BPaaSの現在地
こんにちは。こんばんは。kubellの桐谷です。
人と企業の成長を支えるAI時代の社会インフラを作るために毎日楽しく元気に頑張っています。
究極的には「お仕事ってほんと楽しいよね」という価値観を,自分たちも持ちながら,一人でも多くの人に届けられるとハッピーだなと思っています。
この記事は何か?
2025年のBPaaSアドカレ最終日の記事です。

連日,各社の記事を拝見させて頂いておりましたが,どれも本当に面白いものばかりで大変勉強になる内容でした。執筆頂いた方,また記事を読んで感想等のコメントをくださった方,改めてこの場を借りてお礼をお伝えさせてください。本当にありがとうございました。
本記事では,BPaaSの現在地や,なぜBPaaS事業をやっているのかについても半分個人の思いも含めて書いていきます。(技術的な話,事業モデルや戦略の話はさらっといきます(たぶん))
改めてBPaaSってなに?
(ご存知の方は飛ばしてください)
BPaaSとは「型化されたプロセスと人材を含むオペレーションをクラウド上で購入できるビジネスモデル」と弊社では定義しています。
これまで「大きなボリューム」且つ「マニュアル化された」業務しか外部のBPOベンダーに依頼できない構造があったと理解しています。
しかし,異なる会社であっても共通のルールにおいて実行可能な業務が存在しており,その特定業務を切り取って型化し,同じ場所(kubell)に集めることで,業務を集中管理していこうというのが基本的な考え方です。
型化については
・コンポーネント(最小単位まで分解された処理)
・ワークフロー(コンポーネントを繋ぎ合わせた一連の流れ)
・パッケージ(ワークフローを組み合わせて商品化されたメニュー)
なのかというのが混同されがちですが,これらを分けて考える必要があります。
これまでのBPOとは全く異なるAgenticなアーキテクチャをベースに考えられたオペレーション(とそれに準じた体制)を構築し,組み合わせ問題として解決することが重要です。詳細は弊社CPOのこちらのnoteをご覧ください。
業務の集中管理については,同じ場所で同じように業務を行うと効率的なものが,会社という括りによって分断され点在している事,それによって周辺の業務との接続をするために独自のルールで運用されている事,運用のみで業務の効率化が進められていない事が”社会的な”課題として存在しています。
そして何より,その課題を解決するための,ソフトウェアなどのツールを使いこなせる人材が圧倒的に不足をしている現状があります。
BPaaSの概念としてはグループ会社や支店が存在する会社が本社機能としてノンコア業務をシェアードセンターに集める形と似ています。
大企業,つまり1社で業務ボリュームが多い場合においては,その会社において最適化されたルールを設計したうえで外部のBPOベンダーにアウトソースできる状態(=オーダーメイド型のBPO)ではありました。
しかし,中小企業においてはBPOベンダー側が集中管理する為に業務を集めることが困難であった(マーケティング活動をするとROIが合わない)為,このマーケットにはアクセスし切れていない状態にあります。
したがってマーケティング活動の最適化(ユーザー視点では発注のし易さの向上)という観点で,小ロット/タスクベースでのオペレーション実行結果としての成果の購入がクラウド上でできるようになるという点がBPaaSの根幹であり新しい部分です。
つまりSaaSをTool useの一つの機能として見るか,それとも業務を集めるためのディストリビューションチャネルとして見るかという点でSaaS+BPOの意味合いが全く異なります。

特に従業員との接点を持った業務支援SaaSを持っていることで,一定のガードレールがある状態で業務を集めることができる為,SaaS企業が自社のソフトウェアとセットでAgenticなBPOをやることに非常に大きな意義があると捉えています。
詳細は以下あたりの発信を参考にしていただければ嬉しいです。
noteを書いてから1年以上,経過してしまったので(あまり変わってないですが)一部アップデートしたものも含めて現在地について書いていきます。
SaaS企業の戦略のトレンド
国内の(狭義の)BtoB SaaS企業の戦略の潮流としては,以下のように大別できるのではないかと思います。
⓪単一SaaS
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①SIer /ITコンサル領域への進出
②金融事業の組み込み
③連続的なM&Aの実行
④マルチプロダクト展開
⑤BtoBtoE領域への進出
⑥ハードウェアとの接続
⑦業界特化型の垂直統合
⑧グローバルへの地理的展開
⑨人材領域への進出(ここにBPaaSが含まれる整理です)
直近での市場環境の変化がかなり激しく,ここからの5~10年程度の国内SaaS市場は大きな転換点を迎えると想定しています。
(細かく挙げるとキリがないので大きな変化だけ抜粋しますが)「AI/LLMの進化に代表される技術的な変化が急激に起こっていること」「株式市場における評価指標が変化していること」「10年前と比較するとSaaS市場が埋まり始めていること」などが挙げられます。
この前提の変化に伴い,各社がTAMの拡張をする一手となる方向性を示し,ビジネスモデルのアップデートを行なっています。
今後,この潮流にうまく乗り,新たな成長戦略を実行できた会社がより大きな資本力を獲得し,それを武器にさらに大きな一手を打つことで「強者がより強者になる」SaaS企業の統合(緩やかな連合的なものも含む)が一気に進むと予想されます。
つまり,上記の①〜⑨の戦略のいずれか,または同時並行的に各社がビジネスモデル(や経営戦略全般)のアップデートをしていますが,この潮流に乗り切れる企業とそうでない企業とで明暗がこの数年で分かれると想定しています。
①SIer /ITコンサル領域への進出
AI /LLMの進化に伴い,これまでと比較し圧倒的に開発生産性が向上すること・大手企業におけるAI /LLMの活用が求められることで,SIer・ITコンサルの主戦場であったエンタープライズ市場に進出する流れです。金融/製造/不動産/医療など各産業にディープダイブしながら,経営と一体になってユースケースを作っていくアプローチと理解しています。(個人的にはインフラ系はかなり大きな機会がありそうだなと感じています)
自社のSaaSをカスタマイズして導入支援する為のプロフェッショナルサービスの延長や,各社の課題を個別で解きにいく旧来のSIerモデルなどが入り混じっていますが,各社の個別課題に向き合いながらもその業界内外で使える知見やユースケースを再利用可能な形でアセットとして溜まっていくプラットフォームを持っているか否かが競争力の源泉になると理解しています。
プロフェッショナルサービスの課題であった適用領域の狭さも,旧来のSIerモデルでは担保するのが難しかったスケーラビリティも,このフィードバックループが回り,オントロジーが効くプラットフォームがあるか否かで変わってくるのではないかと思います。
特にLLMの適用範囲は幅広く,まだベストプラクティスが完全に固まり切っている訳ではないフェーズにおいては,ラストワンマイルを埋めて実際の経営インパクトを与えられるこの役割は今後非常にニーズが高まり,市場としても盛り上がってくると想定しています。
②金融事業の組み込み
Embedded Financeと呼ばれる領域です。
特に業界特化あるいは会計系のSaaS企業が,新たな領域としてSaaSと合わせて提供する流れが増えています。
2017年の銀行法の改正により,「オープンバンキング」の推進が決定され,それ以降,銀行APIが解放されBaaS基盤が整理され始めたことを受けて,急速に参入する企業が増えてきたと理解しています。
また,会計データなどを元に独自の与信モデルを作ることでBNPL /BPSPの領域に進出する企業も増えています。
BtoB SaaSの企業が業務の効率化をすることで価値提供しながら溜まったデータというアセットを活かしながら,新たな価値の創造(収益源の開拓)をしています。
③連続的なM&Aの実行
IPO(新規上場)市場の停滞と出口戦略の変化に伴って,いわゆる一般的?なM&Aも直近で増えてきている印象です。加えてPEファンドによる買収も最近ではかなり目にするようになってきました。
また,ロールアップと言われる「特定の業界にある複数の中小企業やプロダクトを次々と買収し,一つの大きなグループとして統合することで企業価値を高める戦略」も最近の潮流です。
バラバラに存在している小規模なサービスを巻き取って一つの強力なプラットフォームにまとめ上げる手法として注目されています。自社アセットの横展開や販売チャネル共通化などを通じてスケールメリットを活かしながら企業価値を高めています。
建設業や製造業などをはじめとして,まだまだ,業界特化型のモデルが登場することが想定されます。
④マルチプロダクト展開
SaaS企業が単一の製品(シングルプロダクト)だけでなく,複数の独立した製品をラインナップとして展開する戦略のことです。
「一つの課題を最速・最高品質で解決すること(Point Solution)」がSaaS企業の登り方の一つでしたが,成長を加速させるために多くの企業がマルチプロダクト化を進めています。
また似て非なるものとして,創業時から共通のデータ基盤の上に複数の製品が密接に連携することを前提に設計するアプローチ(Compound)も存在している理解です。
今後も隣接領域に拡張しながら,マルチプロダクト展開をする戦略の潮流は続くと想定しています。
⑤BtoBtoE領域への進出
Employee(従業員)に対する価値を企業を通じて届けるようなアプローチです。具体的には従業員の福利厚生やメンタルヘルス,ハラスメント対策などを総合的に扱うEAPと呼ばれる領域のことを指します。
HR・労務系のSaaSを中心にこの方面に参入する企業も増えており,盛り上がってきている印象です。
人手不足を背景にした採用競争力の担保や従業員満足度の向上に資するソリューションとして今後もこの領域はアップデートされ続けるのではないかと想定しています。
⑥ハードウェアとの接続
スマートロックやPOSレジ,カメラなどのハードウェアと併せてSaaSを提供するHardware-enabled SaaSの領域です。
カメラやセンサーで取得した膨大な「リアルのデータ」をAIで解析し,経営判断の材料とすることができます。
データを独占的に利用できること,物理的デバイスの設置・撤去の工数がかかることなどから,スイッチングコストが非常に高くなる傾向にあると見られ,SaaS単体よりも大きなMoatを築くことができるのではないかと理解しています。
⑦業界特化型の垂直統合
Vertical SaaSの領域です。
ここは依然として未開拓の大きな市場が眠っていると考えています。製造業・建設業など未開拓のフロンティアが残されている為,業界特化のSaaSは今後も大きく成長する可能性があると想定しています。
また同業界内におけるバリューチェーンの上流から下流までを丸ごと取り込んでいく戦略は非常に強力だと考えています。
⑧グローバルへの地理的展開
国内市場に留まらず,より大きなマーケットである海外展開をする企業は今後も増えると想定しています。
日本の商習慣にローカライズ・カルチャライズされたドメインが深いものより,汎用的に展開可能な形,あるいは,これまで積み上げてきた事業ノウハウを活かし展開する地域に最適化し直す形での事業展開が想定されます。
⑨人材領域への進出(ここにBPaaSが含まれる整理です)
人材紹介・人材派遣・コンサルティング・BPOなどの領域です。
人手不足を背景に自社だけで採用することが難しい企業にSaaSと併せて人材マッチング等を提供するようなモデルです。
BPaaSは,ソフトウェアの市場から人材市場への進出と捉えています。ただし,人手不足という課題に対して,直接的に人材派遣等をするのではなくオペレーションという型に落とし込んで「人を採用しなくても業務が回ることを実現する」という設計です。
また,AI時代においての価値提供はツールではなく,成果という形に変わってきており,AIが人手不足を解消する為の仕組みとして展開する企業が増えています。
人手が足りないことは前提としたうえで,解決する課題をオペレーションに落とし込みAI化を進めるというアプローチです。
【①SIer /ITコンサル領域への進出】と【⑨人材領域への進出】の関係性
上記の①と⑨(特にBPaaS)は関係性が一見すると無いようですが,未来必ずつながる領域であり,今この瞬間は両者の関係性の整理をしながら自社がどの場所にポジションを取るかという観点で非常に重要な論点かと思います。
BtoB領域におけるAI時代の事業戦略は、突き詰めると「一般化よるスケーラビリティの向上と個別化によるTAMの拡張を経済合理性という観点からどう評価しバランスさせるか」という話が起点に記述/規定されていく。
— Go Kiritani/kubell 執行役員CSO (@go_kiritani) November 24, 2025
共通点としては,フィードバックループが回り,オントロジーが効くプラットフォームを起点にできるか否かが重要なのではないかという点です。
【⓪単一SaaS】と【③連続的なM&Aの実行】と【⑨材領域への進出】の関係性
⓪③⑨(特にBPaaS)に関しても,強力なプラットフォーム特性を持つ企業が,点在している課題を一箇所にまとめて効率的な運営をしていくことで,自社が徐々にプレイヤーになっていくという濃度の違いという整理ができるのではないかと思います。
SaaS,BPaaS,フランチャイズ,ロールアップのような順でプレイヤーとしての濃度が高まっていくのではないかと思います。

こちらに関してもプラットフォーマーとして運営していくのか,それともプレイヤーとして業界に参入するのかという論点が非常に重要と捉えています。
AI時代におけるSaaSプロダクトの2つの方向性
従来SaaSは人が使うツール(道具)でしたが,AI時代においてはAIエージェントが仕事をこなす場所へと進化していくと想定しています。

AI時代のMoatについて
ファウンデーションモデルベンダー各社は垂直統合(アプリケーションレイヤーへの進出)をし,自社もサービスプロバイダーとなることでマネタイズを図るような動きも活発化しており,自社がコンテキストデータを保持・活用する構造が無い汎用的なアプリケーションでこの領域に参入するのは一定のリスクもあると考えています。
今後もファウンデーションモデルベンダーは垂直統合の動きをより一層強めると想定しており,アプリケーションレイヤーの先にある,顧客のオペレーションをいかに抑えておくかが重要になる(例えば海外のBigTechであったとしても日本の中小企業の月次決算の業務を抑えることは難しい)と考えています。
BPaaS戦略における重要な仕組み
BPaaSにおける非常な重要な仕組み(表には出ない為,目にすることはないかと思います)として,弊社では受け取った業務を分解し,AIや人にアサインし,各タスクの進捗を追えるようなシステムの開発を行なっています。
また,テナントを跨ぐ,大量の業務を一気に処理(自動化と人によるチェック)をするようなプロダクトが必要になってきます。
従来の自社の業務を効率的に行いたい人たち向けに作るプロダクトではなく,想定する利用者はAIと作業を代行(あるいは品質管理や評価)するようなオペレーター向けであるため,プロダクトの設計思想が異なります。
弊社では実際に本番環境でそのシステムを利用しながらBPaaS事業を運営しており,人とAIがハイブリッドに協働できる環境の整備を行っています。
イノベーションの歴史
社会に与える影響が大きく長期的な改善が生まれる技術は汎用技術と呼ばれています。人類の歴史上,これまでに24個の技術的な発明がされ,パラダイムシフトが起こってきました。
18世紀初頭からの産業革命の時代に入り数多くのイノベーションが生まれてきました。25個目がAIでインターネットの影響を上回ると言われています。


インターネットシフト
インターネットの登場により誰もが瞬時に世界中の情報にアクセスできるようになり,知識や学習の機会が飛躍的に拡大しました。また,電子メールやSNSの普及により,遠隔地とのコミュニケーションが容易になり,ビジネスや個人間の交流が活発化。さらに,電子商取引(EC)やオンラインサービスが発展し,経済活動のあり方も変革されました。

スマホシフト
スマートフォンの登場により電話やインターネットが手のひらに収まることで,時間や場所を選ばずに情報へアクセスし,コミュニケーションを取ることが可能になりました。これによりSNSでの交流が活発化し,オンラインショッピングやキャッシュレス決済が普及。個人の行動範囲が広がり,経済活動や情報伝達のあり方も大きく変革されました。

クラウドシフト
クラウドコンピューティングの登場により企業は自社で高価なサーバーやソフトウェアを保有する必要がなくなり,初期投資や運用コストを大幅に削減できるようになりました。中小企業やスタートアップでも大規模なITシステムを活用できるようになり,イノベーションが加速。また,データの共有や共同作業が容易になり,場所にとらわれない働き方が可能になりました。個人にとっても,データ保存やアプリケーション利用が手軽になり,生活の利便性が向上しました。
AIシフト(今まさに来ている波)
AI/LLMの登場は,社会の仕組みに大きな変革をもたらすと予想されます。多くの業務が自動化され,生産性が飛躍的に向上するでしょう。これにより,
働き方や必要なスキルが大きく変化し,一部の職種はAIに代替される可能性があります。一方で,AIを活用した新たな産業やサービスが生まれ医療/教育/環境問題解決など多様な分野で革新的な進歩が期待されています。

イノベーションの普及は局所的に始まる
過去のイノベーションにおける新技術の導入にかかった年数は電気・パソコンともに登場から20年を要しており,社会全体への普及には一定の期間がかかると予想しています。
その間に大きな生産性の差分が発生する為,新技術の導入に積極的でない企業や経済的な体力がない企業においてもAIの普及率を全体で上げることが重要になると捉えています。
技術の進化は指数関数的に進むものの,浸透には一定の期間がかかる為,このGAPを埋め,いかに早く社会に浸透できるような構造を作るかということが求めらていると考えています。

なぜコミットしているか
(少しだけ個人的な話も交えながら)なぜここまでコミットしているのかについてもせっかくの機会なので書かせて頂きます。
社会人として働き出して8年目になりました。
これまで本当にありがたいことにたくさんの尊敬すべき先輩方に囲まれ,色んなことを教えて頂きました。
おそらく,世の中の一般的な人よりたくさん働いてきた方だと思いますが,途中「あれ?なんでこんなに一生懸命働いてるんだっけ?」「なんの為に仕事してるんだっけ?」とわからなくなった瞬間もありました。
そんな中で「働く」ということに対する価値観が形成されてきた実感が最近あるので,色んな方のお話を聞いたうえで,なんとなく考えていたこと(=なぜ今kubellという会社でBPaaSという事業にコミットしているのか)を言語化しようと思います。
結論,「働くことは本当に楽しいこと」だと改めて考えるようになりました。
幸福感を得られにくい時代になった?
世界には,明日を無事に迎えられるかどうか分からない国や地域で生活している方々が存在していると思います。そして,日本も過去にはそうした環境であったこともあり,未来には再びそうなるかもしれません。そう考えると,2025年現在,平和な環境で生活している私たちは,一定の幸福が保障されているのではないかと思います。
しかし,この幸福感というものは,常に身近にあると感じるほど薄れてしまう性質を持っています。私たちの生活は便利になっています。遠くに住む人とすぐに連絡を取り合え,知りたいことがあればスマートフォンでAIと会話しながら調べることができ,欲しいものはネットで注文すればすぐに自宅に届きます。それが安価に,あるいは無料で提供されることが当たり前になっています。これは,私たちがとても幸せな状況にある証拠ですが,当たり前になりすぎてしまうと,幸福感が薄れてしまう構造にあります。
かつては,AI,スマートフォン,インターネット,テレビなどもなく,電気やガス,水道が整備されていない時代もありました。現在と比較すると,一般的には不便な時代だったかもしれませんが,その時代の人々が幸福でなかったとは限りません。
町で一番お金持ちの家にテレビが届き,近所の人達が集まる映像を見たことがありますが,みんな幸せそうな顔をしていました。他人が持っているものを自分も欲しいと思い,たくさん働いてお金を稼ぎ,新しい体験をすることで得られる幸福感が,きっと存在していたのだと思います。
しかし,現代では,そのような幸福感を得る機会が少なくなっています。つまり「消費により得られる幸福感」の限界が来ているのではないかと思います。
もちろん,たくさんお金を稼いで「豪邸に住みたい」「高級な時計が欲しい」「スーパーカーに乗りたい」というモチベーションで働いている方もいらっしゃるかと思います。それ自体は全く否定しませんし,むしろ羨ましいとさえ思います。しかし,色んな方々とお話をする中で,そのようなモチベーションを持っている方が少なくなっていることに気づきます。特に若い世代では,その傾向が顕著かなと感じています。
また,大金を手にし,現代の嗜好品を何でも買えてしまう(つまり自分が欲しいものを際限なく消費をする為のチケットを手にしている)状態の方もいますが,彼らが一概に幸せかと言えば,そうではないようです。
そもそも「消費により得られる幸福感」に限界が来ている中で,それを追い求め続けたとしても,幸福は保障されていないように思えます。
一方で,一生働かなくても良いほどのお金を持っているにも関わらず,新たな挑戦をしながら苦労している方達とお話する機会もあります。際限なく消費をする為のチケットを手にしているにも関わらずその権利を行使することに対して時間を使うわけではなく,あえて「大変な事」にチャレンジし続けています。彼らはなぜか,幸せそうな顔をして苦労話をしています。
これが,現代における「働く」という行為の本質ではないかと考えるようになりました。「生産により得られる幸福感」を知っているか否か,それが大きな違いとなるのではないかと思います。世の中の問題に向き合い,新しい価値を創造することに自分の人生の大半のリソースを投下しています。消費ではなく生産。彼らにとって,これこそが「人生において最も楽しいこと」であり,最も幸福感を得られる活動なのだと思い,自分もそのような先輩達をとてもリスペクトしています。

世の中は決して完成することはありません。いつの時代も問題が生まれ続けます。だからこそ「生産により得られる幸福感」に限界は来ないのでは無いかと考えています。不完全であるからこそ,追求し続けることができるのではないかと思います。
「働く」という行為は,不完全な世の中を少しでも良くしようと努力し何かの価値を生産することであり,そして,それは何より楽しく幸福感を得られるものなのかもしれません。
便利になり過ぎた?
高度経済成長期の日本は,現在よりも便利ではなく,インフラが整っていなかったため,広く公益に資する事業を営むことが,ビジネスとしても直接的に旨味があったのではないかと思います。すべての人をターゲットとしたサービスを安価に供給し,利益率はそれほど高くないものの,大きく成長し続けるマーケットを取りに行くことで事業成長が可能でした。つまり、ソーシャルインパクトとビジネスインパクトが両立していた時代だったのです。
しかし,近年では,世の中の最低限のインフラが整ってきたこと,人口減少フェーズに入ったことなどにより,ソーシャルインパクトが大きな領域で事業成長を継続することが難しくなってきています。ソーシャルインパクトとビジネスインパクトが両立しなくなってきたのです。

そのため,企業は事業として成立・成長する方向に舵を切ることになります。その結果,高所得者向け・大企業向けにサービスを展開することで,高単価/高利益率のビジネスモデルを志向するようになってきています。(これ自体はなんら否定する話ではなく,とても素晴らしい事業だと思っていて当然リスペクトしています)
お金があるところに良いサービスが集まり,さらにそこから新しいお金が生まれるという構造は存在すると思います。
世の中は一定レベルまで便利になった一方で,このような資本主義的な流れは加速度的に格差を広げ,歪みも生んでいます。世の中のベースラインが豊かになればなるほど"ビジネス的な偏りが生まれて格差は広がり,結果として大きなソーシャルインパクトを残す事業が生まれにくい構造になっています。
構造的な負
現在,ほぼ全ての産業にITが浸透し始めており"〇〇Tech"という言葉が存在しない産業を見つけることが難しくなってきました。このような状況の中で,誰もチャレンジしていない領域を見つけることは困難になってきています。
大企業のDXを進めることは国際的な競争力を高めることに直結しており,また,ビジネスとしても効率が悪いSMB市場よりも大企業向けに展開する方が圧倒的に筋が良いのではないかと思います。
"中小企業を救う"と標榜する企業も,実際には「売上xx億円以上、従業員数xx名以上をターゲット」と定義していることが多いです。しかし企業が"ビジネス的足切り"をやりたくてやっているわけではないかと思います。そもそもARPUが低く,獲得効率も悪いSMB市場に進出した瞬間にビジネスが成立しなくなるからです。
本当は向き合わなければならない課題があるにも関わらず,泣く泣く見捨てられている超巨大なマーケットが日本には存在しています。
日本の課題
少子高齢化が進み,生産年齢人口が大幅に減っていく中で,1人あたりの生産性を上げていくことが求められています。

しかし、日本の中小企業の生産性は横ばいで、大企業との差は2倍以上になっています。ソフトウェアの投資額や投資比率も2倍以上の差があります。

労働人口の70%ほどが中小企業に従事しており、事業者の数は99.7%が中小企業であるというのが日本の産業構造です。

つまり,中小企業のDXが進まないと,日本の産業構造を変革したとは言い切れません。
まず,大企業が大きく変わっていくことが重要であるという考え方もあるので,「どちらが良い/悪いということではなく,共に必要」とされています。レガシー産業/大企業に対してチャレンジをしている企業はもちろんリスペクトしています。
しかし「そっちばかり」になるのではなく,誰かがやらなければならない「ほぼ解決不可能な大きな課題」があります。個人事業主や中小企業を含む,すべての働く人を対象にしたサービスをビジネスとして展開し続けることは,骨が折れるチャレンジではありますが,この時代にソーシャルインパクトとビジネスインパクトを両立させる非常に稀有で尊い営みであると考えています。
kubellのチャレンジ
「すべての人に、一歩先の働き方を」というkubellのコーポレートビジョンは,ビジネスインパクトのみを追求するのではなく,社会課題に対しても向き合い続けるという意思だと理解しています。

そして,このビジョンを実現するための戦略も公開しており、ビジョンや戦略に共感した非常に優秀なメンバーがいます。
・とにかく大きなチャレンジがしたい
・優秀で思いがある人と一緒に働きたい
・社会課題に真っ向から向き合いたい
というような働くということに対して,ただお金を稼ぐという手段という捉え方ではなく,それ以上の思いを持ったメンバーが集まってきています。
「今からkubellで何をするの?」「ビジネスチャットの会社でしょ?」というの認識もまだまだお持ちの方も多いかと思います。しかし,kubellは「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げ,主力事業であったビジネスチャットの会社=SaaS企業という枠組みを超えて,世の中のさまざまな「働く」を支援するプラットフォームへと事業領域を拡張しています。
勝算
ミッションやビジョンの素晴らしさ,そしてそれへの共感だけではありません。
あくまで自分の場合ですが
・ビジネスインパクトとソーシャルインパクトが両立する事業は何か?
・どの領域でやれば良いのか?
・誰と一緒にやりたいのか?
を必死に考えたところで,実現可能な会社がありませんでした。
起業をするにしても,0から「ほぼ解決不可能な大きな課題」を選んで成功できるような甘い世界ではないこともわかっていました。
全業界・全職種の人々が利用するプラットフォームとして,中小企業のお客様に爆発的に広がっているプロダクトが「Chatwork」です。
「Chatwork」は圧倒的なプロダクトの強さ/ネットワーク効果/これまでの地道な営業活動により,通常考えられるようなマーケティング施策を実行したとしても,アクセスできない顧客基盤を持っています。
これは「奇跡的なプロダクトだ」と感じました。スタートアップ界隈やITリテラシーが高い人々の間で一気にプロダクトが広まるケースはありますが,中小企業にこれほど浸透しているプロダクトは他に見たことがありませんでした。
この他社が持つことができない顧客基盤を活かし,新たなサービスを展開し続けることができれば,この会社は見たこともないぐらい大きく成長できる(ソーシャルインパクトも大きい)と思い自分は入社しました。
繰り返しますが,単体事業としてサービス展開をしようとすると,中小企業向けの事業展開をすることは非常に難しいです。一方で,kubellは「ほぼ解決不可能な大きな課題」にチャレンジできる唯一の会社だと思います。見捨てられてしまった超巨大なマーケットに進出できるチケットを持っている数少ない会社なのです。
自分の場合もそうですが,この構造(ポジショニングの優位性と戦略など)を理解・共感いただいている方達が続々と集まっています。
覚悟
Chatworkは昨年の7月に社名を「株式会社kubell」に変更しました。

SaaSという枠組みを超えて,BPaaSという戦略も明確に打ち出しています。これまでSaaSの会社であった会社が,オペレーション領域にも進出することは一見すると,瞬間的に非合理的に”見える”事業展開ですが,SaaSの次の時代を先頭を切って走っていくという覚悟なのです。
当然,企業として売上や利益が求められる中でのチャレンジではありますが,瞬間的に非合理的に見える選択をした会社が歴史を振り返ると,時代を作ってきました。
また,ソーシャルインパクトだけを追い求めても社会は変わりません。いつの時代もビジネスが世の中を変えてきたと思っています。せっかく,今この時代にいるのであれば,新しい歴史を作れるチャンスがある環境に身を置き,社会課題に向き合い続けること,そしてそれをやり切る覚悟を持った人達が集まっている場所で一緒に働けることが,きっと職業人としての幸福だと思います。
これからもたくさんのお客様の期待に応えられるよう,頑張っていきたいなと思っています。
最後に
好きな言葉置いておきます。
「未来はすでにここにある。ただ、それが均等にいきわたっていないだけだ。」 (The future is already here – it's just not evenly distributed yet.)
みなさん2025年もお疲れ様でした!
良いお年を!
