もう陰謀論に振り回されない。公認心理師が教える情報との距離感
「そのニュース、本当に確かめましたか」。そう聞かれて、迷わず頷ける人は、実はそう多くありません。私は普段、医療の現場で人の心と向き合う仕事をしています。そのなかで感じるのは、賢い人ほど、不安なときほど、根拠のない話に心を寄せてしまうという事実です。それは弱さではなく、人間の自然な反応です。今日は、ある事故調査に携わった技術者の言葉をきっかけに、事実と憶測を見分ける視点について、私の臨床の実感も交えながらお話ししたいと思います。
40年越しに語られた、ひとつの言葉
先日、ある報道で目にした話が、ずっと心に残っています。1985年に起きた日本航空123便の事故調査に、技術者として携わった川幡長勝さんという方がいます。フライトレコーダーの記録を、根気強く一つひとつ読み解いていった当時の関係者のひとりです。
それから40年という歳月が流れた2026年、川幡さんは初めて、機体の残骸や、亡くなった方が遺した最期のメモ書きが保管されている場所を訪れたそうです。垂直尾翼の破断部を目の前にしたとき、川幡さんの胸に去来したものは、想像するだけで胸が締めつけられます。
その川幡さんが、報道の中でこんな趣旨のことを語っていました。事故調査というのは、データに基づいた合理的な推測しかできない。異なる主張が出てきたときほど、矛盾のないよう慎重にデータを読み解く必要がある。そして、根拠のない憶測だけで語ることは、かえって余計な問題を生んでしまう、と。
科学者としての人生を、事実と誠実に向き合うことに費やしてきた方の言葉だからこそ、この一言には重みがあります。私はこの話を知ったとき、これは事故調査の世界だけの話ではないと感じました。ニュースを見る私たちひとりひとりの、日々の情報との向き合い方そのものだと思ったのです。
なぜ人は、根拠のない話ほど信じてしまうのか
ここで、ひとつ大切なことをお伝えしたいと思います。陰謀論やデマを信じてしまうことは、決して「頭が悪いから」でも「だまされやすいから」でもありません。
心理学の世界では、人は不確実な状況に置かれるほど、単純で分かりやすい説明にすがりたくなることが知られています。天文学者のカール・セーガンは、非凡な主張には非凡な証拠が必要だという言葉を残しましたが、裏を返せば、人は本来「非凡な主張」の方に強く惹かれる生き物だということでもあります。理由の分からない不安を、誰かのせいにできる物語は、心にとって一時的な安心剤になってしまうのです。
私自身、臨床の現場で多くの方の不安と向き合ってきました。将来が見えないとき、大切な人を失ったとき、社会に裏切られたと感じたとき、人はコントロール感を取り戻そうとして、分かりやすい「敵」や「答え」を探し始めます。それはとても人間らしい反応で、決して責められることではありません。ただ、そこに事実の裏づけがあるかどうかは、まったく別の話なのです。
事実と憶測を、静かに分ける習慣
では、私たちは日々の暮らしの中で、どうすればいいのでしょうか。私が臨床の実感からお伝えしたいのは、難しい知識よりも、小さな「間」を持つことの大切さです。
強い感情が動かされる情報に出会ったとき、私はいったん立ち止まる時間を意識的に作るようにしています。怒りや不安で心が大きく揺れているときほど、その情報は事実というより、感情に訴える構成になっている可能性があるからです。すぐにシェアしたくなる気持ちを、いったんポケットにしまってみる。それだけで、見える景色が変わってきます。
もうひとつ大切なのは、情報の出どころに一歩近づいてみることです。誰かの要約や切り取られた発言だけで判断せず、できる範囲で元の発言や一次情報にあたってみる。川幡さんが磁気テープの波形と地道に向き合い続けたように、私たちにも、手間をかけて確かめる姿勢が求められているのだと思います。それは「疑い深い人になる」ということではありません。大切なものを守るための、優しい慎重さだと私は捉えています。
そして最後に、分からないことを「分からない」まま置いておく強さも、忘れずにいたいものです。すべてに白黒つけようとする必要はありません。判断を急がず、憶測ではなく事実に基づいて考え続ける姿勢そのものが、私たちの心をデマから守ってくれるのです。
憶測ではなく、事実を選ぶという生き方
川幡さんは、憶測だけで語ることは余計な問題を生むと語っていました。この言葉は、事故調査という特別な場面だけでなく、日々ニュースに触れる私たちすべてに向けられているように、私には思えてなりません。
事実を選ぶという生き方は、地味に見えるかもしれません。けれど、それは弱さではなく、誠実さです。すぐに答えを出さない自分を、どうか責めないでください。分からないことをそのままにしておける心の余白こそが、あなたを、そして周りの大切な人を、デマや陰謀論から守る力になります。
おわりに
今日は、事故調査に携わった技術者の40年越しの言葉から、事実と憶測を分けて考えることの大切さについてお話ししました。強い感情が動くときほど一度立ち止まること、できるだけ一次情報に近づくこと、そしてすぐに白黒つけようとせず「分からない」を抱えていられること。この3つの姿勢は、専門知識がなくても、今日から誰にでも始められます。あなたが日々触れる情報との向き合い方を少しだけ変えることは、あなた自身の心を守るだけでなく、あなたの大切な人の心を守ることにもつながっていきます。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。
#フェイクニュース #陰謀論 #ファクトチェック #情報リテラシー #公認心理師
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