シカゴで一か八か|アマノ文筆クラブ
「シカゴ」は、駅裏の古い喫茶店だ。
なぜシカゴなのか。誰も知らない。マスターも、忘れたと言って笑う。
その店で、僕は彼女を待っている。
大学時代からの付き合いで、五年目になる。
美人で、優しくて、頭の回転が速くて、いつも友人たちの中心にいる。そんな彼女がどうして僕と付き合ってくれているのか、時々不思議に思う。
自慢じゃないが、僕は人づきあいも苦手で、これといった取柄もない。
スマホが鳴った。LINEだ。
「今日、彼女に告白するんだろ。頑張れ。二人のコーヒーは、サービスしてやるから。」
カウンターの向こうでマスターが笑いながら、こちらに目くばせをしている。
僕が話すのが苦手だと知っているマスターは、ときどき、いたずらとも思えるメッセージを送ってくる。
読んでいると、またスマホが鳴った。
彼女からのメッセージ。
「ごめんなさい。電車が事故で遅れてる。少し待ってて。」
一か八かの思いでいた僕は、二つのLINEに出鼻をくじかれたような気持ちだった。
そもそも一か八かって、どんなところから来ているのだろう。僕はググってみた。こういうことは得意なのだ。
諸説あるらしいが、丁半博打に由来するらしい。
丁の字の一画目、半の字の一・二画目。
僕にとっては勝負どころだけれども、博打ではないのだよな。
乗るか反るかというべきか。
……いや、待てよ。僕は、もう一度、ググってみる。
乗るか反るか、は間違いで、伸るか反るかが正しいようだ。
矢作りに由来する言葉で、作っている竹の矢が真っすぐ伸びているか反って使い物にならないか、できてみないと分からないことからそう言われるようになった。という。
なるほど。
検索に夢中になっていた僕が目を上げると向かいの席に彼女が座っている。
「待たせてごめんね」
と笑いかけてくる。
耳まで真っ赤になったことが、自分でも分かる。
もはや告白どころではない。
でも、彼女の笑顔が意味するものは???
それは、どんなに検索しても、ネットもAIも教えてはくれないだろう。
僕は救いを求めて、マスターを探した。
マスターはカウンターの向こうで笑いを堪えていた。
いつもお世話になっている甘野充さんのアマノ文筆クラブ。応募期限を過ぎていますが、せっかく書いたので投稿します。
