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「これまでの研究概要」は業績の要約ではない——一本の筋をどう見せるか

はじめに

これまで履歴書、業績リスト、教育実績リストと、公募書類の作り方について書いてきました。今回取り上げるのは、多くの公募で提出が求められる「これまでの研究概要」です。研究計画書(これから何をするか)とは異なり、こちらは応募者がこれまで積み重ねてきた研究を、まとまった一つの物語として振り返る書類です。

正直なところ、この書類は業績リストと役割が混同されやすいと感じています。業績リストがすでに「論文の一覧」という形で個々の実績を示している以上、「研究概要も、結局それらを文章にして繰り返すだけではないか」と考えてしまう応募者は少なくありません。しかし審査委員として多くの研究概要を読んできた経験から言うと、この書類で本当に評価されているのは、個々の業績の要約ではなく、それらの研究群を貫く一本の筋を、応募者自身がどう捉え、どう語れるかという点です。

私自身、応募者として初めてこの書類を書いたときは、業績リストに書いた内容を、ほぼそのまま文章にして提出してしまった経験があります。当時は「事実は業績リストに書いてあるのだから、それを丁寧に文章化すれば十分だろう」と考えていましたが、後に審査委員としてこの書類を読む立場になったとき、そうした研究概要がいかに印象に残りにくいかを痛感することになりました。

今回は、応募者としての経験と、審査委員としてこの書類を数多く読んできた経験の両方から、実践的なポイントを紹介していきます。

研究概要と業績リストは役割が違う

まず、この2つの書類の違いを整理しておきます。

業績リストは、個々の実績を漏れなく、正確に、構造化して示す書類です。いわば「点」の情報を、時系列や種別に整理して並べたものです。一方、研究概要は、その「点」と「点」を線でつなぎ、一つのまとまったキャリアの物語として語る書類です。

この違いを理解しないまま研究概要を書くと、単に業績リストの内容を文章化しただけの、退屈な要約になってしまいます。審査委員として、こうした「業績リストの文章版」のような研究概要を読むと、正直なところ物足りなさを感じます。知りたいのは個々の論文の内容そのものよりも、なぜその研究に取り組んだのか、それぞれの研究がどうつながっているのか、そして全体として何を明らかにしようとしてきたのかという、応募者自身の視点です。

審査委員が研究概要で見ている3つの観点

観点1:研究テーマの一貫性、あるいは発展の必然性

審査委員が研究概要を読む際、まず確認しようとするのは、これまでの研究に一貫したテーマや問題意識があるかどうかです。

キャリアの中で研究テーマがまったく変わっていない場合は、その一貫性をどう深めてきたかを語ることが重要になります。一方、テーマが変化してきた場合(異動や環境の変化、新たな関心の発見などによって)は、その変化が単なる場当たり的なものではなく、必然性のある発展だったということを説明する必要があります。

審査委員として特に注目するのは、テーマが変わった際の「橋渡しの説明」です。「Aの研究をしていたが、そこで気づいた別の課題からBの研究に発展させた」というように、変化の背景にある問題意識のつながりが説明されていると、キャリア全体に一貫した知的好奇心の軸があることが伝わります。逆に、テーマの変遷について何の説明もなく、単に時系列で研究内容が羅列されているだけだと、応募者自身が自分の研究をどう位置づけているのかが伝わらず、審査委員としては評価のしようがなくなってしまいます。

環境の変化による転換も、必然性として語れる

異動や所属機関の変化によって、研究テーマを変えざるを得なかったというケースも珍しくありません。この場合、単に「環境が変わったのでテーマも変えた」という受け身の説明ではなく、「新しい環境で出会った課題や資源をどう活かして、次の研究に発展させたか」という、能動的な意味づけをすることが重要です。環境の変化を単なる制約としてではなく、新たな研究の可能性を見出すきっかけとして語ることができれば、審査委員には柔軟な研究者としての適応力が伝わります。

一貫性を強調しすぎることのリスクにも注意する

一方で、実際には様々な事情でテーマが変わってきたにもかかわらず、無理に一貫性があるように書こうとすると、かえって不自然な印象を与えることもあります。多少の紆余曲折があったとしても、それを隠すのではなく、正直に、かつ前向きに意味づけて語る方が、審査委員には誠実な印象として伝わります。

観点2:個々の研究の"意味づけ"ができているか

業績リストには、個々の論文の事実(タイトル、掲載誌、共著者など)は記載されていますが、その研究が「なぜ重要だったのか」「その後の研究にどうつながったのか」という意味づけまでは書かれていません。この意味づけを行うのが、研究概要の重要な役割です。

例えば、ある論文について、単に「○○について明らかにした」と結果だけを述べるのではなく、「この結果を踏まえて、次に△△という課題が見えてきたため、続く研究でそれに取り組んだ」というように、研究と研究の間の因果関係や発展の経緯を語ることができると、審査委員はキャリア全体の設計思想を理解しやすくなります。

審査委員としての経験から言うと、優れた研究概要は、まるで一本の論文の「考察」や「今後の展望」を読んでいるかのような、論理的なつながりを感じさせます。個々の業績が独立した点として並んでいるのではなく、応募者自身の思考の軌跡として一つの線を描いているという印象です。

「結果」ではなく「問い」の連鎖として語る

意味づけを行う上で効果的なのは、研究を「結果」の連鎖ではなく「問い」の連鎖として語ることです。「Aという結果を得た」で終わらせるのではなく、「Aという結果を得たことで、次にBという疑問が生まれ、それを検証するためにCの研究に取り組んだ」というように、一つの研究が次の問いを生み出す構造で語ると、キャリア全体が自然な知的探究の流れとして読み手に伝わります。この書き方は、単発の業績を並べる場合に比べて、応募者の思考プロセスそのものが見える化されるため、審査委員にとって評価しやすい文章になります。

観点3:異分野の審査委員にも伝わる説明になっているか

研究概要は、必ずしも同じ専門分野の審査委員だけが読むとは限りません。学際的な審査体制の場合、自分の専門から離れた分野の委員が、この書類を通じて応募者の研究者としての力量を判断することになります。

このため、専門用語をできる限り分かりやすい言葉に置き換え、その分野を知らない人にも研究の意義が伝わるように書く必要があります。業績リストのように事実を正確に列挙するだけの書類とは異なり、研究概要は「伝える技術」がより強く求められる書類だと言えます。専門的な内容を平易な言葉で語れるかどうかは、応募者の研究に対する理解の深さそのものを示す材料としても見られています。真に理解している研究者ほど、専門外の人にも分かりやすく説明できるものだというのは、査読や教育の現場でもよく言われることですが、研究概要においても同じことが当てはまります。

論文執筆の技術を研究概要に応用する

論文の「イントロダクション」や「考察」を書く技術は、研究概要を書く際にも直接活かせます。

論文のイントロダクションでは、先行研究の流れを整理した上で、自分の研究がその中でどのような位置づけにあるのかを示します。研究概要も同様に、自分のこれまでの研究群を、学術的な文脈の中に位置づけて語ることが有効です。「この分野ではこういう課題が指摘されてきた中で、自分はこの部分に取り組んできた」という語り方は、論文のイントロダクションの構成をそのままキャリア全体に応用したものだと考えると、書きやすくなります。

また、論文の考察部分で使う「本研究の結果は、○○という点で意義がある」という意味づけの技術も、研究概要で個々の業績を語る際に応用できます。査読の経験がある方は、他の研究者の論文を読みながら「この考察は結果の意味づけが弱い」「この研究の位置づけの説明が的確だ」と評価してきた経験があるはずです。その評価眼を、今度は自分自身の研究キャリア全体に向けてみると、研究概要で何を語るべきかが見えてきます。

「総説」を書く感覚に近い

研究概要を書く感覚として近いのは、個別の研究論文よりも、むしろ総説(レビュー論文)を書く感覚かもしれません。総説では、個々の研究成果を並べるだけでなく、それらを俯瞰し、分野全体の中でどのような流れがあり、どこに課題が残っているかを整理して語ります。研究概要も同様に、自分自身の研究群を俯瞰し、キャリア全体としてどのような流れを描いてきたのかを整理する作業だと捉えると、書き方のイメージがつかみやすくなります。総説を書いた経験、あるいは読んできた経験がある方は、その構成の作り方を意識的に参考にしてみることをおすすめします。

共同研究における自分の役割の語り方

多くの研究者にとって、キャリアの中の研究は単独で行ったものばかりではなく、共同研究として進めてきたものも多いはずです。研究概要の中で共同研究について触れる際、業績リストと同様、自分がその研究の中でどのような役割を担ってきたかを明確にすることが重要です。

共同研究の全体像だけを語ってしまうと、審査委員は「その中で、この応募者自身は具体的に何をしたのか」が分からず、研究者としての独立性を評価しにくくなります。研究の着想を自分が主導したのか、特定の分析手法を自分が担当したのか、あるいはプロジェクト全体のマネジメントを担ったのかなど、自分の貢献部分を具体的に語ることで、共同研究であっても応募者自身の力量が伝わる記述になります。

一方で、自分の役割ばかりを強調しすぎて、共同研究者への敬意が感じられない書き方になってしまうと、印象を損ねることもあります。共同研究の意義そのものにも触れつつ、その中での自分の貢献を適切なバランスで語ることが望ましいです。

研究概要は「更新され続けるもの」と捉える

研究概要は、一度書いたら終わりというものではなく、応募のたびに、その時点までの研究を踏まえて書き直していくべき書類です。

キャリアが進むにつれて、過去の研究に対する自分自身の評価や意味づけも変化していくことがあります。数年前に書いた研究概要をそのまま使い回すのではなく、応募のたびに、現時点から振り返って研究群をどう意味づけるかを考え直す機会として捉えると、研究概要はより説得力のあるものに更新されていきます。特に、新しい研究が加わるたびに、それが過去の研究群の中でどう位置づけられるのかを考え直す作業は、研究概要の質を高めるだけでなく、自分自身の研究者としての軸を再確認する機会にもなります。

研究概要にありがちな失敗パターン

審査委員として見てきた中で、繰り返し目にした「もったいない」パターンを紹介します。

業績リストをそのまま文章化しただけになっている

「○年に○○という論文を発表し、○年に○○を発表した」という形で、単に業績リストの内容を接続詞でつないだだけの研究概要が、実はかなり多く見られます。これでは、業績リストと研究概要という2つの書類を用意する意味が薄れてしまいます。個々の研究の背景にある問題意識や、研究同士のつながりを語ることが本来の目的であることを、常に意識しておく必要があります。

すべての業績を平等に扱おうとしてしまう

業績リストではすべての実績を漏れなく記載することが望ましいですが、研究概要では逆に、重要度に応じてメリハリをつけることが求められます。すべての論文について均等に説明しようとすると、結果的に一つひとつの説明が浅くなり、キャリア全体の軸も見えにくくなります。代表的な研究、あるいはキャリアの転換点となった研究に絞り込み、それ以外は簡潔に触れる程度に留める方が、読みやすく説得力のある研究概要になります。

専門用語が説明なく使われている

前述の通り、研究概要は異分野の審査委員にも伝わることが求められる書類ですが、実際には論文と同じ専門的な文体・用語のまま書かれてしまっているケースが少なくありません。自分にとって当たり前の用語ほど、説明を省略しがちなので注意が必要です。

研究計画書との重複、あるいは断絶

研究概要は「これまで」を語る書類、研究計画書は「これから」を語る書類ですが、この2つがまったく接続していない、あるいは内容が重複しすぎているケースも見受けられます。研究概要の最後で、これまでの研究から見えてきた次の課題に軽く触れ、それが研究計画書の内容へと自然につながるように構成しておくと、書類全体としての一貫性が生まれます。ただし、研究計画書の内容をそのまま先取りして詳しく書いてしまうと、重複感が出てしまうため、あくまで「これまでの延長線上に、次の課題が見えてきた」という橋渡し程度に留めるのがバランスとして適切です。

時系列の羅列に終始し、成長や変化が見えない

キャリアを通じて、研究者としての視点や問題意識がどう深まってきたかという「成長の物語」が感じられない研究概要も、印象に残りにくいという実感があります。単に「やってきたことの記録」ではなく、「その過程で何を学び、どう考えを深めてきたか」という内省的な視点を含めることで、研究概要に厚みが出ます。

共同研究における自分の貢献が不明瞭

複数の共著者がいる研究について語る際、あたかも自分一人で成し遂げたかのような書き方をしてしまうと、業績リストと照らし合わせたときに違和感が生じます。共同研究の中での自分の具体的な役割を明示しないまま、成果だけを自分のものとして語ってしまうと、審査委員としては研究者としての誠実さの面で疑問を持ってしまうことがあります。

文体が業績リストと同じく無機質になっている

研究概要は、業績リストとは異なり、応募者自身の思考や視点を伝える書類です。にもかかわらず、業績リストと同じような、事実を淡々と列挙する無機質な文体で書かれてしまっていると、書類としての役割を果たせていません。多少の主観や、研究に対する思い入れを適度に含めることは、この書類においてはむしろ望ましいことだと考えています。

研究概要の構造の作り方

具体的な構造として、次のような流れが基本になります。

・研究者としてのキャリアの出発点(なぜこの分野・テーマに関心を持ったか)
・初期の研究で取り組んだ課題と、そこで得られた知見
・その後の研究の展開(テーマがどう深まった、あるいは発展したか、変化があった場合はその必然性)
・各段階の研究がどのようにつながっているか(点と点をつなぐ説明)
・これまでの研究を通じて見えてきた、応募者自身の研究者としての軸・強み
・今後につながる課題(研究計画書への橋渡しとして、簡潔に)

この流れに沿って書くことで、単なる業績の羅列ではなく、キャリア全体を貫く物語として研究概要を構成できます。

分量配分の考え方

研究概要にも、多くの場合指定の分量があります。この中で、時期ごとの記述量をどう配分するかも重要なポイントです。

キャリアの初期から現在まで均等に紙幅を割く必要はありません。むしろ、現在の専門性に直接つながる研究や、キャリアの転換点となった研究により多くの紙幅を割き、それ以外の時期は簡潔にまとめる方が、メリハリのある構成になります。特に、応募先のポジションが求めている専門性に近い研究については、少し詳しく書き込んでおくと、応募先との適合性も自然にアピールできます。

具体的な目安としては、キャリアの出発点や初期の研究については全体の2〜3割程度で簡潔にまとめ、直近の主要な研究テーマの説明に5割前後を割き、残りをキャリア全体を通じた考察や今後への橋渡しに充てるといった配分感覚が一つの参考になります。もちろん、これはあくまで目安であり、キャリアの長さや研究の性質によって適切な配分は変わってきます。大切なのは、機械的に均等配分するのではなく、「どこに審査委員の関心が集まりそうか」を意識して、意図的に濃淡をつけることです。

指定される分量によって書き方を変える

研究概要は、公募によって求められる分量が大きく異なります。数百字程度の簡潔な要約を求められる場合もあれば、数千字にわたる詳細な記述を求められる場合もあります。

短い分量(数百字程度)の場合

このケースでは、キャリア全体を丁寧に語る余裕はありません。研究テーマの一貫性を一文で示し、代表的な研究成果とその意義を簡潔にまとめる、という割り切りが必要です。すべての研究段階に触れようとせず、最も伝えたい軸を一つに絞り込み、それを中心に組み立てる方が、短い分量の中でも印象に残る文章になります。

長い分量(数千字程度)の場合

この場合は、前述した「出発点→展開→現在→今後への橋渡し」という流れを、余裕を持って展開できます。個々の研究の意味づけや、テーマの転換点における説明も、丁寧に書き込む余地があります。ただし、分量が多いからといって、すべての業績に均等に触れようとする必要はなく、前述の「メリハリをつける」という原則は、長い分量であっても変わりません。

冒頭の一文に、要約力が表れる

分量の長短にかかわらず、研究概要の冒頭一文は特に重要です。「私の研究は、一貫して○○という問いに取り組んできた」というように、キャリア全体を一文で要約できるかどうかは、応募者自身がどれだけ自分の研究を俯瞰できているかを示す指標にもなります。審査委員としても、この最初の一文で、その後の文章に対する期待値が大きく変わるというのが実感です。書き始める前に、まずこの一文を練ることに時間をかける価値は十分にあります。

提出前に確認しておきたいチェックポイント

最後に、研究概要を提出する前に確認しておくべきポイントをまとめておきます。

・業績リストの内容をそのまま文章化しただけになっていないか
・個々の研究について、結果だけでなく「なぜ取り組んだか」「次にどうつながったか」が語られているか
・テーマが変化した箇所について、その必然性が説明されているか
・すべての業績を平等に扱おうとせず、重要な研究に絞ってメリハリをつけているか
・専門用語が、異分野の審査委員にも配慮した形で説明されているか
・キャリアを通じた研究者としての成長や、視点の深まりが感じられる記述になっているか
・研究計画書との間で、内容が重複しすぎず、かつ自然に接続しているか
・応募先のポジションに関連の深い研究に、相応の紙幅が割かれているか
・共同研究における自分自身の貢献が、具体的に、かつ誠実に語られているか
・業績リストと同じ無機質な文体になっておらず、応募者自身の視点や思考が伝わる書き方になっているか

おわりに

研究概要は、業績リストとは異なり、応募者自身の「語り」が問われる書類です。個々の実績を正確に示す業績リストに対して、研究概要はそれらをどう意味づけ、どう一つの物語として編み上げるかという、応募者の解釈力そのものが評価される場だと感じています。

審査する側を経験して感じるのは、優れた研究概要を書ける応募者は、自分の研究を俯瞰し、客観的に位置づける力を持っているということです。これは、論文の考察やイントロダクションを書く力と地続きの能力であり、日頃の論文執筆の中で磨かれてきたものが、そのまま活きる場面でもあります。

これまでの研究を振り返って一本の筋として語り直す作業は、単に審査を通過するためだけのものではなく、応募者自身にとっても、自分の研究者としての歩みを再確認する良い機会になります。労力のかかる作業ではありますが、この機会に自分の研究キャリアを俯瞰してみることは、今後の研究の方向性を考える上でも、決して無駄にはならないはずです。

この記事は「大学教員公募の歩き方」というマガジンの一本として書いています。転職を考え始めたきっかけから、実際の公募書類の書き方まで、一連の流れとしてまとめていますので、よろしければ他の記事もあわせてご覧ください。

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