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公認心理師が読み解く、消費者庁「ダークパターン事例集」の中身

「ネットで買い物をしていて、気づいたら定期購入になっていた」「解約しようとしたら、なぜか手続きが終わらなかった」——そんな経験、ありませんか。私は公認心理師として、ふだんフェイクニュースやデマがなぜ人の心に届いてしまうのかを考えています。でも実は、似たような「心のスキをつく仕掛け」は、ニュースサイトだけでなく、私たちが毎日のように使うネットショッピングの画面にも、静かに、けれど確実に潜んでいるのです。今日は消費者庁がまとめた資料をもとに、その正体を一緒に見ていきたいと思います。


なぜ「デザイン」に心理師が注目するのか


普段の私は、SNSで広がるデマや陰謀論が、なぜあれほど強い力を持ってしまうのかということを考えています。人がなぜ誤った情報を信じてしまうのか、そこには「その人が愚かだから」という単純な理由はありません。恐怖や焦り、「自分だけが正しい情報を知っている」という優越感、そして「みんなが言っているから」という安心感。こうした心の動きを、巧みに利用する仕掛けがそこにはあります。

そして実は、ネット通販の画面にも、まったく同じ構造の仕掛けが使われていることに、私は気づきました。今回参考にしたのは、消費者庁の新未来創造戦略本部国際消費者政策研究センターがまとめた「ダークパターン事例イラスト集」です。もともとは「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」という調査資料をもとに、執筆者個人の責任でイラスト化されたものであり、消費者庁としての公式見解ではないという注記も添えられています。それでも、ここに並ぶ15の事例は、私たちの日常にとても近い場所で起きていることばかりです。

「気づかせない」仕掛けたち


まず紹介したいのは、消費者に気づかせないまま、事業者にとって都合のよい行動を選ばせてしまうタイプの仕掛けです。

たとえば、商品を購入するのに会員登録が必須ではないのに、登録なしで進めるボタンが画面の下の方に小さく配置されていて、一見すると登録が必須であるかのように見えてしまう「強制登録」。クッキーの利用について「同意しない」という選択肢が用意されていなかったり、いったん閉じただけなのに、いつのまにか同意したことになっていたりする「強制的情報開示」。全額返金保証という言葉が大きく打ち出されている一方で、返金の条件は小さな文字のアコーディオンの中に隠されている「隠された情報」。そして、「事業者からのお知らせを希望しません」というように、あえて否定形で聞くことで判断を迷わせる「ひっかけ質問」や、税込みか税抜きかが画面ごとに違っていたり、最後の最後に送料や手数料が追加されたりする「隠れたコスト」。

これらに共通しているのは、嘘をついているわけではない、という点です。情報自体はどこかに存在しています。ただ、人間の注意力には限りがあるという性質を利用して、見落としやすい場所に、見落としやすい形で配置しているのです。私はこれを、心理学でいう「認知負荷」の悪用だと捉えています。人は忙しいとき、疲れているとき、選択肢が多いとき、細部への注意がどうしても甘くなります。それは意志の弱さではなく、人間の脳がもともとそういう仕組みで動いているからです。

「選ばせない」仕掛け


次に多いのが、本当は他にも選択肢があるのに、それを見えにくくしてしまうタイプです。健康食品のサイズやコースを選ぶ場面で、価格の高い「お徳用サイズ」と「定期お届けコース」があらかじめ選択された状態になっている「事前選択」。動画配信サービスなどで、一番料金の高いプランだけが最初に表示され、「すべてのプランを見る」というボタンを押さない限り、安いプランの存在にすら気づけない「価格比較妨害」。

どちらも、選択の自由自体は形式上、消費者に残されています。けれど、人は「初期設定のまま進んでしまう」傾向を強く持っていて、これは心理学で「デフォルト効果」と呼ばれる、よく知られたバイアスです。何かを変更するには、たとえそれがボタン一つであっても、心のエネルギーが必要になります。そのわずかな面倒くささを利用されているのだと思うと、少し悔しい気持ちになりますね。

「急がせる・煽る」仕掛け


三つ目は、私たちの感情、とくに焦りや不安に働きかけてくるタイプです。実際にその価格で販売していた実績があるのか分からないまま、大幅な値引きを強調する「不当参照価格」。オプションを外そうとすると「本当に加入しなくて大丈夫?」と引き止めてくる「感情のゆさぶり」。スクロールしてもしても購入ボタンが追いかけてくる「執拗な繰り返し」。そして、「残り2室」「あと14分」というカウントダウンや期間限定の表示が、実は時間が過ぎても価格が変わらないことがある「カウントダウンタイマー・期間限定」。

こうした仕掛けが利用しているのは、「損失回避」という、人間にとても根深く備わった心理です。私たちは、何かを得る喜びよりも、何かを失う痛みのほうを強く感じると言われています。「今だけ」「あと少し」という言葉は、まさにこの痛みのスイッチを押しにいく言葉なのです。これはフェイクニュースが「今すぐシェアしないと大変なことになる」と煽る構造と、驚くほどよく似ています。

「信じ込ませる」仕掛け


四つ目は、他の人の評価や実績を利用して、安心感を演出するタイプです。パソコン版とスマートフォン版で、別人のはずの口コミがまったく同じ文章になっている「お客様の声」。写真に小さく「イメージです」と書かれているのに、まるで実際の使用者の感想であるかのように見せる演出。「No.1」を大きく打ち出す一方で、それが実際の効果ではなく、あるイメージ調査に基づく結果であることを示すただし書きが、目立たない場所に小さく添えられている「No.1表示・高満足度」。

私たちは社会的な生き物なので、「他の人がどうしているか」という情報にとても弱いところがあります。これは「社会的証明」と呼ばれる心理で、決して悪いものではありません。口コミを参考にするのも、本来は合理的な判断の助けになります。けれど、その仕組み自体が偽物だったとしたら、私たちの「正しく判断したい」という気持ちは、静かに裏切られてしまうのです。

「やめさせない」仕掛け


最後に紹介したいのが、「キャンセル困難」と呼ばれるタイプです。申し込みのときはボタン一つで済んだのに、解約しようとすると、デメリットの説明が表示されたり、他のプランへの変更を提案されたり、何度も画面を移動させられたりして、最終的な解約ボタンにたどり着くまでにとても手間がかかる。入り口はやさしく、出口だけが極端に狭くなっている状態です。

私はこの構造を見るたびに、始めるときは簡単なのに、離れようとすると急に態度が変わる人間関係と、どこか似ているものを感じます。心理的な負担の大きさという意味で、通じるものがあるように思います。

心理師として伝えたい、3つの共通点


ここまで15の事例を見てきましたが、私なりに整理すると、共通している要素は大きく3つに絞られます。

一つ目は、事実そのものを隠しているわけではなく、注意力の限界を利用しているということ。二つ目は、初期設定や画面の作りといった「環境」の力を使って、私たちの選択を静かに誘導しているということ。三つ目は、焦りや安心感といった感情に働きかけることで、じっくり考える前に行動させようとしているということです。

そしてこれは、フェイクニュースやデマ、陰謀論が広がっていく仕組みと、根っこの部分でつながっています。「みんなが信じている」という社会的証明、「今知らないと手遅れになる」という損失回避、「詳しい人はこう言っている」という権威性。私たちの心を動かす原理は、実はそれほど多くないのです。だからこそ、ひとつの仕組みを知ることは、思っている以上に広く応用できる武器になります。

ネットショッピングで確認したい5つのこと


最後に、消費者庁の資料でも紹介されていた、具体的な確認のポイントを共有させてください。まず、購入回数や契約の継続期間がどうなっているかを確認すること。次に、実際に支払う金額を、送料や手数料まで含めて確認すること。三つ目に、解約の条件と具体的な方法を、申し込む前に確認しておくこと。四つ目に、利用規約に目を通しておくこと。そして最後に、最終確認画面をスクリーンショットで残しておくことです。国民生活センターも、定期購入をめぐるトラブルの多さから、特定商取引法の改正にあわせてこうした注意喚起を続けています。

これらはどれも、特別なスキルを必要とするものではありません。ほんの少し立ち止まる時間さえあれば、誰にでもできることばかりです。

まとめ


ここまで、消費者庁の資料をもとに、ネット通販の画面に潜む15の仕掛けと、その背景にある心理のはたらきについてお話ししてきました。

改めて振り返ると、大切なのは次の3つだと私は思っています。一つ目は、仕掛けの多くは「嘘」ではなく「注意力の隙をつく設計」であるということ。二つ目は、初期設定や周りの評価に流されそうになったときこそ、いったん指を止める価値があるということ。そして三つ目は、こうした知識はネットショッピングだけでなく、ニュースや情報との付き合い方すべてに応用できるということです。

「気をつけなきゃ」と我慢するのではなく、「仕組みを知っているから、落ち着いて選べる」というふうに、捉え方を少しだけ変えてみてください。それはがまんではなく、あなた自身の判断力を取り戻すためのチャレンジです。知ることは、力になります。今日お伝えした15の視点のうち、たった一つでも頭の片隅に置いていただけたら、それだけで次にあなたが画面の前に立ったときの選び方は、きっと変わっていくはずです。

長文にもかかわらず、最後までお付き合いくださりありがとうございます。これからも、いい意味で"ちょっとだけマニアックな"情報を届けていけたらと思います。

#ダークパターン #消費者庁 #情報リテラシー #フェイクニュース対策 #心理学


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