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反ワクチン投稿の65%は本当に『たった12人』から生まれていたのか

SNSで「ワクチンのせいで〇〇が起きた」という投稿を見て、心がざわついた経験はありませんか。私は公認心理師として、こうした情報がどのように広がり、私たちの判断を静かに揺さぶっていくのかに、以前から強い関心を持ってきました。

今回取り上げるのは、2021年に発表され世界中のメディアで報じられた「The Disinformation Dozen」というレポートです。「反ワクチン情報の65%は、たった12人から生まれている」という衝撃的な主張は、本当に正しいのでしょうか。実際に一つひとつ検証した結果を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

The Disinformation Dozen
https://counterhate.com/wp-content/uploads/2022/05/210324-The-Disinformation-Dozen.pdf

「The Disinformation Dozen」とは、どんなレポートなのか


このレポートを発表したのは、英国の非営利NGO「Center for Countering Digital Hate(CCDH)」です。2021年3月24日、コロナによる死者が全米で50万人を超え、ワクチン接種が急がれていた時期に公表されました。

主張の核心はシンプルです。ジョセフ・マーコラ氏やロバート・F・ケネディ・ジュニア氏をはじめとする12人の人物が、Facebookとツイッターで拡散された反ワクチンコンテンツの最大65%を生み出している、というものです。内訳を見ると、Facebookでは最大73.1%、ツイッターでは17.3%がこの12人に帰属するとされ、12人の合計フォロワー数は5920万人にのぼるとされています。CCDHはこの結果をもとに、各プラットフォームに対して12人のアカウント削除、いわゆる「デプラットフォーム」を強く求めました。

数字だけを見ると、まるで少数の「黒幕」が世論を操作しているかのような印象を受けます。ですが、こうした強いインパクトを持つ数字ほど、丁寧に検証する価値があると私は考えています。

検証してわかったこと

(1) 個別の事例は、驚くほど裏付けられていた

まず良い意味で驚いたのは、レポートが個別に取り上げている事例そのものは、かなりの部分が独立した第三者機関によっても確認できるという点です。

たとえばマーコラ氏が発信した「過酸化水素の吸入がコロナ治療になる」という趣旨のコンテンツは、実際に米連邦取引委員会(FTC)が2020年に出した警告文書の中で、根拠不十分なコロナ治療の主張として名指しされています。また「セネガルでワクチン接種後に子ども7人が死亡した」という投稿は、実際には別の出来事の映像に虚偽の説明を付け加えて拡散されたものであることが、AFPやFactCheck.orgによって確認されています。ホームラン王ハンク・アーロン氏の死をワクチンと結びつける投稿についても、検視当局は自然死であるとし、ワクチンとの関連を示す証拠はないとしています。

一次資料としてのレポートの価値は、こうした具体的な虚偽情報を丹念に集め、記録した点にあると私は感じています。ここは率直に評価してよい部分だと思います。

検証してわかったこと

(2) 「65%」という数字にひそむ落とし穴

一方で、レポートの象徴とも言える「65%」という数字には、慎重に扱うべき事情がありました。

Facebookに関する分析は、実は689,404回という共有回数全体を一件ずつ調べたものではありません。10の非公開グループと20の公開グループ、合計30の反ワクチングループから抽出した、たった483件のURL付き投稿を出発点にしています。この483件がFacebook全体で何回共有されたかを、Facebook自身の分析ツール「CrowdTangle」で数えた結果が689,404回であり、そのうち12人に帰属する分が503,896回、つまり73.1%だった、という積み上げ計算なのです。

つまり「483件のサンプルの中では」という条件付きの数字であり、Facebook上の反ワクチン情報全体を無作為に調査した結果ではありません。どの30グループを選んだのか、なぜその選定が代表的だと言えるのか、といった調査設計の根拠は、レポートの中では十分に説明されていません。レポート本文には「812,000件を分析した」と読める表現もあり、読者によっては483件という核心部分の小ささが伝わりにくい書き方になっている点も、私は少し気になりました。

望遠鏡で遠くの景色を見るとき、ピントの合わせ方ひとつで、実物より歪んで大きく見えてしまうことがあります。統計もこれと似ていて、母集団の選び方や標本の代表性という「ピント合わせ」を確かめないと、実際以上にインパクトのある数字に見えてしまうことがあるのです。

検証してわかったこと

(3) その後の研究は、何を裏付け、何を裏付けなかったのか

では「少数の発信者に反ワクチン情報が集中する」という大きな主張自体は、間違いだったのでしょうか。ここは興味深いところで、答えは「大筋では裏付けられている」というものでした。

2021年に英語圏の新型コロナワクチン関連ツイート約3億件を分析した査読研究では、約800の「スーパースプレッダー」アカウントが、誤情報の再拡散のうち平均して約35%を占め、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏一人だけで低信頼性情報のリツイートの13.4%を占めていたと報告されています。また、Facebookの内部資料に関するワシントン・ポストの報道によれば、638あるユーザー群のうち、わずか10群がワクチン忌避コンテンツの半分を生み出しており、最も偏った群では、たった111人が半分を投稿していたとされています。

つまり「ごく一部の発信者に影響力が集中している」という構造自体は、後続の大規模な独立研究でも繰り返し確認されているのです。ただし、その研究のどれもが「この12人で65%」という具体的な数値そのものを再現してはいません。個別事例の正しさ、集中構造の妥当性、そして65%という固有の数字の一般化可能性は、それぞれ別々に評価する必要がある、ということだと私は理解しています。

心理師として伝えたい、数字よりも大切な読み方


ここまでの内容を、私なりに3つの視点に整理してみます。

一つ目は、発信元の性格です。CCDHは実在する正規のNGOですが、自ら「プラットフォームに改革を迫る」ことを目的に掲げるアドボカシー団体であり、中立な学術機関とは立場が異なります。政策的な主張を持つ組織が出す数字だからといって否定する必要はありませんが、そういう色があることは知っておいたほうがよいでしょう。

二つ目は、その数字がどこまでの範囲を語っているかです。「483件のサンプルの中の73%」なのか、「SNS全体の65%」なのかは、まったく別の話です。強い数字ほど、この範囲を確認する価値があります。

三つ目は、独立した再現があるかどうかです。今回のように、複数の別々の研究チームが似た結論に達していれば、その主張の信頼性は高まります。逆に、一つの組織の数字だけが独り歩きしている場合には、少し立ち止まって考えてみる余地があります。

こうした情報に触れたとき、人はどうしても両極に振れやすくなります。ワクチンを積極的に勧める立場の方は「65%」を見て、反ワクチン的な発信のすべてが組織的な工作だと過大に解釈してしまいやすく、逆にCCDHの手法に批判的な方は、標本設計の弱さを見つけたことで、レポートに載っている個々の虚偽情報まで「捏造だったのではないか」と疑ってしまいやすくなります。私は、そのどちらの反応も、少しもったいないと感じています。個別の事実の正確さと、全体を語る統計の一般化可能性は、分けて考えることができるはずだからです。

まとめ


今回お伝えしたかったポイントを、あらためて整理します。

一つ目、レポートに掲載された個別の虚偽情報の事例は、FTCやAFP、FactCheck.orgなど独立した第三者によってもかなりの部分が裏付けられています。

二つ目、「65%」「73%」という象徴的な数字は、限られたサンプルの中での計算であり、SNS全体に一般化できる設計にはなっていません。

三つ目、「少数の発信者に影響力が集中する」という大きな構造自体は、後続の独立した研究によっても繰り返し支持されています。

四つ目、発信元がどんな目的を持つ組織なのかを知ることは、数字を読み解くうえで欠かせない手がかりになります。

五つ目、ひとつの情報に触れたとき、賛成側にも反対側にも、それぞれの過大解釈が起こりうるということを、心にとめておいていただけたらと思います。

情報の真偽を見極める力は、特別な才能ではなく、こうした小さな視点の積み重ねで誰でも育てていけるものだと、私は考えています。目の前の数字に振り回されるのではなく、その数字がどこから来て、何を語り、何を語っていないのかを、ご自身のペースで確かめていただければうれしいです。

長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。

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