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AIに人を数えさせたら、1人が2人になっていた

6拠点・スタッフ約70名の会社を経営しています。
人件費の分析をAIに手伝わせています。勤怠SaaSの打刻データと、現場が毎日つけている日報。この2つを突き合わせて、拠点ごとの人時を出す作業です。
あるとき、AIがこう報告してきました。
「この拠点には、勤怠SaaSに登録されていない主力スタッフが1名います」
日報には毎日名前が出てくる。しかし勤怠SaaS側に、その名前のアカウントがない。だから「未登録者がいる」と。
結論から言うと、そんな人はいませんでした。

正体は、同じ人だった

調べたら、こういうことでした。
その人は一度退職したあとに姓が変わり、また入社していたのです。

  • 勤怠SaaS … 再入社時に登録したので 新しい姓

  • 日報 … 現場がずっと呼んでいる 旧姓

同じ1人が、システムをまたぐと2人に見える。AIは名前で突き合わせていたので、「日報にいて勤怠SaaSにいない人」を検出し、そのまま「未登録者」と報告した。筋は通っています。事実が違っただけです。

なぜ見抜けなかったのか

あとから見ると、AIには見抜きようがありませんでした。
人の名前が変わることを、誰も教えていなかったからです。
結婚、離婚、養子縁組。姓が変わる事情はいくらでもあります。さらに退職と再入社が挟まると、システム側では完全に別のレコードになる。データの上では、別人と区別がつきません。
そしてAIは「名前が違うから別人」を疑いません。疑う理由がない。
厄介なのは報告の見た目です。エラーは出ません。「未登録者1名を検出しました」と、整った形で出てきます。 前回の記事でも同じことを書きましたが、AIの誤りはたいてい、こういう静かな顔をしています。

経営判断の土台がぐらついた

ここからが本題です。
この誤りは、単に「1人多く数えた」で終わりませんでした。
その拠点には職種別の人時集計があり、そこにこの人の稼働が

  • 二重に足されているか

  • どちらか片方が丸ごと抜けているか

このどちらかである可能性が出てきました。どちらなのかは、その時点では分かりませんでした。
規模感で言うと、この1人ぶんの稼働だけで、その拠点で数えていた人時の3分の2ほどに相当します。 名寄せの失敗1件で、拠点の集計が最大でそれくらい動きうるということです。
そしてこの人時は、その拠点の人件費率の計算に使われていました。人件費率が突出して高く、「この拠点は抜本的な手を打つ必要がある」という結論が出ていた。その結論の土台が、名寄せ1件で揺らいだわけです。
さらに調べると、別口の誤差も出てきました。同じ日の報告が二重に登録できてしまう作りになっていて、2年あまりで約370時間・約130件ぶんが重複していました。 改姓とは無関係な、入力の仕組みの問題です。
念のため書いておくと、これは現場の落ち度ではありません。二重に入れられる画面を用意していたこちらの設計ミスです。

まだ直っていません

正直に書きます。この再集計は、まだ終わっていません。
理由は、重複報告の精査を先に済ませないと、再集計しても数字がまた動くからです。順番を間違えると二度手間になる。だから期限を決めて、順番に片づけている途中です。
「AIで業務改善しました」という話には、たいてい終わりがあります。でも実際は、一度混ざったデータを解きほぐす作業のほうが、混ぜてしまった時間よりずっと長いというのが実感です。
そしてもう1つ増えた宿題があります。残り5拠点も同じことが起きていないか、横断で確かめる。
1拠点で見つかったということは、他でも起きていておかしくない。むしろ「見つかっていないだけ」と考えるほうが自然です。改姓は珍しいことではないし、うちは6拠点あります。
つまり、名寄せの失敗が1件見つかった時点で、疑うべき範囲は自動的に全社に広がります。 ここが地味にきついところです。1件直して終わり、にはならない。

持ち帰れる形にすると

同じ規模の会社で、同じことは普通に起きると思います。

  • 突合のキーを氏名にしない。 社員番号のような、変わらないIDを両方のシステムに持たせる。これができれば話が終わります

  • できないなら、旧姓の対応表を持つ。 現場は旧姓で呼び続けます。それを止めるより、対応表を1枚持つほうが早い

  • 「いないはずの人がいる」という報告を、まず疑う。 人が増えたり減ったりする検出は、たいてい名寄せの失敗です

  • 退職→再入社を経路として想定する。 ここが一番レコードが割れます

  • 人数が狂うと、後段の分析が全部狂う。 人時 → 人件費率 → 拠点の評価、と伝播します。しかもエラーが出ないので気づけません

次に同じ検出をやるなら、こうします。

  1. 両方のシステムから氏名の一覧を出し、片方にしかいない人を洗い出す

  2. そのリストに対して、氏名以外の属性(入社日・生年月日・住所・連絡先など)で当ててみる

  3. 姓は違うのに他が一致する組み合わせを、改姓の候補として拾う

  4. 拾ったものは機械で決めず、人に確認する

4番が要点です。姓の一致は機械で判定できますが、「同じ人かどうか」の最終判断は人しかできません。 ここをAIに任せると、今度は逆に別人を同一人物として潰す事故が起きます。
AIに人を数えさせるなら、数える前に「同じ人を同じ人と見なせているか」を確認する。 今回の教訓はそれに尽きます。

――

AIが静かに数え間違えた話は、ほかにも書いています。

AIに32ヶ月分の請求明細を棚卸しさせたら、指摘7件のうち6件が誤報だった

1文字直したら前年の集計が消えた。同じ見出しを見ている数式が3本あった

同じくらいの規模の会社でAIを使う方へ。続きはフォローで届きます。

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