琉球新報の判定にも一石を投じたい、公認心理師が見た動画の本当の問題
「これ、フェイクですか? それとも本当ですか?」
もしそう聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。
先日、沖縄県知事選をめぐって300万回以上拡散されたある動画を、地元紙が「偽情報」と判定しました。私も最初は「なるほど、フェイクなんだ」で終わらせそうになりました。ところが18項目にわたって一つひとつ確認していくうちに、話はそんなに単純ではないと気づいたのです。「フェイクか本物か」という二択で情報を見ている限り、私たちは大事なものを取りこぼしてしまうかもしれません。今日はその話を、実際の事例とともにお伝えします。
「存在しない話」と「証明されていない話」は、まったくの別物です
まず整理しておきたいことがあります。今回の琉球新報の記事は、8月28日に投稿された4分19秒の動画を検証したものでした。動画は、玉城デニー知事が米軍基地の整理縮小を訴える理由について、中国の利益になるからだという趣旨の主張を展開し、Xとインスタグラムを合わせて公開から一週間ほどで300万回を超える表示を記録しました。記事はこれを「偽情報」と判定しています。
私はこの判定そのものを頭ごなしに否定するつもりはありません。実際、記事が示した数字や経緯は、防衛省の公表資料や外務省の記録と照らし合わせても、おおむね裏づけが取れます。沖縄は国土面積の0.6%ほどしかないのに、在日米軍の専用施設・区域面積の実に70.3%が集中していること。歴代の知事が党派を問わず基地の整理縮小を求めてきたのは、墜落事故や事件、PFAS汚染など県民が実際に受けてきた被害が理由であること。ここまでは一次資料で確認できる、れっきとした事実です。
一方で、私が引っかかったのは「偽情報」というラベルの重さです。琉球新報自身が示している判定基準では、「偽情報」は事柄そのものが存在しない場合に、「根拠不明」は事実だと証明する根拠が乏しい場合に使う言葉だとされています。今回の動画が主張した「知事の基地反対理由は中国のためだ」という因果関係は、たしかに裏づけとなる証拠は見当たりません。けれどもそれは、「そんな動機は存在しない」と完全に証明できる話でもないのです。だとすれば、より厳密には「根拠不明」あるいは「ミスリーディング」という言葉のほうがふさわしかったのではないか。私はそう感じています。ここは事実の指摘というより、私個人の評価として受け取っていただければと思います。
本物の素材でも、つなぎ方ひとつで印象はいくらでも変わります
臨床の現場でも、似たようなことをよく経験します。検査データそのものは正確でも、どの数値をどの順番で並べて説明するかで、患者さんの受け取り方はまったく変わってしまうのです。事実は一つでも、編集の仕方で意味が変わる。今回の動画も、まさにその構造を持っていました。
動画は、玉城知事が2019年に訪中した際、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について沖縄の活用を提案した発言を取り上げ、まるで沖縄を差し出すかのような演出を加えていました。しかし当時は、安倍政権自身が条件つきで一帯一路への協力に前向きな姿勢を示していた時期でもあります。さらに玉城知事は2023年には一転して情報不足を理由に慎重な立場へと転じています。この文脈をすべて省いて2019年の発言だけを切り出せば、印象はいくらでも操作できてしまいます。
もう一つ気になったのが、辺野古沖の転覆死亡事故に関する話題と、まったく別の話題で玉城知事が笑っている記者会見の映像を、あたかも一続きの出来事であるかのように並べていた点です。事故そのものは実際に起きたことであり、会見映像も本物です。けれど、時系列と文脈を意図的にずらしてつなげることで、「事故について笑っている」という誤った印象を視聴者に与えてしまう。素材が本物だからこそ、かえって見抜きにくい。これがミスリーディングな編集の一番厄介なところです。
「かもしれない」と「だから」を、うっかりつなげていませんか
三つ目にお伝えしたいのは、少し心理学よりの話です。「中国が沖縄の米軍基地の存在を戦略上好ましく思っていない可能性がある」ということ自体は、荒唐無稽な話ではありません。米国の議会調査局の報告書でも、沖縄の米軍展開が東シナ海情勢や中国側の動きと関連づけて論じられています。ここまでは、専門家の間でも共有されている一般論です。
けれども、そこから「だから玉城知事は中国のために基地に反対している」という結論に飛ぶのは、まったく別の話です。「アイスクリームの売り上げが伸びると水難事故が増える」という有名な例え話をご存じでしょうか。両方とも夏に増えるだけで、片方がもう片方の原因ではありません。今回の動画も、これによく似た飛躍を含んでいます。「中国が基地を嫌う可能性がある」ことと「知事が中国のために動いている」ことは、証拠のうえでは何もつながっていないのに、感情のうえでは自然につながって見えてしまう。人はもともと、そういう飛躍を心地よく感じるようにできているのです。選挙という、感情が動きやすい場面ではなおさらです。
終わりに
今日お伝えしたかったことを、あらためて三つにまとめます。
一つ目は、「フェイクか本物か」の二択ではなく、「事実として確認できること」と「証明されていない解釈」を分けて見る習慣です。二つ目は、素材そのものが本物でも、切り取り方や並べ方で印象はいくらでも変わりうるということです。三つ目は、「あり得る」と「そうに違いない」の間には、大きな距離があるという視点です。この三つを持っているだけで、あなたが動画やニュースに触れたときの見え方は、確実に変わってきます。
これは何も、特別な訓練を積んだ人だけができることではありません。「これは事実の話かな、それとも誰かの解釈かな」と、ほんの一呼吸だけ立ち止まって考える。それだけで、あなたはもう十分に情報に振り回されにくい人になっています。どうか自分の判断力を、もっと信じてあげてください。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。
#ファクトチェック #情報リテラシー #沖縄知事選 #フェイクニュース #公認心理師
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