給湯室|せりふ三題噺
廊下の給湯室の前の壁に、貼り紙がある。
戸締り確認
最後に退勤する人が責任者です
黄ばんで、四隅が反り返っている。誰が貼ったのかも、もうわからない。
「これはきついって」
コーヒーを片手に席に戻った私は思わず、そう言っていた。
隣の席の後輩が、また残業している。もう三週間、彼女は毎日いちばん遅くまで残っている。担当者が急に辞めて、その分の仕事が、全部彼女に回ってきたのだ。
「大丈夫です」
声に合わないセリフが返ってきた。
机の端に、コンビニのサンドイッチの空袋が、三つある。
「これは、一人で抱えられる量じゃないよ」
彼女は、キーボードを打つ手を止めた。
「……でも、私がやらないと」
「やらなくていい。というか、やれないよ、これは。誰だって」
彼女は、しばらく黙っていた。
小さな声が漏れた。
「……ほんとは、きついです」
「だよね」
私は、自分の椅子を、彼女の机の隣に寄せた。
「半分、こっちに回して。二人でやろう」
彼女の目が、少しうるんだ。
「いいんですか」
「よくない。ほんとは、上の人がちゃんとするべき。でも、今日のところは、私が手伝う」
その夜、私たちは残業した。
深夜、二人で事務所の鍵をかけた。
最後に給湯室の電気を消した
はらとけいさんのせりふ三題噺に参加します。
▼今週のお題
■セリフ 「これはきついって」
■三題 ・氷・サンバルソース・豚
今回はセリフだけを使わせていただきました。
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