デマを流したはずの中国が、まさかの「自爆」に追い込まれた全記録
最近、SNSで思わず目を疑うような画像を見て、手が止まった経験はありませんか。信じられないほど巨大な生き物や、衝撃的な映像。それが本当かどうかを確かめるより先に、私たちの心はもう揺さぶられてしまっています。実は2023年、福島の処理水放出をめぐって、そうした「恐怖を煽る情報」が世界中を駆け巡りました。そして驚くべきことに、その矛先を向けたはずの国自身が、最も大きな代償を払うことになったのです。今日は公認心理師として、この出来事の裏側にある「人の心の仕組み」を、皆さんと一緒にひもといていきたいと思います。
「疑わない」のではなく、「疑えない」仕組みがある
2023年8月、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出が始まりました。IAEA(国際原子力機関)が国際的な安全基準に合致していると認め、WHOの飲料水基準を大きく上回る水準まで浄化された、科学的にきわめて慎重なプロセスです。
ところが、この事実に対して中国側から発信されたのは、まったく別の物語でした。「核汚染水」という呼び方が繰り返し使われ、メキシコで起きた下水道事故の映像が「福島から汚染水が漏れている」映像として拡散され、AFP通信の検証によって流用だと判明しています。さらに、生成AIで作られた巨大なタコやエビの画像が「日本の放射能で変異した生き物」として広まりました。
正直に言うと、私はこれらの画像を最初に目にしたとき、頭では「そんなはずはない」とわかっていても、一瞬ゾッとする自分がいました。恐怖という感情は、それくらい強く、そして一瞬で私たちの思考を乗っ取ってしまう力を持っています。これは意志が弱いからではなく、人間の脳がもともとそういう仕組みでできているだけなのです。
なぜ人は、事実より「怖い話」を信じてしまうのか
心理学の視点から見ると、今回のような情報操作には、共通する3つの仕掛けがあります。
ひとつめは、恐怖そのものが思考を止めてしまうということです。人は強い恐怖や嫌悪を感じると、じっくり検証するより先に、反射的に「避けよう」とします。落ち着いて考える余裕がある平時とは、脳の使い方そのものが違うのです。
ふたつめは、周りの反応がそのまま「証拠」に見えてしまうということです。スーパーで誰かが必死に塩を買い込んでいれば、それを見た人まで「自分も買っておかないと」と感じてしまう。これは同調行動と呼ばれるもので、内容の真偽よりも「みんながそうしている」という事実のほうが、人の行動を強く動かします。
みっつめは、一度不安を感じると、その不安を裏づける情報ばかりを無意識に集めてしまうということです。心理学では確証バイアスと呼びますが、「やっぱり危険なんだ」と思いたい心が、都合の良い情報だけを拾い上げてしまうのです。
この3つが重なると、どれほど誠実に科学的根拠を積み上げても、恐怖の物語のほうが先に人の心に届いてしまいます。情報戦というのは、突き詰めれば「事実の戦い」ではなく「感情の速度の戦い」なのだと、私は感じています。
恐怖は、投げた側にも突き刺さる
ここからが、この出来事のもっとも興味深いところです。中国国内で起きたのは、まさに「投げたはずのブーメランが自分に戻ってくる」現象でした。
ひとつめは、食塩の買い占め騒動です。「海の塩が汚染される」という不安から、沿岸部のスーパーで塩が消える騒ぎが起きました。実はこれとまったく同じ現象が、2011年の東日本大震災の直後にも起きています。国有企業の中国塩業集団は、慌てて「中国で流通する塩のほとんどは岩塩であり、海塩はごくわずかしかない」と説明する事態になりました。政府が広めた「海は危険だ」という物語と、自社の「安全性(岩塩だから大丈夫)」という説明が、真っ向からぶつかってしまったわけです。
ふたつめは、自国の漁業への打撃です。「海が汚染された」という物語を信じ込んだ消費者は、産地を確かめることなく魚介類そのものを避けるようになりました。結果として被害を受けたのは、福建省や山東省で日々漁をしている、中国の漁師たちでした。
みっつめは、中国国内に約8万軒あるといわれる日本食レストランです。経営者も従業員も中国人、食材も多くは中国産という、実質的には自国の産業です。それでも「日本」という名前に過剰に反応した客足が途絶え、看板を韓国料理やアジア料理に掛け替えて生き延びようとする店が相次ぎました。
恐怖という感情は、一度火をつけると、火をつけた本人の意図どおりには燃え広がってくれません。むしろ、情報に敏感な都市部ほど深刻な影響を受けたと報じられており、これは決して他人事ではなく、私たち一人ひとりの中にも同じ仕組みがあることを示しています。
揺るがない対応こそが、最強の防御になる
一方の日本の対応は、恐怖に対して恐怖で応えるのではなく、事実と行動で応えるものでした。輸出停止で行き場を失ったホタテを、ふるさと納税を通じて国内で受け止める動きが広がり、北海道別海町では、寄付額が前年の2倍に達したといわれています。同時に、アメリカやベトナムなど新しい輸出先の開拓も進みました。当時のエマニュエル駐日アメリカ大使が福島の水産物を実際に食べて発信したことも、大きな安心材料になったと記憶しています。
シンガポールのローレンス・ウォン首相が、日本を東南アジアにとって最も信頼できるパートナーの一つだと語ったと報じられたのも、このタイミングでした。派手な反論や感情的な対立ではなく、地道に積み重ねてきた透明性と誠実さこそが、いざというときの最大の武器になる。私はこの一連の流れを見ていて、そのことを改めて強く感じました。
不安を「我慢する」のではなく、事実を確かめる行動に「チャレンジ」してみる。それだけで、私たちは恐怖に振り回される側から、少しだけ自由になれるのだと思います。
私たちが今日からできる、3つの情報との付き合い方
最後に、専門家としてではなく、同じように日々たくさんの情報にさらされている一人の人間として、実践している工夫を3つお伝えします。
ひとつめは、感情が大きく動いた情報ほど、一呼吸置くことです。「怖い」「許せない」と感じた瞬間は、脳が一番だまされやすい状態になっています。すぐに拡散したりせず、あえて数分だけ時間を置いてみてください。
ふたつめは、その情報の「発信元」までさかのぼる習慣です。誰が、いつ、何を根拠に発信しているのか。切り取られた一枚の画像や一本の動画ではなく、その出どころを確認するだけで、見え方はまったく変わってきます。
みっつめは、「みんなが言っている」を鵜呑みにしないことです。周りの反応は、内容の正しさを保証してくれるものではありません。むしろ、多くの人が同じ方向に動いているときこそ、一度立ち止まる価値があります。
これは特別な能力ではなく、誰でも今日から始められる小さな習慣です。講演やSNSでの発信活動を通じて、多くの方から不安の相談をいただくたびに、私はいつもそうお伝えしています。
おわりに
今回お伝えしたかったことをまとめます。
・恐怖に基づく情報は、事実よりも速く、強く人の心に届いてしまう ・その恐怖は、発信した側にも同じように突き刺さる
・恐怖に対抗できるのは、恐怖ではなく、事実と誠実な行動である
・情報に振り回されるのは弱さではなく、誰もが持つ心の仕組みである
・一呼吸置く、発信元を確認する、同調に流されない。この3つが自分を守る
デマや陰謀論は、決して遠い国の特別な出来事ではありません。私たちの日常のタイムラインにも、同じ仕組みを持った情報が静かに紛れ込んでいます。だからこそ、正しく知り、正しく疑う力は、これからますます大切な「心の防具」になっていくはずです。あなたには、その力を育てていくことができます。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。
※本記事は、プレジデントオンライン掲載記事(https://president.jp/articles/-/117655)、およびIAEA・AFP通信等の報道をもとに構成しています。
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