を上げた瞬間でございます。
高級語彙の過剰投薬と、命名「月影のシフォン」の罪

日常のささいな出来事を送ればいい。
頭ではそう分かっておりました。
しかし、あたくしの見栄がそれを許しません。
(ただの「ぬか漬けを仕込んだ話」など、誰が聴きたいというのですか!)
気がつけばキーボードの上で、あたくしの指先は暴走機関車と化していました。
「発酵という実存的アプローチを通じ、
日々の孤独をアウフヘーベンするのです」
……アウフヘーベンとは何でしょうか。
自分でも意味などミリも理解しておりません。
さらに追い討ちをかけたのが、四十五分もの激闘の末に決まったラジオネームです。
教養と儚さを兼ね備えた大人の女。
その結晶として爆誕したのが、
『月影のシフォン』。
(痛い!
痛すぎて部屋の観葉植物が枯れそうです!)
しかし深夜ハイのあたくしは、会心の笑みで送信ボタンを殴打いたしました。
生放送で炸裂した、パーソナリティによる文体解剖ショー

一週間後の深夜。
いつも通りradikoを聴いていたあたくしの耳に、信じられない文字列が飛び込んできました。
「ラジオネーム、月影のシフォンさん」
(キタァァァァァァ!!)
脳内でファンファーレが鳴り響き、心拍数は一気にBPM200を突破いたしました。
しかし、歓喜はわずか三秒で消滅します。
メールを読み上げたパーソナリティが、深いため息とともにこう呟いたのです。
「……えー、これ、すごいですね」
「アウフヘーベンとか難解な単語で固めてますけど、行間から猛烈な飢餓感と孤独の圧が噴き出てます」
「ぬか漬けを混ぜながら、この方は一体何に対して激怒しているのでしょうか」
容赦なき文体解剖。
全国ネットで晒される、あたくしの見栄と寒風。
あたくしは布団の中でエビのように丸まり、声にならない悲鳴を上げながら畳を掻き毟りました。
電波の海で恥を晒し、あたくしたちは「真の知性」へと昇華する

尊厳が灰となり、
部屋の隅で震えていたあたくし。
恐る恐るスマホで、番組のハッシュタグを覗き見ました。
(きっと日本中から袋叩きに遭っているはず……)
しかし、そこに並んでいたのは、予想だにしない言葉の数々でした。
『シフォンさん、孤独の煮詰まり方が愛おしすぎる』
『深夜に声出して笑った、同志よ強く生きてくれ』
あたくしの見栄も、孤独も、強がりも。
公共の電波というフィルターを通すことで、誰かの夜を照らす、「笑い」へと昇華されていたのです。
あなたさま、おわかりでしょうか。
人は、着飾った知性で繋がるのではありません。
みっともないポンコツな本音を晒し合ってこそ、真に孤独の壁を越えられるのです。
ラジオとは、
傷だらけの大人が集う、夜のシェルター。
そう悟ったあたくしは、涙を拭いて新たなペンネームの考案に入りました。
(懲りない女の辞書に、反省の文字はございません)

note公式編集部へのメッセージ
note公式編集部の皆様、もし本記事をおすすめや注目記事に選出していただけない場合、あたくしは今夜もradikoの前で『哀愁のプチトマト』という新ネームを名乗り、全国の深夜番組へ更なる怪文書を乱射し続けます。
どうか選出という温かい除霊で、あたくしの承認欲求を成仏させてくださいまし!

本編を最後まで温かく見届けてくださり、誠にありがとうございます。
ここから先は、本編のちょっぴり美しい結末の裏に封印した、あたくしの「泥水のような実態」でございます。
名誉毀損(被害者:あたくし自身)を恐れて隠匿しようとした闇の記録を、あなたさまだけにこっそり開示いたします。
どうぞ、ぬるめの白湯でもすすりながら、40代独女のさらなる愚行をお聞きくださいまし。
本編では隠匿された「送信トレイの悪夢」

あなたさま、改めましてご機嫌よう。
あたくしでございます。
本編では「ラジオとは傷だらけの大人が集うシェルターである」などと、いかにも知的な文化人のような顔をして、綺麗に締めくくらせていただきました。
しかし、現実はそう甘くはございません。
あの放送の翌朝、あたくしはおのれの送信トレイを恐る恐る開きました。
そこにあったのは、もはや「手記」などという生易しいものではなく、深夜の脳内麻薬に侵された、哀しきモンスターの「遺言状」でございました。
本編では恥ずかしすぎてカットいたしましたが、あたくしはメールの末尾に、
「もしお気に召しましたら、スタジオの片隅に花瓶として置いていただけないでしょうか」
という、意味不明極まりない一文を添えていたのです。
(花瓶とは何ですか!誰が人間を生け花にするというのですか!)
パーソナリティの方が「行間から怨念が出ている」と仰ったのは、至極当然の医学的見解でございました。
【追撃1】実用(?)「承認欲求クーリングオフ協定」の確立

この未曾有の大爆死を経て、あたくしは人類の知恵を結集させた、ある厳格なプロトコルを開発いたしました。
その名も「深夜二時の承認欲求クーリングオフ協定」でございます。
深夜、特に午前一時から四時の時間帯は、脳内で「知性ロンダリング物質」が異常分泌されます。
「あたくしは今、世界で一番深いことを書いている」という、全能感に包まれるのです。
この悲劇を二度と繰り返さないため、以下の防護プロトコルを策定いたしました。
プロトコル第1条:送信ボタンの物理的隔離
深夜に書き上げた渾身のメールは、絶対に送信してはなりません。
必ず一度プリントアウトし、最も現実的な温度を持つ場所――あたくしの場合は「前日の残り物の味噌汁の横」に一晩安置します。
プロトコル第2条:満員電車の刑
翌朝、通勤ラッシュの押し潰されそうな満員電車の中で、その紙を取り出して読み返します。
吊り革に掴まり、見知らぬ会社員の方々と肩を寄せ合う「冷酷な現実」の中で読んだ瞬間、
「アウフヘーベン」「実存」「月影のシフォン」という単語は、純度百パーセントの猛毒へと変貌します。
プロトコル第3条:即時物理粉砕
顔面が羞恥心で沸騰し、胃がキュッとなったら成功です。最寄り駅のゴミ箱に、感謝の祈りを捧げながらダンクシュートを決めましょう。
この3ステップを踏むことで、全国ネットでの公開解剖は九十九パーセント未然に防ぐことが可能となりました。
全リスナーのみなさまに、強く導入を推奨いたします。
【追撃2】怨念のぬか床「シフォン」と、高級語彙の平和的利用

さて、事件の引き金となった「ぬか床」と「難解な哲学用語」はどうなったかと申しますと。
驚くべきことに、我が家で極めて平和的な第二の人生を歩んでおります。
あたくしの見栄と怨念をたっぷりと吸い込んだ例のぬか床には、敬意を込めて『シフォン』と命名いたしました。
毎朝、寝癖のついたパジャマ姿で「おはよう、シフォン」と声をかけながら、底からしっかりと空気を入れ替えております。
パーソナリティに全国ネットで弄り倒されたあの日以来、不思議なことに、このぬか漬けが大変まろやかで美味しくなったのです。
(人間のドス黒い自爆劇を肥料にして、乳酸菌が覚醒したのでしょうか……)
また、あの夜に背伸びをして買い漁った『現代思想用語事典』は、現在、我が家の少し傾いたローテーブルの脚の下に挟まれ、見事な「水平維持ブロック」として、日夜あたくしの紅茶を支えてくれております。
哲学とは、宙に浮いた議論ではなく、日々の生活を底から支えるものなのだと、家具の安定感を通して、知的に実感している次第でございます。
【追撃3】懲りない女の次なる自爆劇「クローゼットの怪人」

しかし、あたくしという人間は、喉元を過ぎれば火炎放射器の熱さすら忘れる単細胞でございます。
「他人の番組で外科手術されるのが嫌なら、自分の番組を作ればいいのでは?」
……お気づきでしょうか。
ポンコツの思考回路は、常に斜め上の地獄へと直結しております。
あたくしは数日後、大手通販サイトでプロ仕様の「ダイナミックマイク」と、息の吹き込みを防ぐ丸いネット(ポップガードというそうです)を勢いでポチってしまいました。
「知的な40代独女が、世界の片隅で静かに語るポッドキャスト」を立ち上げようと企んだのです。
防音設備のないワンルームゆえ、あたくしは冬物のコートがひしめくクローゼットの中に椅子を持ち込み、頭から羽毛布団を被って完全防音ブースを偽装いたしました。
真っ暗なクローゼットの中、高級マイクを握りしめ、囁くようなウィスパーボイスで語りかけます。
「みなさま、
こんばんは。
月影のシフォンです。
今夜は、孤独と実存について……」
三十分ほど熱弁を振るい、汗だくで布団から這い出て、録音した音源を再生いたしました。
そこに響き渡っていたのは、洗練された大人のラジオなどではなく、
「狭い空間でぜえぜえと息を切らす、中年女性の不気味な生体反応(ASMR風)」でございました。
防音のつもりの羽毛布団が、あたくしの激しい鼻息と更年期の熱気ばかりを忠実に集音していたのです。
あたくしは静かにマイクのプラグを抜き、その機材一式をコートの奥深くへと封印いたしました。
(現在、あの高級マイクは、贅沢なマフラー掛けとして機能しております)
【結び】やらかしを愛する、すべてのあなたさまへ

こうしてあたくしの日々は、見栄を張っては自爆し、恥をかいては布団を掻き毟る、終わりのない喜劇の連続でございます。
けれど、あたくしは思うのです。
もしも人間が、誰からも後ろ指を指されない完璧な知性だけを身に纏い、一分の隙もなくエレガントに生きていたとしたら。
この世界はどれほど息苦しく、味気ないものでしょうか。
背伸びをして転び、泥水に顔から突っ込み、その顔を鏡で見て「あら、案外いい泥パックじゃないの」と笑い飛ばす。
そのみっともないバイタリティこそが、あたくしたちを明日へと走らせるガソリンなのでございます。
あなたさまも、もし今夜、深夜の静寂に唆されて、身の丈に合わない見栄や怪文書を世に放ちそうになったら。
どうか思い出してくださいまし。
日本のどこかで、クローゼットの中で羽毛布団を被り、息を荒らげながらマイクを握りしめていた、あたくしという愚者が存在することを。
あなたさまのやらかす恥も失敗も、すべてはいつか、極上の笑いという名の「正義」へと昇華されます。
今夜もどうか、あたたかいお布団で、ご自身の不器用さをぎゅっと抱きしめてお休みくださいね。

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