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実行と普及は、違う仕事だ——研究開発のデータ活用に関わるキャリアを問い直す

以前はメーカーで、触媒の研究開発をしていました。社内のデータサイエンスチームが作ったモデルの結果を受け取り、化学的に意味があるかを判断し、次の実験の方針を決める。機械学習を使う研究者側に、いました。

そのあと、MIや機械学習をまだ研究開発に取り入れていない現場を支援する仕事に移りました。今度は、同じように研究者として実験を進めている人たちが、MIを使い始められるよう一緒に考える側に立つようになりました。

同じ「研究開発のデータ活用」に関わる仕事ですが、やっていることは全然違います。前者は実行、後者は普及。この違いに気づいたのは、両方を経験してからでした。

実行と普及は、何が違うのか

実行側にいるとき、仕事の中心は研究を前に進めることでした。モデルを作るのはデータサイエンスチームで、自分の役割は結果を受け取り、ドメインの知識と照らし合わせながら解釈し、次の実験に反映させることです。MIは、研究を加速させるための道具として手元にありました。

普及側に移ると、仕事の中心が変わります。「この組織はどこで詰まっているのか」「何から始めれば動き出せるか」を考えることが増える。解析を引き受けることより、MIを使える人・組織を育てることを目指す仕事です。

前者は確実に価値を届けられますが、担当できる人数の分しか届かない。知識は提供者の手元に残り続ける。後者は時間がかかりますが、一度作ったコンテンツや仕組みが非同期に動く。担当者がいない場所でも前に進める。

どちらも「DSが足りない」というボトルネックからは逃げられません。違うのは、そのボトルネックが詰まったときの壊れ方です。

ただし現実には、特にトライアルの段階では自分で解析を担う場面も多い。まず結果を見せることで信頼を作り、その先でお客さん自身が動けるよう持っていく——というのが実際の流れです。理想はそこで自走できる組織を育てることですが、まだそこまで整えきれていない部分が正直多いです。

壁に当たったあとにしか届かない

MIを「活用したい」と言い始めた組織が、しばらくして止まる場面があります。「モデルが信用できない」「データが足りない」「解析結果を次の実験にどうつなぐか分からない」——このあたりです。

たとえば「モデルが信用できない」は、精度が出ないということより、なぜその予測が出たのか誰も説明できない、という状況のことが多いです。数字は出ている。でもその数字を使って次の実験を決める判断は、誰もできないまま止まる。

この壁は、どこかのタイミングで多くの組織が当たります。そして、そこを乗り越えようとするとき、手元に使えるコンテンツがあれば、専門家が来なくても前に進める。「壁に当たった直後」に届くものを作っておくことが、普及側に立つということかもしれないと思っています。

自分がZennやnoteで書いているのも、半分はその考えからきています。届くかどうかは分からないですが、いずれ当たる壁の手前に置いておく感覚です。

使う側にいたからこそ見えること

研究者として機械学習を使っていたとき、自分はSHAPの出力を読んでドメイン知識と照らし合わせ、逆解析の結果がなぜ出るかを理解しようとしていました。新しいことを理解するのが好きだったので、苦ではなかったです。

でも振り返ると、その歩み寄りを自分がやっていたからMIが機能していた、という面が大きかった気がしています。前職でも、隣で機械学習を使っているのを「何か活用したい」という距離感で見ていた人がいました。特徴量の設計や実験計画に踏み込まず、モデルが答えを出してくれるものだと思っている。

今、支援する側に立つと、この差がよく見えます。MIがうまくいくかどうかは、ツールの精度より、研究者側が歩み寄れるかどうかで決まる部分が大きいです。それは伝えられる部分もありますが、そもそもその気があるかどうかが先にある。

今の方針

解析を引き受けることと普及を進めることは、対立ではなく順番の問題だと今は考えています。

今の仕事の中では、解析を担う場面がまだ多くあります。それ自体は悪いことではないと思っています。結果を出して見せることが、歩み寄りのきっかけになることもある。ただ、そこで終わるのではなく、その先で研究者が自分で動ける状態を作ることをもう少し意識して仕事に向き合いたいと思っています。

空き時間では記事を書き、副業で研修や活用支援を試みています。解析のやり方を見せることと、なぜそう考えるかを一緒に伝えること——この両方が普及には必要だと思っています。「すごそうだから使いたい」だけでは、道具に使われて終わる。MIを「使う側」に立つ研究者が自分で考えながら歩み寄れるような入口を作ることが、今自分にできる形です。

どこでこの役割を担うことになるのかはまだ分かりません。ただ、今は実行と普及の間にいながら、普及の側に重心を少しずつ移していく時期だと思っています。


キャリアや働き方、日々の思考の整理については「キャリアと思考の整理」マガジンにまとめています。


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