経理のシカク。
ずいぶん昔のこと。
部下だったか後輩だったかが、僕のモノマネをしてくれるという。
次の会議の集まり待ちかなんかで、まともなことをするには中途半端な時間ではあった。
声マネでもしてくれるのかと思ったら、やおらノートを広げ、難しそうな顔で大きめに四角形を書き始める。
なぜかそれを見てみな頷いて笑っているのだ。
曰く、いつもノートに書きながらあれこれ教えてくれるのだが、そのノートには結局シカクしか書いていない、という。僕も思わず吹き出した。
ホントかなと思い、後で自分のノートを見てみるとたしかにシカクが積み上がったような絵ばかり随所に書かれている。
僕は会社員時代を通してほぼ経理職だったので、文字や数字がびっしり書いてあると思いきや、これじゃまるで子どものらくがき帳だ。
思い当たるフシがないでもない。
下図のような感じの表を、ご覧になったことがあるだろうか。
経理の人間なら嫌というほど見ている「貸借対照表」である。
会社の資産・負債の一覧表だ。

これが、ある程度経理経験がある人には、

こういうものになって常に頭にふわふわ浮かびだすようになる。
左の大きなシカクが資産(現金や不動産)、右上が負債(借金)、右下が資本(儲けの溜まり場)だ。
そして、左側と右側の高さは、常に一致する、という結構大事なルールがある。右が伸びれば、左も必ず同じだけ伸びる。左が縮めば、右も縮む。
この三つのシカクがどんな具合に伸び縮みするかで、会社に何が起きてるのかを把握する。
他部署の人が、金にまつわる仕事の話を持ち込んでくると、僕はさも難しそうな顔を作りつつ、頭の中では、こいつが伸びたり縮んだりしているのをぼんやり眺めている。
経理に話を持ちかけてくる人は、たいてい自分の言いたいことだけ言って肝心なことを言わない人が多いが、さっきの左右一致のルールがあるので、左のシカクの話だけ聞いても右側で何が起きているのかはだいたい想像がつく。経理の人の頭の中は、案外「ビジュアル系」なのだ。
そして、どうも同じ経理の人に説明するときなどは、この頭の中のシカクをそのまま使っているらしい。
説明しながらグリグリ書いているときは、とてもわかりやすくビジュアル化が出来ているつもりでいるんだから、我ながら可笑しい。
ひとしきり笑われながらも、「この連中のノートだって、僕と同じようなシカクがいっぱい並んでるんだろうな」と思うと、それはそれでちょっと嬉しかった。
