日経記事解説 「振るわぬ日本版DOGE 予算削減明示170億円どまり 補助金(自己点検)に限界」 2026/09/15 日本経済新聞 朝刊 5ページ
この記事は、「日本版DOGE」を掲げて各省庁に自主的な歳出改革を求めたものの、実際に各省庁が自ら明示した削減額はわずか170億円だった、というニュースです。
政府が補助金や基金を抜本的に見直そうとしています。
背景にあるのが、いわゆる「日本版DOGE」です。
DOGEとは、アメリカのトランプ政権で、イーロン・マスク氏が率いた政府効率化の取り組みにならった呼び方です。
日本では高市早苗政権の発足初期から、各省庁に対して、
「これまで続けてきた補助金や基金を当然のものと考えず、本当に必要なのか自分たちで点検してください」
と求めてきました。
ところが、その結果はかなり厳しいものでした。
2027年度予算の概算要求にあわせて各省庁が明示した削減額を日本経済新聞が集計すると、合計わずか170億円でした。
一見すると170億円も大きな金額に思えます。
しかし、2027年度の国の予算要求総額は143兆円です。
単純に比較すると、170億円は143兆円の約0.012%にすぎません。
つまり1万円の支出にたとえるなら、削減額は約1円20銭という規模です。
もちろん、今回の自己点検は単純に予算を削ることだけが目的ではないので、この比率だけで政策の成否を判断することはできません。
それでも、「各省庁自身に大胆な削減を求める」という狙いからすると、かなり小さい数字です。
なぜ各省庁は自分たちの予算を削れないのか
この記事で最も重要なのはここだと思います。
行政には、いわゆる「省益」の問題があります。
ある省庁が、
「この補助金はもう必要ありません」
と言えば、その省庁自身の予算や政策の範囲が小さくなる可能性があります。
しかも補助金には、受け取っている企業、業界団体、地方自治体などが存在します。
さらに、その業界や地域と関係の深い国会議員もいます。
したがって、一度作られた補助制度には、
省庁 → 業界 → 自治体 → 政治家
といった利害関係が形成されやすくなります。
記事でも、中小企業支援などについて、産業界や関係国会議員への配慮から削減が難しい場合があると指摘しています。
だから、
「各省庁に自分で無駄な予算を探してください」
と頼むだけでは、大胆な削減が進みにくいわけです。
その結果、最終的には財務省が年末の予算査定で切り込むことになります。
実際に削ったのはどこか
今回最も大きく削減額を明示したのは、こども家庭庁の127億円です。
特に大きいのが、「地域少子化対策重点推進交付金」の87億円削減です。
これは自治体による婚活支援や、新婚世帯の引っ越し費用への補助などに使われてきました。
効果を検証したうえで、より優先順位の高い少子化対策へ資金を集中させる方針です。
ほかには内閣府が33億円、厚生労働省が10億円を削減しました。
この3つを足すだけで、
127億円+33億円+10億円=170億円
です。
つまり記事で確認できる明示的な削減額は、ほぼこの3組織だけで占められています。
興味深いのが「削減しながら増額する」という考え方
一方で各省庁には、
「自己点検とは、単純に予算を減らすことではない」
という反論があります。
これは一理あります。
たとえば総務省は地方創生関連の支援対象を見直す一方で、AIを活用した新事業を支援する特別枠として新たに43億円を要求しています。
つまり、
効果の低い政策を縮小する → 成長が期待できる政策へ資金を移す
という「選択と集中」なら、予算総額が必ず減るとは限りません。
本来の歳出改革も、単純な一律カットではなく、この発想に近いものです。
しかし今回は「消費税減税」の財源問題がある
ここが今回の記事をさらに重要にしています。
高市政権は、来春予定している食料品の消費税減税について、その財源を確保する必要があります。
政府は補助金などについて、
「ゼロベースで見直す」
と説明しています。
ところが、各省庁が自主的に提示した削減額が170億円にとどまるのであれば、消費税減税の財源としては到底十分とは言えません。
そのため、年末の予算編成では財務省による査定がかなり重要になります。
補助金だけではありません
もう一つ注目すべきなのが租税特別措置です。
これは簡単にいうと、特定の企業や業界、政策目的などのために税金を軽減する仕組みです。
「税金を集めて補助金として渡す」のではなく、
「本来取るはずだった税金を取らない」
という形なので、実質的には政府による支援策でもあります。
2026年度末に期限を迎えるおよそ120の税優遇策のうち、各省庁が自ら2027年度税制改正で「廃止したい」と要望したのは、わずか3件でした。
片山さつき財務相が厳しい反応を示しているのはこのためです。
各省庁が自ら廃止・縮小を申し出たものについても、減収額が非常に小さいものや、そもそもほとんど利用されていない制度だったと指摘しています。
つまり財務省側から見ると、
「本当に痛みを伴う改革案がほとんど出てきていない」
ということになります。
「日本版DOGE」と米国DOGEの大きな違い
ここも押さえておくと記事が理解しやすくなります。
アメリカのDOGEは、組織閉鎖など非常に強引な手法を使い、大きな議論を巻き起こしました。
対して日本版DOGEは、まず各省庁自身に、
「自分たちの事業を自己点検してください」
と求めています。
つまりアプローチがかなり違います。
米国型が、
外部から強制的に切る
方式だとすれば、日本型は現段階では、
内部から自主的に見直させる
色彩が強いわけです。
今回の記事は、後者の難しさが数字として表れたとも読めます。
このニュースで覚えておきたい数字
170億円――各省庁が明示した補助金などの削減額。
143兆円――2027年度予算の要求総額。過去最大。
127億円――こども家庭庁の削減額。
87億円――地域少子化対策重点推進交付金の削減額。
43億円――総務省が新たに要求したAI関連の特別枠。
約120件のうち3件――2026年度末に期限を迎える税優遇策のうち、各省庁が自ら廃止を求めた数です。
一言でまとめると
「日本版DOGEで各省庁に自発的な無駄削減を求めたが、実際の明示的削減は170億円にとどまり、143兆円に膨らんだ予算要求や消費税減税の財源確保を前に、結局は財務省による本格査定が必要になった」
という記事です。
そして今後の焦点は、年末の予算編成で財務省がどこまで補助金・基金・租税特別措置に切り込めるかです。
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