見出し画像

【毎朝AIニュース】NVIDIAと組んだSalesforce、Koaで反撃(9/16)

おはようございます、まさきです。

SalesforceがNVIDIAと組んで、CRM専用の推論モデル「Koa」を出してきました。営業やサポートの処理を汎用の高いAIに任せる代わりに、業務のエラーを3分の1に抑えたと言います。使う側からすれば、AIの選び方が一段変わる話です。

今日の中心はこのKoaです。強い汎用モデルを作るラボの外側で、「安い専用モデルで十分回る」という反撃が本格化してきました。その一方で、昨日ここで触れた国王会合をきっかけに広がった減速論は、トランプ大統領と中国政府が揃って「減速しない」と突っぱねる政治対立へ進んでいます。AIをどう作るかという思想と、それを国家がどう扱うかという思惑が、同じ朝に交差しました。

追いかけるのは注目の6本です。中国発の自己改善モデルや、無料公開の物理AIまで、作り方そのものが動き始めた話も並んでいます。そのあとに気になる動きを14本お届けします。マスク氏のAGI宣言や、カリフォルニアの新しい子ども保護法も取り上げます。

■ 目次

  1. Koaはフロンティア勢の脅威となるか

  2. トランプ氏、減速論を一蹴

  3. OpenAIら3社、安全協議は難航

  4. OpenAI、カメラ新興を3億ドル買収

  5. Zhipu、AIがAIを鍛える次世代へ

  6. 無償公開で迫るPhysBrainの実力

  7. 今日の気になるニュース14本

  8. まとめ: 交差した3つの潮流


■ Koaはフロンティア勢の脅威となるか

先に僕の見立てを書くと、これは「一番賢いAIを一社が握る」という前提を崩しにくる一手です。Salesforceが年次イベントDreamforceで発表した推論モデルKoaは、NVIDIAのオープンウェイトモデル「Nemotron 3 Super」を土台に、CRM業務へ事後学習した同社初の自前モデルでした。

面白いのは学習データの作り方です。学習に使ったのは顧客の実データではなく、約30年分のCRM導入知見をもとに作られた合成データだといいます。

そのうえで自社の性能評価では、商談更新やケースの振り分け、フォローアップ設定といった実務で、主要モデルと同等以上の精度を「3分の1のエラー」で出したと主張しています。10件に3件出ていた取りこぼしが1件に近づく、という感覚に近いです。カスタマーサポートの現場では、この差がそのまま処理待ちの件数に効いてきます。

もちろん自社ベンチでの数字なので、そこは割り引いて見ています。ただ狙いははっきりしていて、ClaudeやChatGPTのような汎用フロンティアモデルより低コストで業務を回し、高価な外部AIへの依存を減らすことにあります。Formula 1、Xero、Baxter Credit Union、UChicago Medicineなどがすでにパイロット中で、一般提供は2026年冬の予定です。

同じ舞台で配られた職務別エージェント7体

同じDreamforceで、SalesforceはAgentforceに職務別の「名前付きの働き手」を7体追加しています。営業のHunter、サポートのCasey、他にPaige、Carter、Marshall、Piper、Finと、担当業務ごとに人格を割り振った設計です。

Hunterだけは数週間かけて目標を追い続ける新しいランタイムを搭載しており、11月に一般提供が始まる予定です。残る6体はすでに提供開始済みとのことです。

Koaという専用エンジンと、それを載せる名前付きの働き手。

エンジンと乗り物を同じ週に揃えてきたわけで、「業務ごとに違うAIを雇う」という売り方への転換がよく見えます。

出典: TechCrunch

出典: IT Pro

■ トランプ氏、減速論を一蹴

作る側がコストと専用化に舵を切る一方で、上流の政治は真逆に振れました。トランプ氏は、アモデイAnthropic CEOが唱えたAI開発の減速論に対して、Truth Socialで真っ向から反論しています。

「AIに必要な唯一の管理は、強く賢い大統領であり、米国にはそれが十分にある」——投稿でそう述べたトランプ氏は、アモデイ氏を名指しし「今さら完璧な天使を演じている」とも批判しています。AIやデータセンターへの懸念自体についても、「中国を利するSICKな陰謀」だと言い切っています。

ここまで来ると、技術論というより完全に政治のことばです。

見落とせないのは、同じ14日から15日にかけて、中国外務省の報道官も減速論を拒否したことです。「恐怖をあおる対立や悪性競争は誰の利益にもならない」と述べ、米国が対中優位を固定化する口実にすることへの警戒をにじませました。

減速を求めたのはアモデイ氏で、アルトマン氏やマスク氏も同調していました。その提案に対して、米中という普段は対立する二つの政府が、そろって減速を拒みました。

理念で始まった議論が、国家同士の加速競争の追認で決着しかけている——この事実だけ、今日は置いておきます。

出典: CNBC

出典: South China Morning Post

■ OpenAIら3社、安全協議は難航

政府どうしが減速を拒む裏側で、企業のほうは自分たちで枠組みを作ろうと動いていました。TechCrunchの報道で、OpenAI・Anthropic・Googleのフロンティア3社が、数週間にわたってAI安全性の共同協議を続けていたことが分かっています。

エッセイでアモデイ氏が打ち出したたたき台は、3段階の案でした。独立評価機関への深いアクセス付与、民主主義国間での安全基準の協調、国際的な安全協定という3つが柱です。

前の項の「政府は歩みを緩めない」という号令と、この「企業は自分たちで縛りを作る」という動きは、ちょうど鏡合わせになっています。

ただ、そう簡単には進みません。競合企業同士が安全基準で足並みを揃えること自体、独占禁止法に触れかねないという懸念があるのです。

9月中旬時点で、正式合意にはまだ至っていません。法務部門のレビュー観点では、「安全のための協調」と「競争制限の疑い」は紙一重で、どこまでを共有していいかの線引きがそのまま論点になります。善意で始めた協議が、法律の一線で足止めを食う。

皮肉な構図ですが、AIガバナンスがいまだ手探りだということの、正直な現在地だと受け止めています。

出典: TechCrunch

■ OpenAI、カメラ新興を3億ドル買収

ここで話は一気にハードウェアへ飛びます。スマートフォンカメラ技術のスタートアップGlass Imagingを、OpenAIが3億ドル超で買収したと報じられました。

元Appleの技術者ふたりが2019年に創業した会社、それが同社です。各カメラの特性をニューラルネットで学習し、撮影後に補正するのではなくシャッターを切った瞬間に高画質を得る計算写真の技術を、同社は持っています。

Glass Imagingの累計調達額は約3,000万ドルで、買収額はその約10倍に当たります。買い手にとってそれだけ価値のある資産だった、ということです。

思い出したいのは2025年、OpenAIがJony Ive氏のデバイス企業ioを65億ドルで買った件です。今回の買収額はその20分の1に満たない小さな一手ですが、方向は完全に一致しています。

ChatGPTを積む「箱」を作るために、目に当たるカメラ、脳に当たるデバイス設計と、部品を一つずつ社内に取り込んでいます。

スマホの次に手のひらへ来る端末が、OpenAI製の輪郭を帯び始めた瞬間を見ている気がします。

出典: TechCrunch

■ Zhipu、AIがAIを鍛える次世代へ

中国からは、開発の思想そのものを塗り替える話が届きました。AI大手Zhipu(Z.ai)のチーフサイエンティスト唐傑氏が、次世代基盤モデル「GLM-6.0」の方針を先行公開しています。

キーワードは「完全自訓練」です。前世代のGLMが作り上げた環境の中で次のモデルを訓練し、データを自ら生み出し、環境を自ら組み立て、インフラも自ら整えていく——そんな三つの自己改善ループを、モデル自身が回していくという構想でした。人間が新しい教材を用意し続けるのではなく、AIが自分の練習場と教材を自分で作ります。開発者の立場で見ると、そこがいちばん景色の違うところです。

背景にはお金があります。Zhipuは9月に株式で約20億ドル、転換社債で約30億ドル、合わせて約50億ドル、円にしておよそ7,500億円を調達済みで、これを次世代GLMの研究開発と算力インフラに充てるとしています。8月14日にGLM-5.3を出したばかりでの、この予告です。AIが次のAIを育てるという開発スタイルは、もう米国のラボだけのものではなくなってきました。進化の踏み込みがまた一段深くなる合図として、僕はここを見ています。

出典: 量子位QbitAI

■ 無償公開で迫るPhysBrainの実力

注目の最後は、価格ゼロで最高峰に迫った一台です。視覚言語モデルから発展させた物理基盤モデル「PhysBrain 1.5」を、中国のDeepCyboがオープンソースとして公開しました。

オープンソースモデルの中で首位に立ったのは、28種のベンチマーク平均72.5点というスコアです。クローズドモデルでその上に位置するのは、GPT-6 Astra(73.3)とGemini 3.6 Flash(73.0)です。その差はわずか1点、100点満点で言えば紙一枚の違いです。Apache 2.0のもとで8Bと2Bという2サイズを完全公開しているのも、このモデルの特徴です。有料の壁の内側にいた性能が、無料でダウンロードできる場所に降りてきた。

物理世界を理解するAIは、ロボティクスや世界モデルのように「動くもの」を扱う領域の土台になります。個人でロボットや自動化を触るエンジニアの選択としては、まず手元のマシンに落として動かしてみて、それから商用モデルと比べても遅くないはずです。商用トップモデルにここまで迫る公開モデルが中国から出てきたことは、僕たちが選べる選択肢の幅を確実に広げてくれます。

出典: 量子位QbitAI

この連載は毎朝7時に更新しています。今日みたいに作る側と使う側の力学が動いた日ほど、翌朝の続きも面白くなります。よかったらフォローで、明日の朝もお付き合いください。

■ 今日の気になるニュース14本

ここからは、規模は小さくても押さえておきたい動きを14本まとめます。特に読んでほしいのは、3本目のフィールズ賞受賞者25人による共同声明と、10本目の子ども保護法です。前者は「AIのすごい発表」を専門家がどう疑うかの手本、後者は事業者に実費の罰金が乗る具体的な規制で、どちらも今日の主役ニュースの余白を埋める話だからです。

1. 中国テック大手、社員のAI利用を「トークン配給制」に

SCMPの報道によれば、AIトークンのコスト増を理由に、百度・アリババ・テンセント・字節跳動など中国の大手各社が社員のAI利用量を「配給制」で制限し始めています。社員の中には、米国製モデルを使うと自己負担になるケースもあるそうです。「全社員でAIを使おう」という掛け声の裏側で、実際の運用コストが重くのしかかっている状況がうかがえます。全社導入を検討する側には、使わせ方の設計がそのまま予算問題になると突きつけてきます。

出典: South China Morning Post

2. イーロン・マスク氏「Grok 5はAGI水準」と主張

開発中の次世代モデル「Grok 5」について、xAIのイーロン・マスク氏はAGI水準に達していると発言しました。現行モデルのGrok 4.9は、OpenAIの「Astra」クラスに相当する位置づけだといいます。裏付けとなる具体的な性能データは示されておらず、X上では誇張ではないかという声も交えて賛否が分かれています。マスク氏はアモデイ氏の減速論にも賛意を示す一方で、AGI到達を誇示する発言も続けており、安全性と誇示という両面を行き来する発信ぶりです。マーケティングの言葉と実力は、いったん分けて聞いておきます。

出典: ITmedia AI+

3. 25人のフィールズ賞数学者、AI数学レースを批判する共同声明

テレンス・タオ氏を含む25人のフィールズ賞受賞者が、AI各社の数学ベンチマーク競争を批判する共同声明を出しました。AI各社が、外部の検証が追いつかないスピード感で次々に「数学的ブレイクスルー」を打ち出せば、誰の功績かという帰属の問題や盗用の疑いが生まれ、内容をじっくり確かめる時間そのものが失われかねない、と声明は警告しています。引き金の一つは、OpenAIが9月8日に約1万エージェントを88時間並列させ「ナビエ・ストークス方程式を解いた」とした件でした(数学界では未検証)。発表の速さと、真偽を確かめる速さは別物だと、専門家の側から釘を刺した格好です。

出典: Ledge.ai

4. 元Anthropic初期メンバーら、暴走AIエージェント制御の新会社を設立

Anthropicの初期メンバーと、AI評価機関METRの元COOが、自律的に動くAIの逸脱を監視・制御する新スタートアップを立ち上げました。そうしたAIの無許可の結託や暴走が相次ぐなか、行動を可視化して抑える仕組みを提供するとみられます。安全性を「守るべき理念」ではなく「売れる事業」として捉える動きが出てきたのは、市場が一段成熟した証拠だと受け止めています。

出典: TechCrunch

5. AI検索最適化のProfound、シリーズDで1.8億ドル調達しユニコーンに

AI検索最適化(AEO)のProfoundが、前回調達からわずか7カ月でシリーズD 1.8億ドルを調達し、ユニコーン評価に到達しました。チャットボットが情報源として使われる時代の「AI向けのSEO」需要が急拡大していることの表れです。検索から回答へと入り口が移れば、そこへの最適化が新しい商売になります。マーケ担当の手元では、対策する相手がGoogleだけではなくなり始めています。

出典: TechCrunch

6. 中国、新5カ年計画で半導体・AIに巨額投資目標

中国が新たな5カ年計画「十五五」で、半導体・AI分野への大規模投資目標を掲げました。米国とのAI覇権競争を背景に、チップの国産化とAI基盤整備を国家戦略として加速する方針です。今日のトランプ発言や外務省の減速拒否と合わせて読むと、両国とも「速度を落とす気はない」で一致しているのがよく分かります。

出典: South China Morning Post

7. Meta、AI機能特化の新サブスクプランを追加

MetaがAI機能を前面に出した新サブスクプランを追加しました。生成AIの有料化・収益化を各社が探るなか、Metaも課金モデルの拡張に踏み出しています。無料で配って囲い込む段階から、AIそのものでいくら取れるかの検証段階に入ってきた印象です。

出典: TechCrunch

8. Hugging Face、OSSコーディングエージェント「Tau」公開

Hugging Faceが、OpenAI互換エンドポイントに対応するターミナル型のコーディング支援ツール「Tau」をOSSとして公開しました。ローカルや任意のモデルで動かせるため、開発の選択肢がまた一つ増えています。

出典: Hugging Face(GitHub)

9. Google DeepMind、Gemini Robotics 2をヒューマノイド「Apollo 2」に搭載

Gemini Robotics 2が、Apptronik社のヒューマノイド「Apollo 2」の全身制御を担うことになりました。GoogleがGeminiを多様なロボットの頭脳として広げる、物理AI戦略の一歩です。今日のPhysBrainと合わせると、AIの主戦場が画面の中から現実の身体へ移りつつあるのが見えてきます。

出典: Scientific American

10. カリフォルニア州、全米最強のAIチャットボット児童保護法に署名

AIチャットボットとSNSから子どもを守るための法案群に、カリフォルニア州のニューサム知事が署名しました。この法律により、事業者にはリスク評価・年齢確認・自傷の兆候が見られた際の保護者への通知が義務づけられ、違反すれば子ども1人あたり最大100万ドルの罰金が科されます。施行時期は2027年7月で、OpenAIなどの対話AIサービスもこの規制の対象に含まれます。罰金が「利用者1人単位」で積み上がる設計は、事業者にとって相当に重いものです。対話AIを子ども向けに提供する事業では、いまから設計の見直しが要る話です。

出典: California Governor Office

11. 「.envのAPIキーがAIエージェントを内通者にする」

エージェントAIが参照する.envファイル内のAPIキー管理の甘さが、それを外部への「内通者」に変えうる、と@ITが警告しました。自律型AIの時代のセキュリティ体制を組み直す必要を突く、実務的な指摘です。

出典: @IT(ITmedia)

12. ソフトバンク、AIマネジメント国際規格「ISO/IEC 42001」認証取得

ソフトバンクが、データ整備サービスでAIマネジメントシステムの国際規格ISO/IEC 42001の認証を8月25日付で取得しました。AIのリスク管理や説明可能性の体制を整える、国内の先行事例です。

出典: BUSINESS NETWORK

13. 経済産業省、AIの「課題事例」募集を開始

経産省が9月14日から、AI事業者ガイドライン改定に向けて、開発・提供・利用現場の課題事例の募集を始めました。8月発足の「AI産業戦略課」が、国内ルール整備の基礎資料とする狙いです。

出典: 経済産業省(一覧参照)

14. AIデータセンターの天然ガス消費、2035年に独+日合計超えの試算

米国のデータセンターが消費する天然ガスが、2035年までにドイツと日本の合計を上回りうる、との試算が出ました。AIブームの裏にあるエネルギーと環境のコストが、国単位で語る規模に膨らんでいます。

出典: TechCrunch

■ まとめ: 交差した3つの潮流

今日はきれいに三つの流れがぶつかりました。KoaやAgentforceのように企業が自前で用意する安価な専用AI、トランプ大統領と中国政府がともに示した「減速しない」という政治判断、そしてGLM-6.0やPhysBrainのような中国勢が独自路線で技術を進化させている動き。効率化・政治・技術のどれもが、同じ日に一歩ずつ進んでいます。

このなかで自分の仕事にいちばん早く効いてくるのは、やはりKoaの系統だと考えています。政治や開発思想の話は上流で大きく動きますが、手元の予算とツール選定に直接触れてくるのは「高い汎用AIに全部任せるのか、安い専用モデルに切り出すのか」の判断だからです。

今日できることを一つ挙げるなら、いま自社が使っているAIの利用料の内訳を一度だけ開いて眺めてみることです。何にいくら払っているかが見えると、Koaのような選択肢が現実味を帯びてきます。

明日以降で僕が追うのは、OpenAI・Anthropic・Googleの3社協議が独占禁止法への懸念をクリアして、何らかの形にまとまるかどうかです。ここが動けば、企業主導のAI安全ルールが初めて具体像を持ちます。

動きがあれば、また朝にお伝えします。

昨日の記事はこちら: https://note.com/ai_masaki/n/n69b7384c3cd0

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

気になったニュースや「ここもう少し詳しく」など、何でも気軽にコメントください。フォロー・スキでの応援も、毎朝更新する励みになります。

それでは、今日も良きAIライフを!

いいなと思ったら応援しよう!