見出し画像

「全員に推奨しない」は「危険だから禁止」という意味ではありません

ニュースのタイムラインを眺めていて、「あれ、これって本当なのかな」と、指を止めた経験はありませんか。とくにワクチンのように意見が分かれやすいテーマだと、一つの投稿を見ただけで不安になったり、逆に「やっぱりそうだったか」と妙に納得してしまったりするものです。私は公認心理師として、また医療の現場に身を置く人間として、そうした「情報との向き合い方」に長く関心を持ってきました。今回は、実際にSNSで拡散されたあるニュース投稿を題材に、フェイクニュースと誤解を招く情報の違いについて、一緒に考えてみたいと思います。


きっかけになった、ある投稿


先日、あるニュース投稿が目に留まりました。アメリカのFox Newsが、トランプ大統領がB型肝炎やCOVID-19、インフルエンザなど複数のワクチンについて、「すべての子どもへの一律推奨」から外す方針を発表した、と伝えるものです。あわせて、ワクチンの接種免除をめぐる州の制度について、司法省に法的措置を進めさせるという内容も含まれていました。

このニュースを見て、私が最初に感じたのは「これはフェイクニュースなのだろうか」という疑問でした。そこで、投稿の出どころ、報道の裏付け、専門家の見解など、18の項目に分けて一つひとつ確認してみることにしました。結論から言うと、投稿の中心的な部分――つまり大統領が方針を発表したという事実そのものは、ロイターやAPといった独立した報道機関の記事とも一致していました。捏造された投稿だと決めつける根拠は、見当たらなかったのです。


「フェイクニュースではない」と「誤解を招かない」は別の話


ただ、ここで立ち止まって考えたいことがあります。「フェイクニュースではない」ということと、「誤解を招かない」ということは、まったく別の話だという点です。

投稿にある「すべての子どもへの一律推奨から外す」という表現は、字面としては正確なのですが、多くの人はこれを「そのワクチンは危険だから、子どもには使われなくなった」という意味で受け取ってしまいがちです。実際には、対象となったワクチンの多くは、一律の推奨対象からリスクの高い人や、医師と相談して決める個別判断のカテゴリーへと移されただけで、全否定されたわけではありません。米国小児科学会は、これまでどおり幅広い年齢を対象とした独自の予防接種スケジュールを維持していますし、世界保健機関も、複数のワクチンを同時に接種する方法そのものの安全性については、長年積み重ねられたデータに基づいた立場を示しています。

つまり、政策の名称や見出しだけを追いかけると、実際の医学的な位置づけとはズレた印象を持ってしまう。これが、今回のケースでいちばん注意したいポイントだと、私は感じています。

情報を読み解く3つの視点


ここから、情報を読み解くときに私が大切にしている3つの視点を、お伝えしたいと思います。

一つ目は、「誰が、何をもとに言っているか」という視点です。今回で言えば、発信元はFox Newsという実在する報道機関のアカウントであり、なりすましのような不審な兆候は見当たりませんでした。とはいえ、大きく信頼されているメディアだからといって、すべての投稿が誤解のない完璧な内容とは限りません。発信元の実在性と、個々の投稿の正確さは、じつは別の軸で確かめる必要があるのです。

二つ目は、「他の情報源と照らし合わせているか」という視点です。一つの投稿だけを読んで判断するのではなく、同じ出来事を別の報道機関がどう伝えているかを見比べてみる。今回の場合、ロイターやAPという独立した報道機関の記事と照らし合わせることで、中心的な事実については確認が取れました。逆に言えば、他のどこにも出てこない「特ダネ」めいた情報ほど、慎重に扱ったほうがいいということでもあります。

三つ目は、「意見と事実を分けて読めているか」という視点です。「一律推奨から外れた」というのは事実ですが、「だから危険だ」「だから安全とお墨付きが出た」というのは、それぞれの立場からの解釈にすぎません。ここを混同してしまうと、同じニュースを見ても、まったく逆の結論にたどり着いてしまいます。

確証バイアスという心の働き


ここでもう一つ、心理師としてお伝えしたいことがあります。それは、確証バイアスという心の働きについてです。人は誰しも、もともと持っている考えを裏づける情報には目が留まりやすく、反対の情報には無意識のうちにブレーキをかけてしまう性質を持っています。ワクチンに不安を感じている人は「やっぱり危なかったんだ」と受け取りやすく、逆に特定の政治家やメディアに不信感を持っている人は「どうせ嘘に決まっている」と切り捨てやすい。どちらの反応も、人としてごく自然なものです。だからこそ、「自分は騙されていないか」と自分を責めるのではなく、「誰でもそうなりうる」という前提に立って、いったん立ち止まる習慣を持つことのほうが、ずっと大切だと私は思っています。

不安や迷いは、弱さのしるしではありません。むしろ、情報の大切さを真剣に受け止めているからこそ生まれる、健全な反応だと私は捉えています。その迷いを「チャレンジ」に変えていくために必要なのは、特別な知識よりも、今日お伝えした3つの視点を、日々のニュースに少しずつ当てはめてみる習慣なのだと思います。

まとめ――迷いは、弱さのしるしではありません


まとめとして、今日お伝えしたことを整理します。

一つ目は、「フェイクニュースではない」ことと「誤解を招かない」ことは別問題だということ。二つ目は、発信元の信頼性と、その一つひとつの投稿の正確さは、分けて確かめる必要があるということ。三つ目は、複数の情報源を照らし合わせ、事実と意見を切り分ける習慣を持つこと。そして四つ目は、確証バイアスは誰の中にもある自然な働きであり、それに気づくこと自体が、すでに大きな一歩だということです。

情報があふれる時代だからこそ、一つひとつのニュースに立ち止まり、確かめる時間を持てるかどうかが、これからますます大きな意味を持ってくるはずです。あなたがこれまでニュースを見て感じてきた違和感や迷いは、けっして無駄なものではありません。その感覚を大切に育てていくことで、あなたは情報に振り回されるのではなく、情報を自分の意思で選び取れる人に変わっていけると、私は信じています。

もしこの記事が参考になりましたら、スキやフォローで教えていただけると励みになります。今後も同じテーマで発信を続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

#ファクトチェック #メディアリテラシー #フェイクニュース #情報リテラシー #ワクチン報道



いいなと思ったら応援しよう!

AIでエビデンスを探る_公認心理師 よろしければ応援お願いします。いただいたチップは、執筆のための書籍購入や、AIのために使わせていただきます。